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vol.2 正攻法なんてクソ食らえだ!

 ぶつかった木を背にして狼と向かい合い、改めて狼を観察してみる。奴は殺意むき出しの銀色の目を光らせて、灰色の毛を揺らし涎を垂らしながら私のことを威嚇してきていた。


 きっと久々の獲物なんだろう、よく見るとガリガリだ。チラリと見えた牙がやたらと鋭く、思わず息を飲んだ。うげぇ、噛まれたら痛いじゃ済まないだろうなぁ。



「グルァッ!!」



 ――来る! 狼が低い姿勢から地面を蹴り、その牙で私を喰らわんと飛びかかってくる。普通に逃げても牙の餌食! ギリギリまで引きつけて……今ッ!!


 私は奴の牙が眼前まで迫った瞬間、自らの身体を目一杯背にある木に押し付けた。今の私はスライム。転がっていたときに気がついたが、基本丸い体みたいだけどある程度は自由に変形できるらしい。


 ある程度変形ができて、弾力があって。そんな私が壁に体を押し付ければ……弾かれるッ!!



『ガブッ!!』

「ガァッ!?」



 さっきまで私がいたところに、狼が鋭い牙をたてて噛み付いた。その鋭さが災いして、牙が木の幹に食い込んで狼は動けなくなってしまったようだ。牙を引っこ抜こうとじたばたしている。


 お、おお? これチャンスなんじゃない? とにかく、やるなら今しかない。ふぬーっっ!!



『ドム! ドム! ドム!!』

「……!!」



 私は狼の後ろに回り込むと、がむしゃらに体当たりを繰り出した。体当たり! 体当たり!! 残酷かもしれないが、やらなきゃやられる状況だ。今の私に余裕なんてない。何せ今は最弱モンスター。正攻法なんてクソ食らえだ!


 そして、何発目の体当たりなのか数え飽きた頃。



『ベキッ!!』



 は? 何今の音。


 慌てて距離をとると、狼が噛み付いていた木の幹が割れてしまったらしいことが分かった。ゆっくりと奴がこちらを振り返る。え? これまずいんじゃないの?


 狼はよくもやってくれたな、と言わんばかりに私のことを睨みつけている。その鬼気迫る迫力に思わず後ずさってしまうが、ここで背を向けるのは得策ではないように思う。


 というのも。格上相手に逃げ切れるとも限らず、よく見れば息も絶え絶えで、見るからに弱っているのが分かったからだ。あと一撃、渾身の一撃を加えれば勝てる。


 なんとなく、そんな気がした。



「ガァッッ!!!」



 狼が最後の力を振り絞り、私にとびかかってくる。最初の勢いと比べればスピードもかなり見劣りするし、怖さもない。これならいける!


 奴のお腹の下に潜りこんで躱してやろう……と、ここで私は慢心していた。悪い癖だ。昔から、勝利を確信するとすぐ油断してしまう。



『チッ!』

「――ッ!!」



 いくら相手が弱っていても、元のスピードが異なる。今の私は最弱モンスターのスライムであるということが頭から抜け落ちていた。


躱すのが一瞬遅れ、奴の爪に少しかすってしまった。残りHP、一ポイント。ギリッギリだ。かすっただけで瀕死。痛い。痛い。でも、まだ動ける。


 痛いなんて言っていられない。ここで動かなきゃ死ぬ。死ぬことに比べれば、これくらいの苦痛はなんてことないはずだ。


 爪による攻撃を掠められたものの、狼の身体の下に滑り込むことに成功した私は自らの身体を限界まで押し縮めた。スライムの身体の弾力を利用して、思い切り地面を蹴る。


 私は奴の腹をめがけて、渾身の体当たりをお見舞いした。



『ドスッ!!』

「ギャン……!!」



 私に弾かれるように、狼の身体がふわりと一瞬浮く。そして、地面に足がつくと同時に、奴は崩れ落ちた。真下にいる私は潰される形になる。うわっぷ、やめて!


 しばしの静寂。や、やった……!?


 奴の腹からなんとか這い出て、ふらふらしながらも様子を確認する。どうやらまだ死んではいないようだけど、狼は気を失っているようだった。今ならいけるんじゃないか?


 私はステータスを確認する。そこにあるのは、<捕食>という文字。


 少し可哀想な気もするが、ここで見逃す理由がない。私も死にそうになったんだ。心を鬼にして……いただきま~す!







 うん、結論から言うね。


 なんかすげーグロかった。


 <捕食>のスキルはどうやら『使う!』と思って対象に触れたりすると発動するらしい。自分の半透明の身体が対象を包み込み、徐々に溶かしていく。


 相手が絶命した瞬間、光の玉となって死体は消えたものの。途中まではなんか骨とか中の筋肉とか見えてたし。しかも溶かすのに数分もかかってしまい、相手が瀕死でないと使えないのも納得だった。


 だけど、<捕食>を使ったことで空腹は満たされたようだった。妙な満腹感がある。声帯どころか口も無いスライムがどうやってものを食べるのかと思っていたけど、なるほどこうするんだね。


 狼の死体が消えた代わりに、死体があった場所に何やら青い宝石のようなものと小さな袋みたいなものが落ちていた。宝石に触れると、触れた瞬間に宝石はぼんやり光って私の身体に吸収されていく。


 そして、次のアナウンスが頭の中に流れた。



『経験値を取得しました。

レベルが1→2になりました。SPを5獲得しました。

レベルが2→3になりました。SPを5獲得しました。

レベルが3→4になりました。SPを5獲得しました』


 

 どうやら、あの宝石に触れると経験値を獲得できるらしい。いきなりレベルが3つも上がったのは<早熟>の効果だろうか?


