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vol.75 より強大な相手

 ヘリアンは思い切り振りかぶると、その豪腕を私に向けて叩きつけようとした。それを正面から受け止めるほど私は愚かではない。後ろにステップして距離をとると、衝撃に備えて盾を構える。



「<盾スキル>ワイド・シールド!」



 これは自らの防御領域を増やす盾スキルだ。このスキルをもって味方の前に立ちふさがることで、後衛への攻撃を留めることができる。



 ドゴォォォォン!!!



 ヘリアンの打撃は床に当たったが、予想通り有り余る攻撃力のため衝撃波が発生した。直接攻撃されたわけではないのに、なんという威力。王城の頑丈な床に、大きな穴が開いてしまった。その勢いだけで、ずざざ、と踏ん張っていても後ろに押されてしまう。……が、これで良い。私の役割は、あくまで他のパーティメンバーに被害がいかないことだ。



「はぁぁぁっ!!」



 奴の攻撃を防ぎきった瞬間、入れ替わるようにアンズが天高く飛び上がる。その身にひねりを加えた回転をかけながら、右足に全体重と勢いを乗せて蹴りを放つ。



「マリン、私に合わせて! <魔法付与エンチャント>! <風魔法>ウィンドサポート!!」


「<炎魔法>ブレイズ・エッジ!!」



 後衛二人組が同時に魔法を発動する。クレハの手に向けてマリンが<炎魔法>を放つと、その魔力をエンチャントした<風魔法>がアンズに飛んでいく。アンズの足に魔法が着弾した瞬間、風と炎の魔力が混ざりあったエネルギーが爆発した。蹴りの速度が急上昇し、炎の熱を帯びた打撃がヘリアンのガード上から顔をめがけて叩きつけられる。



「がああああっっ!!!?」



 ミシミシと奴の骨が嫌な音をたて、ヘリアンはきりもみ回転しながら壁に叩きつけられた。再び石の壁がガラガラと崩れ落ち、瓦礫が奴の上に降り注いでいる。……壁やら床やら、こんなに壊してあとで怒られないだろうかと余計なことを考えてしまうな。



「マリン! “審判の書”のクールタイムは!?」


「もう少しかかるわ! 短く見積もっても、あと三分!」



 次の手をうつために、三分は待たないといけないわけか。文字に起こすと短く感じてしまうが、実際戦闘での三分って異様に長く感じるんだよなぁ。少なくともボクシングの一ラウンド分はヘリアンの猛攻を耐えなきゃならない。アンズ・クレハ・マリンの三位一体攻撃をまともにくらったわけだが、私の目論見ではあれで倒れてくれるほど奴は甘くないはずだ。

 


 その瞬間、ボゴォン! と瓦礫を吹き飛ばしてヘリアンが立ち上がる。ほらね。



「馬鹿な! 馬鹿な! 何故こうも良いようにやられる! この俺の攻撃力! 防御力! 魔力! どれも全てお前らを遥かに凌駕しているはずなのに……」



 ヘリアンは憤慨し、目を血走らせて私達を睨みつけている。なんだか哀れに思えてきて、私はため息をつきながら奴に教えてあげることにした。



「そりゃ、私達は自分よりステータスで勝る相手とずっと戦ってきたわけだし」


「何だと……?」

 


 どこまでも甘っちょろいやつめ。哀れを通り越してイライラしてきた私は、ヘリアンを指さして言った。



「例えば、スカーモンスターのシルバーウルフの方がお前より疾かった。ゴールデンゴーレムの方がお前より硬かったし、一撃は重かった。もっと言えば、スライムに生まれて何の力もない時にそこらのモンスターに襲われることが最も恐ろしかった。私達よりステータスが勝ってるから何? 妙な魔法を使ってパワーアップして。自分ひとりの力でもない上に、戦い慣れているわけでもない。そんなお前が私達に勝とうなんて、甘すぎるんじゃないの!」


「……!! だ、黙れェ!!」



 私に言い負かされて逆上したヘリアンは、やぶれかぶれに魔法を放つ。様々な属性の魔法弾が私に襲いかかるが。



「魔法攻撃なら任せなさいよ」



 クレハが前に躍り出ると魔力の盾を展開し、魔法弾を容易く弾いた。遠くに避難しているアリッサム達の方へ被害がいかないようにしつつ、的確に攻撃を防いでくれる。



「そうやって、怒りに我を忘れて冷静さを欠くと痛い目を見ちゃうわよ? こんな風に」



 次いで、<変化へんげ>で奴の魔法弾のひとつに化けていたマリンが突然ヘリアンの後ろから魔法を放つ。<光魔法>唯一の攻撃魔法、ホーリースピア。聖なる光の槍が奴の横っ腹を貫いた。……肉厚すぎるせいで貫通こそしなかったものの、確実に奴を追い詰めていく。



