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On The HELL  作者: fulldrive
1章 From Dawn
2/5

第二幕


少年は言った。

あらゆるもの全てを救いたいと。


少年は成した。

少年少女に世界を救わせることを。



少年は遺した。

世界に消えることの無い、憎悪を。



そして男は刻んだ。

一生消えることの無い、傷跡を。





episode:02 Revenge


数年前 北極海


其処の水は殆どの生命体の侵入を拒んだ。

其処の水は一度入ると、生命を奪ってしまう程の水温の低さを誇っている。

全ての生命を拒む、正しく自然の要塞と言える場所に一つの機影が飛んでいた。

その物体はやけに角張っており、一昔前のゲームのグラフィックをそのまま現実に投影したかのようだった。

その変態的な形状をした多目的ステルス強襲ヘリはその腹に数名の兵士を内包し、彼らの対象のポイントに輸送し、サポートするという役目を与えられていた。

当多面体ポリゴンは敵予想エリアに侵入するも、対空攻撃アンチエアインターセプターは見られず。順調に敵プラントへ接近している模様。みんな夢でも見てんのかね』

「そりゃあ、そうだ。このヘリは不可視ステルスだし、そもそも奴らはぼくらに位置がバレてることにすら気づいてないんじゃないかな」

頭にスカルキャップを被った男が気だるげに言い放ったヘリのパイロットに応じて言った。

ヘリの収納部には彼を含めた4人が腰掛けており、そして全員が都市型迷彩の野戦服を着、その手には昔から特殊部隊に愛用されているサブマシンガン――MP5にサプレッサーを取り付けたモデル、MP5SDが握られていた。

