vol.4 格の違い
スライム、キラーアント、キラーアント、大ミミズ、キラーアント、大土蜘蛛、スライム、ポイズンビードル、大ミミズ。いずれも1~2レベルのモンスターを、例の作戦で私は順調に狩り続けていた。
一応、捕食するのはスライムだけにしている。虫ってなんかキモいじゃん。スライムなら同化! って感じで、あんまり抵抗がないからね。たった今、新たなキラーアントを生き埋めにして……よし、10匹目!
『経験値を取得しました。
レベルが6→7になりました。SPを5獲得しました。6ジルを取得しました。』
低いレベルのモンスターともあって、流石に1~2匹倒した程度ではレベルが上がらなくなってきた。レベル6まで4匹、7まで6匹。私は<早熟>を持っているので、普通はもっとかかるってことになる。これも当たりスキルだったね。さっさと強くなれるのは本当に助かる。狩りの効率も上がるからね!
しかし、相変わらず動物の油は手に入らないままだった。ドロップアイテムも毎度出るわけではなく、10匹倒して手に入ったのはお金と、各モンスターからのアイテムが合計五個。たぶん5割くらいの確率でアイテムを落とすのかな。モンスターによってドロップ率が違ったらその限りではなさそうだけど。
手に入ったものの中では薬草(並)が一番美味しいかな。どうみても回復系のアイテム。回復手段に乏しい私にとって、貴重なものであることに違いない。一つしか手に入らなかったもののいざという時に役にたつよね。
狩りの中で、新しいスキルも習得できた。<回転移動>はLv.3になって、<跳躍>Lv.1もゲット。でも、中でも目を引くのはこれ、<策略家>Lv.1。説明を見てみると、
『<策略家>Lv.1
罠などで計画的に敵を倒し続けた証。レベルに応じて器用さに補正がかかる。』
トカゲに加えて、ちょうど10匹目を罠で倒したら手に入れることができた。敵の倒し方によってもステータス補正のかかるスキルが手に入ることが分かったのは大きい。敏捷特化にしたい私としては、敏捷に補正がかかるスキルを手に入れたいところだ。
LBが余っていたので、筋力に3、敏捷に9振り分けておいた。SPは取りたいスキルがポイント不足だったので今は我慢しておく。弱いスキルばっかりとっても仕方ないし、何かの拍子に取得できるかもしれない。無駄遣いはやめておこう。
『種族名:スライム Lv.7 固有名:なし 性別:女 状態:正常
HP 22/22 → 36/36
MP 12/12 → 23/23
筋力 10 → 20
敏捷 20 → 38
器用 8 → 15(18)
知性 9 → 16
精神 10 → 14
SP 2 → 17
LB 3 → 12 → 0
魔法 <麻痺魔法>Lv.1
スキル <捕食>Lv.1 <早熟>Lv.1 <回転移動>Lv.3 <酔耐性>Lv.1 <HP自動回復>Lv.1 <危機感知>Lv.1 <道具入れ>Lv.1 <忍び足>Lv.1 <跳躍>Lv.1 <策略家>Lv.1』
ステータスの器用に()が追加されているのは補正後の数字ってことかな。レベル1だしこんなものだろう。こう見ると敏捷と器用が伸びてて、あとはトントン、精神がちょっと遅れ気味って感じだね。
私がステータスを眺めて満足しているうちに、辺りはすっかり暗くなっていた。幸いにして拠点である洞窟の近くは木々が若干開けており、月が出ていれば真っ暗になるということはないようだ。松明が作成できなかったのは残念だけど、翌日の楽しみということで。
それでも夜間行動するには危険であることに変わりないので、今日のところはおとなしく一晩を明かすことにしよう。罠を設置してあるし、モンスターが来れば物音がして<危機感知>で気がつくでしょ。
こんなに動き回ってベッドに入るなんて子供の時以来だった。あー疲れた。あんまり良い寝床とはいえないけれど、今夜はよく眠れそうだ。どうか寝込みを襲われませんように……。身の安全を願いながら、私は眠りに落ちた。明日への不安と、ほんのちょっとの期待を込めて。
