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vol.41 傷を持つゴーレム

 そのゴーレムの大きさは軽く三メートル以上はあった。腕は大木のように太く、巨大な足をそいつが一歩踏み出しただけでズシンと地面が振動する。



「あっ! <STステータス閲覧>、効くわよこいつ!」



 いちはやく相手の情報を探っていたクレハが叫ぶ。ボスのくせにスキル対策してないとは迂闊なやつめ。それでは早速スキルを盗み見てやろう、どれどれ?



『スキル:<全耐性強化>Lv.8 <防御力上昇>Lv.8 <豪腕>Lv.8 <波動砲>Lv.8』



 は? これだけ? な、なんつーシンプルなスキル構成。しかし、スキル数が少ない代わりに……なんだこのレベルの高さは。しかも四つとも特殊スキルときたもんだ。反則じゃね?



「はあぁッ!!」



 とにかく行動しないと始まらないと、アンズが先制攻撃を仕掛けた。その鋭い回し蹴りは、相手の足首めがけて的確に放たれた。……放たれた、はずなのだが。



 ガンッ!!



「――ッ!?」



 鈍い音が響く。それはまるで、分厚く硬い壁を蹴ってしまったかのような音だった。アンズはたまらず足を抑えながらぴょんぴょんと跳ねて距離を取る。え、今ダメージ入ったか? 



『HP 99/99』



 待って待って待って。少しも減ってないんですけど? 幸いにして最大HPが妙に低いのは良いよ。にしても、一ポイントも減らないって。いくらなんでも硬すぎませんかね?



「物理が駄目ならッ……!!」



 物理攻撃は分が悪い。それを瞬時に判断したマリンとクレハが魔力を溜めだした。人間態に<変化へんげ>したマリンが胸の前で魔力を凝縮させていく。あの構えは、いつかシルバーウルフに放った“ギガフレイム”だ。そこに、更にクレハが<魔力付与エンチャント>で炎魔法の威力を増強させていく。



「アンズ、足は大丈夫!? 私達が囮になるよ!」


「――ッ、はい!」



 後衛組に攻撃が向かないように、ゴーレムの足元をちょこまかと走り回る。思ったとおり、そのデカイ図体では私達のことを追いきれないらしい。素早さでは圧倒的に私達が勝っているわけで、奴は私達を目で追うのが精一杯という感じだ。



「<酸攻撃>アシッド・ショット!」


「<近接格闘>発勁はっけい!」

 


 動き回りながらダメ元で攻撃を加えてみるが、酸だろうと殴打だろうと、状態異常だろうと一切ダメージが入らないようだった。これはいよいよ私達ではダメージを加えられそうにないな。



「準備できたわ!! コユキちゃん、アンズちゃん、行くわよ!!」



 その時。待ちに待ったマリン達の魔法の準備ができたらしい。彼女が叫ぶのを聞いて、私達はすぐにその場から飛び退く。ゴーレムも異変に気がついてマリン達の方を向くが、もう遅い。



「<炎魔法>、ギガ・フレイムタン!!!」



 マリンの放つギガフレイムは、本来巨大な火球を放つ魔法だ。しかし、今回放つものは以前見たものとまるで異なった。その形状は、形容するなら炎の剣。貫通力に特価した、凄まじい熱量がゴーレムに向けて真っ直ぐに放たれる。クレハの<魔法付与エンチャント>で強化された魔法が、その巨体に襲いかかる。



 グオッ!!!



「あちちっ!」



 部屋全体が熱されてしまうほどの炎。同じ空間にいるだけで汗が滲んでしまう。これほどの魔力だ、流石にあいつも無事では済むまい。一撃で倒せないにしても、かなりのダメージは追わせたはずだが……。炎につつまれて、姿もロクに見えなくなった彼に<ST閲覧>スキルを使用する。



『HP 99/99』



 ……は? ノーダメージ!? 嘘だろ!!? 困惑する間もなく、炎の向こう側でゴーレムがゆっくりと腕を振り上げるのが見えた。お、おいおい。そんなゆっくり動いても当たってあげないぞ。あまりにスローモーションな動きに何をするのかと観察していたが、突然ゾクッと嫌な予感が背筋を駆け抜けた。<危機感知>が反応してる……!? あっ、これマズいやつだ……!



