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童話的なやつ

白い雪 黒い瞳

作者: のすけ

僕の父さんと母さんは、大きな森を切り開いて畑を作り生活している。

僕たち家族の他にも、いくつもの家族がそうやって暮らすこのあたりの村では、お隣の家と言ってもとても遠いんだ。

冬になれば庭も畑も埋もれて境目がわからなくなり、目の前には一面の雪野原が広がるだけで、その向こうは黒っぽい緑色の森になる。

真新しい雪が降ったある日、僕はワクワクして外に出ると雪の上に背中から倒れて人型をつけて遊んでいた。三人分の人型ができた。父さん、母さん、僕だ。

起き上がって顔を上げた時、僕の目の前に二つの黒いつぶらな瞳があった。

「君はだれ」

そいつは白い毛皮で縁取られた白いコートにブーツ、白い手袋をはめた僕と同じくらいの子供だった。

話しかけたのにそいつは一言も喋らず、突然僕の真似をして雪の中に前向きに倒れた。

雪まみれになったそいつの顔を見て僕は笑った。おかしなやつだ。

そいつも「ククっ」と声を立てて笑った。

面白くなって僕がまたバタンと倒れて見せたら、そいつも真似してバタンと倒れる。

倒れた僕がその場で手足をばたつかせ、人型を天使の形にしたら、そいつも同じことをした。

「真似ばっかすんなよ」

僕がそう言うと、そいつはきょとんとした顔になり、それから「ククっ」と笑うと

雪の上をとととっと走り出した。

そしてあっという間に森の木々の中に紛れて、僕はそいつの白い姿を見失った。

森のあんな方向に、誰かの家なんかあったっけ。


次の日は晴れた冬の青空が広がった。

僕が外で雪だるまを作っていると、またそいつが現れた。いつの間にかいたんだ。

「どこから来たのさ」と言ったけど、何も言わない。

よっぽどのはにかみ屋なのかなあ、しゃべらないけど嫌な感じはしないんだ。

そいつは僕の真似をして雪をすくっては転がそうとするけど、砂みたいに雪を巻き上げるだけだからでうまく行くはずがない。

「最初はこうやって、雪玉を作ってからじゃないと」

僕が教えてやるとそいつはまた、きょとんとした顔をしたけど黒い瞳を見開いて僕のすることをじっと見つめた。

そいつの両手はやけに小さくて、クルミくらいの雪玉しか作れそうにないから僕はそいつの分の雪玉を作ってやることにした。

できた雪玉を渡してやるとまた「ククっ」と楽しそうに笑って、そいつは勢いよく交互に小さな手先で押しやりながら雪玉をコロコロと転がし始めた。

調子に乗ってどんどん転がしていく白いコートの姿は白い雪玉と区別がつかなくなりそうだ。

コロコロ、コロコロ、遠くまで転がして行ってからふと振り返り、

僕がいることを確かめると今度はまたコロコロ、コロコロと僕の方に戻ってきた。

黒い瞳をキラキラさせて笑いながら。

二人で作った雪玉を重ねて雪だるまができた。木の枝で腕をこしらえ、

「目玉もつけてやろう、ちょっと待っててよ」とそいつに言うと僕は家に戻って、木炭のかけらを三つ目玉と口がわりに持ってきた。けれども「ほら、これ見てよ」と言ったときはもう、そいつはいなかった。

その晩から何日かすごい吹雪が続いて僕は外に出られなかった。

あいつのうちも吹雪に閉ざされて、僕と同じように退屈してるのかな。

父さんが木くずで作ってくれた積み木や木のパズルで遊びながら僕は思った。

あいつも今度はうちに遊びに来るといいのにな。

やっと吹雪がやむと新しい雪が降り積もったので、僕はかんじきを履いて外に出かけた。

「新しい雪に沈んでしまうと危ないから、あまり遠くに行くなよ」

晴れた外で薪割りを始めたお父さんがそう言った。

僕は新しい雪の上を歩いてふわりとした雪が小さく軋んでは沈むのを確かめていた。

畑から森に向かって歩いて行き、ふと顔を上げるとあいつがいた。いつの間に来たのか、今度も全くわからなかった。白いコートを着込んで雪の上に立っていて、僕のカンジキを物珍しそうにあの黒い瞳で見つめている。

