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On The HELL  作者: fulldrive
1章 From Dawn
3/5

第三幕

いつも裂けるような痛みと共に、意識が覚醒する。

あの日喪った手脚の苦痛が、家族を喪った苦痛が毎晩、毎晩彼女を苛み続けている。

そんな苦痛に悶える最中、彼女はいつも一人の少年を思い出す。

誰よりも愛し、誰よりも寄り添い、誰よりも想った唯一の少年かぞく


乱れた精神と苛む苦痛ファントムペインを抑える為に自らの肩を抱く。だが、本来温もりが感じられる筈の腕は冷たく、金属的な光沢を放っていた。

悪夢ヘルは終わらない。消すことも、無かったことにすることもできない。

だが、それでも彼女は腕を伸ばし続ける。その先に自分が望むものがあると彼女は狂信する。


どんな結果を招くにせよ、決して良い結果になど、なる筈がないのに。















気付くと、目の前に熱い砂の大地が広がっていた。そして彼女は自分が少し気絶していたことに気づく。

(あれ、私...何やって...?)


彼女はぼんやりした頭で現状を理解しようとするが、それは叶わなかった。

頭の中のもやを払拭する為、二、三回頭を叩くとコツコツ、というプラスチック特有の無機質な音が聞こえた。そこで彼女は自分が今“バイザー”を付けていることに気づく。

ここが何処かわかった彼女はすぐに行動に移った。

右手が“添えられているレバー”を動かし、“機体”を起き上がらせる。モニタの異常が確認されなかったので、彼女はそのまま戦線に戻ることにした。


彼女が乗っている機体は数年前、とある兵士が某国から強奪した強化外骨格を改良した二足歩行兵器アサルトウォーカーであり、その発展型バリエーションの一種である。

元のカラーは橄欖色オリーブドラヴだが、今回は砂漠での戦闘を想定された黄土色デザートカラーになっている。右手には大口径のマシンガンが握られており、他にも無反動砲バズーカなどを装備している。

『遅ぇぞ!早く援護してくれ!』

僚機からの罵声を聞かなかったことにし、彼女はホバリングしながら前進する。

敵は勿論能力者である為、敵に突っ込むなど基本、下策とされるのだが、

「...!」

ぐいっ、と彼女は機体を横に横滑りさせ、ドリフトの要領で機体を右を向かせながら速度を落とすことなく滑らせていく。

そんな彼女を消し炭にしようと能力者達が躍起になって追撃を仕掛けるが、全て数コンマ前まで彼女がいた地面に突き刺さるだけだった。

牽制の為に120mmマシンガンを放ちつつ、彼女はディスプレイを呼び出し、コマンドを入力した。

目標捕捉ロックオン、O.T.H システム起動スタンバイ

『Approval. code: burning disaster』


彼女が紡いだ言葉を内蔵OSが承認し、背部装甲が展開され多数の重火器が顔を出す。自動標準オートロックオンにより捉えられた対象の元には数センチのズレもなくミサイルやライフル弾の雨が襲いかかる。

圧倒的物量を前に能力者達は成す術もなく次々に肉片に姿を変えていった。辛うじて結界を張った能力者が安堵したのも束の間、他の機体の右腕に付けられているスパイクであっさり結界ごとぶち抜かれ、腹から尋常じゃない量の血を撒き散らせながら地に臥した。


『敵殲滅確認。お疲れさん』

オペレーターの労いの声を聞き、彼女は顔につけたバイザーを脱ぎ捨て顔を振るう。美しい黒髪をボブカットに切り揃え、その瞳は見るもの全てを達観しているようだった。

機体接近を知らせる警告音が鳴ったので、ちらと横を見やると僚機が機体の肩に手を置いていた。

『流石お嬢。あの屑共を秒で葬り去るとは』


彼女は苦笑して、

「たまたまですよ。もう少し起きるのが遅かったら殺されてたかもしれません」

『謙遜しなさんなって!お嬢は自分が凄い、ってことをそろそろ認めなきゃだぜ?』


ガハハ、と同僚は笑いながら撤退を始める。一人、取り残された彼女はぽつりと呟く。


「あの、元気にしてるかしら」








episode: 04 『Hanged man』




彼女が所属する第二十二機械化遊撃隊はヨーロッパ某国の主力部隊である。

日本軍改め、日本帝国軍の特殊能力者部隊が幅を利かせ始めてから暫くしてこの部隊は産声を挙げた。初めは強化外骨格エクゾスケルトンによるボディアーマーを装着した兵士達による小さな部隊だったが、能力者達の出現によってそれに対抗する“フォース”を軍部は求めた。

技術部があれやこれや改良を加えた結果、このアサルトウォーカーは産まれた。エクゾスケルトンより一回り大きく、日本のアニメに出てくる二足歩行兵器を彷彿させるようなフォルム。男兵士達は実物を初めて見た時、揃って身を輝かせ、歓声を挙げたほどだ。

彼女はイマイチ魅力がわからなかったが、性能面に関しては彼女の想像以上だった。エクゾスケルトンだと彼女の超人じみた動作に着いてこれず、あっさり壊れてしまったのだが、アサルトウォーカーはそれらの動き全てに着いてこれたのだ。武装や装甲もエクゾスケルトンの二倍ほど搭載されており、単機で一つの軍隊を相手できる程の量だ。

