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On The HELL  作者: fulldrive
2章 Bloody Sun
4/5

第四幕


それは普段と変わらないことの筈だった。

つい数分前までいつも通り行っていたのだ。

4WDを乗り回し、この区域の巡回を済ませる、その程度の任務だった筈だった。

ドライバーの彼は同僚と後部座席に銃を放り投げ、座席に身を沈めた。


「平和なもんだねぇ。敵どころか人一人っ子いやしない」

「本来なら戦闘なんて無い方がありがたいんだけどな。ガキが大きくなるまで死ぬわけにゃいかねぇ」

ぎゅっ、と胸のペンダントを握る。中に入っているのは最後に撮った家族写真。

その写真だけが何年も会っていない家族と彼を繋ぐ唯一の鎖だった。

「流石妻子持ちだ。俺も嫁さん欲しいなぁ!」

助手席に座る同僚は後ろに向かって大きく伸びをした。あぶないぞ、と言おうとした時彼の身体が硬直していることに気づいた。

「後ろだ!!」

同僚が言い終わるまでに察した彼は素早くハンドルを切り、後ろから来た“何か”を回避した。

同僚は車の遠心力を利用して、後ろから銃を取り出した。


「俺が牽制する。お前は運転に集中しろ。キャンプまで何とか逃げ切るぞ!」

「わかった!気をつけろ、恐らく奴は『冠位グランド』持ちだ!」

何かが着弾した時、『べちゃっ』という嫌な音がしたことと、バックミラーに地を這うように何かが来ているのが見えたことからかなり高度な『影』の力を操る能力者だと判断した彼は出来るだけ遮蔽物が無い平原にクルマを走らせる。

駆動部が軋む音が聴こえる。そしてそれに負けないぐらい同僚の放つ銃声の渇いた音が平原に響く。


「クソッ!!全然当たらねぇ!!」

マガジンを交換しながら同僚は悪態をつく。

窓から投げ捨てられたマガジンは彼らを追って来ている影に一瞬の内に飲み込まれた。

「キャンプまでどれくらいだ!?」

「あとちょっと!!」

アクセルを踏み込み、更に速度を出させようとするが突然、下から強い衝撃が襲いかかった。


「ッ!?なんだ!?」

「しまった!クルマの“影”か!?」

タイヤを見ると黒い腕がホイールを掴み、火花を散らせながら減速させようとしているのが見て取れた。

舌打ちをした同僚が、窓から銃だけ突き出し、腕に向かって発砲を始める。


『もう遅い』

が、弾丸が黒い腕を貫く前にクルマの床から現れた黒曜石のような光沢を放った刃が同僚の腹部に突き刺さる。

「ゴボッ...!」

口と腹から溢れてくる血液をどうすることも出来ない同僚はそのまま自分の血で溺れ、死んだ。


「クソッ!!」

彼はドアを開けて飛び出ようとしたが、影でがっちり固定されていてびくともしなかった。

『無駄だ』

クルマの影が膨らんだと思うと、掌の形へと姿を変えクルマに握り締める。


『終わりだ』

くしゃり、という紙くずを潰した様な音を立て、クルマは呆気なく影の手に握りつぶされた。

すると急に影がとぐろを巻き始めたかと思うとやがてそれは人型へと姿を変える。


そこには灰色の髪を短く切り揃えた青年だけが残った。

背中に収めているのは日本刀、と言うには真っ直ぐ過ぎた。

それは、俗に『忍者刀』と呼ばれる代物であり、彼の実家に代々伝わるものであり、同時に彼に与えられた『冠位グランド』でもあった。


夜見ヨミ、それが彼の名だった。

冠位名 Shadow Slayer 、名の通り影を操る、暗殺に優れた能力である。

刀を振るい、血を払った後に鞘に収める。


「今日で2人...。陛下に報告しなきゃな」

直後、青年は地面に“溶けた”。










装甲列車 補給用出入口


「...凄いっすねぇ」

ミーシャがあるモノを見て感嘆の声を漏らす。

八咫も改めてそれを見る。それは先日、本部から送られてきた最新兵器のアサルトウォーカー、ではなく。それを更に発展させた試作兵器である、戦闘支援コンバットアシスト装甲プロテクターだった。強化外骨格のように肉体を損傷することもなく、アサルトウォーカーのように巨大でもない、極限まで対人戦闘に特化した兵器だ。

