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vol.71 この世界にまつわる疑惑

「先程の話を聞く限り、元の世界から来たっていうのは本当なんでしょう」



 私達の話を聞いて、アリッサムは少しの間考え込んでいたが。事実をありのまま述べた私達のことを考えてくれたのだろう。どうやら信じてくれたらしい。



「アリッサム様、どうしてそう思うのです? 私にはちょっと荒唐無稽な話しすぎて……」



 一方で、ルピナスとキキョウはどうも信じることができていないようだった。こっちの世界のヒトからしてみれば、誰しもがボタンひとつで火を扱えるなんてものは夢物語なんだろう。



「“科学”というものがどういうものかは分かりませんが、出鱈目にしては詳細に語ることが出来すぎています。コユキさん達が四人とも共通の認識ができていることも理由の一つですね」


「……ううん。しかし、アリッサム様がそうおっしゃるなら、私も信じてみようと思います」


「じゃあ、私も。よく考えれば、今更あなた達が嘘をつく理由もないものね」



 結局、ルピナスとキキョウは腑に落ちないながらもそう言ってくれた。



「でも、元の世界に帰るなんて。アテはあるんですか?」


「それは、一応考えがない訳じゃないんだ」



 私がそう言うと、一斉に全員が私のことを見た。え、そんなリアクションされると困っちゃうんだけどな。



「コユキちゃん、アテがあるの!? 私、聞いたことなかったのだけれど……」


「そうですよ、そんなの黙っておくなんてひどいです」



 マリンとアンズが思い思いに不満をこぼしている。私はぽりぽりと頬をかいた。



「いやぁ、黙っていたわけじゃなくて。アテがあるといっても予想の域を出なかったら言わなかっただけというか……」


「御託はいいから早く言いなさいよ」



 クレハにツッコミを受け、何も言い返せなかったので私は大人しく白状することにした。



「……そうだなぁ。みんな覚えてるかわからないけどさ。まず、私達は唐突に雷のようなものに打たれてこっちの世界に転生してきたわけだよね」



 アンズ以外は覚えているはずだ。マリンには前にも確認済みだが、全員が頷いた。

 


「あの時は、一瞬すぎてよくわからなかったけど。今思うと、アレってなんかこっちでいう<スキル>っぽいなぁと思うんだ」


「どうして?」


「まず、雷に打たれるタイミングがバラバラだった。それにしては正確に人間の上にだけ雷が落ちてきていた。無造作に雷を落としていたわけじゃないことが分かるよね」



 なるほど、とマリンが相槌をうった。



「ということは、スキルを使って私達一人ひとりを認識して、魔法を打った。そういう風に考えることが出来るわけね?」


「そうだね。勿論、私がそう考えた根拠はそれだけじゃない。こっちの世界に来たタイミングが、バラバラなこともそうなんだよ。例えば、私がこっちに来てからは2週間くらいしか経っていないけど。アンズはもっと前からいるんでしょう?」



 私はアンズの方を向いて訪ねた。アンズは少しだけビクッとしたが、記憶をたどるように答える。



「えっ、は、はい。記憶を無くしているので正確ではありませんが。アリッサムさんが、私と会っているので確実だと思います」


「そうですね。アンズさんと私が出会ったのは2ヶ月以上前の話ですから」



 アリッサムもそう言っていることだし、これについては間違いない。



「私とアンズがこっちに来たタイミングのズレは、一ヶ月以上。雷が落ちる速さから考えても、そこまで差が出るとは考えにくい。つまり雷を落とし、どのタイミングでこっちの世界で誕生させるかをコントロールしている奴がいるってことだ」


「一体誰が、何のためにそんなことをするのよ?」



 クレハが疑問を投げかけてくる。まぁ、それがわかれば苦労はない。



「流石にそこまではわからない。けど、そういうやつがいることが分かっただけでも大きい収穫だよ。それでね、次に出てくる疑問。“転生者”として出会ったのは、いずれも知り合いじゃない? 地球上にはあれだけ沢山のヒトがいたのに、ちょっと出来すぎた話だよね」


