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vol.31 クラフト×クラフト!

「それで、新しく拠点を作るにあたって必要なものなんだけど」


「あっ、はい」



 マリン達の料理(結局私は手伝わせてもらえなかった)は相変わらず美味しかった。のんびりくつろぐマリンとアンズに、私は今後のことを伝えるために切り出した。アンズはすぐに姿勢を正してシャンとしたが、疲労していた上にお腹が膨れたマリンはやや眠そうだ。



「まず拠点を作る上で重要なのは何だろうね?」


「そ、そうですね……えーと」



 急に質問を投げかけられ、アンズはたじろいでしまう。彼女がおどおどしている間にマリンが代わりに回答を述べた。



「拠点自体の丈夫さ、見つかりにくさ、あとは……人数分の空間確保かしらね」



 概ね正解だ。アンズが先に答えられてしまったことでしゅんとしているが、マリンは本当に頭の回転が速いからあんまり落ち込むこともないんだけどな。



「うん、ほぼ正解」


「え。完璧だと思いましたけど……ほぼ、というのは?」



 アンズが首を傾げ、白い髪がふわりと揺れる。



「もうひとつ。拠点を見つかった時の対策まで出来るとベターってこと」



 人差し指を立てて私は答えた。即ち罠をしかけるとか、最悪籠城ろうじょう戦ができるくらい堅固な拠点だと尚良しということだ。そういった条件を満たす拠点。作る場所がかなり大きなポイントとなる。



「<クラフト>の項目一覧を見る限り、拠点を作るにあたってかなり自由度が高いんだよね。壁一枚をとっても、土・木・石・鉄の壁とかなり幅広い。罠の種類も豊富だし、カモフラージュ用アイテムまで揃っていると来たもんだ。この世界って、凄くゲームっぽいでしょ? <クラフト>で作ることができるものを考えると、拠点を襲ったり襲われたりすることがデフォなんだと思うんだよね」


「で、デフォ?」


「あ、ごめん。それが普通ってこと」



 “デフォ”って通じないのか。二人が私みたいなゲームオタクではないことを忘れていた。こういう<クラフト>要素とかゲーオタとしてはつい熱くなってしまうから気をつけないと……。



「それにしても他の人の拠点を襲うなんて、ひどいことをする人もいるのですね……」


「そういう輩がいるからこそ、罠が重要になるんだ。逆に、私達が他人の拠点を見つけてもスルー推奨だね。下手に敵対したり、罠にかかったりするかもしれないし」



 アンズはなるほどと頷いた。素直に納得しながら話を聞いてくれるので説明のしがいがあるな。



「あ、でも。マリンさんの拠点には罠とか仕掛けてないんですね?」


「まぁ、ここは例外だね」



 説明を促すようにマリンを見る。マリンは私の意図を組んだように頷いた。



「こういった洞窟の中の拠点はそもそもが見つかりにくいし、ヒトがあんまり通らない場所にあるでしょう? 万に一つ、敵に拠点が見つかってしまった時はまずいかもしれないけれど。ほぼ有り得ないと思うわ」


「どうしてです?」


「それは私が<幻惑魔法>をつかえるからよ。入り口に魔法をかけておけば、ほとんど普通の岩肌と区別がつかないから」



 アンズの質問にマリンが優しく答えてあげている。カモフラージュが完璧な場合は、下手に罠などを仕掛けてしまっては近くに拠点があると言っているようなものだ。マリンはそこまで分かって拠点を作成しているあたり抜け目がない。