9mm弾を毎分800発発射可能で、有効射程は200mもある、スグレモノ銃である。

彼らは傍から見るとリラックスしているように見えるが、実際は各自の準備に余念が無く、ゆったりながら忙しなく目や手先を動かしている。

各々がハーネスのポーチを開き、正確な位置に予備弾倉やグレネードなどのその他お役立ちアイテムが収まっているかどうかを確認している。


今回の彼らの任務は二つ。

一つ、敵重要拠点の一つである、海上石油プラントの制圧。

二つ、敵国の機密情報の入手。

侵入方法は、脚部付近の氷河にヘリボーンによるロープ降下。

尚、敵戦闘員に発見された場合、増援は一切無く。隊員四人とヘリ一機で何とか対応しなければならない。

そんなある種の『スパイ大作戦』のような危険な任務に彼らは就いている。

彼らが所属する部隊は“寄生虫パラサイト”の名で通っていた。

なぜなら彼らの主な活動が敵拠点内部に潜入し、破壊もしくは制圧だからだ。

時には新米として敵の軍に入隊し、極秘情報を自軍に横流しする任務もある。

『ランデブー予定ポイントに到着。これ以上接近はできない。ロープを使って降りてくれ。幸運を祈る』

「応よ!お前も墜とされないようにな!」

目出し帽の兵士はそうヘリのパイロットに言い返しながら降下していった。

スカルキャップを被った兵士もパイロットに向かって人差し指と中指を絡ませてから降下した。



「降下完了。全員いるか?」

隊長格の男は、MP5に初弾が装填されているか確認しながら言った。

残りの隊員はお互い顔を見合わせ、全員いることが確認できたので隊長に頷き返す。

「よし。何度も言うが今回は潜入だ。くれぐれも迂闊に発砲するなよ?無駄な戦闘は極力避けろ。いいな?」

「「「了解」」」

四人はそれぞれの死角を埋めながら前身を開始する。

しかし、そこは北極海。

ブリザードは当然顔でびゅーびゅー吹くし、摂氏は-30℃を超えていた。

軍人でさえ、長時間の滞在は危険なコンディションである。

幾ら彼らが恵まれた環境内にあっても、こんな極寒の地でも凍え死ぬ事がなく

いつも通りの活動が出来るのは、最近開発されたテクノロジーの魔法のおかげである。

野戦服の下に着ているアンダーウェアには防弾加工だけでなく対熱、対寒加工も施してあり、用いられているのはいわゆる全天候対応オールウェザー素材というやつである。

他にも無線機の類は、外部に装着すると邪魔で仕方ないので体内に埋め込んだり、戦闘状況をリアルタイムで表示する為のバイザーが各員に支給されている。

これでもまだ寒かったり不便だと思う点があるところから人間というものの欲深さを改めてスカルキャップは感じた。


プラントの脚部に到着すると、彼らは腰からスパイ映画に出てきそうな拳銃型のものを取り出した。

これはいわゆる『ワイヤーガン』という代物で、引き金を引けばフックが銃口から飛び出す仕組みだ。

四人はそれぞれのワイヤーガンを構え、引っ掛けやすい鉄骨部分に狙いを定めた。

バシュッ、と空気を裂く音と共に氷点下の大気の中をフックが恐ろしい速度で空を駆け上がっていく。

しっかりひっかかったか確かめるため、二、三回本体を引っ張り、具合に満足すると彼らはワイヤーを巻きながらゆっくり登っていった。



『警報だ』

登ってる最中に、パイロットの焦る声が聞こえた。

『熱源が高速で作戦区域に接近してる!数は2。音速爆撃機と推測される!すまん、一旦 作戦区域ここから離れる!』

「わかった。くれぐれも墜とされるなよ。俺らが帰投リターントゥベースできなくなる」

『すまねぇ』

振り向くと彼らが降りた位置の少し上で滞空していた多面体ポリゴンが離れていくのが見えた。

「どうする。このままだと爆撃に巻き込まれる可能性があるぞ」

「いや、逆に考えろ。ここの連中が接近に気づかない筈はない。なら敵の注意は空に行く。その隙を突けば...」

「要するに、爆撃機を陽動として使うわけか」

スカルキャップが言い終わる前に、目出し帽が結論を言った。

隊長は頷いた。

「ならさっさと登ってしまうぞ。最悪、多面体ポリゴンが回収に来てくれるとは思うが、少しでも脱出が遅れたら海の藻屑だからな」