八咫も試しに装着してみたが、見た目以上に性能が高いことがわかった。


防弾性能や対爆風性能も優れており、テ

ストでデザートイーグルで撃たれても衝撃が少しくるだけで最新型の姿勢制御装置のお陰で転倒することはなかった。

何よりも驚いたのはかなり雑に扱っていたつもりなのに傷一つ付いていないことだ。

技術班によると、まだ試作段階だが再生素材を用いたのだと言う。装甲が破損した場合、表面にある細胞状の特殊物質が損傷部分を検知し、最適な措置を施すといったものらしい。


この装甲は全身を覆うタイプのもので、装甲としての役割以外にマッスルスーツの役割も果たすようで、人間離れした運動能力や戦闘能力を発揮できるらしい。


「こいつだが、早速お前らの部隊に使ってもらおうと思う」

いつの間に後ろに居たのだろうか、シェパード司令が八咫の肩を叩いた。

「殺れそうか?奴らを」

八咫は力強く頷いた。


「ええ、任せてください」

司令は満足げに頷いた。









一方的な戦闘が続いていた。

つまらないな、と八咫は思う。

引き金を引けば目の前の敵は呆気なく倒れる。

いくら攻撃されても自分たちには傷一つつかない、そんな状況がつまらなくて仕方なかった。


補給のキャラバンから救難信号が届いたので八咫達はすぐに出撃した。

敵はエリート部隊、と聞いていて少し苦戦するかもしれないと身を固くしていた八咫達だったが、新しい装甲の前では能力者など敵に数えられない程弱々しいものだった。


『この調子だとすぐ終わりそうっすね、先輩』

オペレーションルームでこちらをモニタリングしている後輩が話しかけてきた。


まだ気を緩めるな、と言いたかったのだが、自分も一瞬同じことを考えてしまったので否定出来なかった。

手にしたアサルトライフル――ARP556の引き金をただ引く。

バレルを切り詰め、50発ドラムマガジンを装備したモデルで軽く、取り回しも容易な上に継戦能力も極めて高い。

簡単な任務だったのでこの銃と拳銃一丁しか持ってきていなかった。とは言っても、流石にこれは一方的過ぎた。


彼らは皆、少なくとも自分より若いのだろう。肉体的にも精神的にも。

一方的に蹂躙できると聞かされてここまで来たのだろう。だが、結果として彼らは逆に一方的に蹂躙されて死体の山を築いている。


彼らは何を思いながら死んでいっているのだろうか。

己の不運を恨みながら?

唆した奴を憎みながら?

対峙した僕達に殺意を感じながら?


