vol.19 可能性
ヒムカイ アンズ。
アンズに最後に託されたネックレスに記された名前。経験値とドロップアイテムをあらかた拾った私達は、改めてその名前の意味について考えていた。
「思ったんだけど、これ。漢字にすると“日向 杏”ってこと?」
「そ、そうね……。もしかして、あの子は元日本人? 転生者だったのかしら?」
名前から察するに、その可能性が高い。転生した後、彼女が何かしらの理由で記憶を失って。そして、奴隷として良いように利用されていたのだとしたら。
「無い話……ではないね」
「でも、彼女の話によると記憶を失ってから1ヶ月も奴隷でいたんでしょう? そうなると私やコユキちゃんが転生するかなり前から転生していたことになるわ」
「そう、それなんだよね。私達と同じタイミングならせいぜい数日しか経っていないはず……」
「え?」
私の話を聞いたマリンが突然間抜けな声をだす。どうしたの急に。
「いや、あの。こっちに来てから一週間以上は経っているわよね?」
突拍子もない発言に思わず私は考え込んだ。えーと? 転生してから目が覚めて、最初のケチな洞窟で一晩を明かして泊まって、傷の狼に襲われて滝に落ちて、マリンに出会って。そこから、2晩。何度考えてみても、計算が合わない。
「今日で、私が来てから4日……」
「え?」
「4日しか、経っていないはずなの」
妙な間ができる。マリンは、ポカンとして思考を巡らせているようだった。え? 本当に一週間以上経っているの?
「コユキちゃん、ざっと計算してみたのだけど。コユキちゃんに会ったのが一週間経ってからだから……私がこの世界に来てから9日は経過しているわ」
嘘だろ。こっちの世界にくるタイミングって転生したヒトによって違うってこと? 私はスライムに転生した上に、かなり遅くこの世界に誕生したってことか。それってハンディキャップにしても重すぎませんかね?
「人によって、転生から目覚めるのにタイムラグがあるってことかしら……」
「なんだか頭が痛くなってきたよ」
額を抑えながら私はため息をついた。仮に、今の考察が事実だとする。人間だのに転生して1ヶ月も早くこの世界に来ていた奴がいたら、とてもじゃないけど追いつける気がしないぞ。現に、アンズは1ヶ月は獣人として生活していたわけだから。記憶云々については引っかかるところだけど。
「まぁまぁ、コユキちゃん。あんまり考えても仕方がないことだわ。それよりも、これからどうするかを考えましょう?」
そうするしかないとは分かっていても、こう一気に色々な衝撃が来るようでは脳が追いつかない。マリンに諭されて、私は渋々彼女の提案に応じることにした。
「はぁー……そうだね。まずは、手に入れたアイテムから見ていこうか」
漸く前向きな行動をとった私に、パッとマリンの表情が明るくなった。なんだかんだ、レアドロップやら手に入れていたこともある。それを前提に今後のことを考えていかないといけないしね。
まず、人間達。こいつらは、意外と貴重なアイテムを沢山持っていたらしい。所持品すべてがドロップするわけではないようだが、そのいくつかを手に入れることができたようだった。薬草、ナイフ、携帯食に、おそらくMPの回復ポーション。おそらく、と言ったのはラベルにそう書いてあるから。中身を入れ替えて使う貧乏性な奴でなければ良いけど。そして、これも。
「……」
“暗殺の弓”と矢。とても使う気にはなれなかったが、何かの役に立つかもしれないので一応<道具入れ>にしまっておく。どのみち、武器に関しては“装備できない”と表示されていたけどね。
しかし、今回の目玉はやはり傷モンスターのレアドロップだ。せめて、何か役に立つアイテムなら良いのだけど。
「“身隠しの布”……」
<道具入れ>から出して確認をしてみると、ちょうどヒト一人が身をつつめるくらいの大きさの布だった。幼稚園児くらいしかない私のサイズなら、かなりの余裕がある。もうひとりくらいなら入れるかも。おもむろに布を身にまとってみるが、ただマントを羽織ってるみたいにしか見えないな。うーん? こう、透明マントみたいになるのを想像してたんだけど。ちゃんと身を隠せてるのかな、これ。
「コユキちゃん……それ、首が浮いてるみたいになってちょっと怖いわよ?」
「え、あ。ちゃんと消えてる?」
マリンがクスリと笑う。どうやら、自分の身体は消えているかどうかが分からないらしい。この布の効力って永久的に続くものなんだろうか。
「コユキちゃん、私はこれ」