だが、能力者達全員に勝てるか、といったらそうでも無く、相手の能力によってはあっさり破壊されてしまうこともある。

一度など、“アシッド”の能力を持つ者と対峙した際、こちらの機体が全て酸化されてしまい、機体を捨てて撤退せざるを得なくなったこともある。そのため、今は多少の攻撃で酸化しないようにアサルトウォーカーの装甲の表面に塩化ナトリウム(NaCl)を塗装の上に塗ってある。可動部等の関係上、薄くしか塗ることができなかったので効果は限定されてしまうがしないよりはマシ、という技術部の判断によるもので行われた。

そのおかげか、雪辱戦リベンジマッチではあっさり勝つことが出来たのも事実だ。余程慢心していたのだろうか、殺されたのにも関わらずその時の能力者の顔はにやけていた。


母艦に着くとすぐ彼女達はカウンセリングに回された。PTSDを防ぐ為だ。相手がどれだけ外道だとしても人を殺す、という行為に変わりはない。表面上は傷ついてないから、といって放っておいたらいつの間にか精神がボロボロ、なんて兵士にはよくある話である。

とは言ってもそれはもう過去の話で、かつては標準越しで人を殺していたものが、機械越しに変わったおかげで人を殺すことに対する心理的なハードルはかなり低くなった。それでも昔の風習で万が一の為、という名目上続けられている。


「今回の任務も大活躍だったそうじゃないですか、紫苑シオンさん」

カウンセラーの男は一通りカウンセリングを終わらせるとにこにこ微笑んだ。

「そうでもないですよ。途中、気を失ってしまって...」

「多大なGが掛かるのは仕様上仕方ないことなんですから気を失ったぐらいでネガティヴになる必要は無いですよ。...しっかり休んでくださいね?」

診断書を受け取り、シオンは部屋を出た。

自室に戻り、ベッドに身を投げる。

幼い頃に寝ていた敷布団と違い、今の自分のベッドは包み込む様に彼女の肢体を受け止めた。

今日も色んなことがあった。

同僚が3人死んだ。これでも1日に死ぬ人数にしては少ない方だ。

素直に喜ぶべきなのだろうか。

明日あるかわからない命を、今日散らさなかったことを、安堵するべきなのだろうか。

目を閉じると、彼らの断末魔がずっと頭の中で響く。初めは苦痛でしかなかったが、今ではもう、慣れてしまった。


引き出しから無造作に瓶を取り出す。

『Sleeping pills』、と書かれた瓶から錠剤を3粒出すと口腔内に放り投げる。

飲み下すとすぐに眠気が襲って来た。

抵抗する理由もないので彼女は眠気に身を任せ、意識を闇の中に沈めた。


直後、彼女の目尻から涙が零れ落ちたことは彼女ですら知らなかった。










日本帝国 新宿


真日本総督府

冠位グランド』Lucifer 執務室



「何であと一人が居ないんです?」

青年は目の前のデスクに拳を叩きつけた。

派手な音を立ててデスクは揺れるが、目の前の女性は眉一つ動かさない。それどころか、あたかもさっきのデスクの叩かれる音で青年の存在に気づいたかのような顔をした。

「...何ですか。その今気づいたみたいな顔は」

「何も実際さっきの音で気づいたのだから、別に不思議ではないだろう?」

この言葉には流石の青年もブチ切れた。


「アンタね!?普通近くに人が居たら気づくでしょ!?何で気づかないのさ、“師匠”!?」

師匠、と呼ばれた女性は聞いているのか聞いていないのか大きな欠伸をした。


「朝っぱらから五月蝿いなぁ、君は。私は忙しいのだ。ろくに睡眠時間も取れないくらいにな」

「そりゃあ、師匠が忙しいことぐらいぼくも知ってますよ!でも、起きているのに何で人がそばに居ても気づかないのかをぼくは言ってるんですよ!」

すると、彼女は怪訝そうな顔をして、


「ん?君、最初そんなこと私に聴いてたか?一人足りないとかどうとかだった気がするのだが...」

「ああ!そうだ!それですよ、何でぼくたち『冠位グランド』は6人の筈なのに5人しかいないのかを聴きたかったんですよ!」

忘れてた!、とやけに大暴れする青年。

と、唐突に後ろのドアが開き、男が入ってきた。

「そりゃあ、誰かが辞めたに決まってんだろ。...と言ってもお前らは2代目なのに未だに6人目が決まってないのは疑問だがな」

「おめーに聴いてねぇよ、おっさん。『冠位グランド』でも無いアンタが何を知ってるんだよ」

俺はまだ29だぞ!?、とややショックを受ける男。精神的にダメージを負ってしまったらしく、暫く項垂れていたがすぐに顔を上げた。


「まあ、そう言うな。俺はこう見えてかなり若い時から軍に入ってる。意外と知られてないことだって沢山知ってる」

「へー。なら一個なんか言ってみろよ」


男はそうだなぁ、と腕を組み、何かを考え始めた。するとすぐに手のひらを打った。

「皇帝様の好きな料理は納豆である」


部屋の空気が凍りついた。







彼らは、能力者である。

ある日突如覚醒し、天から与えられた能力を駆使し、国の為に戦う。

そして能力者達だけで結成された部隊、第86特殊能力部隊の中から大日本皇帝の勅撰によって6人の男女が選ばれる。

彼らのことを人々は『冠位グランド』と呼んだ。


彼らは皇帝に与えられた神器と能力を使用し、あらゆる敵を排除する帝国の切り札であり、最強の部隊である。




汝、時の叫びを挙げよ。


変革の時は近い。


同胞よ 旗を掲げよ、


我理想こそ、世の楔である。












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