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vol.30 次の目的地

「ん? アンズ、何読んでるのそれ?」



 マリンの拠点を目指す最中。森の中を歩きながら、私はアンズが何かの記事のようなものを持って歩いているのに気がついた。



「あっ、これですか? なんだか、号外ー! とか言って商店街で配っていたので1枚貰ったんですけど。見ます?」



 快くその記事を渡してくれる。マリンも興味があるようなので、音読してあげることにしよう。なになに……



「街の北西、通称“人形の館”当主、人体実験により捕まる! 先日、ウエストウッド北西の館より警報が鳴り、審判者ジャッジが駆けつけたところ謎の告発文を発見した。書き置きをした人物は不明であるが、文章を元に館を調査したところ人体実験をしていたと思われる証拠が見つかり、告発文が事実であることが発覚した。これを受けて、館の当主ベン・ドールスキー容疑者一名を逮捕……」


「一名……!? どういうこと、私達は確か……」



 マリンが困惑した表情を浮かべながら言った。彼女がそう言うのも最もな話だ。私達が告発文に載せたのは2名で、しかも黒幕はメイドの方であることを明記しておいたはずだ。それにも関わらずエスタロッテとか名乗っていた女の名前がないのはどういうことなのだろうか。



「え、あの。この記事について何か知ってるんですか……?」



 そういえば人形の館におけるゴタゴタはアンズは知らなかったんだったな。一人置いてけぼりを食らったような顔をしているので、彼女を買い取る過程を全て説明してあげることにした。




(かくかくしかじか)




「……というわけなんだ」


「えぇ、何ですかそれ……コユキさん達に買ってもらえてなかったら、私も人体実験の餌食だったってことですか……?」



 アンズが身震いしながら言った。そういう意味でも、アンズを無事に救うことができたのは何よりなことなんだけれど。



「問題は、その人体実験の黒幕が逃げおおせたってことだよね……」


「そうね……。縄でぐるぐる巻きにしてから通報したのにどうやって逃げ出したのかしら?」



 手は後ろに回して縛ったし、足も縛って、口にタオルまで巻いたのに。まさか、ディーちゃんが協力した……? いや、考えにくい。彼女は閉じ込められていた上、エスタロッテのことを毛嫌いしていた。そもそも、通報さえ出来ればと嘆いていたのはディーちゃんだ。



 私は少しでも疑ってしまったことを心の中で謝罪した。奴の行方が気になるところだが、そろそろ周囲が見覚えのある風景に戻ってきたところだ。ここは一旦マリンの拠点に入り、今後のことを考えるとしよう。







「わぁ、すごいですね……。洞窟の中にあるとはとても思えないです」



 マリンの拠点に戻ってきた私達は、長らく歩いてきたこともあり拠点に入るなりドカッと腰をおろした。はぁー疲れたー。途中で出くわしたモンスターをやっつけながら進んだこともあるけど、半日も歩くのはやっぱりしんどいねぇー。アンズもアンズで入ってくるなり感嘆の声を漏らしている。……でも、アレだな。この拠点、三人で使うとなるとちょっと狭いかもなぁ。寝床も一つしかないし。



「それでさ、今後の方針なんだけど」



 私が口を開くと、二人がこちらに向き直った。いや、だからさ。別にかしこまらなくても良いんですよ。アンズに至っては正座だし。足を崩せ足を。



「えーっと。ともかく、このパーティの目的としては全員が強くならないといけないわけじゃない?」



 ふんふん、とアンズが頷いている。この世界で最強を目指すためには、兎にも角にもレベルアップが必要だ。パーティ人数も増え、今までより強い相手に挑戦しても良い頃だと私は踏んでいた。



「まずは砂漠を目指そうと思う。で、それに伴ってまずは新しく拠点を作ってしまおうと思うんだ」


「拠点……ですか?」



 アンズが首を傾げて言った。マリンがなるほどと相槌を打ち、アンズに解説をするように話す。



「砂漠ね、そろそよ良い頃合いかもしれないわ。今から行ける地点では最も強いモンスター達がいるというし。ここからだと街よりも歩くから、拠点を新しく作って狩りをしやすくする。そういうことよね?」



 うん、まあ。その通りだし理解が早くて助かるんだけど、こうあっさりと答えられ過ぎても提案した身としては寂しいものがあるな。……アンズは素直に納得しているようだし、別に良いんだけどね。



「この“古代の森”も東側、砂漠に近づくほど強いモンスター達がいるし。無理のない範囲で狩りをしつつ、ついでに拠点作成に必要な素材も集めていこうってわけ」


「コユキさんもマリンさんも、色々考えていて凄いですねー……。私はこれまでも奴隷として主人の命令に従うだけでしたから、自分で考えて何かをするっていうことが無かったので……役に立てなくて申し訳ないです」