※
結局、心配していたことは杞憂に終わったらしい。何事もなく、洞窟に差し込む日の光で私は目覚めた。うーん、と身体を伸ばしながら今日やる予定だったことを整理する。
えーと、今日は。①“動物の油”をゲットして明かりを確保する。②拠点の安全性を増すために入り口をカモフラージュする。③保存できる食料の調達。こんなところだろう。
昨日は、どこぞのトカゲに当然のように侵入されてしまったので、この中だと②が優先されるかな。①も大事だけど、怪我で動けないとか、狩りができない日があることも考えて③のことも忘れずに。まぁこちらは余裕があればで良いだろう。
カモフラージュに使えそうなものは<クラフト>項目でしっかり確認済みだ。『岩肌のカーテン』。獣の皮(並)が3つに、木の枝が10本、土が10個、砂が10個、石が15個。大変なのは獣の皮だけだね。……またあの狼と一戦交えるのかと思うと気が重いなぁ。
以前戦った時より、レベルもスキルも成長しているものの。前みたいに死にかけるのはゴメンだ。あの時勝てたのも、運が良かったからに過ぎないし……かといって戦わないと素材が手に入らないわけで。腹をくくって、しっかりと作戦をねっていく必要がある。木の幹に噛み付いて動けなくなるなんざ、奇跡的な状況は二度とは起こらないだろうからね。
※
おかしいな。昨日あれだけ見かけた低レベルのモンスター達が今日は見当たらない。どいつもこいつも、今日は軒並みレベル3以上はある。遭遇率もなんだか減ったような? 昨日私が狩りすぎたせいだろうか。弱い子はみんな逃げちゃったのかなぁ。
しかし、相手のレベルが上っても麻痺落とし穴作戦は快調だった。レベル3~4程度なら問題にならずに敵を倒すことができている。サクサクで嬉しいね。これで5匹目!
『経験値を取得しました。レベルが7→8になりました。SPを5獲得しました。』
うん良い感じ。こうなってくると、「もっともっと」と欲が出てくる。そろそろ同格以上のモンスターを狩っても良いかもしれない。高レベルにも麻痺落とし穴が通用するか分からないが、試してみて駄目ならプランB。正攻法でいくとしよう。
更に歩く(正しくは転がる)こと数分。私は、初日に戦ったものと似た狼を発見することに成功していた。違う点は額に傷があるくらいだろうか。しかも今回はまだ見つかっていない。幸先がいいぞ。へぇ、あいつはシルバーウルフっていうのかー。銀色の毛色だもんね。まんまだな。
レベルは……8。今までで最高レベルだ。万が一まともにやりあって負けそうになったとしても、相手が同レベル以下ならば敏捷に特化した私は逃げ切れるはずだ。いくら相手があの狼だとしても、今の私はあの時とは違う。やってやろう。トラウマを払拭させてもらうぜ。
いつも通り、落とし穴を良さ気な位置にセットした私は、奴の後ろ側にぐるりと回り込んだ。<忍び足>からの<麻痺魔法>コンボを味わうがいい。いくぞ!パラライズ!
バチッ!!
「――ッッ!?」
魔法は確実にあたったはずだった。しかし、奴は悠然と振り返り、私の回転体当たりを容易く躱してみせたではないか。なんで!? そのまま通り過ぎて、一定の距離をとったあと相手に向き直る。
「グルルルルル……」
くそ。せっかくの先制攻撃できるチャンスを潰してしまった。でも、確実に当たったはず。魔法が不発だったわけでもない。……もしかして、あいつ<麻痺耐性>を持っている?
なんとなく、スキルは自分だけのものって思っていた。野生のモンスターが使ってくるはずがないと。でも、冷静に考えたらそんなわけない。相手だって生きるのに必死だ。当然、この世界で使えるものは使ってくる。モンスターにレベル表示がある時点で予測しておくべきだった。
そして、これからもそんな相手がわんさかいるわけだ。状態異常攻撃が効かないことがあっても、なんら不思議ではない。攻撃手段が一つ封じられた程度で逃げ出していてはこの先が思いやられる。ここはやれるだけやってやる。私は覚悟を決めた。