そいつはカンジキを履いてないくせに雪に沈まず立っている。よっぽど体が軽いのか不思議だ。

「カンジキ履かないで大丈夫なの」と言ったけど、今度も答えはなかった。

それからあいつは、急にくるっと向きを変えると雪の上をピョンピョン跳ねるように走り出した。

今日は鬼ごっこしようって言うのか。

少し離れた場所からあいつは僕を振り返って、早くおいでと言うようにいたずらっぽい顔で見つめた。

「よーし、見てろよ」

僕は走って追いかけ、あと一歩のところまで来るとまたあいつは「ククっ」と楽しそうに笑って走り出す。すごく早い。そしてまた、立ち止まる。

僕が追いかける、追いつきそうになる。

あいつが走り出す、遠ざかり立ち止まる。

追いかけるけどなかなか追いつけない。僕はさすがにちょっと悔しくなり、勢いよく踏み出した。

その途端、片足のカンジキが脱げて僕は雪の中に深く沈み込んでしまった。

しまった、出られない。まずい。もがいてもかえって沈んで行く。

「助けて」

だめだ、じっとしてなきゃ余計に沈む。

僕は雪の中でじっとしていることしかできない。

あいつは僕を見てたけど、近づいてきて小さい手で僕の手を引っ張ると雪の中から引き出そうとした。

でもダメだった。僕は胸まで雪に埋まって、僕のはめていたお母さんの手編みの青い手袋が片方脱げた。

あいつはそれを持って黒い瞳で僕をのぞき込むと、何も言わず僕の家の方に向かって走り出した。

晴れた空の下、しんと静かな雪の中に僕はひとりぼっちになった。

でもしばらくしてあいつは戻ってきた。

後ろから僕のお父さんがカンジキを履いてスコップを手に歩いて来るのが見えた。

「お父さん」

「言わないこっちゃない。こんな遠くまで、雪が柔らかいし沈んでしまったら見つけられないところだ。そしたらどうなってたことか」

そう言いながら僕を雪から引っ張り出してくれた。

「あの子が知らせてくれたんだね。白いコートの」

「あの子、友達がいたのか。その子はどうした」

と逆に聞かれた。

「え、白いコートの子が父さんに僕のこと知らせてくれたんじゃないの」

「お前、何を言ってる」

不思議そうにしている父さんに、帰る道すがら僕は最近出会った白いコートの友達のことを話した。

でも、僕が雪に埋まったことを父さんに知らせてくれたのは。

「俺が薪割りをしてたら、冬毛の子リスが青いものを持って近づいてきた。こわごわ俺に近づくと、足元にお前の手袋をポトンと落として、そのまま逃げようともせずに黒い目で俺の顔を見つめた。これはお前に何かあったのかと思って、俺はとりあえずスコップを手に取った。そしたら子リスが先に立ってピョコピョコ走り出した。案内する気に違いないと思って足跡を追いかけてきたら、お前が雪に埋まっていたと言うわけだ」


白いコートのあいつは、子リスが姿を変えていたのか。

だから、口も聞けないし僕の言うこともわかったり分からなかったりしたのかな。

今はそうとしか思えない。

でも雪に埋まったあの時は、やっぱり僕を助けてくれたんだ。

ありがとう、あいつにそう言いたい。

僕には確かに人間の子供の姿に見えたんだけど、父さんにはそう見えなかったみたいだ。なぜなんだろう。

でも、それから外で遊んでいてもあいつは姿を見せなかった。

僕は父さんに手伝ってもらって、外の庭先の木陰に小さな餌台を作った。

そしてそこにひまわりの種やクルミを置いておいた。

あいつが子リスだったのなら、いつか遊びに来てくれるかな。

ある日の夕方、僕が家でおやつにクルミを割って食べようとしていたら外でコツンと音がした。

窓の外を見ると、白いコートを着たあいつが立っていた。

黒い瞳をくるくると動かし、ニコニコしていた。

そして手に持ったクルミの殻を窓に放り投げてはぶつけた。コツン。コツン。

僕は窓の内側から手を振った。

「あの時はありがとう、助けてくれて。一緒に遊んで楽しかったな。また遊ぼうよ」

でも、僕がそう言いながら窓辺に近づくと、あいつは一歩後ろに下がった。

そしてまたニコッと笑うと背中を向けて、あっという間に走って行ってしまった。

夕暮れが迫る森に向かって。

白いコートのあいつを僕は追いかけなかった。



童話企画バンザーイの2です。普通に童話でした。

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