vol.20 夢からの刺客
一旦拠点まで戻った私達は、街へ行くにあたり作戦を練っていた。……え? 私の前の拠点?
うん、一応覗きには行きましたよ。性懲りもなく、またポイズンリザードが私の作ったベッドで寝ていやがったもんだからさ。機嫌が悪かった私は、とりあえずボッコボコにして経験値をいただいておきましたとさ。マリンが若干引いていた気がするけど、まぁ気にしないでおこうと思う。問題はこれからのことだからね。仕方ないね。
前の拠点に別れを告げて、改めて現拠点、マリンの“家”まで戻ってきたというわけ。家っていっても洞窟の小部屋だけどね。いいじゃない、装飾が凝っていてもうこれは家と言って差し支えないレベルなんだからさ。
「じゃあ、街に行く時の注意点を確認しておきましょうか」
余計なことを考えている私を諭すようにマリンが言った。そうそう、今は街のことについて考えないといけない。
「まず、街の入口には門番がいるわ。彼等に関しては、明らかにモンスターだったり怪しい格好をしていなければ下手に絡まれることはないわね」
「なるほど。名前表示については大丈夫なの? 見られたら一発でモンスターってバレる気がするけど」
「街の中と周辺はね、固有名表示に切り替わるようになっているの」
マリンがいくら<变化>で人間になったところで、頭の上に“猫又”なんて表示されているようではすぐにバレてしまう。彼女が街で買い物などを出来たのは、街の中は設定された固有名で表示されるからなのだそうだ。そうしないと、どいつもこいつも“ヒューマン Lv.5”などと表示されてわけが分からなくなるためだとか。
「それにね、常に名前表示されているわけでもないのよ」
「え、そうなの?」
「それはそうよ。街の中は人で溢れかえっているから」
名前表示は、相手がその人物の名前を知るために目を合わせると表示されるものらしい。レベルの上下は関係なく名前を見られてしまうのは街の中特有のものだとか。
「問題は、怪しまれてしまったときね。そのへんの住人はぶっちゃけ大したことはないわ。だいたいは<ST閲覧>を持っていないし、相手にせず逃げてしまえば大丈夫。問題は審判者と呼ばれる奴らよ」
「審判者? なんなのそいつらは」
「各街に配置された、警察みたいな連中ね。絶対的な力を持っていて、街の規律を乱す輩はこぞってしょっ引かれるわ。相手が人だろうとなんだろうと容赦はないし、彼等の権限で出来ないことはないと言われているくらいよ」
私は絶対的な力と聞いて思わず固唾を飲んだ。街の中にモンスターがいるなんて知れたら、彼等が出てきてあっという間に退治されてしまうだろう。しかし、絶対的な力か。いつか、審判者にも関わるときが来そうだな。
「街の中でしてはいけないルールとかあるの?」
「うーん、といっても普通に生活している分には大丈夫だと思うけれど。基本的には正義を掲げた連中だもの。街の中で暴行だの窃盗だの、目立ったことをしない限りは問題ないはずよ。一応、安全性を上げるために<ステルス>のスキルはとっておいて損はないと思うわ」
なるほど。<ステルス>は相手に見つかりにくくするスキル。クラスに妙に陰が薄くて、授業中も指されないやつっているじゃん? アレの強化版みたいなもんだな。スキルを行使して、強制的に意識を逸らす。1対1じゃ意味はないけど、隠れたり不特定多数に紛れる分には絶大な効果が得られる。
細かい点で他にも気になることはあるが、行ってみないことには始まらないな。街に行くのに半日かかるということなので、明け方に出発することにしてひとまず休むことになった。私もマリンもレベルが上ってHP・MPは回復したけど、激戦のあとで疲れちゃったからね。
※
「傷モンスターがやられた?」
深い闇の中。私は夢を見た。玉座に偉そうに踏ん反り、座っている人物が不機嫌そうに呟く。
「バカな。アレは、倒せない設定の成長速度にしておいたハズなのに」
「ですが、現に倒されてしまっております。シルバーウルフの反応が消えたのが何よりの証拠」
チッ、と舌打ちをしてその人物は部下と思われる男に言う。
「――他の状況は?」
「今のところ、その他の傷モンスターは問題ありません。シルバーウルフ以外は難易度の高いダンジョンに配置しておりますし、まず平気かと……」
「そうか。……しかし、気に入らんな。あの銀狼も自信作だったというのに」
悔しそうにする人物の顔が、陰に覆われてよく見えない。なんだろう、これは。夢のはずなのに妙にハッキリしている。私は、なんとか彼等の様子が見えないかと意識した瞬間。空気が変わる。
「……!! 魔王様、覗き見られております!」
「――ッ!!」
明確な殺意。暗闇から放たれたその視線に、私は抵抗もできず吹き飛ばされた。
※
「うわっ!」
ガバッ、と飛び起きる。冷や汗をかき、まだ心臓がバクバクしている。ここは……マリンの住処か。なんだったんだろう、今のは。
「……んぅ」
隣ではただごとでない私の様子に目を覚ましたマリンが、眠そうに目をこすりながらフラフラと起き上がっているところだった。……夢か。ただの夢なら良いんだけど。ひどく寝覚めが悪い。
「もうそんな時間……?」
「いや、もう少し寝てて大丈夫……ちょっと外の風に当たってくるよ」
不思議そうにしていたマリンだったが、私にそう言われると“お言葉に甘えて”と二度寝し出した。のんきな彼女に苦笑いしつつ、私は洞窟を辿り滝の入口まで歩いてきた。
外の風が気持ちいい。明かりもなく、真っ暗な森のなかに一人で佇む。滝の音が妙に心地よかった。ふと上を見上げれば、天空に瞬く星々の存在に気がつくことができた。そういえば、東京に住んでいた頃はこんなに星が綺麗に見えることなんて無かったなぁ。
地面に座り、星を見ながらぼんやりと考え事をする。さっきのは一体なんだったんだろう。いつもの私なら、嫌な夢で片付けてしまうところなんだけど。やたらと引っかかる感じがあった。夢にしてはハッキリと思い出せてしまうし。魔王がどうとか言っていたな……。
首を振り、嫌な考えを振り払う。グチグチ考えても仕方がない。それよりも、アンズはちゃんとリスポーンしてくれているだろうか。あんな終わり方で今生の別れなんて、とても私には耐えられそうにない。彼女の最期の言葉を信じて、探しに行ってみるしか無い。
アンズに託されたネックレスを改めて手にとった。仮にちゃんと会えたとして、名前を伝えて、このネックレスを見せても果たして信じてくれるだろうか。お前なんか知らないと追い返されたりして……。ハハ、あり得る。
しかし、失われるものは記憶……か。死にはしないんだな、とも思ったが。よくよく考えてみれば、それは街に住む人間たちと野生のモンスターではかなり意味合いが変わってくる。モンスターである私から、人間だった記憶が失われれば、それは実質死ぬのと変わりないのではないか。だって、思い出す手段がないんだから。
考えれば考える程、ゾッとして寒気がした。うう、ちょっと夜風に当たりすぎたかな。ガラにも不安になるだなんて。我ながらどうかしているな、と私は腰を上げた。ぱんぱん、お尻についた砂を落とし、洞窟に戻る。いつの間にか星は見えなくなり、空が白んできていた。
そろそろ出発しなければ。街で私を待ち受けるものは、何なのだろうか。何がきても、どうなっても受け入れる覚悟をしておかなければならない。街で冷静さを欠くことは、モンスターの私にとっては死を意味するのだから。
そろそろマリンを起こさないといけないな。私は、伸びをしながら洞窟の中に戻っていった。
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