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vol.72 謁見

「じゃあ、ヘリアン王をなんとかできれば……」



 アンズが期待をこめた目で私のことを見ているが、まぁそれだけで終わる話とも思えない。



「といってもね、予想通りヘリアン王が転生者だったとするじゃない? だとしたら、元々は私達と同じ人間なわけだ」


「はい、そうなりますね。……あれ? でも、そうなると」



 アンズが相槌を打つ。ここで彼女も違和感を感じたようで、首をかしげた。



「つまり、転生者を倒せば元の世界に戻れる。……そんな単純な話ではないってことね?」



 その違和感の正体をマリンが代弁する。彼の正体が何であれ。王座から蹴落とそうが、倒してしまおうが、元の世界に帰れるかどうかは別の話なのだ。また話が降り出しに戻ってしまったが、クレハがイライラした様子で声を上げる。



「まどろっこしいわね。じゃあどうすれば良いってのよ」


「そこで問題。ただの人間が、ある日突然世界を帰るほどの力を手に入れた。じゃあ、そんな力を手に入れるにはどういう手段が考えられるかな」


「えっ、そんなの……ええと。マリン、アンズ。アンタらも何か考えなさいよ」

 


 急に質問をされて答えに詰まったクレハは、二人にパスを回した。クレハは頭は良いけど頭が硬いところがある。察したマリンとキキョウがクスクスと笑っているが、クレハは顔を赤くしながら聞こえないフリをした。



「そうねぇ……例えば、それくらい強力なアイテムを手に入れるとか」


「誰かに力を授けられるってのもありますかね?」



 マリンとアンズが各々考えうる答えを述べる。



「そうだね。主にその二パターンになると思う。ただしどちらにしても、私はヘリアン王の裏で糸を引いている奴がいると思ってる」


「どうして?」


「後者だったら言うまでもないけど、前者にしてもそれを与えた奴がいないと辻褄が合わないからね」

 


 ふうむ、と唸ってマリンが腕をくんだ。



「ヘリアン王がこの世界を作り上げたとしよう。だけど、彼はこの世界に存在している。じゃあ、このゲームみたいな世界で私達の動きを監視しているのは誰?」


「えっ、そんなヒトがいるんですか!?」


「いるハズ。じゃないと、レベルアップや進化の時に頭の中に流れる音声に説明がつかないし」



 当然自動化されている線も考えたが、レスポンスが柔軟すぎるからな。



「ゲームか……あ、もしかしてゲームマスターってやつかしらね」


「おー、クレハ。よく知ってるね」


「そ、それくらいは当然よ。で? そのゲームマスターが監視していたとして……それがどうつながってくるのよ」



 結論を急ぐクレハを諌めながら解説を続ける。



「まぁまぁ、焦らないで……もし私達のことを監視しているとしたら、この世界のシステムには隙が多すぎるんだ。それだけ、この世界は発展途上ってことなんだよ。妙にリアリティがある一方で、レベルアップや進化とかのシステムはガバガバだ。最弱モンスターに生まれた私でさえ、人間たち相手に無双できてしまうほどにね」


「そういえば、レベリングが効率的にできてからというものの……あんまり強敵に出会わなくなったわね」



 思い返すようにマリンが呟いた。街の人間や兵士達を相手にしても、あっさり倒すことができてしまっている。本来、ヒューマンだのエルフだのは高ポイント種族で強くて然るべきであるハズなのにだ。



「つまり、世界を監視しているゲームマスターはゲームのシステムに詳しくない。好き放題に世界を構築させるだけさせて、詳細な部分を適当に作り上げてしまっているんだよ。……そして、そんなガバガバな世界だからこそ、バグも多い」


「バグ? ……ってなんでしょうか」



 聞き慣れない単語に反応し、アンズがピクッと耳を動かして繰り返した。あー、分かって当然みたいな感じで話しちゃだめだよねぇ。



「うーん、なんて言ったら良いか……。ゲームを作る上において、プログラムが予期していない動きをしてしまうこと、かな。私ね、こっちに来てからある夢を見たことがあって」