 レベルアップに伴って、怪我も治った。うんうん、これは頑張って敵を倒したご褒美だよね。


 SPってのはスキルポイントの略だったのか。もしかして新しいスキルも取れるのかな。……そして、気になるものがもう一つ。私は落ちていた小袋の口を広げ、中身を確認してみる。


 中には……見たことのない硬貨と、獣の皮だろうか。触れると、また次のイメージが浮かんできた。



『16ジル』

『獣の皮(並)』



 うーん、なるほど。予想では、多分この世界の通貨は“ジル”というんだろう。獣の皮の方は用途がよく分からないけど……。一応持っていこうかな。いつか使えるかもしれないし。


 でも、どうやって持っていこう。小袋っていっても私の身体と同じくらいのサイズ感だし、骨が折れるなぁ。私、手ないし。


 どうしたものかと頭を悩ませていると、脳内にまた例のアナウンスが響く。



『初めてアイテムを取得したので、スキル<道具入れ>を習得しました』



 そんなのあるの? と思うのもつかの間。眼の前の小袋が消えてしまった。


 えっ、どういうこと!? 私のお金は!? と思ったら目の前にお金が出てくる。もしかして自由に出し入れできるスキルなのかな。また念じるとお金が消えた。


 ゲームでよくある、インベントリにアイテムをしまっておくシステムらしい。手足がない私にとって、これは非常に有り難かった。遠慮なく使わせてもらおう。



『レベルボーナスと、スキルポイントを振りわけることができます』



 立て続けにアナウンスが入る。


 ん? レベルアップするとボーナスが入るんだね。あー、SPはスキルポイントのことか。じゃあLBはレベルボーナスのことかな。どれどれ? こういうの決めるのってワクワクするよねぇ。



『種族名:スライム Lv.4 固有名:なし 性別:女 状態:正常

HP 1/8 → 22/22

MP 2/2 → 12/12

筋力 3 → 10

敏捷 5 → 14

器用 2 → 8

知性 3 → 9

精神 3 → 10

SP 0 → 15

LB 0 → 9

魔法  なし                  

スキル <捕食>Lv.1 <早熟>Lv.1 <回転移動>Lv.1 <酔耐性>Lv.1 <道具入れ>Lv.1』



 おおー。なんだか凄く強くなってる気がする。そういえば身体も軽くなったような……。


 えーと? レベルが3つ上がったから、レベルボーナスは1つあげるごとに3ポイント入る感じなのかな。どうしよう?


 魔法が『なし』になってるってことは取得もできるってことだよね。魔法、使いたいなぁ……。しかしそうなると知性とか精神が必要になるよね……。悩むなぁ。


 でもって魔法はスキルポイント5からなんだね。炎・水・風・土・光・闇の六属性が基本で、毒・麻痺とかの状態異常系は別枠かー。うーん……。


 一人で幾分か悩んだあと、私は次のようにステータスを決めた。



『種族名:スライム Lv.4 固有名:なし 性別:女 状態:正常

HP 22/22

MP 12/12

筋力 10

敏捷 14 → 20

器用 8 

知性 9

精神 10

SP 15 → 4

LB 9 → 3

魔法  <麻痺魔法>Lv.1

スキル <捕食>Lv.1 <早熟>Lv.1 <回転移動>Lv.1 <酔耐性>Lv.1 <HP自動回復>Lv.1 <危機感知>Lv.1 <道具入れ>Lv.1』



 大概、この手のステータス割り振りがあるゲームってのはバランスよく振っても平凡なキャラクターにしかならないとよく聞く。私が昔やってたオンラインゲームでもそうだった。


 本当は魔力特化でバンバン魔法を使うスタイルが良かったんだけど、そういうのはきっと元々魔法が得意そうな種族に限定されるんだろう。種族ポイント四十のエルフとかね! はっ。どーせ私には関係ないですよーだ。


 で、自分の長所を伸ばすことにしたわけだ。敏捷特化。すばやくなれば先手もとれて、逃げやすくもなるし、ついでに敏捷値に依存する攻撃の威力は増しそうだし。一石三鳥だね。


 知性とか精神は伸ばす余裕がなさそうだけど、でも魔法は使いたいので<麻痺魔法>を取得してみた。実際にダメージを与える魔法ではないから、知性による威力とかの影響はなさそうだし。


 今後も正攻法じゃ私多分生き残れないからね。仕方ないね。


 見るからに有用な<HP自動回復>も当然取る。五ポイントは痛かったけどね。初期ポイントがアホみたいに多いやつらは最初から全部取得できるのか……。ずるいなぁ。


 ん? <MP自動回復>はとらないのって? 魔法使い放題だろって?


 しょうがないじゃん、そっちは二十ポイントも使うんだから。まぁそのうち取得するかもね。


 ポイントが余ったので、一ポイントだけ使って便利そうな<危機感知>も取っておいた。これらのスキルはポイントを振り分けるか、使い込むことでレベルが上げられるらしい。


 でも、今は温存かな。SPとLBをちょっとずつ残したのは、必要に応じて使用できるようにするためだ。


 さて。あらかたレベルとかスキルとかの概念がわかってきたところで、次にすべきことなんだけど。冷静になって考えれば、私は今右も左も分からない森の中にいるわけなんだよね。


 いかに今はモンスターの姿といえど、当然疲労はたまるし、森のなかに宿屋とかお店があるわけでもなし。拠点的なものがないと狩りもままならないだろうなぁ。サバイバルの基本は、衣・食・住の確保だってよく言うけど。


 衣はモンスターだから裸でもまぁやむを得ないとして、問題は食と住だよね。


 私には<捕食>があるから案外食べもの問題もなんとかなるかな? そうなると、残りはじゅう。……手頃な住処を見つける必要があるよねぇ。


 今日一日はそれに費やすことになりそうかな。やれやれ……。

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