「ぬ、が……!! キサマ!!!」


「相手が多数いるのに、一人だけに注意を向けてしまうのも良くありません!」



 マリンを攻撃しようと振り返ったヘリアンの後頭部に、今度はアンズが飛び膝蹴りをかます。うわ、えぐい。ズゴッ! と鈍い音が響き、奴は膝をついた。脳が揺さぶられ、目の焦点があわずフラフラしている。流石に勝負あったか。案外、あっけなかったな。



「こ、こんな……馬鹿な……」


「どうするの? 今すぐ謝って、その厄介な魔法を解除すれば生命いのちまではとらないけど」



 剣に<形態変化>させた腕を奴の首元につきつける。自分が追い詰められて死ぬ覚悟はしていなかったんだろう。ヘリアンは「ひっ」と情けない声をあげて、尻もちをついた。



「無様ですね、ヘリアン王」


「ッ!?」



 その時、王城の間の入り口から聞き覚えのある声が響く。ヘリアンから注意を逸らさぬようにしてそちらを向くと、何度目だろうか。因縁の相手であるエスタロッテとジャギがそこに立っていた。……姿が見えないと思ったたけど、やっぱり現れやがったか。



「え、え、エスタロッテ! ジャギ! 今更出てきやがって! こいつらを、こいつらを殺せ!!」



 絶叫するヘリアンを、ゴミでも見るかのように冷徹な目で見つめるエスタロッテ。その姿に、私はある違和感を覚えた。彼女はゆっくりと私に向かって手をかざす。瞬間、嫌な予感がして私はその場を飛び退いた。



 ジュッ!!!



 何かが奴の腕から放たれる。一瞬のこと過ぎてよく分からなかったが、それは私ではなくヘリアンに命中したらしい。……らしい、というのは。



「が……!?」



 衝撃や何やらを感じる間もなく、ヘリアン王の腹に大きな風穴が開いていたからである。なんだ!? 何が起きた!? 衝撃波やら魔法やらというより、あたった場所が“消滅”したような……。



「な……馬鹿……な……死にたく……な……」



 再び、エスタロッテが腕から何かを放つ。今度はヘリアンの顔に命中し、奴は声を発することもできなくなってしまった。が、おかしい。誰がどうみても絶命しているというのに、ヘリアンが経験値石などに変わる様子が全くない。



「な。何をしたの!?」


「フフフ……素晴らしいわ」



 マリンがエスタロッテに向かって叫ぶと、答える代わりにエスタロッテは高笑いをした。



「貴方達が“審判の書”を奪っているのは予想済みでしたので。なんとか、その力を無効化する手段が必要だったのですけど……D-21号機の暴走は不幸中の幸いでした。生物でなければ、その効力は及ばないことが分かったわけですから」



 エスタロッテが私達に一歩、近づく。……そして私達はヘリアン王が変貌を遂げたのを見るよりも、遥かな衝撃をその目に焼き付けることになった。エスタロッテはついに、自らの全てを機械にしてしまったらしい。彼女の背部には、無数のチューブのようなものが接続されていたからだ。そのチューブは、何を思ったのか全てジャギに接続されている。



 問題はそのジャギだった。何も言わずに突っ立っていると思ったが、違った。彼は喋ることができないのだ。彼もまた、エスタロッテによって改造されていた。ディーちゃんを彷彿とさせる歪な機械と化した身体に、その口にまでチューブが突っ込まれていた。サイズ感や皮膚の色で“ジャギ”であるとわかったが、もはや原型がほとんど残っていなかった。くそっ、見ているだけでSAN値が減ってしまいそうだ。



「な、な。なんなのその悍ましい姿は!! そ、それ。ジャギは生きてんの!?」



 顔を青くしながらクレハが声をあげる。エスタロッテはククク、と笑うと言った。



「素晴らしいでしょう? 正確には、もう彼は生きているとはいえませんね。ですが、彼は私のエネルギータンクとなったとしても貴方達に復讐する道を選んだのです。全身をフル改造するとオーバーワークして自我が失われてしまうのが目下の悩みでしたが、このように強大すぎるキュロスエネルギーを二名の間を循環させることでなんと! 私の脳だけはオートメイルの中に存在させることができたのです。これは世紀の発明! この力があれば、世界を支配することなんて容易いでしょう!!」



 ハッキリ言って何を言っているのか全然分からないが、とにかく私達に対抗するためだけにジャギの生命を犠牲にしたらしい。そして、とんでもない化物が誕生してしまったと。これじゃあ、作戦がどうこう言っている場合ではない。

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