「まぁ……それは私も薄々は思っていたわ。偶然にしては妙というか」


「はじめは、私は全人類が転生したのかと考えていたんだけど。それにしては、“人並みの知識を持っている”ヒトが少なすぎる。私は転生するとき、前世の行いに反映してポイントを振り分けてるとか言われたけど全然ポイントを貰えなかったんだよね。よくよく考えれば、私より悪いことをしているヒトなんていっぱいいるハズなのに」



 それこそ、例えば死刑囚とか。自惚れではなく、私が最弱モンスターに転生する羽目になるなら、同様の運命になるやつなんて腐るほどいるハズだ。だけど、実際はそうではないと考えるのが妥当だろう。



「だけど、そんなに沢山の転生者がいるようには見えない。この世界は、私達が想像している以上にスケールが小さい。私の予想だと、とある個人が認識している範囲でしか転生できていないように思う。だからこそ、同じ学校で同じクラスの四人が出会ったんだ」


「なるほどねぇ……。そうなると、犯人は私達とかなり近しい人物ってことになるわね」



 マリンが頬杖をつきながらは感心するように言った。



「まぁ、私の推察が正しかったらの前提だけどね」


「コユキ、全然ポイントもらえなかったっていうけど。そういえばアンタって転生ポイントは何ポイントだったの?」



 クレハが痛いところをついてきた。……うーん、あんまり言いたくないんだけどな。まぁ答えないわけにもいかないので、私はボソリと呟くようにして言う。



「……3ポイント」


「3!? どれだけ極悪なのよアンタ!?」



 あまりの少なさにクレハは目を丸くして声をあげた。どうせ私は最低ポイントの女ですよ。



「う、うるさいな。私が3ポイントなのはどうでも良いの。だからスライムにしかなれなかったわけだしね。……でね、この理不尽なポイントシステムにはかなり私情が挟まれているはずだと考えたんだ」


「私情……ですか?」


 

 私の言葉を繰り返すアンズに、私はゆっくりと頷いた。



「もし、私情でポイントの良し悪しを決めているとしたら。ポイント振り分けやらなにやらを考えた奴は、さっきもマリンが言ったように私達のことを知っているやつだってこと。でもって、そいつ自身もこの世界に転生しているハズ」


「そう思うワケは?」


「世界のシステムが、あまりにも幼稚だからかな。どこかで見たようなゲームのシステムを丸パクリ。そんな印象を持ってるよ。……ただのゲーム好きな奴が、ある日突然世界を変えてしまうほどの力を持ってしまったとしたら。まぁ、こうなるだろうってね」



 自分で言っていて思ったが、ゾッとする話だ。マリンも、アンズも、クレハも青ざめている。とある個人のわがままに、私達は巻き込まれてしまったわけなんだから。



「まったく、冗談じゃないわね。それじゃあ私達はまるっきり被害者じゃないの」


「そういうこと。犯人は自分にとって、出来る限り楽しめるように世界を作り上げたんだ。当然、自分自身も転生したくなるでしょ? もしそうだとしたら、自分に有利なように転生するはず。できるだけ早く、かなり良い身分にね。さて、ここで問題です。最近、そんな奴がこの世界に急に現れなかった?」



 ここで、私は初めてアリッサムの方を見た。アリッサムには思い当たる人物がいるようで、血の気が引いたような顔をしている。



「コユキさん、まさか」


「そのまさかだよ。今一番怪しいのは、ここ数ヶ月で急にセレスガーデンの王となり、好き放題やりだした彼。ヘリアン王だ」



 まさに、私達が今追い詰めようとしているやつだ。数ヶ月前、奴は突然現れてアリッサムを王座から蹴落とし、好き放題やり始めたと聞く。アリッサムに王座に返り咲いてもらうのは、彼女を救うためだけではない。ヘリアン王につきまとう、私の疑惑を確かなものとするためだ。仮説が正しければ、きっとそこに元の世界に戻るためのヒントが有る。

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