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vol.43 脱出

「あっ、マックス表示」


「えっ、コユキちゃんも?」



 ゴーレムを倒したことで、私達のレベルは一気に上がっていた。私は35。マリンは30。どうやら、ここにきてお互いに進化条件を満たしたようだ。ステータスウィンドウのレベル表記の横に、しっかりカッコしてMaxと表示されている。ちなみに、ゴーレムのレアドロップは“黄金の塊”で固定らしかった。というのも、全員が同じものを取得していたからだ。



「随分早くレベル上限が来ちゃったわね?」 



 クレハが「フフン」なんて言って見下したように腰に手を当てて笑っている。きっと自分よりレベルの高かった私達の成長が止まったことで、優越感でも感じているのだろう。だが、すかさずアンズがパンと手を叩いて言った。



「ということは、これでお二人とも進化できるわけですね!」


「えっ、進化!?」



 やっぱりクレハは進化について知らなかったらしい。そんなの聞いてないとばかりに、やや不満そうにじとっとした目で私達のことを見ている。そんなうらめしく視線を送られても困っちゃうんだけど。



「といっても、こんな安全かどうかわからない場所では進化できないけどね」


「そうねぇ、レベルも1に戻ってしまうことだし。今は帰ることを最優先に考えましょうか」



 進化は拠点までお預けだねと、マリンと顔を見合わせて方針を固める。こんな危険な場所にいつまでもいるわけにもいかないことだし、それについては流石にアンズもクレハも同意見なようだ。全員に疲れの色が見える。



「そういえば、あの泉はどういったものなのでしょうね?」


「ゴーレムが守っていたようだけれど、何も無いってことは無いわよね? きっと」



 アンズとマリンに言われて思い出した。そう、帰る前に泉についても調べておかないとな。四人で部屋の奥にある泉に近づいていく。見た目は、やたらと澄んだ綺麗な泉であるというだけでおかしな点は見当たらないが……。



「真実の泉……?」


「えっ?」


「あっ、いや。あそこに書いてあったので……」



 アンズにそう言って指さした先。部屋の隅っこに、確かに“真実の泉”と分かりやすく表記のある看板が存在していた。その意味はいまひとつ分からなかったが、その泉に映った自分の姿を見てその疑問はすぐに解決することとなった。



「何これ……?」



 泉の中に映った自分の姿。その頭の上には、数字が表示されていた。



『1/1』。



 その数字は私だけでなく、全員の頭の上に表示されている。マリンは2/2、クレハは3/3。そしてアンズは、1/3だった。



「どういう意味かしら、これ」


「……ちょっとまって、これ……残機?」



 全員の数字を見比べて、私はその意味に気がついてしまう。アンズはもう2度ほど死んでしまっている。以前、ウエストウッドの街中で「通常の残機数は3つ」だという話を聞いた。ただし。通常3つというのは、あくまで人間や獣人に限った話なんだろう。私やマリンの残機が少ないのは、恐らくそういうことだ。



「私の残機、最初から1つしかなかったのか……」



 随分理不尽な話だ。最弱モンスターに転生して、しかも一回死んだらもうそこでゲームオーバーときたもんだ。この世界に対する不公平感に、どうしても不満を感じてしまう。なんで私ばっかりと、思わず拳を握りしめていた。



「コユキちゃん……」


「……いや、大丈夫。現状の条件でいえばアンズだって厳しいことは変わりないし、私だけ凹んでもいられないよ。それに」



 マリン達が心配そうに私の表情を伺っていることに気がつき、慌てて気にしていないことをアピールした。私はできるだけ明るい表情を作り、気丈に振る舞って見せる。



「それに?」


「元より、死ぬつもりなんてさらさら無いんだから」



 そう言って、彼女らに笑顔を向けた。もしも死んでしまって生前の記憶が失われるとするのであれば、モンスターである私にとってそれはほぼ“詰み”だ。人間の記憶がなければ、周りに構わず攻撃をしかける危険な野生モンスターが出来上がるわけなんだから。どのみち、最初から一度でも死ぬわけにはいかなかった。



「まぁ、とにかく以前よりも気合を入れて物事に臨む理由が増えたってだけで――」



 ドドドド……



「ん? アンズ、何か言った?」


「いえ、私は何も……」



 ドドドドドド……



「ね、ねぇ何か揺れてない?」


「何かとてつもなく嫌な予感がするわね……」



 不意に、遺跡の奥から何かが迫ってくるような音。小刻みに揺れることの振動は、決して気の所為ではなかった。その振動は徐々に徐々に大きくなっていく。……そして。



 ボゴォッ!!



