悪役令嬢のこれから
所詮、君はただのデータに過ぎない
君のセリフと思われるものも、プレイヤーの代弁者としてのもの
イベントスチルも、攻略キャラの良さを引き立てるもの
きみ自身の生活をしているようで、君には全く自由などない
そんな君に夢を見ている時点で、もう手遅れだと思った
俺から茶器を取り戻し、完全に一服ついたところで
今後について真面目に話し合うことにした。
もうお互いに変な牽制をしたところで事態が好転するわけではないし、はっきり言うと
俺の腹の音が先に音を上げ、空腹を訴えたとこを「これだから、庶民は」だの得意げに嫌味を言い終わったシャーリィ嬢からも控えめな空腹を訴える音がしたからだ。
うん、生きてれば腹も減る。仕方ない。
もう互いに足を引っ張り合うのはよそう。大丈夫、俺はメルシアちゃんのように優しい。恥ずかしがらなくてもいいのだよ。高らかに馬鹿にしたのに、自分も腹の音を上げてしまうなんて、間抜けな事をいちいち掘り下げたりはしないよ。当分、覚えておくけどな。
まずは夕飯を食べよう。
まぁ、ありあわせで、貴族のご令嬢に出せるような繊細かつ豪奢なディナーは出来んので・・・だからといって、どれだけ我が家に居ることになるのか分からない穀潰しに出前をとるのも馬鹿げているので、簡単に作ることにした。
文明の勝利、カップ麺様をな!!
異文化である事は理解してもらえた、ならば次は異文化の体験をして頂こうと考えた優しい俺な!!
実は自炊なんか余裕で出来たりするんだが、なんかもう色々とイライラさせられるわ、お金使いたくないだの、様々な諸事情というのがあってカップ麺をセレクトした。
優しくも時々小悪魔なメルシアちゃんなら許してくれると信じてる。俺の中では様々な諸事情があったから仕方ないんだ。ゆるふわでありつつも生活に関してはしっかりしてる、そんな庶民の希望とも言える君なら分かってくれると信じてる。お金って大事だもんな!!!
「で、何故こちらを使うんですの?」
空腹お嬢さんなシャーリィ嬢は、再びお湯を作る意味が分かっていないようだ。まじまじとガスコンロを見つめる様は職場体験中の興味津々な学生といったところか。キラッキラな色が制服ということを忘れさせてしまうが、一応現役の学生だったな。
「や・・・だから・・その・・・」
ボソボソと説明しようとすると、シャーリィ嬢はこちらに対して負い目があるのを理解しているがゆえに、言うのを迷っていたようだが・・真っ直ぐ俺を見て、真摯に言った。
「ケータ。貴方は、今、ニホン国の常識を全く知らぬ、わたくしに説明するというのは、こちらの国で言うエスコートしているようなものですわ。
いいこと? エスコート中は、自分に、自信をお持ちなさい」
それは悪意を感じさせない、俺自身と向き合う言葉で
俺は言葉を、どう発していいか、迷うほどで
弱さを撃ち抜く言葉だった
「エスコートとは
護送であり、正しく導くことであり、女を淑女にする為に大事な役割がありますの。
それは、相手を不安にさせないこと。
淑女はエスコートされる事を望みますが
相手にもそれなりのレベルを求めるものですわ。
不本意ながらわたくしと貴方は状況を打破する為には手を組むべきで、わたくしは貴方に与えられる情報を信じるしかないのです。」
悪役令嬢は、いじわるな役なのに
悪役令嬢の癖に、俺のコミュ症を治そうとしている
「貴方の説明、確かに色々足りない部分もありますが・・わたくしには必要なことなのでしょう、ならば」
「っ!!」
悪役令嬢は容赦なく、戸惑う俺の胸ぐらをひっ掴み
「わたくしに、利用されなさい。貴方にはその価値がある。
このわたくしが、栄えあるルナルティス家の娘があなたの価値を拾って差し上げたのよ。光栄に思いなさい。
貴方は、何も、恥ずかしく思う事はありませんわ
なぜなら、わたくしが
異国の地に居ても、信用しても良いと判断できたのだから
だから、わたくしに選ばれたことに胸をお張りなさい」
悪役令嬢の笑顔は、口元を少し上げ見下すというゲームと同じ様な形をするが、ゲームと違って全く悪意が無く
自分の判断が正しいと確信する、小気味いい、清々しいものだった。
深くにも、トキメキに似た熱を感じたところで
ヤカンが鳴った。ピーッと。
あっぶねぇ、危ねぇ。
リアルに美少女な悪役令嬢にトキメキかけて
俺のメルシアちゃんへの崇高な想いが霞むとこだった。
メルシアちゃん、浮気じゃないからね。
だってまつ毛が長くて、目元もリアルじゃお目にかかったこと無いような鮮やかな色で、オマケに鼻筋も通っていて、うっすらと色づく口紅に、モデルみたいなスタイルが目の前で言うから戸惑っただけだからね‼
俺は悪役令嬢から逃げるように、ヤカンの火を止め。
二人分のカップ麺を作ることにした。
まぁ、お湯を入れるだけなんだが。
その匂いに、びっくりした悪役令嬢が出来てないカップ麺を開けてひっくり返そうとしたのを止め、全く震えずに口で説明するということが出来るようになっていたのは驚いた。