マリンが小さなアクセサリを私に見せる。レアドロップ品、“ルビーの指輪”。高価そうな装飾が施された指輪だった。効果はちょっと分からないが、とにかく貴重なものであることは間違いなさそうだ。
「ねぇ、マリン。街に行ってみようよ」
アイテムを整理しながら、私はマリンに言った。唐突な問いかけにマリンが目を丸くしている。
「何か考えがあるのね?」
「まぁ、そんなとこ。街に行っても、人間たちにモンスターとバレなければ良いんだよね?」
マリンは肯定を意味するようにはっきりと頷いた。私にはマリンのように<变化>はできないけど、いざとなれば“身隠しの布”もあるし、レベルが上がったことでスキルもある程度は自由に取得できる。今なら、街にいってもなんとかなるように思えた。
「もしかして、アンズちゃんのことで?」
「うん。察しが良くて助かるよ」
急に私が街に行くと言い出したのは、当然街に興味があるとか、遊びに行くことが目的ではない。アンズは、最期に“運が良ければまた会える”と言った。あの言葉の意味を確認する必要がある。
「そもそも、前提から知らないことが多すぎるんだ。この世界で死んじゃったら、どうなるんだろうとかね」
「それは……現実では死んじゃったらそれまでだけど」
マリンは難しい顔で首をひねった。これについては、実際に死んで確かめるわけにもいかないから無理もない。私は解説するように、彼女に話す。
「アンズはまた会えるって言った。言葉通りに捉えるなら、死んじゃってもリスポーンする可能性が高いんだ。この世界は、やたらとゲームっぽいシステムが多いじゃない? ステータスウィンドウだの、スキルだのとね。もし、そういうゲームみたいな形式に死亡についても則っているとしたら?」
「……ゲームなら、何らかの形でやり直せるわね」
<分離>と<融合>の単純な足し算レベルアップシステムを体験して感じたことだが、この世界は所々何かと幼稚な部分がある。現実とはかけ離れたシステム。この世界を作ったやつが、ゲームに準じて構成しているとすれば。ゲームオーバーになった時のことも、ある程度予測がつく。
「そう。多分、“セーブ”されている地点にリスポーンする。そこに、何かしらのデメリットを抱えてね」
「デメリットねぇ……例えば?」
正直、色々と思い当たる節はある。
「所持品やお金を失うとか、経験値が下がるとか。……あるいは、記憶を失うとか」
「……!! もし、そうだとしたら」
「うん。話は変わってくるよ」
アンズが記憶を失った原因が、リスポーンなのだとすれば。彼女が獣人で奴隷として捕まってしまったのも、何かと説明がつく。一刻も早く、開放してあげなければならない。
「そうなると、街に行って確認して見る必要がある……ってことね」
「街には必ず、奴隷商がいるはず。アンズがリスポーンするならきっとそこだよ。だって、前も気がついたらそこにいたって言ってたんだから」
次の目的地は、街。私はアンズに託されたネックレスを握りしめた。
『種族名:スライムガール Lv.7 固有名:コユキ 性別:女 状態:正常
HP 160/160
MP 97/97
筋力 120(132)
敏捷 150
器用 100(120)
知性 70
精神 72(79)
SP 20
LB 8
魔法 <麻痺魔法>Lv.3
スキル <捕食>Lv.2 <形態変化>Lv.2 <早熟>Lv.2 <HP自動回復>Lv.3 <MP自動回復>Lv.2 <回転移動>Lv.4 <危機感知>Lv.2 <ST閲覧>Lv.2 <ST閲覧防御>Lv.2 <道具入れ>Lv.1 <忍び足>Lv.2 <跳躍>Lv.1 <策略家>Lv.1 <無謀な挑戦者>Lv.1 <水泳>Lv.1 <念話>Lv.1 <ネスト言語>Lv.1 <酸攻撃>Lv.4 <酸耐性>Lv.4 <酔耐性>Lv.1 <斬耐性>Lv.1』
『種族名:猫又 Lv.17 固有名:マリン 性別:女 状態:正常
HP 129/129
MP 164/164
筋力 60
敏捷 80
器用 56
知性 105
精神 105
SP 11
LB 9
魔法 <幻惑魔法>Lv.2 <炎魔法>Lv.3 <聖魔法>Lv.2
スキル <变化>Lv.3 <爪強化>Lv.1 <忍び足>Lv.2 <料理>Lv.2 <HP自動回復>Lv.1 <MP自動回復>Lv.1 <念話>Lv.1 <道具入れ>Lv.1 <ネスト言語>Lv.1 <跳躍>Lv.1 <ステルス>Lv.2 <落下ダメージ軽減>Lv.1 <ST閲覧>Lv.1 <ST閲覧防御>Lv.1 <夜目>Lv.2』




