表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/86

vol.9 パーティ生活の始まり

【……す】


【す?】


【すっごーい! すごいわコユキちゃん! 何今の初めて見た! 一口で全部食べちゃった! どうやるの? 私にもできるかしら! それはスキル!? かっこいいわね!】



 突然マリンは子供のように興奮し、まくしたててくる。やめてやめて、そんなにいっぺんに聞かれても答えられないよ。興奮しすぎて唾が飛んでるよ。



【そ、そんな便利なもんでもないよ。確かに一口で食べられるけど、味わかんないし……】


【でも、サバイバルでは役に立つじゃない? 食事中に襲われるなんてしょっちゅうだし。その点コユキちゃんなら食事が一瞬で終わるから、むしろ強みなんじゃないかしら!】


 うーん、そういう考え方もできるか。味わかんないのは嫌だけどね。うまいもまずいも無いし。



【そっかー……口がないって悪いことばかりと思ってたけど。マリンのおかげで少し良いことに思えたかも。ありがとうね】


【そんな、私は思ったままを言っただけよ。コユキちゃんはもしかしたら自分の姿をあんまり気に入ってないのかもしれないけど、私は素敵だと思うわ。もっと自信持ってね!】



 こう、正面から真っ直ぐに褒められると小っ恥ずかしい。最も、彼女の場合は悪気があるわけではないので、このくすぐったさに慣れるしか無いのかもしれない。




【そういえば私からも聞きたいことあるんだけどさ。あ、食べながら聞いてね】


【ん? なにかしら?】


【さっきの<变化へんげ>って、ずっと変身してられるもんなの?】


【うーん、残念ながらそんなことはなくて、MPが続く限りって感じかしらね。今だとそうね、<MP自動回復>の分を入れても最大で1時間くらいかな。】



 MP自動回復か。ポイントが多いから魔法メインじゃない私は取得してなかったけど、今後は必要になるかもなぁ。



【ともあれ、すごく便利じゃない? 人間のフリして街とかにも紛れ込めそう】


【そうね、実際に買い物をしに行くこともあるから。この食器も、街で買ってきたのよ】



 は? なんかサラッと凄いこと言わなかった?



【え、近くに街あんの!?!?】


【え? えぇ。あるにはあるわよ。といっても、朝でかけて帰ってきたら日が暮れるくらいの距離だけれどね】


【でも、行けないことも無いね。うわー良いなー、私も行ってみたい……】



 異世界の街なんて楽しいに決まってる。こんな姿じゃなければなぁ。モンスターに生まれて、変身もできないなんて詰んでる。何か対策が見つかれば別だけど……。



【うーん、仮に行くとしたら私は<变化へんげ>を使って、耳はフードで隠せばいいから良いけど……。コユキちゃんはどうしたら良いかしら】


【いや、良いよ。モンスターが街にいったらパニックでしょ。もしバレたらマリンまで危ないよ】


【それはそうだけど……。いい案が浮かばなくてごめんなさい】



 なんだか申し訳なさそうに、マリンは耳まで垂らしてしゅんとしている。



【別にマリンが謝ることじゃないから気にしないで。それで、街のことはまたこんど考えるとして。今日はどうするの? 無目的に私に声をかけたってことでもないよね?】


【そうそう、本題を話すのを忘れてたわね】



 そう言われて思い出したのか、改まってマリンは言う。



【無理強いはしないけど、悪い話じゃないと思うわ。ねぇ、コユキちゃん。あなた、私とパーティをくんでくれないかしら?】


【パーティ?】


【この間、街を散策してるときにね。情報を収集するために酒場にはいってみたのよ。酒場の看板に、パーティ募集の張り紙がいくつかあってね、人間達はパーティを組んで狩りをするのが主流みたい】



 確かに、念話を取得せずとも意思疎通のできるヒューマンやエルフなんかは、パーティを組むのはたやすいだろう。少なくともモンスターよりは。しかも、別種のモンスターが徒党を組むのは流石に見たことがない。



【それで、パーティを組むことについて街で色々調べてみたの】



 マリンが言うには、



1、パーティは最大で4人まで。


2、パーティを組んだ人数により、経験値は2人で1.5倍、3人で2倍、4人で3倍になり、パーティの誰かが経験値石を取ると均等に分配される。


3、素材などのアイテムは全員が取得できる。


4、パーティを組むと、離れていてもメンバーの状況が分かる。


 以上のような効果があるとわかった。パッと見、デメリットのような要素は見当たらない。



【なるほどねぇ。私は良いよ】


【すぐに答えは出さなくても……って、良いの!?】


【うーん、別に悪い点もなさそうだし、それにマリンならパーティ組んでもいいかなぁって。むしろ、私なんかでいいの?】


【嬉しい!】



 うわっぷ。突如、マリンが人間体に变化して抱きついてくる。これでもかと抱きしめられて、少し苦しい。でっかい2つのスイカがあたってますよ。变化とはいえ、羨ましいやつめ。



【わ、私、見た目どおりあんま強くないよ?】


【そんなの良いの。私と初めて友達になってくれたコユキちゃんじゃないと駄目なの】


【わかった。わかったから! 離れて! 苦しい!】



 そう言うと慌てて、マリンがぱっと手を離す。突然手を離せば当然地面に落ちるわけで。顔からべしゃっと落下した。いてぇ。



【ご、ごめんなさい!】


【……だいじょうぶ、大丈夫だから】



 慌てる彼女をよそに、やれやれと私は冷静に向き直る。



【とにかく、パーティを組んだら今後は運命共同体になるわけだよね。だから話しておかないといけないことがあるの】



 私がそう言うと、途端に緊張した面持ちでマリンが座り直す。何も正座しなくても良いんだけど。



【私はね、この世界に来て、スライムっていう最弱の種族に生まれてね。自分で言うのもなんだけど、元の世界では結構うまくやってたんだ。それなのに、今はこの有様。それが悔しくて仕方なくて。だから、この世界で頂点を目指そうと思ってるの】