スカルキャップは登り終えると、まず残り三人が安全に上がれるように、周りの安全を確保することにした。

換気扇の裏に隠れ、動体検知センサーを起動する。

歩哨が二人、ここを巡回していた。

幸い、二人共スカルキャップの見える位置にいたので素早く頭に標準を合わせ、引き金を引く。

「済んだか?」

スカルキャップが頷くとギリースーツの男は満足気に頷き、近くにあった高台に攀じ登る。

彼は高台に登ると背中のバックパックを外し、何やら組み立て始めた。

それは一見、イギリスの狙撃銃――L95のような見た目をしているが、上にスコープが載っておらず、代わりに大型の高性能カメラが付けられている。

『――遠隔自動狙撃銃座オートスナイパーの設置が完了した。俺はこれから違う位置で狙撃に移る』

高台の上を見ると、ギリースーツの男が幸運を祈ることを示す、仕草をしてそのまま奥に消えていった。


中央に進めば進む程、敵の警戒網が強くなるのは当然のことだ。そこには地雷や感知センサー、監視カメラなどが針の山のだった。

だが、スカルキャップ達とてプロである。これらの類を回避する術を彼らは会得している為、幾ら沢山置いたところで機械達は彼らの足を止めることはできなかった。


ゆっくりと行軍を続けていると、突然鼓膜が振動した。

『無事か、お前ら?』

先ほど一時撤退したヘリのパイロットだった。

『良い知らせと悪い知らせがある。どっちから聞きたい?』


・・・


彼によると、良い知らせは敵の注意は見事に正体不明機アンノウンに向いているということ。

悪い知らせは、その不明機達の正体や意図が全く掴めないということ。

『ったく、爆撃するならとっととしろってんだ』

彼の言い分もわかる。こっちはいつ爆撃されるかわからないからその分、ビクビクしながら任務を続けるしかない。やるならパパッとやってほしいものだった。

と言っても、プラントごと沈められてしまえば元も子もないのだが。

結局爆撃される前に目標を達成する、という方針は変わらず、四人は行軍を再開した。

だがしかし、良い知らせの通り、敵の注意は空に向かっているわけであって中の警備はザル警備と言ってもいいほど雑なものであった。

途中、地雷クレイモアなどと言った定番のトラップも沢山あったが、トラップ専門家エキスパートである目出し帽のおかげでそれらは全て無力化されていった。

管制塔の前まで行くと、彼らは二手に別れ、スカルキャップは一人となった。正確には狙撃手スナイパーのギリースーツも含めた二人なのだが。

「para04、聞こえるか?こちらpara02」

『ああ、聞こえるさ。信用出来ないなら、その頭、ぶち抜いてやろうか?』

「怖いこと言うな。...これから制御室に入る。援護頼むぞ」

『任せろ』

彼は右手に拳銃、左手でノブを握り手始めにこの部屋を制圧することにした。







いや、ぼくは別にね?重い病気や障碍を患っている人を差別したいわけじゃないし、嫌いというわけじゃない。でも、今のままだと彼らは不幸でしかない。何故なら彼らには活躍できる場所や場面、状況がないからね。だから、ぼくが“作ってあげる”ことにしたんだ。

右を見てごらん。そこにある大型試験管、全部そういう人らの“脳”だ。

ぼくは彼らの脳を使って、義体サイボーグに入れて活躍する場を作ってあげてるんだよ。

不幸な人に手を差し伸べてあげる、力無き者に力を与える。それが、ぼくの仕事だし、宿命だと思っているんだ。


スカルキャップは目の前の男が何を言ってるのかこれっぽちもわからなかった。そして彼は一人の女性を思い浮かべた。

毎日のように戦場いくさばに向かう彼を心配してくれた女性。

幼い頃からずっと傍にいてくれた、唯一の肉親。

学生時代に両足を失い、こころが壊れてしまった大切な妹。

そして今でも必死に生きようとしている強い女性を。



・・・


義足のリハビリの時、心身共にボロボロになりながらも続けようとする彼女に彼は一度「もう辞めよう」と告げた。直後、彼女は態勢を崩し地面に派手に崩れ落ちる。カラン、と手にしていた杖が地面に叩きつけられ、乾いた音を立てる。

