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vol.0 プロローグ

「でさー、言ってやったわけ! 奢る金も無い男は失せなってね!」

「あはは、なにそれ超ウケるね」



 私は退屈していた。

 私のすぐ側でいかにも親友です、といった顔をして歩いている同級生。私は今、そんな彼女の中身のない話に適当な相槌を打ちながら住宅街を歩いている。

 

私の名前は冬堂とうどう小雪こゆき。自分で言うのもなんだけど、この春に高校一年生になったピチピチのJKだ。


 校則違反の色に染めたショートヘアに、短いスカート、制服の着崩し。私自身、自らの格好をよくいる『頭の悪そうな小娘』と思われそうな身なりではあると自覚している。

 ただ、これはあくまで私が『スクールカーストの最上級』としてあるために実施していることに過ぎない。


 本来私は、インドア派でゲーム好きのただの女子高生だ。なまじ容姿が良かっただけに黙っていても周囲に人が集まり、気がつけば自身の周りは所謂いわゆる『陽キャ』だらけになってしまっていた。


 そんな陽キャ達のするファッションや色恋沙汰の話に興味は無く、本当は友達とゲームや漫画の話で盛り上がりたいのが本音だ。しかし、自分の趣味を前面に出してしまうと周囲の人間が黙っていない。


 『そーいうのが好きなの?』と自分の趣味を蔑んだように言われることが我慢できない。私の聖域に土足で踏み込まないでほしい。にわかどもめ。


 内心そんなことを思いながらも、私は自らを押し隠して取り繕うように周囲に合わせていた。何故そんなにも肩身の狭い立場に身を置いているかというと、今のポジションがやたらと便利なせいだ。


 私の容姿に釣られて寄ってきた輩にちょっと色気をだしてお願いすれば、欲しい服も、漫画も、ゲームも、何だって手に入ってしまうからこんなことをしている。

 悪いこととは分かっているがやめられない。


 同級生が私の隣で男を振った話をしてケラケラと笑っているが、はっきり言って全く興味が湧かなかった。適当、いや()()な相槌だけは欠かさないようにしているものの、そんな話はとっとと終わらせて家に帰って新作のゲームがしたい。


 あー。こんな退屈な話を聞くくらいなら、まだ今日話しかけてきた男子の相手をしたほうが有益だったかも。お昼の休み時間にログイン・ボーナスを貰うためにゲームのアプリを開いていたら話しかけてきた、あの男子。


 名前は何といっただろうか。確か、フチ……なんとか。だめだ思い出せない。高校に入学してもう一ヶ月になるけど、他人に興味が湧かないあまりにまだクラスメイトの名前を覚えられていなかった。



「き、キミもそのゲームやってるの?」



 確かそんな風に声をかけてきた気がする。特徴といえば顔にあるそばかすくらいの、中肉中背の男子。きっと、勇気を持って話しかけたのだろう。随分と辿々(たどたど)しく話しかけてきたのをよく覚えていた。


 ゲーマーな自分としては、少しくらい相手してあげても良かったんだけど。生憎(あいにく)、その時私の周りに“陽キャ”の連中が数多く取り巻いていたんだよね。自分の立場を守るためにも、その時彼と仲良くするわけにいかなかった。



「悪いんだけど、気安く話しかけないでくれる?」



 そんなつもりは無かったのだが、周囲の目を気にした結果だ。私自身も驚くほど冷たい言葉を吐き出し、突き放してしまった。その時は周りの連中も私に同調して彼を非難したもんだから、すごすごと引き下がっていったけど。


 断った時、あいつ物凄い顔をしていた。きっと怒らせてしまっただろう。だけど、そもそもは同じゲームをやっているというだけで話しかけてきたあいつが悪い。


 まぁどうでもいいことだと自分に言い訳して、ブンブンと首を振って忘れることにした。



「ちょっと、小雪。聞いてる?」

「え、あ、あぁ。ごめんごめん」

「もう、しっかりしてよ……それにしても、天気がわるいねぇ。今にも雨が降りそう」



 むくれ顔の同級生にそう言われて私もふと空を見上げると、確かに雲行きがかなり怪しくなっていた。いつの間にか真っ黒な雲がどんよりと空を包んでいる。


 今朝の天気予報でアナウンサーが『本日は一日中快晴です』と爽やかに言っていたのを思い出す。平気な顔をして嘘をつきやがって。これだから他人は信用ならない。


 私は小さくため息をつくと、隣りにいる同級生に作り笑いを浮かべて言った。



「本当だね、最悪。早く帰らないとね」

「折りたたみ傘持ってないよー。なんか変な色の雲だし、雷でも落ちるんじゃない?」



 ハハハ、そんなまさか。と、私が同級生の不安そうな言葉を笑い飛ばしてさっさと歩みを進めようとした瞬間だった。



『ドゴーーーーン!!!』



 突如として響く、耳を突き刺すようなとんでもない爆音。思わず両手で耳を塞いだが、それでもビリビリと鼓膜が痺れるような感覚がした。音の正体は、私達の僅か十数メートル先。どうやら、住宅街の片隅で井戸端会議をしていたおばさん達に雷らしきものが落ちたらしいかった。


