第一章
俺には使命がある。
それは誰にも相談することが許されず、誰の手を借りることも許されない。俺だけの問題。
「人類殲滅計画」
もしもそんな計画があったら、しかもそれが自分にしか止めることの出来ないものだとしたら、きみならどうする?
俺ならそんな馬鹿らしい計画は止めてやる。無くしてやる。
きっときみも、そう思うだろう。
しかしもしその計画の主謀者が、もし可愛い女の子だとしたら、しかも自分がその子のことを好きだとしたら、きみならどうする?
俺は今まさにそんな状況に巻き込まれている。
「宇宙人が降りる町」
俺の住んでいる春日町は、はるか昔からUFO目撃情報が多発するため全国のUFOオタク共からそう呼ばれていた。
しかし俺にはそんなことは全然全く関係ない。ましてやこの町で生まれて17年経つと言うのに、UFOの一つも見たこと無い俺からしたら、UFOやら宇宙人なんてものは、馬鹿な学者が夢で見た妄想でしか無い。とまで俺は思っている。
2月のクソ寒い真夜中、街灯の光だけを頼りに電柱に張ってある「UFO目撃情報集!!」を見て俺はそう思っていた。
写真などの物的証拠を提供していただいた人には、感謝料と言うことで現金20万円を進呈いたします。
「おいおいマジかよ馬鹿な金持ちもいたもんだ。」
とは、言ってみるも俺は20万円が喉から手が出るほど欲しかった。
2月が始まってまだ数日しか経ってないというのに俺の財布の中には千円しか入っていない。
このままではどう頑張っても2週間後、ただっ広い部屋の真ん中で水をすすって飢えをしのぐ事態が待ち受けている事は明白だった。
「マジヤベェ」
ん?
背後に俺の長袖のすそをぐいぐい引っ張ってくる何か者かがいた。
そっと振り返る。
そこにはうつむいたままで、すそをぐいぐい引っ張る女の子がいた。
髪ショートでこの冬の暗闇のように深く濃い黒色、体格から見るに俺と同じ17,8歳ほどの子に見えた。
ただ引っ張ってくるだけ、一言もしゃべらない。
「ど、どうしたんですか?何かあったんですか?」
「あなたの家に連れて行って」
急に喋りだしたかと思うと、彼女はとんでもないことを言い放った。
「どういったご用件ですか?」
俺は動揺していることを隠すために、最大限冷静聞いた。
「今は言えない。家に着いたら教える」
今まで女の子にこんなこと言われたことのなかった。俺はどうしていいか分からず、すそを掴んでいる彼女の手を振りほどき、自分の家に向かって走って逃げてしまった。
ふと後ろを見た。彼女は走って俺の後を追いかけてきていた。
いったいどうなってんだ?俺がなんかしたのか?
いつも通りバイトが終わり、家に帰る途中だったはずだ。
無事家の前に到着した。
俺の目の前には一戸建ての立派な家が建っている。二年前交通事故で無くなった両親が俺に残していった遺産だ。
俺達家族はこの家で楽しく暮らしていた。優しい母さん、面白い父さん二人の思い出が詰まったこの家は、いくら金が無くても手放すことが出来ない紛れも無い俺の宝物だ。
おっと、思い出に浸っている場合ではなかった。さっきの子はどうなった?まだついてきてるのか?
ついてきていた。しかしその足は亀のように遅く、見ているこっちが恥ずかしくなってしまいそうだ。
家まであと20メートル。頑張れ!
何故か俺は心の中で彼女を応援していた。
あっ!!
家まであと10メートルと言うところで、彼女は思いっきりずっこけた。
何も無かったかのように立ち上がる。
しかしその足取りはさっきよりも遅く、明らかに足を怪我していた。
やっとのことで俺の前まで来たときには彼女はぜぇぜぇ息を切らしており、とても無視することなど出来ない状態だった。
「そこまでしていったい俺に何の用があるんだ?」
「はぁはぁ・・・い、今は言えない。家に着いたら・・・」
俺は彼女を家に入れることにした。