彼は慌てて近づき、手を差し伸べたが彼は他でもない彼女の手に突き飛ばされた。その意を問おうと彼女を見ると、その顔は怒りと悲しみで酷く歪んでいた。

「特別扱いしないでよ!」

彼女の言葉に彼は驚いた。普段の彼女からは全く考えられない言葉だったからだ。

お前には足が無いんだ。誰かが支えてやらないといけないだろ、と言うと彼女は更に激怒した。

「私が両足が不自由だからって何で特別扱いされなきゃならないの!?優しくされなきゃならないの!?兄さんは自分のことを“普通”だと思ってるからわからないのよ!」

彼女の言葉は彼に容赦なく突き刺さった。

そして彼は言いながらボロボロと泣き始める彼女を前にどうしたらいいのかわからなかった。

「私だって一生懸命生きてるのよ!今までみたいに“普通”に生きたいのよ!」

それは彼が生まれて初めて見た、妹の怒りだった。


・・・



気づくと彼は先ほど拘束した目の前の男の胸ぐらを掴みあげていた。

「殴りたいならどうぞ、ご自由に。それで気が済むならの話ですがね」

男が言い終わるや否や、スカルキャップは思いっきり右手で男の顔面を殴り飛ばす。派手な音を立てながら男は地面を転がる。それでも男は笑っていた。嘲っているのだ。

頭にきた彼は再び男の胸ぐらを掴みあげた。

「あいつらはな、お前みたいな野郎に一々手ェ打ってもらわなくても必死こいて生きてるんだよ!」

再び殴る。それでも男の嘲笑は止まらない。

「お前みたいのなのにどんだけ蔑まれても、命削って、血反吐吐いて、泥啜ってでも生きてんだよ!」

スカルキャップは馬乗りになって男を殴り続ける。既に意識はとんでいるようだが、それでも顔は嘲笑を浮かべていた。

そのことに更に腹を立てた彼は殴りかかろうとするが、

『そこまでにしとけ。お前さんの気持ちは分からんでもないが、任務は“確保”だ。殺害じゃない』

ギリースーツからの無線で我に返った。

「...すまない」

『謝る暇があるならとっととそいつを運べ。回収地点に向かうぞ』

スカルキャップは肯くと男を担ぎ、ゆっくりと管制塔のエレベーターへと向かった。

エレベーターに乗り込み、下で待ち伏せがあった時のために武器の手入れをしていると唐突に無線が入ってきた。目出し帽からだ。

『すまん、しくじった。敵と交戦状態になってる!何とか撒くから心配はしなくていいが、くれぐれも気をつけ――』

最後の方は銃声と絶叫でよく聞こえなかった。すると、今度はギリースーツから無線が入ってきた。

『聞こえるか?聞こえてるならよーく聞け。お前さんの乗ってるエレベーター、一階のエレベーター口で大量の兵士が待ち構えている。一度二階で降りろ。そこからなら援護してやれる』

という訳で、一度二階で降りることにした。


硝煙と血の匂いが辺りに立ち込めている。

このフロアで激しい戦闘が繰り広げられたことを弾痕や爆風で削れた壁が物語っている。

死体が放つ悪臭に顔を顰めつつも、スカルキャップは歩みを進める。

この辺りの兵士は皆体を小弾丸でズタズタにされていたが、奥の方に転がっている死体はどれも正確に頭を撃ち抜かれており、味方のギリースーツによって行われた殺人だと言うことが見て取れた。

突然、彼の頭が警笛を鳴らしだした。男を死角に寝かせ、腰からMP5を取り出す。息を潜め、僅かな気配でも探知できるようにする。

ふと、予感がして振り向きながら数発、銃弾を放った。その弾丸は丁度彼の裏を突こうとしていた敵の身体に吸い込まれていく。被弾した兵士はくるくるまわりながら力を喪い、地に伏した。

するとそれを引き金に兵士がわらわら現れ、彼を殺そうと躍起になって襲いかかってきた。少なくとも五人はいた。

MP5はどちらかと言えば対集団向けの銃ではない。しかし、今の彼はこの現状を打破できる装備を持っていなかった。

男を盾に一先ず、逃げることにした。

ここの地図は作戦会議ブリーフィングの際、全て頭の中に叩き込んでいた為、裏口や隠し通路など彼はすべて知っていた。

だから、かなりの余裕を持って武器庫に辿り着くことが出来たのだった。

中にある銃を手に取り、役に立ちそうな装備を探す。だが、中々見つからない。

いい加減諦めようか、と思い始めた時、彼は部屋の奥に何かしらのスーツが立てかけてあるのが見えた。

それは、彼の国では未だ試作段階である強化外骨格エクゾスケルトンだった。

これなら行ける、そう確信した彼は急いでそれを装着した。

何かしらのシステムが起動したのだろうか、モーターの稼働音が聞こえ放射状に広がっていた装甲がゆっくりと閉まり始めた。

『On The HELL』

バイザーにはそう記してあった。

だが、彼は知る由もない。

この強化外骨格エクゾスケルトンと、先程の正体不明機アンノウンは全く同類であることを。

そして、この兵器こそ後に世界を再び戦争に陥れる、今世紀最悪の兵器ジェノサイダーとなることを。






まだ、誰も知らなかった。



そして、静かな復讐リベンジェンスの物語が幕をあげる。





















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