別に彼らがなんと思おうとぼくは興味を持つ気すら起こらず、ただただ引き金を引き続ける。

べちょり、べちょりと砕けた自らの面を地面に叩きつける能力者達。

滑稽を通り越してやはり、何度も言うようにぼくは退屈だった。


だから、

「隊長!!」

「!?」

新米の部下達からの警告に反応するのが少し遅れてしまい、綺麗に不意打ちを受けてしまったのであった。


数メートル程吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

肺から息が絞り出されたが、幸い体を貫かれてはないようだ。

そのまま横になって休みたかったが、敵が追撃の手を緩めるはずもないので勢いよく後転の要領で立ち上がりARを構える。


それは蠢く“闇”だった。

ぼくがうっかり落としてしまった空弾倉の影にソイツはうねうねと揺らいでいた。

一瞬、この変な生物(?)に鉛弾が通るのか疑問に思ったが、善は急げすぐに発砲を開始した。

マズルフラッシュがストロボのように煌めき、生き物を殺す為に作られた尖った鉛の塊が闇に突貫していく。


結果だけ言うと、弾は入った。寧ろ効果があった。

着弾した箇所が油のようにてらてらと光り始め、変な生き物は苦しそうに暴れだした。

と、思うとすぐに空弾倉の影に飛び込み、姿を消した。


虚を突かれた、というか呆気にとられたと言えばいいのだろうか。

語学に関してはそこまで得意ではないので適切な表現の仕方はわからないが、とにかくあの変な生き物には驚かされた。


周囲にあった殺意が薄れていく。

やっと一息つける、とぼくはため息ついた。

が、部下の悲鳴によって一気に現実に引き戻される。

「――――――――!!!??」

声にならない絶叫をあげた彼は彼の影から突き出してきた“闇”に空高く突き上げられた。

あの程度の高度では今来ているプロテクターは傷一つ付けられないだろうが、着用者は別だ。

高度からの命綱無しのバンジージャンプ。結果は明白だった。


べちゃり。

彼の生死を決める決定的な何かが砕ける音がした。


彼はぼくの部隊の今日一人目の犠牲者だった。


「落ち着け、陣形を崩すな」

ぼくの支持に彼らは忠実に従ってくれた。

素早くバイザーに搭載されているアクティヴソナーを起動し、死んだ隊員を突き上げた“闇”を探す。


見えた。

細かい大量の粉末状の“闇”がもう一人の隊員の方に向かっていた。


「目を閉じろ!」

ぼくの言葉の意味を察した彼は即座にバイザーの耳にあたる部分を抑え身を固めた。


直後、閃光が視界を灼く。

「がぁっ!?」

“闇”が悲鳴をあげたのがわかった。

恐らく先程投げた閃光手榴弾フラッシュバンの影響を受けたからだろう。

まだ閃光の影響でぼやけた視界の中、ぼくは“闇”の背中に銃を突きつける。


「投降しろ。暴れなきゃ命までは奪わない」

ぼくはやや語気を強くして言った。

彼は若かった。

跳ね気味の灰色の髪を持ち、黒色のパーカーを羽織っている。

そして背中に背負っている長方形の塊。恐らく、これが彼の得物だ、とぼくは確信した。


「おい」

少年が口を開いた。

「いいのか、そのままで?」

ぞわぞわぞわ、と何かが這い上がってくる音がする。

だが、その時のぼくにそんなことに気を回せる程、余裕はなかった。


『Grand/ Shadow Slayer』

得物に掘られていた文字、そして王冠を象ったエンブレム。ぼくは嫌な汗が流れるのを感じた。

「...まさか」


直後、足元から飛び出してきた『影』によって僕の体が一番始めに殺された隊員のように空高く突き飛ばされる。

飛ばされる最中、少年の顔が一瞬見えた。


「そうさ。その『まさか』さ」






最高点に到達したと同時に、自由落下が始まる。

深く考える暇はない、とにかく何とかして着地の衝撃を無くさないと彼のような潰れたトマトの人間版になってしまう。


少々荒業になるが、一か八か賭けてみるしかあるまい。ぼくは腰から2つ程それを取り出した。


着地より少し早くそれは爆発した。

爆風による上向きの力の働きと装甲のコンピュータが最も衝撃の少ない着地をとってくれる。

それでも全身が悲鳴をあげた。

砕けそうな意識を唇を嚙み切ることで何とか保ち、即座に臨戦態勢に戻る。


だが、依然としてぼくが不利であることに変わりはない。何にせよ、次の一撃で勝負を決めねばならないだろう。


「...まさか、あれを耐えるとは。どういう思考回路してやがる...!」

『冠位』の方はぼくが生きていることがショックだったらしく、手にした得物――よく見たら忍者刀だった――を強く握しめている。


「だが、二度も幸運が続くと思うなッ!」

刀を構え直し、愚直に少年が突っ込んでくる。

予想通りに動いてくれた為、ぼくは足元にもう一度閃光手榴弾を転がす。


「阿呆か!その程度で影が消せると思うなッ!!」

閃光の中、少年の叫ぶ声が聞こえる。


『Approval. Boot on prototype system// model “BEAST”』



視界が赤く染まる。

赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅く紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅紅――......。