 油断するとアンズはすぐにしゅんとしてしまうな。俯いたそのオデコにぺしっとデコピンをしてやる。



「いたっ」


「ほら、いちいち凹まないの! アンズはもう奴隷じゃないんだから、前向きに考えなきゃ。これからはドンドン自分で考えて行動してもらうからね?」


「そうよ? でないとまたコユキちゃんにデコピンしてもらっちゃうからね」


「は……はい!」



 アンズを元気づけるようにマリンと二人してニカッと笑ってみせる。おでこを抑えながら、アンズも笑った。この三人でいるととても楽しくて、本来の目的を忘れそうになってしまうな。……あ、そういえば。



「結局、アンズは人間のときの記憶は戻ってないんだっけ?」


「あ、はい。“記憶のネックレス”で取り戻せるのは前回死ぬまでの記憶なので……。こちらの世界に来てからのことは思い出せたのですが、前のことまでは分からないですね。ですが、コユキさん達の言うように私は元人間だったって可能性は高いような気がするんです」


「どうしてそう思うの?」



 尻尾を揺らしながらマリンが尋ねる。



「おぼろげですけど、たまに夢を見るんです。この世界では見たことのない衣服を来て、なんだか机が沢山並んだ部屋で勉強している夢を。ただの私の妄想なのかなって思ってましたけど、もしアレが前の私の記憶なのだとしたら」



 一呼吸おいて、アンズは続けた。



「私も、元の世界に戻って、前の私がどんな風だったのか見てみたいです」



 彼女の夢というのは恐らく学校の風景なのだろう。アンズも、元の世界に戻る理由を見つけることができたってわけか。これで、パーティの目的がしっかり一致していることが明確になったな。単に強くなるんじゃなくて、元の世界に戻ることがそもそもの目的だ。そこだけは忘れないようにしないといけない。私は改めて心に刻みこんだ。



「……さ、とにかく一旦ご飯にしましょうか! ふたりとも沢山歩いて疲れたでしょう? 今晩は腕によりをかけてご飯を作るから楽しみにしててね!」


「えっ、あ、手伝いますよ!」



 マリンがおもむろに立ち上がり、人間態に<变化>する。アンズも慌てて立ち上がって準備を始めた。え、何これ。私も手伝ったほうが良いのかな?



「あの、私は」


「コユキちゃんは座ってて?」


「私が手伝うので休んでいて大丈夫ですよ!」



 そ、そんな二人してのけものにしなくても。悪意はないにしろ寂しいなぁ。




『種族名:スライムガール Lv.8 固有名:コユキ 性別:女 状態:正常

HP 167/167

MP 102/102

筋力 125(137)

敏捷 155

器用 104(124)

知性 73

精神 75(82)

SP 20

LB 11

魔法  <麻痺魔法>Lv.3

スキル <捕食>Lv.2 <形態変化>Lv.2 <早熟>Lv.2 <HP自動回復>Lv.3 <MP自動回復>Lv.2 <回転移動>Lv.4 <危機感知>Lv.2 <ST閲覧>Lv.2 <ST閲覧防御>Lv.2 <道具入れ>Lv.1 <忍び足>Lv.2 <跳躍>Lv.1 <策略家>Lv.1 <無謀な挑戦者>Lv.1 <水泳>Lv.1 <念話>Lv.1 <ネスト言語>Lv.1 <酸攻撃>Lv.4 <酸耐性>Lv.4 <酔耐性>Lv.1 <斬耐性>Lv.1 <ステルス>Lv.1』


『種族名:猫又 Lv.18 固有名:マリン 性別:女 状態:正常

HP 135/135

MP 170/170

筋力 64

敏捷 85

器用 60

知性 109

精神 110

SP 16

LB 12

魔法  <幻惑魔法>Lv.2 <炎魔法>Lv.3 <聖魔法>Lv.2 

スキル <变化>Lv.3 <爪強化>Lv.1 <忍び足>Lv.2 <料理>Lv.2 <HP自動回復>Lv.1 <MP自動回復>Lv.1 <念話>Lv.1 <道具入れ>Lv.1 <ネスト言語>Lv.1 <跳躍>Lv.1 <ステルス>Lv.2 <落下ダメージ軽減>Lv.1 <ST閲覧>Lv.1 <ST閲覧防御>Lv.1 <夜目>Lv.2』


『種族名:獣人ウサギ Lv.7 固有名:アンズ 性別:女 状態:正常

HP 99/99(E199/199)

MP 60/60(E110/110)

筋力 89(E119)

敏捷 57(E87)

器用 46(E76)

知性 32

精神 41

SP 11

LB 3

魔法  なし 

スキル <近接格闘>Lv.3 <皮膚強化>Lv.1 <HP自動回復>Lv.1 <念話>Lv.1 <道具入れ>Lv.1 <ネスト言語>Lv.1 <跳躍>Lv.2 <ST閲覧>Lv.1 <ST閲覧防御>Lv.1 

装備 純白の忍装束 武闘家の籠手』

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