 私が“雷らしきもの”と判断したのは、あまりに一瞬の出来事だったので自信がなかったためだ。なんでもなかった、でも完璧だったハズの私の日常は突然に崩壊することになった。



「は!? 何!?」

「マジ意味わかんない!」



 人間、誰しも訳のわからない状況に立ち会うと狼狽してしまうものらしい。私もその例に漏れず、ただの女子高生らしく震え上がってしまっていた。柄にもなく隣りにいる同級生と手を取り合ってしまっていたことに気が付き、慌てて手を離す。



「あー、びっくりした……」



 ドキドキと脈打つ心臓を落ち着かせるよう胸を抑えながらも、ここで自分に雷が落ちないあたり、私は“持っている”人間なのだとふてぶてしくも自覚していた。一歩間違えば死んでいたのは自分たちだったハズだ。


 しかし、そうならなかったのは私がこんなところで終わる人間じゃないからだ。傲慢過ぎるかもしれないが、私はこういう時こそ自分を見つめ直して落ち着かなければならないと深呼吸をする。



「あのおばさんたち大丈夫かな!? どうみても死んじゃったよね!? 跡形もないし……ねぇどうしよう小雪!!」

「どうしようも何も……え?」



 隣にいる同級生が、ピーピーと狼狽えながら言う。人がせっかく冷静になろうとしているのに、こう騒がれると内心腹立たしい。しかし、その同級生の言葉にも引っかかる場所があった。



「跡形もない、だって?」



 それはおかしい。普通なら、雷が落ちて跡形もなく死体が消え去るわけがない。せいぜい派手に焼け焦げるくらいのもののはずだ。


 私はもう一度空を見上げる。こんな天気は見たことがなかった。先程はちょっと不穏な暗雲が立ち込めているくらいかと思っていたが、いつの間にか空は暗い黄緑色であちこちに雷を帯びた巨大な雲が点々と浮かんでいる。


 小学生が世界の終わりを描くなら、きっとこんな空模様になるんだろうなと思った。これは後になって思ったことだけど、きっとこの時の自分は『冷静』などでは無かった。


 普段の私なら一目散に建物の中なんかに避難しているハズだ。でも、このときは危険もかえりみずに頭に浮かんだ疑問を解決しようと、おばさん達がいた場所へ歩を進めようとしてしまったのだ。


 何故そのような行動をとったのか、自分でも分からない。



「ちょっと、小雪! 危ないって……」


『ドゴーーーーン!!!』



 前に進む私を同級生がを制止しようとした瞬間。今度は、私のすぐとなりから爆音が響いた。あまりの衝撃に成す術もなく吹き飛ばされて強かに石塀に打ち付けられ、意識が朦朧とする。


 視界が歪み、一瞬はボーッとしてしまったが。



「……痛ッ」



 ズキンとこめかみに走った激痛に我に返り、思わず手を当てると真っ赤な血が滴っていた。どうやら、切ったらしい。



「う、嘘……?」



 自分の血液で手のひらやお気に入りの制服が汚れるのを気にする余裕もなく、痛みを堪えて周囲を確認する。が、そこにすでに同級生の姿はなかった。



「は、ハハハ。嘘でしょ……?」


『ドゴーーーン!!! ドゴーーーン!!! ドゴーーーン!!!』



 もはや、私にできることといえば現実を受け止められずに笑うことくらいしか無かった。あちこちに雷が落ちては、悲鳴や怒号が聞こえ、そして嘘のように静かになっていく。


 世界の終わりなんてものが、こんなに前触れも無くやってくるだなんて思いもしなかった。ふと上を見上げると、自身の真上に雷が迫っているのを感じる。



「いやいや待って! 私がこんなところで死ぬわけないよね!? 冗談だよね!!?」



 ――そんな私の問いかけを嘲笑うが如く。無情にも、頭上にある暗雲はバチバチと、不穏過ぎる音を立てて雷を形成していき。


 私が最後に見たのは、真っ白な光。そこで、私の意識はプツリと途切れた。

というわけで第0話です。ここからはじまる異世界生活!

一人っきりのハードモードを、世間知らずの少女がどこまで生き残ることができるのか。

作者も小説初心者ですが、温かい目で見守っていただければと思います。

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