「夢?」


「夢にしては妙にリアルな体験だったからはっきり覚えてるんだけどね。まぁ、これは話半分で聞いてほしいんだけど」



 マリンと出会って間もない頃にみた夢。私は脳裏にやきついて離れない映像をアウトプットしていく。



「そこは、薄暗い部屋だった。“魔王”と呼ばれる奴がそこにいて、側近みたいなやつと何かを話していた気がする。顔は見えなかったけど、すかーモンスターがどうこう、絶対倒せない設定がどうこうってやり取りをしていて……」


「そりゃまた……随分ベタね」


「夢から覚める直前、あいつら『覗き見られている』って言ってた。今思うと、アレはバグだったんじゃないかって思うんだよね。本来は見られちゃいけないものが、私の精神とリンクしてしまったんじゃないかって」



 自分でも妙なことを言っていると思うが、何でもありなこの世界では否定しきれないのが恐ろしいところだ。みんなも同意見のようで、複雑な表情をしているし。



「……なんだか、頭がこんがらがって来たわ。結局まとめるとどういうことなの?」


「その“魔王”とやらがゲームマスターで、この世界を構成している黒幕で。元の世界に帰るためにはそいつの力が必要というわけだ。……で、その鍵をにぎるのがヘリアン王。オッケー?」


「うわ、そこでやっと繋がるってわけね……」



 大きなため息をついて、クレハが空を仰いだ。兎にも角にも、へリアン王をなんとかしないことには始まらない。



「それで、コユキちゃん。ヘリアン王をギャフンと言わせるための秘策はあるのかしら?」


「フフフ、それがね。実はもう考えてあるんだ」



 マリンの問いかけに対し、私は不敵に微笑んで実行予定の計画を話した。我ながらえげつないことを思いついたものだ。その場にいる皆の表情が、それを物語っていた。







 その後、私達はルピナスの部屋で一晩を明かし、いよいよ王座の間の清掃の時間が迫っていようとしていた。私達が清掃員として侵入すること自体は、ルピナスが内部の兵士に説明をしてくれたおかげで問題となることはなかったようだ。



 というより、これでもかと言うほどに沢山いる審判者ジャッジのせいだろうな。強力な力を持つ彼らの前では、どんな悪党でも尻尾を巻いて逃げ出してしまうだろうから。その防衛力に対する自信の現れとして、ちょっとくらい清掃員が増えるのは問題にならないんだろう。



「みんな、準備は良い?」



 振り返ると、各々がメイド服にモップや雑巾やバケツを持って構えていた。万が一にも招待がバレないように、帽子やら何やらで獣耳は隠し髪型も変えているので変装は完璧だ。唯一の懸念は、格好が格好だけに気が抜けてしまいそうなことくらいだろう。



「それでは皆さん。手筈通りにお願いいたしますね」



 ルピナスに続いて、王座の前へと続く扉をくぐる。必要以上に豪華な装飾が施された天井、壁、床。なんだか何処をみても金ピカで、「悪趣味だなぁ」と思わずにいられない。アリッサムを見るとちょっと苦笑しているようだった。自分の座っていた王座の間を、こう改造……いや改悪されたのは予想外だったんだろうな。



「それでは、我ら清掃隊! これより、謹んで王座の間を清掃させていただきます!!」



 ルピナスの号令に従い、私達はそこにいるハズの王に向けて頭を下げた。「そこにいるハズ」というのは、王に謁見する際は王の許しがあるまではその顔を見ることが許されないからだ。……よく知らないけどルピナスがそう言っていた。



 面倒な掟だとは思ったが、作戦の初段階で躓いているわけにもいかないし。ここは大人しく従っておくことにしたわけだ。おかげで足元しか見ることが許されず、視界が随分制限されてしまっているんだけどね。



「もうよい、面をあげよ。しっかり隅々まで清掃するように」



 重々しい声が響く。妙に耳につく偉そうな声を聞いて、ルピナスが「御衣」というのをきいて、私達もようやく顔をあげた。



 そして、そこに立つ王の顔を私は初めて見たわけだ。

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