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vol.45 パーティの役割

 進化も済んで、拠点で一泊したのちのこと。体力も魔力も全快にした私達は、クレハのコンパスを頼りにダークエルフの集落を目指すことになった。進化したことでレベルは1に戻ってしまったが、私もマリンもかなり出来ることが増えた。前みたいにあっさり引き返す羽目にはならないはずだ。



「ドコドコ砂漠……リベンジマッチだね。あっ、そういえばさ、クレハ」


「ん? 何よ」


「集落に戻るのは“拠点のコンパス”があるから良いとして。集落から出ていく時はどうしてたの? うっかり迷っちゃいそうだけど」



 当然の疑問ではあるのだが、そんなことも知らないのかとばかりにクレハは小さくため息をつく。



「あのねぇ……アンタ達さぁ。よく対策もせずにあんな危険な場所に来ていたわね。それはね、このアイテムは一定の拠点を指し示すだけが能力じゃないってことよ」



 そう言って、彼女はコンパスの脇にあるスイッチを押した。すると、針がくるくると周りだし、先ほどとは別の方向を針が指し示したではないか。



「登録できる地点は一つじゃないの。このコンパスにはダークエルフの集落、森の入り口、ついでにウエストウッドの街も登録してあるわ。ボタンひとつで行き先を切り替えられるってわけ」


「へぇー、便利な道具があるものねぇ」


「せっかくだから、この拠点も登録しておいてあげるわ。これで何処に行っても迷いようがなくなるってわけね」



 マリンが感心しているように、なんと便利な道具だろうか。それにしても、道具か……そういえば、そろそろこれまで手に入れてきた道具を整理したほうが良いかもしれないな。



「クレハってさ、武器は弓メインなんだよね?」


「え? そうだけど。何よやぶから棒に」



 唐突に質問をする私に、クレハが怪訝な顔をしている。



「いや、地下遺跡ではあまり使わなかったなと思って」


「あくまで私は魔法メインだから、保険で持っているだけね。……というのは建前で、実はこの弓やたらと大きくって扱いにくいのよ」



 そう言うと彼女は<道具入れ>から弓を取り出した。クレハの持つ弓は、彼女の身長ほどもある大弓だった。移動中は<道具入れ>にしまってあるから良いものの、いざ使うとなると素早い動きも抑制されてしまうらしい。これほど大きかったら、確かにああいった狭い通路では出番はなさそうだな。



「じゃあ、まずクレハはこれ」



 私は、いつぞやの盗賊が落とした“暗殺の弓”をクレハに手渡した。威力はそこらの大弓にも引けを取らず、軽くて扱いやすいボウガンだ。体格の小さいクレハにはうってつけの武器と言える。



「ちょっ、コユキ。アンタこんなもん何処で手に入れたわけ!? 中々手に入らない一級品の弓じゃないの。相当高価なもんなはずよ?」


「まぁ、色々あってね。武器防具を装備できない私が持ってるより良いでしょ」


「それはありがたいけど……。あとで返せって言われても返さないわよ」



 口ではそう言いつつも、目をキラキラさせながら渡された弓をガチャガチャといじっている。意外だな、案外クレハってこういう武器とかが好きなのかも。そもそも、武器や防具はモンスターである私には無用の長物だ。返すも何もない。



「で、マリンはこれ」


「あら? 何かしら」



 続いて、マリンに黒い真四角の石を投げ渡す。“黒雷石”。使用者の魔力をいしずえに、強力な電撃を発生させる道具だ。これは“武器”扱いではなく、あくまでマジックアイテム。モンスターであるマリンにも使用できるはずだ。



「スタンガンみたいに使えるから、いざ近距離戦になった時に役立つと思うよ。護身用に持っていて」


「これは……エスタロッテとかいうメイドが持っていたアイテムよね? 私が貰っちゃって良いの?」


「良いの良いの。私が持っているより、きっと有効活用できるはずだから」



 私がそう言うと、彼女は少し考えたのちにしっかりと頷いてくれた。……おや。何か視線を感じるな。振り返ると、アンズがキラキラした目で私のことを見ていた。う、うーん。そう期待して見つめられると……。なんかアンズにあげるもの、あったっけ?



