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vol.46 砂漠再び

「そそそ、そんな回復って! そんな重要な役……私回復スキルも持ってないですし……精神の値も低いし……」



 回復役を指示されたことがそんなに予想外だったのか、アンズがまくし立てるようにブツブツと自信の無さを露わにした。そうは言っても他に適役がいないのだから頑張ってもらわないと困る。



「いやいや、何も今すぐ回復役になれって言ってるわけじゃないよ。そんなこと言ったら、私だってタンクのスキルはまだまだなんだから。今後のスキル取得を、回復のことも考えてとって欲しいってこと!」



 私は慌ててフォローを入れる。それでもアンズは不安そうにしていたが、さっきよりは大分表情も和らいだ。……と、思っていたのだが。



「でも、実際アンズはバリバリの物理型ステータスだけど。精神の値が低かったら回復力は微妙なんじゃない?」



 悪いタイミングでクレハが茶々を入れてくる。やめてよせっかくフォローしたんだから! ほら、またアンズの表情がみるみる曇ってるじゃんか!



「あ、あー。確かに、安定した回復力を得るためには精神を強化しないといけないかもしれないけど。……思うに、多分それは魔法に限った話のハズだよ」


「え、そうなの? どういうことかしら?」



 私の推論に、食い気味にマリンが尋ねてくる。まぁまぁ、今説明するから待ってってば。



「まず、この世界がどこかゲームっぽいってのは言うまでもないと思うけど。この手のゲームでは、大概筋力や体力依存で回復技を使うスキルもあるハズなんだ。多分、<近接格闘>とかの派生で……あ、ホラ多分これだよ。<チャクラ>ってやつ」



 ステータスウィンドウを開き、取得可能スキル一覧からそれっぽいものを探す。すると、<チャクラ>の文字を見つけた。使用するには……<身体強化>Lv.6以上、<近接格闘>Lv.6以上か。



「<チャクラ>……術者の気を高め、体力を回復する技。その回復力は凄まじく、術者が触れている者も効果が及ぶほどである……ですって」



 すると、クレハがスラスラとスキルについて説明し始めた。えっ、何で知ってんの?



「何で知ってんのって顔してるわね?」



 心を読まれた。



「<鑑定>スキル。ポイントが溜まったからとっておいたのよ。……まぁ、スキル名にも適用できるとは思ってなかったけどね。でも、これで今後は安心してスキルをとれるってものでしょう?」


「凄いじゃない、クレハちゃん。役に立つスキルをとってくれて凄く助かっちゃうわ。今後重宝することになりそうね!」


「う、うるさい! 私は当然のことをしてるだけで……」



 実際、凄く助かる。クレハがこういうスキルを取ってくれたと言うことは、彼女もなんだかんだサポート役として動いてくれることに同意してくれたってことかな。マリンがストレートに褒めるもんだから、顔を赤くしてそっぽ向いてるけど。ともあれ、各々が今後目指すべき役割も決まったことだし。改めて砂漠に行くとしよう。







 ひたすらにだだっ広い、灼熱の太陽が唸る“ドコドコ砂漠”。砂が灼かれ、地面からも熱が立ち込めているような、そんな錯覚すら受けてしまう。しかも、あっちをみてもこっちを見ても似たような風景が続くときたもんだ。更には危険なモンスターがウロウロしているおまけつき。



「よくこんなところで集落を構えようと思ったものねぇ……」



 額の汗を拭いながらマリンがつぶやいた。「こんなところ」というのもヒドい気がしたが、実際ロクでもない環境には間違いない。



「仕方ないでしょ。この砂漠にはまだ見ぬ遺跡が沢山眠っているハズなんだから、私達みたいな種族には仕方のないことなのよ」



 “拠点のコンパス”を頼りに、先頭を歩くクレハが返事をする。理屈はわかるんだけど、暑いのが苦手な私は正直言ってゴメンだった。こんなUVだらけの場所にいたら肌に良くないよ。……あれ? 今の私は肌とかいう概念はあるのか?



