悪役令嬢のこれから3
「まず、俺は仕えるという契約はしたが・・・仕える為には必要経費が発生します。それは分かりますよね?」
悪役令嬢は優雅な仕草で、頬杖をつくように自身の頬に手の平を当てると、淡々と語った。
「先程、お金が無ければ・・わたくしは何も持たぬ、ただのわたくしという話でしたわね。
歴史の授業で指南された北方の野蛮人の住む地域の考え・・持つものが偉い、という考えに染まっている、そのように感じましたわ」
この悪役令嬢がバカではない事に少し安心する。
先程の初めて触れる異文化のカップ麺も、手応えはよさそうだったので・・・1を話せば10で返せるタイプなのかもしれない。
悪役令嬢の瞳に宿るは、否定ではない。
貪欲に知識を喰らい
それを全力で咀嚼し理解しようとする、理知的な光を感じる。
「その北方の話は分からないから俺は何とも言えない、けど・・
要は、お金が無いとシャーリィさんを支援できないから稼ぎに行きます。俺には仕事があって、四六時中は・・・」
「ならば、仕事を優先なさい!!」
先程まで神妙に聞いていたのに悪役令嬢は仕事の名を出した途端、はっきりと言い切った。え、まじすか。あっさり許可出るなんて思ってなかったから、肩透かしなんだが・・・
「わたくしは、確かに弱者でしょう。
お金も無ければ、魔法も使えぬ、異国の者ですから。
更にいうと、ニホン国の事も全くわかりませんわ。」
悪役令嬢は悔しそうに続ける。
「ですがっ・・・庶民だろうと、割り振られた使命があるのでしたら、それを全うすべきですわ。
わたくしが、来たせいで疎かになるなど許せません
わたくしは、ケータに仕えるように言いましたが
ケータ自身の生活を、脅かしたいわけではありません
わたくしがルナルティスの名を背負うように
ノガミも成すべきことを成して、ケータの名を上げるべきですわ。
さすれば、庶民だとしても品位のある立派な庶民として皆に讃えられるでしょう。ですから、仕事へお行きなさい。」
すっげー、ドヤ顔でいい事を言ってるのにあべこべだ。
よし、そろそろ訂正しよう。ファーストネーム勘違い問題。いい加減、恥ずかしいし。
今更って感じはするけど、俺は悪役令嬢に励まされ、俺は変わるべきだと思ってしまったから・・少なくとも情報を制限せざるを得ないズルい状況でも、礼儀くらいは通したいし。
「えと・・ありがとうございます、シャーリィさん。
あと・・・その・・・・」
「ケータ、何度もいいますが、どもるのは情けなくてよ」
「では、一言で。俺の名前、野上圭太っす」
「それが、なにか?」
「日本の習慣なんですけど、野上がファミリーネームで
圭太がファーストネームなんです」
悪役令嬢はぴしりと凍りついた。
「だから・・それ、黙ってたというか訂正出来なかったんですけど・・言い損ねてすみません」
ごまかせるかなーと甘い考えで笑いかけた俺は
ブルブルと怒りで、震える悪役令嬢と目があった。
そして出会った直後と同じように
再び、強烈な張り手を食らった。
ほんと、キレのいいビンタだよなぁ。
そういえば、ゲーム中でもメルシアちゃんを思いっきり階段からつき落とすシーンあったな。か弱くて、可憐なメルシアちゃんは神に愛されしラッキーガール。足を挫くだけで済んでて、本当に安心したし、悪役令嬢許しまじ!と怒りを感じたな。
うん、リアルシャーリィ嬢、意外に武闘派なんだよな。ゲーム中のメルシアちゃんは、この攻撃に耐えた。パネェ。流石ゲームヒロインといったところか。か弱い設定に関しては見直すべきかもしれん。
王国筆頭公爵家令嬢ってのはどんな教育を受けたらこんな武闘派になるんだろうな。