決着は一瞬だった。

彼の死角からの一撃はぼくが片手に持ったマチェーテによって防ぎ、もう片方の手の拳銃で彼の脇腹に数発弾丸を叩き込んだ。


彼は口から決して少なくない量の血を吹き出した。


「な...ぜだ。...何故、ぼくの一撃を防げた...?」

「どこから来るかわかっていれば幾らでも対策はできる」

ぼおっ、とした頭のぼくは淡々と答える。

「チッ...!そういう...ことかよ...!」

彼はぼくの言わんことがわかったらしく、悔しげに笑った後光の粒子に包まれ消えた。


空間移動テレポート

恐らく先ほどの現象はそれだろう。つまり比較的近い位置に少年の仲間がいるという事だ。

すぐにでも追いたかったが、


『Time out. Switch sleeve mode』

装甲が一部開き、排気を始め出す。

活動限界を迎えたらしく、指一本も動かすことが出来なくなってしまった。

さて、どうしたものかとぼくが打開策を考えていると、CALL音が鼓膜で響く。


『先輩っ!ご無事っすか!?』

聞きなれたミーシャの声が聴こえる。

ぼくは自分が生き延びたことを改めて噛みしめた。


「大丈夫...ではないかな。数人殺られた。ぼくも活動限界で動けない。すぐにじゃなくてもいいから数人寄越してくれないかな?」

『だ、だだだ駄目じゃないっすか!!今すぐ行きますよっ!待っててください!!』

ブチッ、と明らかにバースト通信で鳴る筈もない音が聴こえ、通信が一方的に切られた。


振り返ると、生き延びた者達が居る。


ある者は怯え。

ある者は悲しみ。

ある者は復讐に駆られる。


人が死なないなんてありえないのが戦場だ。数人死なせた程度で降格なんて無いだろうが、『死なせた』という事実が、罪がぼくの背にのしかかる。


彼らはお前を恨んでいない、と周りは言うが本当にそうだったらどれだけいいだろうか。

死者は遺す。残したきた者に深い悲しみと憎悪、疑心暗鬼を植え付ける。


死者達によって植えられた種が蓄積し、芽吹き花開く時、それは即ち罪の意識によって押し潰され、人として終わりを迎えるということだ。


罪がぼくの体を蝕んできつつあるのがわかる。

死者は語らない。死者は咎めない。死者は憎まない。死者は赦さない。

一生、この罪を背負いながら生き続けなければならない、と思うととてつもなく気が遠くなってきた。


ふと、ローター音が聴こえ反射的にに明後日の方を向くといつもの見慣れたヘリが見えた。

あれに乗ればまたいつもの日常に戻る。戦場という非日常から、非戦場という日常へと。


そう言えば、明日はミーシャと遊びに行くんだっけ。

オペレーションで忙しいにも関わらず、こうして戦闘で荒んだぼくの心を必死に癒そうとしてくれるのは彼女だけなのだから、彼女との約束はちゃんと守らないといけない。


スケジュールはどうだったかな、と手帳の内容を思い出そうとしたところでぼくの意識は途絶えてしまった。




















東京 某所








暗い路地に少女の声が響く。


『ねぇ、あなた本当にやる気なの?』

「うるせぇ」

ぶっきらぼうに答えた男は巨大な大剣を背中に収める。


「俺はもう、ヒトゴロシはうんざりなんだよ」

そう言って男は歩き始める。

直後、彼を追うように幾千もの紫電が襲いかかるが、男はそれを少し大剣を縦に向けるだけでそれらを全て防いだ。


辺りに轟音が響き渡る。

「...なんのつもりだ」

『だって、そう簡単に逃がすわけにはいかないでしょ?』

少女はくすくす笑いながら虚空に何やらすらすらと書き始める。


「チッ!」

少女の行為の意味を理解した彼は一目散に逃げ始めた。

残された少女は見た目に合わない程の妖艶な笑みを浮かべる。


『さてこのゲーム、どっちが勝つのかしら』

そう言うと、少女は音もなく、消えた。





You choice FREE, or JUSTICE?


Decide which right answer!!


Let's game begine!!









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