「全員離れてッ!!」


「え、キャッ!」



 私は叫び、形態変化で腕を伸ばした。すぐ近くにいたアンズを引っ張り、一気に横っ飛びする。次の瞬間。凄まじい速度でその強大な腕が振り下ろされ、遺跡全体が震えたかのような凄まじい衝撃が私達に襲いかかった。例えるなら、地面がまるごとひっくり返ったような光景。整備された床の岩肌が剥がれ、直接当たったわけでもないというのに私達は衝撃だけで吹き飛ばされてしまう。



 ゴーレムの周辺は、クレーターのように凹んでしまっていた。今の衝撃でゴーレムにまとわりついていた炎も、無理やり消滅させられてしまっている。彼は、私達が始末できていないことを確認すると、



「ハイジョ シマス」



 無機質な音声を出し、その足をまた一歩踏み出した。これまで戦ってきたやつとは全く異なる方向性の相手。強大過ぎる単純な火力、そして無敵の防御力。



「こんなの、どうしろっていうのよ……!!」



 クレハが絶望したように泣き言を漏らした。物理攻撃も効かない。渾身の魔法も効かない。そもそも、HPを少しすらも削ることができていない。どうする、どうすればこいつにダメージを与えられるっていうんだ……!?



「<幻影魔法>、影分身!!」


「!?」



 マリンが私達の分身を無数に作り出す。一瞬奴の動きが止まったが、すぐにゴーレムは片っ端から叩き潰そうと分身を攻撃し始めた。踏み潰したり腕を振り回したりし、徐々にその数が減っていく。



「私が時間をかせぐわ! だから、なんとか……なんとか今のうちに作戦を考えて!!」



 マリンはすがるような声色で私に叫んだ。そう、こんなのは正直時間稼ぎにしかならない。彼女にもそれは分かっているはずだ。……だけど、今の攻防で悟ってしまったのだろう。普通に攻撃していても、このモンスターに勝つことは絶対にできないことが。



「全耐性持ちで……物理も魔法も効かない……その割にHPは妙に低い……」


「何をブツブツと言ってるのよこんな時に!」



 相手を観察しながら呟く私に、イライラしたようにクレハが叫ぶ。彼女は、やられるのは御免だとゴーレムに向かって適当に魔法を放ち始めた。しかし、分かってはいたがどの魔法も容易く弾かれていく。あれでは魔力の無駄遣いだ。見かねたアンズがクレハの前に立ちはだかった。



「く、クレハさん! 今はコユキさんの指示があるまで待って下さい!」


「何よアンタまで! 黙ってやられるのを待てっていうわけ!?」


「クレハさん! コユキさんはいつも的確な指示を出してくれるんです! どうか信じて下さい! それにあなたも一度、デザートアント戦の時に見ているでしょう!?」



 そんなに買いかぶられても困るんだけど。しかし、デザートアント討伐のことをクレハは思い返してくれたらしい。不満そうにしつつも、アンズの説得で適当に魔法を放つのはやめてくれたようだった。



「じゃあ、どうすれば良いの!?」



 ああいう相手にダメージを与えるにはどうすれば良い? あらゆる属性の魔法を弾く。状態異常攻撃も効かない。じゃあ、防御力を無視する攻撃……? そんなのあったか?



「あ……クリティカル……!?」



 クリティカル攻撃。以前、発光キノコの洞窟でストーンブルをマリンと二人で狩っていた時。いつもと違う手応えの攻撃を出せたことがあった。確か条件は相手の弱点を的確につき、攻撃すること。



「みんな! ゴーレムの身体を観察して! 他と違う場所がないか探るの!!」



 物理も魔法も効かない相手。こんな相手がいて、しかも逃亡もできないダンジョンだ。ゲームシステムから考えるに、絶対に倒せない相手がいるとは考えにくい。どこかに抜け道が用意されているはずなのだ。



 こういった、一見無敵にみえるボスの攻略はだいたい決まっている。戦闘中に奴を倒す手掛かりを集めて謎を解くことだ。全身無敵に見えるこいつの弱点を出現させる方法を、なんとしてでも見つけなければならない。もし見つけられなかったら、それは私達の死を意味するのだから。

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