「ところでコユキさん、タンクのスキルはどうですか?」



 くだらないことを考えている私に、アンズが声をかけてくる。彼女が急にスキルのことを話しだしたのは、砂漠に入ってから何度か野生のモンスターと戦ったからだろう。戦いの度に新フォーメーションを試しているもんだから、何かと気になるんだろうな。



「まぁ、いい感じだよ? <挑発>スキルで敵の攻撃を引き寄せて、<形態変化>で防御力アップ。<カウンター>で受けた攻撃を跳ね返す。一応だけど、タンクっぽい動きは出来ていると思うんだ」



 スキルポイントが溜まっていたので、私は新たに<挑発>と<カウンター>を取得していた。相手が野生のモンスターだからだろうけど、砂漠に入ってからの戦闘は面白いように上手くいっていた。私が攻撃を引きつけて、クレハのバフで強化されたアンズとマリンの物理・魔法攻撃で相手を倒していく。



「役割がはっきりするだけで、こんなにスムーズに戦闘が進むとは思わなかったわね。やっぱり適当に戦ってるんじゃ駄目ね。砂漠の敵は強いから、早く気づくことができて良かったわ」



 マリンが隣に来て私と歩幅を合わせながら言った。彼女の言うように、砂漠の敵は強いハズなんだろうけど驚くほど簡単に倒すことができている。スムーズに倒すことができるほど、レベルもサクサク上がるしスキルも取れるし良いことづくめだ。



「私も、もう少しで<チャクラ>が取得できそうです。少しは皆さんのお役に立てるようになると良いんですけど……」


「そうね、回復が二枚になればパーティの層が厚くなるし。アンタには期待してるんだからしっかり頼むわよ?」


「うっ……が、がんばります!」



 クレハがアンズにプレッシャーをかけて、ケラケラと笑っている。アンズは気負いすぎてプレッシャーに潰されるタイプだから、ほどほどにしてあげてね。



「ッ! ……みんな、静かに!」



 和やかな雰囲気にワイワイしているのもつかの間。<気配感知>に反応があり、私は全員に伏せるよう指示する。砂漠の砂が盛り上がった陰に隠れるようにして覗き込むと、そこにはリザードマン達が数名いた。荷台に大きな荷物を載せて重そうに運んでいる。



「……何してんだろ。<道具入れ>で運べば良いのに」


「アレはダークエルフのおさのせいね。手に入れたレアアイテムは<道具入れ>に入れることは禁止されてるのよ」



 険しい表情を浮かべながら、私の疑問にクレハが答えた。



「何で?」


「レアアイテムの中には、手に入れた所有者が登録されちゃうものもあると聞くわ。うっかり道具入れに入れたら、アイテムの価値が下がっちゃうの。だからあんな非効率てきな運び方をしているんでしょうね。ゴーレムから手に入れた“黄金の塊”みたいな換金アイテムは別だけど」



 はぁー、律儀に面倒なことしてるなぁ。強面揃いのリザードマンだけど、ちょっと可哀想になってきてしまう。



「彼等がいるってことは、集落が近いわね。後をつけるわよ」


「了解」



 彼女に従って、リザードマン達を追うことになった。しかし、砂漠に慣れているクレハが先頭を張ってくれるのは助かるな。ルート取り一つでこんなにも歩きやすいとは思わなかった。例えば、砂丘(砂が盛り上がっているところ)は無理して超えるよりも回り込んだほうがラクだったり。できるだけ真上から砂を踏みしめた方が足場がしっかりして良かったり。



 奴らを見失わない程度にしっかり距離をとりつつモンスターを狩りながら進むことしばらく。



「あっ、見て下さい。集落ってアレじゃないですか?」



 アンズが行く先を指さして小声で言った。目を細めてみると、確かに建物のような……いやテントかな? そういったものがいくつか建ってるのが分かった。なんて言ったっけアレ。パオ? とかそんな名前だったような……。



「よし、じゃあ……アンタ達はここで待機してて」



 唐突に一人で行く宣言をするクレハに、驚いたアンズとマリンが思わず声をあげた。



「えっ? 一人で行くんですか!?」


「そうよ、みんなで行ったほうが安全なんじゃないかしら」



 そんな二人の様子に、クレハはやれやれとため息をつく。



「あのねぇ、ダークエルフの集落に……見た目だけでも人間だの獣人だのが来たら何事かと思われちゃうわよ。大人しく捕まりたいってんなら別だけど」



 うぐ、と言いくるめられたアンズとマリンが口をつぐんだ。この集落ではとりあえず部外者は捕まえる文化なのか。なんとも物騒な……。



「いや、待てよ? ……それ、使えるかも」


「え?」



 とある作戦を思いついた私は、ニヤリと微笑んで見せた。アンズが小声で『嫌な予感がします』と言った気がしたが、作戦は立てたもん勝ちだ。じっくりと練っていこう。

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