vol.36 蟻戦攻略
デザートアント。それは砂漠に住まう獰猛な肉食蟻。皮膚は赤黒く、強靭な外骨格に覆われている。群れで狩りをするのが基本で、数の暴力で相手を覆い尽くし、喰らい尽くす。狩っても、狩っても、どこから湧いて来るのだろうか。クレハの<魔法付与>の御陰でかなり優位に戦いを進め、しかもどんどん出る経験値を取得してレベルは上がる一方なのに。
「い、いつ終わるのよこの猛攻は!?」
絶え間ない蟻達の進撃についに痺れを切らせたクレハが、半ギレで叫び声をあげる。その数は、もはや<気配感知>でも数が多すぎてよく分からないレベルだ。どうなってんだマジで! このままじゃまたジリ貧だぞ!
「はあっ! はあっ!」
息が上がる。パワーレベリングで体力も魔力も補充しながら戦えてはいるが、誰も彼もステータス異常“疲労”状態になっていた。全ステータス四割減は伊達ではない。身体がずしりと重く、腕も足も急に鉛のようになってしまった。
「このままじゃ<魔法付与>が切れるわ! ちょっと誰か、なんとかしなさいよ……!」
「そん、なこと、言われ、ても……キャッ!」
泣き言を言うクレハに、アンズが戦いながら途切れ途切れの返事をした。ちょっとでも気を抜くとすぐ敵の攻撃が牙を剥いてくる。この状況にはマリンも同意見のようで、早めになんとかしないと結局全滅してしまうことは明白だ。
「コユキちゃん! こういう時はどうすれば良いの!?」
「えぇ!? こ、こういうときは……」
何で私に振るんだと思ったが、みんながみんな必死なのだ。このまま迎撃を続けても状況は変わらない。それならば何でもいいから何か。何かをしないと! ゲームで得た知識でいい! 脳細胞を総動員しろ!
凄まじい数にも関わらず、統率のとれた動き。各々が個々で判断して動いているとは思えない。ということはつまり、指揮しているものがいるということ……?
「私なら、こういう大群相手のときは大概頭を潰す……」
「頭……?」
「そうだよ、女王蟻! 女王蟻みたいなのがきっといる……この大群を指揮しているやつが!!」
唐突にピンときた。どいつもこいつも攻撃するために突撃している中、指揮しているものは近づいてこず命令だけをだしているはずだ。
「<気配感知>で動いていない奴を探す! そいつが多分群れの頭だよ! でも、このスキルを正確に使うには集中しないといけないの! 特にこんな風に戦いながらじゃまず無理、ねっ!」
蟻を殴り飛ばしながら、半ば叫ぶように三人に説明する。マリン、アンズ、クレハ各々はしっかりと了解したらしい。前衛後衛関係なく、皆は私を囲むように陣取った。
「なら時間を稼げば良いわけですね! 了解しました!」
「肉弾戦は得意じゃないけどなんとかしてみせるわ!」
「ふ、フン! 少しは頭が回るみたいね! いいわ、やってあげようじゃないの!」
彼女らの期待に答えないといけない。自分の代わりに戦闘をしてくれている間、全力で集中しスキル<気配感知>を発動。範囲を広げていく。如何せん数が多すぎる。うじゃうじゃと動く反応の中、違う動きをしているものを見つけろ。まだだ……もう少し……。……いた!!!
「見つけた!! みんな、先導する! 着いてきて!」
現在地から少し離れた位置にある、ほとんど動いていない反応。間違いなく女王蟻だ。力を振り絞り、<形態変化>で前進を硬質化。球体になり高速回転していく。更に強化された<回転移動>を味わってもらうよ!