「まぁ、そういうわけで。明日は次の拠点の場所を探しながら材料を集めるよ。できるだけ砂漠の近くで、見つかりにくい森の中が良いかな」


「分かったわ」


「了解です!」







 翌日。私達は拠点の荷物をまとめ、東へ向けて進行していた。マリンがたまに立ち止まっては木に傷をつけている。



「コユキさん、マリンさんは何をしているのですか?」


「拠点から東は殆ど探索していないって言ってたから。迷わないように傷をつけて目印にしているんだと思うよ」



 私の解説を聞いて、アンズがますますマリンに対しての尊敬の目を向けていた。彼女は張り切った様子で、おもむろに石を拾いあげる。



「マリンさん、私も手伝います!」


「えっ、ちょっと」



 とあちこちに傷をつけはじめた。おーい、そんなに適当に傷をつけたら方角が分からなくなるぞー。……あ、怒られた。案の定マリンに注意されて凹んでいる。感情の起伏が激しいから見ていて飽きないなあの子は……。微笑ましく二人のやり取りを見ていた、その時。



「っと、お出ましか。マリン、アンズ! 正面から敵!」



 私の<気配感知>に敵の反応。レベル表示は見えないが、<STステータス閲覧>を見る限り私達の相手にはならなさそうだな。それでは、しっかりと養分になっていただくとしよう。







 それからモンスターを狩り続けてかなりレベルが上がった。鹿みたいなモンスターに、カラフルな大ガエル。気色悪いでっかい蜘蛛もいた。地域をちょっと変えるだけで色々なモンスターを見ることができて楽しいね。アンズは虫が苦手なようで蜘蛛が出たときはかなりひるんでいたけど。



 私も15レベルになったし、マリンに至っては20レベル。アンズが一歩遅れて10レベルだ。獣人はそもそも25ポイントないと転生できない中々に良い種族だ。良い種族ほど、レベルアップに必要な経験値が多くなっているのかもしれない。ただ、その分伸び幅は凄いな。一回のレベルアップでステータスめっちゃ伸びるじゃん。私の2倍以上は伸びてるぞ……。



 この周辺のモンスターはそれだけレベルを上げてもなおレベル表示が見えない。まだまだレベルアップできるってことだな。更に助かることに、木に扮したモンスターの存在があった。彼等を倒したとき、“木の板”が確定ドロップするのだ。4枚集めれば木の壁が作れる。経験値も美味しいし良モンスターだね。見つけたら積極的に狩っていこう。



「……およ?」



 そんな調子で更にずんずん進んでいた頃。周囲の環境が少しばかり変わってきていることに気がつく。なんだか薄暗いような……。



「なんだか、この辺りの木は随分大きいですね?」



 アンズがぺたぺたと直ぐ側にある木の幹を触りながらいった。言われて確認すると、確かにこの辺りは木々の背が高いし、幹も随分と太い。木の背が高い分、天空で葉っぱを大きく広げているのか昼間でも暗くなっているようだった。



「……コユキちゃん。ここ、良いんじゃない?」


「マリンもそう思う? 私も同じこと考えてた」



 周辺の木の中でも、特に大きい木。私達はそれに目をつけていた。これくらい大きければアレが作れそうだな。子供の頃、誰もが憧れたであろう、アレが。私達は顔を見合わせて微笑む。



「ど、どうしたんですか二人とも。ニヤニヤして……」


「ふふ、アンズちゃん。どうやら新しい拠点の場所が決まったみたいよ?」


「え?」



 アンズは周辺をキョロキョロと見回した。しかしどこを見ても木・木・木。彼女には、どうみても拠点を作れそうな場所が見当たらないらしい。



「……あっ、地面を掘って地下に拠点を作るとかですか?」



 そうきたか。いや、それだったらこの辺じゃなくてもいいだろ。



「それもいいけど、残念ながら違います」


「もう、勿体ぶらずに教えてくださいよう」



 ぷう、と頬を膨らませながらアンズは言った。彼女が怒る様子を観察するのも楽しいが、あんまりからかうのも可哀想なのでそろそろ教えてあげることにしよう。私は、おもむろに天空を指さした。アンズの頭の上にクエスチョンマークが見える。指差す先は、とある木の枝付近。



「あの木に、ツリーハウスを作るよ」


「つ、ツリーハウス!?」



 そう、子供の憧れツリーハウス。これから私達が作るのは、天空の拠点だ。

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