【頂点……】



 彼女は今、どう思っているのだろうか。不安とも疑念ともとれない微妙な表情をしているように見える。



【そりゃ、無謀だって思うよね。でも本気なんだ。笑われてもいいし、ついていけないって思うならパーティを組むのをやめてもいい】


【そんな……。その、もしも最強になれたとして。そのあとはどうするの…?】


【そうだね、まずは……この世界を作ったやつに文句を言うかな。そのあとは、元の世界に戻れる方法を探す。この世界が嫌いなわけじゃないけど、可能なら私は、元の世界に戻ってやり直したい】


【そんな!】



 突然マリンがわなわなと震えだし、声を荒げた。思わず私はビクッとして目を丸くする。



【私は嫌よ! せっかく自由に駆け回れる身体が手に入って、この目で世界を見ることが出来て。何より、初めての友達ができたのよ? コユキちゃんがいなくなったら、私……また一人ぼっちになっちゃう……】



 それはそうだろう。私と違って、マリンは元の世界では病弱で、盲目の少女だ。“元の世界に戻る”という、私の最終的な目標を伝えたら反発されるのは分かっていた。



【そうだよね。だけど、私とパーティを組むなら目的が同じでないと厳しいと思うんだ】


【…………】


【でもさ。マリンだって、そりゃ今は良いかもしれないけど、前の世界のこと考えたら全く未練がないわけではないでしょ? ここにいたら家族とか、もう会えないわけだし……】


【そ、そうだけど! だったら、私はどうしたら良いの!? 想いを圧し殺して、また孤独に戻るしか無いっていうの!?】



 彼女は、見るからに動揺していた。泣きそうになりながら、想いをぶつけてくる。何度失敗しても念話で他人に話しかけていたのも、私にやたらと気に入られようとしていたのも、孤独を恐れていたから。やっと手に入ったと思った友達が、いなくなってしまうのが耐えられなかったから。



【……でもね、マリン。もし元の世界に戻っても、マリンはもう孤独じゃないよ】


【え?】



 私は出来る限り、彼女をいたわるように優しく微笑みながら言った。



【だって、私達はもう友達でしょ? 元の世界に戻っても、それは変わらないよ】


【コユキちゃん……】


【戻ったら、絶対、会いに行く。それでも……戻りたくない?】



 マリンは既に泣いていた。大粒の涙が頬を伝い、ポロポロとこぼれている。



【ずるいわ、コユキちゃん……。そんなふうに言われたら、私。もう断れないじゃない……】


【元の世界に戻ったらさ、いっぱいいろんなことをして遊ぼうよ。一人で出来なかったことをさ、沢山しよう?】


【……うん】



 彼女は既に頷くだけで精一杯のようだった。どうしても溢れ出る涙が止められない。



【マリンがやりたかったこと、いっぱいあるでしょ。いくらでも付き合うから】


【……うん、うん】


【私、一人で元の世界に戻るために頑張ろうって思ってたけど。今は、マリンと一緒に頑張りたいって思ってるの。だめ……かな?】



 ついに、マリンはわんわんと泣き出した。でもきっと、それは嬉しい涙。初めてできた友達が、離れていかないと分かって安堵した涙。心の底から信頼してる友達って、私にもいなかったな。これからはマリンとお互いにそういう関係になっていきたい。



【これからよろしくね、マリン】


【うわぁぁぁぁん!! コユキちゃん、よろしくねぇぇぇえ!】



 泣きながら、呂律が回っていない口調のマリンと確かな挨拶を交わす。しっかりものの彼女を、いつの間にか私が慰める形で、私の、いや私達のパーティ生活はスタートした。



『種族名:ハイスライム Lv.4 固有名:コユキ 性別:女 状態:正常

HP 61/61

MP 30/30

筋力 34(37)

敏捷 43

器用 29(33)

知性 25

精神 24(26)

SP 27

LB 21

魔法  <麻痺魔法>Lv.1 

スキル <捕食>Lv.2 <早熟>Lv.1 <回転移動>Lv.3 <酔耐性>Lv.1 <HP自動回復>Lv.2 <危機感知>Lv.1 <道具入れ>Lv.1 <忍び足>Lv.2 <跳躍>Lv.1 <策略家>Lv.1 <無謀な挑戦者>Lv.1 <水泳>Lv.1 <ST閲覧>Lv.1 <ST閲覧防御>Lv.1 <分裂>Lv.1 <融合>Lv.1 <念話>Lv.1 <ネスト言語>Lv.1』



『種族名:猫又 Lv.10 固有名:マリン 性別:女 状態:正常

HP 90/90

MP 124/124

筋力 35

敏捷 47

器用 32

知性 62

精神 62

SP 10

LB 0

魔法  <幻惑魔法>Lv.1 <炎魔法>Lv.2 <光魔法>Lv.2 

スキル <变化>Lv.2 <爪強化>Lv.1 <忍び足>Lv.2 <料理>Lv.2 <HP自動回復>Lv.1 <MP自動回復>Lv.1 <念話>Lv.1 <道具入れ>Lv.1 <ネスト言語>Lv.1 <跳躍>Lv.1 <ステルス>Lv.2 <落下ダメージ軽減>Lv.1 <ST閲覧>Lv.1 <ST閲覧防御>Lv.1 <夜目>Lv.2』

ブックマーク・評価をしていただいている方、ありがとうございます! 大変励みになっております。これからも頑張って執筆を続けていこうと思います!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