「まだまだ! <魔法付与>、フレイムタン!!」
「サンキュークレハ! アイアンボーリング・ファイア!!」
球体になったところに炎の魔法付与のサポートが入る。いかに“疲労”状態といえど、倒し切ることが目的でなければ問題はない。燃える鉄球と化した身体は、容易く蟻たちを弾き飛ばしていく。三人は私の後をぴったりついてきていた。
「見つけたぁぁああ!!!」
周囲の者より一回り大きい蟻。その背には羽が生えていた。<気配感知>で察知した通りの位置だ。真っ直ぐ向かってくる驚異に、相手は危機を感じて逃げ出そうとしている。周りの蟻たちは、女王をかばうように盾となって立ちはだかった。
「あら、他の子は邪魔しないでねー! <炎魔法>、メガフレイム!」
マリンが火球を放って蟻の盾を薄くする。
「逃げ出してんじゃないわよ! <地魔法>、アースウォール!」
クレハが相手の後ろに土の壁を作って退路を塞ぐ。
「コユキさん、失礼します!! <近接格闘>、疾風脚!!」
そして、アンズが私の勢いを更に増すために空中に飛び上がり、鋭い前蹴りを放った。
「「「「いっけええええええ!!!!」」」」
一つの目的に対し、全員で魂を込めて叫んだ。出鱈目な速度で突っ込む火炎の球。ドゴォッ! と土壁に身体があたり、ようやくその勢いは停止した。自分自身、勢いがつきすぎてちゃんと相手に当てられたのかどうかも分からない。が、しかし。周囲の蟻たちの様子でその結果がどうなったのかを予測することができた。
「……見てください! 蟻達が退散していきますよ!」
統率する者を失った組織というのがどんなに脆いものか。あんなにワラワラと集まってきていた蟻達は、我先にと逃げ出していく。なんだかまたギリギリだったな。
「レベルアップでHPが回復してはみるみる減っていく状況、生きた心地がしなかったよ」
深い溜め息をつきながらその場に座り込む。パーティウィンドウを開いてレベルを確認すると、さんざん倒しまくった甲斐あって凄いレベルになっていた。マリンはレベル28。アンズはレベル23。私はなんと、一気にレベル30だ。パーティを組まずにいたクレハのレベルはわからないけど、きっと彼女もしこたまレベルアップしたんだろうな。
「ま、まぁ一応お礼を言っておくわ。よく働いたわねアンタ達」
素直じゃないのか、クレハはお礼なのか何なのかわからない言葉を吐き出しそっぽを向いている。まぁ、巻き込まれたとはいえ助かったのはこちらも同じことだ。
「助かったよクレハ。ありがとうね」
「私からも、ありがとうございます」
ちゃんとお礼は言っておくことにした。クレハは振り返らなかったが、耳が赤くなっている。きっと照れているんだろう、身体は分かりやすく特徴がでるんだな。アンズも戦いぶりを見て彼女を認めたらしい。しっかり頭を下げてお礼を言っていた。
「ところで」
そんな順風満帆な空気というところに、突然マリンが口火を切った。
「そもそも、協力したらクレハちゃんのことを根掘り葉掘り教えてもらえるっていう話だったわよね?」
あぁ、そういえばそうだったっけ。なんかクレハの方からチッという音が聞こえた気がしたけど気のせいだろうか。
「……まぁ、いいわ。約束は約束だものね? ただ、こんな危険な場所で話すのもなんだし、一旦安全を確保してからにしない?」
ため息をつきながら彼女は言った。クレハの言うことは概ね正しく、蟻の驚異はひとまず去ったもののみんな揃って疲労状態だ。何処か休むことの出来る場所を探さないといけない。私達は同意し、遺跡を更に探索することにした。
※
結局、それからしばらく歩いて私達は小さな小部屋を見つけていた。<クラフト>で出入り口を塞げばひとまずの安全圏の完成だ。どっかりと腰をおろし、身体の傷を確認する。あいてて、肘のところに牙が刺さっているや。
「それで、クレハちゃん」
「……何よ?」
「まず私達を襲ったことと、こんな危険な場所をうろついていた理由から聞いてもいいかしら?」
後方支援に徹していたマリンは私達に比べるとまだ余力があるようだった。今回は<变化>を使わずに魔法攻撃していたから、いつものような魔力切れを起こさずに済んだんだろうな。その分の活力を、質問することに使用できているらしい。
私とアンズは前線で散々に疲れてしまったので、ことの顛末は彼女に任せて見守ることにしよう。




