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vol.42 波動砲

 オワタ式。それは、一発でも敵の攻撃を貰ってはいけないゲームモードである。それに挑戦するのは本来熟練のプレイヤーであり、一通りゲームを遊び尽くしたゲーマー達の暇つぶし的な立ち位置にある。しかし、どうだろう。私達は、今初見のボス相手にオワタ式を強いられているのだ。



「ッッ!!」



 相手の攻撃を避ける。避ける。相手が並の攻撃力なら随分余裕があるはずなのに、“一撃でも貰ったら終わり”というその考えが頭にあるせいでなんというプレッシャーだろうか。余分にスペースをとって避けなければならないため、いつもの倍以上の速さで疲労が溜まっていく。



「こ、コユキさん! 相手、のっ! ひだり、肩っ! 後ろ側です!!」



 誰もが必死な中、アンズが苛烈な攻撃を避けながら何かを見つけたらしいことを報告してくれた。彼女の言ったとおりにゴーレムの後ろ側に回り込むと、確かにそこだけブロックの色が暗い色をしているようだった。全身が輝く黄金なだけに、かえって目立つというものだ。



「タネが分かってしまえば……案外脆いもんだよねっ!!」



 その部分めがけて、私は<酸攻撃>を放つ。酸属性の弾丸が、奴の左肩を的確に射抜いた。ただ弾かれるだけだったこれまでとは異なり、確かな手応え。初めてゴーレムはその膝を地面につけることになった。ズシンと大きな振動が響く。



『HP 89/99』



「入った……! ダメージが入ってるわ!!!」



 クレハが興奮して叫ぶのも無理はない。物理も魔法も、何をしても一切効果がなかった相手に初めて傷を負わせることができたのだ。どうしようも無いように見えた中、やっと手繰り寄せた一筋の光脈。ここで畳み掛けずして、いつやるというのか。



「マリン!! 右膝!!」


「オッケーコユキちゃん!!」



 仕組みが分かってしまえばあとは単純作業の繰り返しだ。大きな攻撃はいらない。的確に狙った場所を射抜ける攻撃があればいい。マリンは、極めて正確に<炎魔法>ファイア・ボールをゴーレムの右膝に放った。魔法がヒットし、膝を焼かれたゴーレムが悲鳴のようなうめき声をあげた。



 いける。こちらが攻撃を加えるたび、確実に奴のHPが削れていた。このまま攻撃を続ければ、奴を倒すことなんてたやすいはずだ! 私の酸攻撃が、アンズの蹴りが、マリンとクレハの魔法が。暗い色のブロックを見つける度に攻撃し、順調に体力を削っていく。



「ついに、相手のHPも9ポイントよ! あと一撃!! みんな、もうふと踏ん張りね!!」



 マリンがパーティに喝を入れる。彼女が珍しく大声を出しているのは、今の状況はまだ油断してはいけないことを表しているからに他ならない。というのは、体力が減っても相手の攻撃力は全くと言っていいほど衰えていなかったからだ。奴の腕や足が地面や壁に当たるたび、地形ごと変えてしまうほどの威力。本当に弱っているのかと思わず疑ってしまうほどだ。



「みんな、いくよっ!!」



 掛け声と共に、私達は相手を取り囲むようにして四方向からゴーレムの身体を観察する。戦いが経過するうちに、いつしかこの戦い方が対ゴーレムのセオリーとなっていた。四人のうち誰かが奴の弱点を発見し、見つけるや否や情報を共有。最もその場所を狙いやすい者が攻撃を放つ。



「<幻影魔法>影分身!!」



 万が一を避けるため、マリンが私達の分身を作り出し被弾率を下げる。相手の周囲を周り、最期の一撃を加えるために暗い色のブロックを探していく。……。お、おや?



「み、みんな! ブロック、あった!?」



 妙だ。これまで分かりやすく存在していた暗い色のブロックが見つからない。腕も、足も、肩も、胸も、背中も。どこにもない。もしやと思い、相手が振り上げた足の裏も観察してみるが……。



「な、無いです! どこにも……キャッ!!」



 無かった。ゴーレムの豪腕に触れそうになったアンズが悲鳴をあげる。そんな! ここに来て、最期の一撃を加えるためのブロックが見つからないなんて!!



「ちょ、ちょっと! これからどうすれば良いのよ!!」



 またしても詰まってしまった状況に、クレハが半ギレで叫んだ。いや、私にそんなこと言われても! 少しは自分で考えてよ!



「……待って! 今までと挙動が違うわ!」



 マリンの声を聞いてゴーレムを見ると、おもむろに彼は両膝、そして両の手のひらをついて四つん這いになった。



「え、何。降参?」



 クレハが呑気なことを言っているが、そんなわけはない。……待てよ。一個、あいつのスキルでまだ使われていないものがあったような……。<波動砲>……?



