vol.44 より人間らしく
いざ進化することを決めたので、ステータスウィンドウから進化先のリストを呼び出す。今回は、なんと三つも選択肢があった。どれどれ?
『スラッシュライム:攻撃に特化したスライム。全身を刃のように変化させ、相手を切り刻むことを得意とする。敏捷値はスライム種の中でもトップクラス。
レディマシュマロ:味方を護ることを生業とするスライムの女神。スライムガールよりも、より身体を变化されることに洗練されている。
ウンディーネ(★):スライムが突然変異し、水の精霊となった姿。その高い魔力で相手を圧倒する。ただし、その分耐久力は低い。』
ふうむ。攻撃、防御、魔法のどれを突き詰めていくかっていう選択肢になってるみたいだね。どの進化先も魅力的だけど、現パーティメンバーを考える限りレディマシュマロ一択だな。
攻撃特化はそもそもアンズがいるし、魔法はマリンとクレハに任せれば良い。そうなると私達のパーティに足りないのは盾役だ。相手の攻撃を引きつけ、他のメンバーに攻撃がいかないようにする役割。オンラインゲームなんかではタンクが無能だとパーティの壊滅にも結びつくくらい、重要な役回りである。
名前の響き的にはウンディーネが可愛くて良さげなんだけど、名前の後の(★)マークが気になる。これはあくまで私の予想だけど、これ最終進化先っていう意味じゃないかな? だとしたら、ちょっと選ぶのは憚られてしまう。もしも最終進化だった場合、伸びしろが無くなってしまうと言っても過言ではないからだ。
「よし、決めた」
私が進化先を選んでマリンを見ると、彼女もすでに準備できているようだった。二人で目を合わせて頷き、進化の体制に入る。アンズとクレハが見守る中、私達は「せーの」で進化を選択した。
自らの身体が光り、眼の前が真っ白になる。身体がぐぐっと大きくなっていく感覚があるが、しかしそれも一瞬だった。力が漲ってくる感覚。進化は無事に完了したらしい。恐る恐る目を開くと、そこには進化したマリンの姿があった。
マリンは、限りなく獣人に近い姿に進化していた。<变化>で人間態になっていた時とよく似ているが、今は以前より野性味が強い姿をしている。猫耳は前より大きくなっていたし、二股に別れた尻尾も長くなっている。
「……なんだか、随分と」
クレハがその後の言葉を言わなかったのは、衣服のせいだろう。なぜなら、マリンの衣装は妙に露出が高かったから。例えるならクレオパトラとでも言うべきだろうか。古代エジプトの魔術師のような民族衣装に身を包み、身体のラインは丸出しだ。彼女のたわわな胸がやたらと強調されてしまっている。ゲームによくいるセクシーなモンスター。そんな見た目をしていた。
「ふう。進化って不思議な感覚ね? ……あら、みんなどうかしたの?」
きょとんとするマリンに対し、その身体を指さしてやる。指先を視線で追った彼女は、自分の身体をまじまじと見つめた。身体を捻り、どのような身体構造になったのか観察している。
「あら? なんだか随分派手でセクシーな見た目になっちゃったのね……。まぁ、良いけれど」
さして気にした様子もなくマリンは言った。ううん、まぁファンタジーなこの世界ではやたらと露出の高い服装も普通だし、あんまり気にする方がおかしいのかな。ちなみに彼女の種族を確認すると、“バステト”という種族になっていた。マリンがいうには、進化の選択肢は二つあり魔法に特化したほうがバステトという種族だったらしい。
「それより、コユキちゃんこそ随分見た目が変わっちゃったわね?」
今度は、マリンが私の方に目を向ける。私はわたしでどんな身体になるかと思っていたが、まず身長が随分伸びた。スライムガールの時は幼稚園児程度しか無かったのに、今は人間だった時と同程度くらいの身長になっている。ナメクジのようだった下半身も、ちゃんと足がついていた。これは嬉しい。
身体は相変わらず半透明だったけど、進化する時に見えた説明文から考えても<形態変化>でできることが増えているはずだ。
「どれどれ……」
これまでの<形態変化>はある程度形を変えることと、身体の硬さ・柔らかさを操作する程度しかできなかった。しかし今回は……私が念じると、なんと体の色がみるみると変わっていく。しばらくすると、全身は綺麗な肌色になっていた。
「おおっ! ついに私も人間っぽい見た目に……」
「……」
くるりと回って身体を観察する。うん、なってないなこれ。全身肌色ということは、よく言ってもマネキン人形だ。みんなが何も言わずに黙っていることが証拠だった。も、もうちょっとなんとかならないかな。
「うーん……!」
頭部分を髪のように形を変化させ、毛先のみを青く色付ける。他の部分は肌色にして……かつ、身体は白いワンピースを纏っているかのように形を変える。悪戦苦闘することしばらく。苦労した甲斐もあり、なんだかんだ人間っぽい見た目を手にいれることに私は成功していた。
「おお……コユキさん! 凄いですよ! ほとんど人間と変わらないです!」
「そうね、じっくり見られたり触られたりしない限りはまずバレないと思うわ」
アンズとクレハが思い思いに感想をこぼしている。クレハの指摘は最もであり、このワンピースもあくまで“服”を模したものでそこも私の肌といって差し支えないのだ。服の部分も、触れればぷにぷにしたスライムの触感だ。一発でバレてしまうだろうな。
「まぁ、細かいディティールは今後調整すれば良いかな……」
色や形を細かく変えられるようになっただけでなく、“固定”できるようになったことは大きい。これまで<形態変化>は、意識していないと固くなったり柔らかくなったりできなかった。しかし、固定できるということは、腕を剣や盾のように変化させて擬似的な武器として使用できるということだ。
しまったり出したりも自由自在だ。これは今後の戦いにおいて融通が効くし、かなり役に立ってくれるだろう。
「じゃあ、進化も済んだところでこれからのことなんだけど。早速クレハの集落に案内してもらって良い?」
「ず、随分淡々としてるわね……。でも、そうね。いつまでも放置はできないし、解決は速いにこしたことはないから」
戦力強化が済んだら、次はクレハの問題を解決する必要がある。彼女の話では、クレハの部族はその長が好き勝手やり横暴なルールを決めて、ダークエルフ達は身を粉にして働いていると聞く。正式にクレハが私達の仲間になるためにも、砂漠を拠点に移動式住居を構える彼等に合流し、長をなんとかしなければならない。
すなわちレベルを上げつつ、また砂漠を攻略していかなければならないのだ。
「でも、クレハちゃんの部族ってあちこち移動してるわけよね? あの広い砂漠でどうやって見つければ良いのかしら」
クレハの部族を探すにあたり、マリンが当然の疑問をこぼす。デザートアントやら何やら、危険なモンスターが住まう砂漠で無闇やたらに探すわけにもいかないし。もともと、クレハはどうやって自分の拠点に戻るつもりだったのだろうか。
「あぁ、そんなこと? それは、これを使えば一発で解決するわよ」
そういってクレハがひとつのアイテムを取り出す。彼女が出したのは、コンパスのような道具。ある一方向を指している。
「“拠点のコンパス”。このアイテムに登録された場所を指し示す効果があるわ。つまり、このコンパスが指す方向に私達ダークエルフの集落があるってわけ」
なるほど。以前彼女がためらいなく砂漠に入っていったのはこのアイテムがあったからだったのか。これさえあれば、広い砂漠でも迷うこと無く目的地までたどり着くことができるね。




