NO.7 早すぎてついていけない
突然の婚約者宣言があり、速攻でノーフォーク公爵のところに向かったのだが、残念ながら帝都都市である知識の都市に会議に行ってしまって居たので、話せなかった。しかも帰ってくるのは、明後日なんだとか…なんたるタイミング。
文句の一つでも言ってやろうかと思ったんだけどなぁ…
まあ、居ないものは仕方ないので予定通り外に出る事にした私は、広い庭を通って正門から外に出た。
初めてちゃんと正門から出た気がする。ここ三日間勉強詰めだったし、流石に失踪から帰ってきて早々に家から出るのはどうかな?と思って、遠慮していた部分もあるんだけど、この国の中はかなり治安もよくて想像していた異世界の人身売買とかみたいなのは無いんだとか…。
だから、私が失踪したと知った時、最初は迷子になったんだと思ったらしい。それ位治安が良い所で、急に居なくなったら、そう思うものなのかな?
…でも、日本でも行方不明になったら警察とかに言う前に自分達が探してからっていうから、おんなじ様なもんか。
正門を出て右側の道を歩いていく。
本当に穏やかな街だ。住民達ものんびりしていて、まるで田舎街に似ている。
そういえば、私が帰ってきたと瞬く間に広まった様で、街行く人達から挨拶をされる。なんで、私の顔を知ってるのか凄く疑問だ。後でエリナさんに聞いてみよう。
街行く人に挨拶を返しながら、目指すのは騎士団の本部と思われる、あの建物だ。歩いてみれば案外近くて、本当5分くらいで着いた。
え?こんな早く着くの?
家からそう遠くない場所で誘拐事件があったってどういう事なんだろうか…
本当、疑問しか浮かばないなぁ。
確かにこれは、探しても謎しか残らないわ…
だから、どうにもならなくてノーフォーク公爵も諦めた部分があったんだろうけど。
「これ、どっから入るんだろう?」
着いたのは良いんだけど、入り口が見つからない。あのね、壁しかないの。城壁みたいな感じのあの高い壁みたいのが建物を覆ってるんだけど、何処から見ても入り口らしきものなくて、ただ壁が続くのみだった。
うろうろ、と本部の前を行ったり来たりしていると、右から左まである壁のちょうど中央辺りの壁石が、あの某魔法学校に出てくるダイ…横丁みたいに、くるくると動いで開いた。
え、え、なにこれ、すごい!
本当に語彙力を失うレベルですごい光景だ。だって、勝手に開くのよ?凄くない?!
これ、どういう仕組みなんだろう?
ぺたぺたと開いた壁を触りながら中を覗けばノーフォーク家の扉扉を同じような作りの茶色で大きな扉が聳えていた。
これはちょっと冒険心を擽る…
と、タイミングよく中から騎士の人達が出てきたので慌てて身なりを整えて、まずはご挨拶。
「こんにちは、ご機嫌麗しゅうございます」
あのお姫様みたいな挨拶をすれば、騎士達も慌てたようで左胸に右手を添えて頭を下げ元気よく挨拶を返してくれた。挨拶を終えた騎士達の顔は何処か輝いていて思わず首を傾げる。すると、騎士の一人が好奇な目をしながら恐る恐る口を開く。
「大変失礼ですが、…もしかして、ノーフォーク公爵家のサラ様ですか…?」
「あ、はい、そうですが…?」
一度頷いてから再び首を傾けては、更に瞳を輝かせる騎士達に内心何事だ、と戸惑う。
え、なんか、私の知らないところで何かが起こってる…?
「第1騎士団部隊、紅薔薇組の皆さんに助けられたんですよね?」
えっ、と…
う〜ん、確かそんな名前の皆さんだった気がしなくもないけど、正直スクルドが居た部隊は
そんな名前だったんだ、と衝撃を受ける。
「はい、スクルドが居る部隊ですよね?」
「そうです!スクルドくんやトロイ隊長が居る部隊になります。
本当、僕たち騎士団員の中でも、
エリート揃いの組なのでファンも多いんですよ!」
そうだったのか、全然知らなかった…!
こうして色々話してくれている彼は、
どうやら紅薔薇組のファンで騎士見習いのタツキくんと言うらしい。
なんだか、日本人っぽい名前だから親近感が湧いたしまう。
ここに来た理由を問われ、適当に見学だと言ってしまったが本当にそれでよかっただろうか、と今頃になって不安になってしまった。
まあ、でも、見学だから頃合いを見てお屋敷に帰ろう。と思いつつ、甲斐甲斐しく案内し始めたタツキの後ろをついて行く。
建物の中に入ると、ノーフォーク公爵家のお屋敷と作りが似ており、白い大理石の床に大きな窓が沢山並んだ廊下が続いていた。部屋数は、こちらの方が多い気がするが、一つ一つは公爵家よりも小さく半分くらいの大きさだ。
やっぱり、この土地を治めてるという事もあって、実際街中の建物もノーフォーク公爵家の屋敷をモチーフにしたが多い。
こうやって、影響力の大きさを目の当たりにすると、改めて自分はとんでもない所に転生?してしまったんだなぁ…と思う。
本当に転生か分からないけど…、
大人の状態で転生ってあり得るの…?
寧ろ、それ転生っていうの…??
でも、右肩にあるノーフォーク公爵家の痣。
あれは、私が此方に来てから現れた物だし、もしかしたら、どんどんそういう事が起こる可能性もある訳だ。
どんな小さな変化でも分かる様に、鏡持ち歩こうかな…?
タツキくんの説明はとても明瞭で、道すがら建物内に何があるのかは大体把握出来た。騎士が寝泊まりする部屋、食堂、執務室、会議室、訓練場、牢屋、国民相談室、住民票発行場、などなど。なんか市役所と警察署が一緒になった様な場所だった。
まあ、確かに武装してる人がそういう役場的な事をこなしてるっていうのは、安全面でもかなり信用性が高いよねぇ…
「サラ様も、やっぱり民達の事に関心がお有りなんですね〜。
こうして騎士団本部に立ち寄られるなんて…
他国ではなかなか無い事なんですよ?
戦時中でも、ノーフォーク公爵家の方々は代々民達を大事にされていらっしゃるので、この街に移り住んでくる者も多かったですが…
平和になってからも、領主を気に入って多く移り住んでくるんですよ。
それほど、この国と領土は平和っていう印象が強いんです。」
「へぇ、そうだったんですか。勉強になりますッ…?!」
地面が爆発音と共に大きく揺れる。
え?!な、なにっ?!
咄嗟にタツキくんが庇うように私を引き寄せてしゃがませてくれたが、正直突然すぎて何が起こったのか分からない。
「爆発音がしたのは、…どうやら牢屋の方からみたいですね。
サラ様、何があるかわかりませんので、安全な所にご案内するまでは僕から離れないでください。」
私はこくこく、と頷く。寧ろ、それしか出来ない。
さっきの爆発音を聞きつけ、慌ただしく騎士達が行ったり来たりしている。とりあえず、廊下の真ん中に座り込んでいても邪魔なので、タツキくんと端に寄った。
もうっ、何かと状況が早すぎるよ!