「全員逃げてーーっ!!」



 絶叫して、その場から慌てて退避する。ゴーレムの頭がガシャン! と音を立てて変形したかと思うと、頭頂部から大砲のような筒が現れた。その瞬間。絶大なエネルギーが、大砲から放たれる。



「うおおおおおおお!!?」



 一瞬白く光ったと思うと、次に襲いかかるのは凄まじい衝撃。またしても、私達はその余波だけで壁に叩きつけられた。そして、ゴーレムが放った砲撃で、壁がだった場所はどこまでも続く洞窟へと変化してしまった。ぽっかりと、綺麗な円形に抉れている。なんだこれ反則だろ!!



「だっ、誰も巻き込まれてないよね!?」


「コユキちゃん、みんな平気みたいよ! それよりアレを見て!」



 マリンが指さした先を目で追うと、ゴーレムの頭頂部が変形した先。そこに、黒ずんだブロックを発見した。砲撃を終えて、大砲をしまうついでに黒いブロックは今にも蓋がされようとしている。あんなところにあったのか! そりゃいくら探しても見当たらないわけだ!



「アンズ!! 私を蹴っ飛ばして!!」


「えっ、でも」


「ためらわないで! ゴーレムに向かって、思いっきり蹴るの! 時間がない、はやく!!」



 相手の返事も待たず、私は空中に飛び上がる。空中で丸く<形態変化>。ボールのようになった私を、アンズは指示通り思い切り蹴っ飛ばした。柔らかさを最大にし、ゴムまりのように弾力を利用してゴーレムに向かっていく。



「<魔法付与エンチャント>! <風魔法>、エアシュート!!」



 瞬時に私の狙いを悟ったクレハが、更に私の勢いを加速させるべく風の魔力を付与させる。アンズの蹴りに更に勢いが加速される。



「最期のブロックはここですよってチュートリアルのつもりなんだろうけどねぇ!」



 更に、<酸攻撃>アシッドヴェールで身体に酸を纏わせた。空中で細長い棒ように<形態変化>する。限界まで硬さを強めて……



「ワンターンキルしちゃえば……お前なんか怖くないんだから!!」



 真っ直ぐ私は奴の額めがけて飛び。そして、ズドン! と何かが砕ける音を立てて目的のブロックをぶち破った。頭部を大砲ごと破壊されたゴーレムは一歩、二歩と後ずさった後、停止した。一瞬の静寂のあと、ゴーレムの目から光が消え、彼は膝から崩れ落ちる。パーツの一つ一つが、まるで壊れた玩具のようにバラバラになっていき。そして、ついに奴は完全に沈黙した。



 黄金に輝く身体が消滅し、経験値石とドロップアイテムが出現する。




『経験値を獲得しました。レベルが――』



「や、やった……?」



 へなへなと、クレハがその場にへたり込みながら言った。やったも何も、このレベルアップアナウンスが何よりの証拠だ。私達は、ついにこの四人で初見のスカーモンスターを倒すことに成功したのだ。



「ッッあーー!! もう何回も駄目かと思ったァーー!!」



 気が抜けてしまい、その場に仰向けに倒れる。しかし、それは叶わなかった。アンズが倒れようとした私の身体を支えたからだ。



「お疲れ様でした、コユキさん。……毎度、頼ってばかりでごめんなさい」



 ひょいと、軽々と彼女に持ち上げられてしまう。いや、流石にお姫様抱っこみたいにされると恥ずかしいんだけど。ほら、またマリンがちょっと怒った目つきで睨んでるから!



「だだ、大丈夫。自分で立てるから!」



 半ばアンズを押しのけるように、慌てて地面に足をつける。



「コユキ……アンタのことを見くびっていたみたいね。意外とやるじゃないの!」



 クレハがそんな私の方に歩み寄ってくる。上から目線な発言をしたのち、腕を組んだままニヤっと彼女は笑った。素直じゃない言い方だが、これでも彼女なりに一生懸命褒めてくれているんだろう。



「あらあら、クレハちゃん。もうちょっと素直になっても良いんじゃないかしら? さっきコユキちゃんを見て『凄い……』なんてつぶやいていたくせに」


「ななな、そんなこと言ってないから! ま、まぁやるって言っても私ほどじゃないけどね! 今回は褒めておいてあげるわ!」



 顔を真赤にしてそっぽを向く。ハハハ、その方がクレハらしくて良いかもね。今は、とにかくここを無事に突破できたことを喜ばないと。さぁ拾うものを拾って、さっさと脱出しよう!

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