 塞がれていた大部屋の入り口に、小さな穴が空いた。そこから顔をのぞかせたのは、よく見知った顔。デザートアントだった。穴がどんどん広がり、次々と蟻達が噴き出してくる。



「またアンタらかーーッッ!」



 蟻にはもう懲り懲りだった。全員がげんなりした表情を浮かべている。



「にに逃げましょう!!」


「みんな、あっち! ゴーレムが空けた穴から出られるかもしれないわ!!」



 ゴーレムが放った波動砲でできた大穴をマリンが指差す。言われてみれば、その穴はわずかに上方向を向けて続いており、地上に繋がっている可能性が非常に高い。よく観察すると奥にうっすらと灯りが見えることが、それを確信に変えた。



「走るよ!!」



 誰しもが言われるまでもなく、といったところだろう。逃げ道さえ分かっていればあんな奴らから逃げるのはたやすい。しかも、一本道だ。



「<酸攻撃>アシッド・シャワー!」



 自分たちの後方、地面に強酸の水たまりを作ってやる。蟻達が踏めば滑って転び、しかもダメージも入る。足止めにはかなり効果的だ。一本道ゆえ、絶対に通らないといけないような場所に設置が可能なわけで。蟻達はキシャー! なんて言って悲鳴のような声をあげている。



「ハハッ、ざまーみろね! じゃあね、アホども!」


「ちょっと、クレハちゃん口が悪いわよ?」


「まぁまぁ、良いじゃんマリン。そーいうの私はキライじゃないよ」


「コユキさんまで……ふふっ。なんだか、良いチームになれそうですね?」



 蟻達から逃げながら、何かおかしくて笑いがこみあげてくる。遺跡の中では終始ドタバタしていた気もするが、入る時と出る時では気持ちは全く別のものになっていた。このチームで、この理不尽な世界を意地でも攻略してやろうと。密かに、そう思った。







 トンネルを抜け、私達は地上に出ることに成功していた。トンネルを出て振り返っても蟻達は追ってきていなかった。どうやら距離が開いて追うことを諦めてくれたらしい。目視で確認できる範囲に森が見えていたため、ツリーハウスの拠点に戻ることもそこまで難しくなかった。



「うわ、凄いわね……こんなのよく作ったわね、アンタ達」



 拠点として新たに決めた大きな二本の木。マリンが<幻影魔法>を解くと、木々の葉っぱのようにカモフラージュされていたツリーハウスが露わになる。その姿を見たクレハが、素直に感嘆の声を漏らした。



「そうでしょ? セキュリティ面もバッチリなはずだよ」



 階段を登っていき、内装を見たクレハはますます目を丸くしていたようだった。こう、リアクションがあると作った身としても嬉しくなるものだな。四人パーティになっても、十分生活できるだけのスペースは確保していたのは幸いだった。



「それで、拠点に戻ったことだし。そろそろ進化しようかと思うのだけれど」



 帰ってくるなり、ベッドの上でくつろいでいたマリンがおもむろに話し始める。そもそもが一旦拠点に戻ったのは安全確保のためだしな。初めて進化をするマリンはずっと楽しみにしていたのだろう。



「そうだね。私もそろそろしようと思ってた」


「そんな簡単な……コンビニにでも行くような感じで話しちゃって。コユキ、アンタは随分慣れてるようだけど、進化は初めてじゃないの?」

 


 軽い返事をする私に、クレハが呆れたように言った。いや、本来は慎重になるべきことだし、彼女の反応のほうが正しいのかもしれないんだけど。



「うん、もう進化は三回目だね」


「三回め!? アンタどんだけレベル上げしてんのよ……」



 ますますクレハが呆れていう。しょうがないじゃん、そうでもしないと生き残れなかったんだもの。こちとら、もともと最弱モンスターだったんだからとやかく言わないでよね。

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