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vol.48 侵入

 ガシャン!



 重々しい音とともに、その牢の鍵はしめられた。おさの一声でやってきた屈強なリザードマン達に連れられ、クレハと分断された私は牢屋に閉じ込められてしまったらしい。移動式住居の集落なのに、ご丁寧に牢まで用意しているとは。妙に準備が良いな。ただ、ここでは部外者は捕まえる文化だというし案外よく使うものなのかもしれない。



 私の見張りとしてついたのは、槍を持ったリザードマン一匹か。舐められたものだなぁ、と私は<STステータス閲覧>で相手の実力を図ってやろうとした。……おや? 相手のステータスが見えないな。<STステータス閲覧防御>かな。その割に、いつもの『スキル使用失敗』アナウンスが無いんだけど……。



 嫌な予感がして、まさかと思い<気配感知>を使ってみる。……が、それも虚しく何も発動しなかった。どのスキルを実行しようとしてみても、一切反応しない。……これはまさか、この檻の中はスキルが発動しないようになっているのかな。だとしたら、非常にまずいねこれ。そもそもが捕まったフリをして隙を伺う作戦だっただけに、本当に捕らえられてしまったのでは世話ない。



「ねぇねぇ、お腹空いたんだけど」



 とにかく今は情報がないと始まらないと、おもむろに見張りのリザードマンに話しかけてやる。いかにも馬鹿っぽい声かけに、見張りは呆れたように私に振り返った。



「はぁ? 何を言っている。食事などが出るとでも思ったのか?」


「“閉じ込めておけ”ってことは殺せってわけでもないんでしょ。死なせないってことは餓死したら困るじゃん。何かちょうだいよ」


「黙れ! 次の命令があるまでお前はここで静かにしていれば良いんだ。立場をわきまえろ!」



 つまんないの。私はわざとらしく「けち」と見張りに言い放ったあと、ドカッと腰をおろした。……とにかく、次の命令があるまでは私の命の保証はされているというわけだな。スキルさえ使えれば<形態変化>でロープも牢屋も抜け出して、こんなやつボコボコにのしてやるんだけど。こんな檻があったんじゃ流石に分が悪い。



 だけど、今は慌てても仕方がないな。どんな形であれ、捕まってしまうところまでは予定通りなのだ。集落のことを良く知るクレハと、別行動して動いているマリンとアンズの動きを待つため、今はじっとしていることにしよう。







 予定外の長の動きに、私は焦っていた。「私がコユキを直接牢屋に閉じ込めにいく」と言うつもりだったのに、長はそれを許さなかったからだ。見張りについているのは長の直下の部下だし……説得は難しいわね。どうしたもんかしら……。



「クレハ? 長への報告は終わったの? ……さっきの人は、まさか」



 頭を悩ませながらとぼとぼと歩いていると、キキョウが私に話しかけてくる。コユキが一緒にいないものだから、長への報告があまり良くない結果だったのを察したらしい。彼女は私の頭へ手をおくと、何も言わずに優しくなでてくれた。



「あなたは良くやっている。上手く行かなかったとしても、アイツがいけないのよ」


「だけど、コユキ……あの子、例の檻に入れられちゃったの! このままじゃ奴隷として売り飛ばされちゃうかも」



 長が部外者を殺さずに捕まえるのは、違法に奴隷として売り飛ばすためだった。早々に私と引き離して奴隷の檻に入れられてしまったのは非常にまずい。いくらコユキとはいえ、あの檻は特別性なのだ。中に入れられたものはスキルが使えなくなってしまう。それはつまり、中からの脱出はほぼ不可能であることを意味していた。



「そういえば、あの子。コユキさんと言ったわね。クレハとどういう関係なの?」



 キキョウが私にストレートな質問をぶつけてくる。私はぐるりと一体を見渡した。周囲に人がいないことを確認し、一呼吸置いてから答える。



「……別に。ただの、“友達”よ」







「中々出てこないわねぇ……」



 コユキちゃんが連れて行かれてから、かなりの時間が経った。集落から離れたところで待機していた私達は、彼女からの合図を待っていた。<夜目>スキルで暗闇もよく見える私は、念のために彼女らの動向を観察していたのだけれど一向に建物から出てくる気配がない。



 クレハちゃんは何やらダークエルフのお仲間さんと喋っているようだけど、流石にこの距離じゃあ聞き取れないし……。どうしたものかしらね。



「ど、どうですかマリンさん? 何か見えました?」



 となりではアンズちゃんが大きな耳をピコピコと動かしながら落ち着き無くソワソワしている。うーん、アンズちゃんは隠密行動というものが苦手みたいね。このあと敵地に侵入することになるのだけど、大丈夫かしら……。