 慌てて<道具入れ>にしまったアイテム一覧をスクロールする。……ま、まぁ良いかこれで。



「じゃあ、アンズはこれをどうぞ」


「わーい! ……あっ、これは」



 アンズに渡したのは“身隠しの布”。それを身にまとえば限りなく高性能のステルス性を得ることができる。私がウエストウッドの街で散々使用していたが、結局街人に見つかることはなかった。それくらいには信頼できるアイテムだ。



「えっ、私が使って良いんですか?」


「まぁ、もう私には必要がないアイテムないってこと。普段は<形態変化>で変装できるようになったし、戦闘時においても私の役割はタンク。相手の攻撃を一手に引き受ける役割にあるから、身を隠すアイテムを使うことはほとんどないと思っていいんだ」



 ふむふむ、とアンズは頷いて聞いている。彼女が頷くたび、その大きなウサギ耳も連動して揺れるもんだから可愛らしい。



「そして、アンズはアタッカーだからね。アタッカーはどうしてもヘイト……敵の注目を集めやすいから、狙われがちなんだ。いざとなれば“身隠しの布”で隠れて、敵の不意をついて攻撃することも必要になるんだよ」


「へぇー……。ところでコユキさん、コユキさんの言うタンクとかアタッカーとかって、どうやって決めるもんなんですか?」



 うお、そこからか。まぁ、アンズはゲームにおいては素人っぽいもんなぁ……。マリンとクレハも興味あり気に耳を傾けていることだし、せっかくだから丁寧に説明してあげることにしようか。



 アンズのリクエストにお答えして、私達は拠点を出て森のなかに降り立った。適当な枝を広い、ガリガリと地面に図をかきながら説明していく。



「さて。まず、この世界では四人パーティが基本だよね。パーティプレイに必要なのは純粋な火力アタッカー支援サポート回復ヒーラー盾役タンク。まず、その中で『アタッカー』は物理と魔法に分類されるんだ。私達の中では、アンズとマリンだね。勿論私やクレハだって火力を担当できるけど、あくまでメインは二人になると思って良い」


「そ、その理由は?」



 火力メインと聞いたアンズが顔を青くしている。相変わらずプレッシャーに弱いな。私が答えようとした時、遮るようにマリンが口を開いた。



「他の役割の多さが関係してくる、とか。あたってるかしら?」


「うん、正解」



 さすがマリンだ。彼女もゲームについてはほとんどやったことは無いはずだけど、地頭の良さが伺えるな。私はゆっくりと頷きつつ、説明を続けた。



「例えば、さっき私の役割はタンクって言ったよね。仮に私が物理のメイン火力を努めた場合、味方を守る役割はどうすればいいと思う? じゃあ、クレハ」


「ふぇっ、私!? ……それは、アンズがサポートするしかないわよね」



 急に指されて意表を突かれたのか、クレハは変な声をあげつつも質問に答える。



「うん、それは勿論そうだね。後衛の二人よりはアンズの方が打たれ強い。でも、アンズ自身にタンク向きのスキルがあるわけでもない。タンクをやる場合は、ヘイト稼ぎと耐久にスキルを振り切ったほうが良いんだ」


「なるほどね……コユキ、アンタ意外とちゃんと考えてたのね」

 


 クレハは腕を組み、考え込むような仕草をしながら言った。意外とってのが余計だよ。



「だから、今後は物理アタッカーはアンズに頼ることが多くなると思う。頼んだよ?」


「……ッ、がが、頑張ります!」



 急に私がアンズに振り返ってニコリと笑うと、一瞬たじろいだ後に「フンス」と鼻息を荒くして彼女は気合を入れた。



「そういうわけで、『タンク』は私。『物理アタッカー』はアンズ。『魔法アタッカー』はマリン。……となると、足りないのは?」


「ええと……『サポート』と『ヒーラー』ですかね」



 指折り数えながら、今度はアンズが辿々しく答える。



「そうだね。その中で、『サポート』はクレハ、『ヒーラー』はマリンが兼任してるのが現状だよね。正直、クレハのサポート性能は物凄く高い。味方にバフ……ええと、強化魔法もかけられるし、デバフ……敵の能力を阻害する魔法もある。デバフをかけることに特化している役割を『ジャマー』と呼んだりもするよ」



 素直に頷きながら聞いているマリンとアンズを他所に、褒められて気をよくしたクレハがふんぞり返っている。



「ふふん、当然でしょう? なんと言ってもこの私が担当してるんだから!」


「そのかわり」



 食い気味に言葉を被せると、ふんぞり返ったクレハの表情が曇った。クレハも何かと分かりやすくて面白いな。きっとポーカーとかは弱いタイプだろう。



「クレハはその種族の特性上、光魔法。すなわち、回復魔法が使えない。私達の弱点は、回復をマリンに頼り切ってしまっていることなんだ。マリンの魔力が切れたり、何かしらの要因で行動が不能になったときに回復手段が無いっていうのは危険極まりない」


「じゃあ、どうすれば良いんですか?」



 すぐさま疑問をぶつけてくるアンズに向かってニヤリと笑う。その笑みの意味をマリンとクレハは察したらしく、静かにことの顛末を見守っていた。一方で嫌な予感を感じ取ったのか、アンズはただオロオロしている。



「そこで、わざわざパーティの役割について話した本題。アンズにも回復手段を身につけてほしいってわけさ」

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