「予定通り、コユキちゃんが敵に見つかって捕まったみたいだけれど……出てこないのを見る限り、何かしらのトラブルがあるみたいね」


「ええ!? 大変じゃないですか!」



 血相を変えてアンズちゃんは立ち上がった。作戦上、まだ私達は見つかるわけにはいかない。



「待ちなさい!!」



 そんな彼女を、私はピシャリと一喝した。彼女は一瞬固まった後、大人しくまた身を屈めてくれる。素直なところはこの子の良いところね。



「……すみません。どうも落ち着かなくって……」


「怒鳴ってごめんね。だけど、コユキちゃん達がいない今は私達が冷静にならないと駄目。もしもコユキちゃん達が何らかの理由で動けない場合は、私達が捕まったらアウトなのよ」



 目を細めて集落の様子を観察しながら言う。アンズちゃんはシュンとしているようだったけれど、今は彼女を気にしている余裕がないわね。あとでフォローしておかなきゃ……。



 そこから待つことしばらく。クレハちゃん達もまた別のテントに引っ込んで出てこなくなってしまったことだし、いよいよ私達も集落に乗り込むことになった。というのも、コユキちゃんにも前もって「自分が建物に入って一定時間以上出てくる気配が無かったら、乗り込んでくるよう」に言われていたからだ。

 


「それじゃあアンズちゃん、お願いね」


「は、はい! ……んっ」



 <变化へんげ>で小さなネズミに変身しアンズちゃんの胸元にお邪魔すると、彼女は少しもじもじして変な声をあげた。あら、くすぐったかったかしら?







「ねぇねぇ、ごはんー」


「うるさいぞ! 次喋ったら痛い目にあうと思え!」



 檻に閉じ込められて、相変わらず暇だった私は見張りに話しかけて暇をつぶしていた。こいつは口では痛い目に合わせるだの何だの言うけど、多分私は商品だ。所詮見張りのこいつには下手に傷つけたりはできないようで、それを見破った私にあれこれ言われて見るからにイライラしていた。



「あー、暇だなぁー。ねぇ、せめてロープを解いてよ。ただでさえ牢屋に入れてるんだから良いでしょー?」


「貴様、いい加減に……!」



 そのときである。突然、室内にバチッ!! という弾けるような音が響いた。途中まで何かを言いかけたリザードマンの表情が強ばり、ぐるんと眼球が上を向いた。そのままどさりと倒れてしまう。



「ありゃ」


「ふう、コユキちゃん。無事で良かったわ」



 パサッ、と衣がずれる音がして顔をあげると、そこにはアンズとマリンが立っていた。マリンの手には“黒雷石”が握られている。どうやら早速、“身隠しの布“とあの魔法のスタンガンが役に立ったらしい。



「はぁー、待ったよーもう。この檻、中に入れられるとスキルが使えなくなるみたいで。流石に焦っちゃった」


「そ、それは災難でしたね。……でも、どうしましょう? 鍵なんてありませんよ」



 え、マジで? アンズにそう言われてしまい助けを乞うようにマリンを見るが、先のリザードマンの懐をあさっていたマリンも残念そうに首を振った。マジかよ。こいつが鍵を持っていないとなると……おそらく鍵の在り処は族長のところだろうなぁ。



「ちょ、ちょっと。何やってるのよアンタ達」


「おや、クレハ? ……と、キキョウさんだっけ」



 タイミングが良いのか悪いのか。マリンたちと話していると、テントの入口からクレハが入ってきた。声をかけられるまで全く気づかなかったと思ったが……そういえば、私は今<気配感知>が使えない状態だったんだ。索敵役がいないとこういう事故が起こるんだなぁと反省せざるを得ない。入ってきたのがクレハ達で良かった。



「……クレハ、そちらの方は?」



 知らない顔がいることに、マリンとアンズが警戒態勢をとったままクレハに尋ねる。マリン達はあのヒトのことを知らないから無理はないな。キキョウさんは、身構えられたことでビックリしてクレハの後ろに隠れてしまっているし。……とりあえず、この空気感をなんとかしようと私は口を開く。



「えーと、マリン、アンズ。多分大丈夫だよ。そのヒト、悪い人じゃないから」


「えっ、そうなの?」


「クレハ、説明してあげて」



 まずは訳がわかっていなさそうな彼女らに現状を理解して貰う必要がある。クレハに一声かけると、彼女はやれやれと言った表情で話してくれた。



「ん、ああ……こういう状況になったからには私達だけで解決するのは手に余ると思って。協力してくれるヒトを探していたのよ。彼女は、キキョウ。この集落では唯一信頼できるヒトよ」

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