傭兵
街への道を歩く。だが、その足取りはいつもと違い、物理的には軽かったが……重たい物だ。
エルマさんに提案した次の日に、エリーゼさんにも説得するよう頼んでみたが何故だか解らないが断られた。
『できません』
彼女はその一言を俺に放った。その顔にはいつもの笑顔はなく、少し困った感じであった。それでも食い下がる俺に
『何故そんなにこだわるんですか~?ショータには関係のない事ですよね~?』
その冷たい一言を浴びせた。俺はそれに対して答えることができなかった。
答えられなかった俺に配慮してか、笑顔で
『もうこの話はおわりにしましょう~』
その場はそう切り上げてくれたエリーゼさんだった。
強い拒絶……ここまでの物がこの人にあったとは。見た目や雰囲気とは裏腹にしっかりとした主張を持っているのかもしれない。いや、譲れないものがあるのか?
しかし、昨日までのエリーゼさんからはそれは読み取れない。俺の知らない間に何かあったのだろうか?たった一晩で考えが簡単に固まるようなものか?解らないな。
何にせよ、彼女たち二人が俺の提案を拒否したことには変わりはない。いや、拒絶されたのだ。
自分が拒絶された訳ではないが、少しだけ寂しさを感じてしまう。他人から否定される事は、やはり、寂しい。
だが、寂しいからと言って次の手を考えないのはダメだ。一歩でも進むために考え続けなければ。そうして、至った結論が……
「雇われねぇ。私はあまり賢い手段ではないと思うわ?」
思考に突っ込みを入れないでほしいのだが。
「聞こえるんだから仕方ないじゃない」
「……聞こえてても突っ込まない事がありますよね?」
「それは配慮してあげてるだけよ」
なら、今回も配慮してほしいものなんだが……。
「贅沢ね。もうどうなっても知らないわよ?」
呆れた様子でこちらにそう返答するリサさん。どうなっても知らない……か。それは困るな。この様子なら、本当に何かあった時に手を貸してくれなさそうだ。
「すみません」
「それでいいのよ」
俺はエルマさんやエリーゼさんの私的領域に踏み込み、荒らしている。善行ではないその行為に迷ってしまう。本当に俺がどうにかすべき問題なのか?
自分が手を付けてしまっていいのか?と……しかし、リサさんは曖昧ではあるが、あそこで行うべき事には金銭的問題もあると言った。であれば、俺はこの問題を解決しなければならないはず。
しかし、感情面から言ってどうだろうか?彼女たちにとっては余計なお世話、不快極まりない行為である。それを考えると当事者が迷惑がっているのだからやるべきではない。そういった結論にもなる。
人間的に言えば……正しくない。それが俺を苦しめ、自信を失う。頭の中では是非を問う堂々巡りが起こり続けている。
そういえば、俺はこういう時は家族に相談とかしていた。母はしっかり答えてくれたし、父も客観論が強い人ではあったがちゃんと相談に乗ってくれた。兄は情熱論が強い人だったな。弟は……相談したことないな。
今思えば、恵まれた環境ではなかったのだろうかと思う。みな俺の質問に関して真面目に悩んで答えをくれた。社会ではありえない事だ。そう思えば思うほど……俺は家族にすまない事をしたと後悔をする。
あぁ、父や母、兄がいてくれたら……しかし、それはない物ねだりでしかない。今の俺には相談相手などいない。また、心に悲しさが現れる。
「リサさん……俺がやろうとしていることは本当に良いのでしょうか?」
耐えきれなくて隣で一緒に歩いている少女に聞く。
「……それを私に聞くの?あなたまるで、シャロみたいね」
「シャロ……ですか?」
「えぇ、そうよ?」
何がどう……。あぁ、そういう事か……なるほど。そうかもしれない、彼女も自分のやることに自信が無くて落ち込んでいたな。確か、侯爵が死んだ後だったか?
あのタイミングで彼女は家族をすべて失った。そして、自分のやろうとしている事は世間的には非難されるもの。今の俺と同じような物だな。まぁ、少し違うか。
彼女はこんな気分だったのか……。頭で想像するよりも、ずっと辛い気分だ。
「って、着いたわよ?」
「え?あぁ……ありがとうございます」
言われて、現実を直視する。どうやら街の中に入って目的の一つである羊皮紙を置いている店に着いていたようだ。
「で、どうするの?」
「えぇ。申し訳ないのですが、リサさんにもう一度手紙を書いてもらおうかと……」
「また?あぁ、プリルヴィッツ家の人にって事かしら?」
一瞬驚いていたが、瞬時に理解したらしい。より現代人に近いリサさんには感覚の面で親近感が湧く。
「えぇ、事の顛末を伝えて、保留にしておかなければ彼らにも悪いですから」
「そうね」
俺たちは店に入り、羊皮紙を買う。そして、俺はリサさんに手紙の文章をそらんじて伝える。それをリサさんが店に置いてある羽ペンでこの世界の文字にして書き起こしてくれる。
「はい、できたわよ?」
「それでは、役所に行きましょうか」
そうして俺たちは店を出る。ちなみに、この店は唯一本も売っていたがそれを立ち読みすることはできないように、鍵が着いていた。なので、現状、本を読むには購入する以外に方法はなさそうだ。
「さて、手紙を配達してくれる都市飛脚は役所だったな」
「あまり変わらないのね……どこもかしこも」
急に懐かしむようにそんな言葉をリサさんが口にする。どういう事だ?
「何か言いましたか?」
「いえ、何でもないわ。さぁ、行きましょう?」
「はい」
解らないなリサさんが懐かしんだのはどれだ?手紙の事か?だとしても懐かしむ物か?いや、何千年も生きているから、同じような制度を見ると懐かしい物なのかもしれないのか?
やはり、知らないことが多すぎて推察ができないな。
役所に入るなり、俺は都市飛脚の文字を探す。……読むことができて、書くことができないアンバランスさはいつ考えても妙な感じである。
窓口の一つに都市飛脚の文字があり、そこに投函する箱があった。前に出したのと同じように俺はそれに手紙を投函して役所から出る。
「さぁ、次は?」
「傭兵組合に行きましょう」
「……私はやめた方がいいと思うけど……まぁ、勝手にしなさい」
彼女のその言葉の意味を深く考えるべきかとも思ったが……大体の予想が着くので、俺はそれを聞き流して、事前にエリーゼさんから聞いていた組合が密集する広場へと足を運ぶ。
組合広場には色々な看板があちらこちらにあるが……鍛冶屋ではない方へと向かっていく傭兵たちに俺は付いて店に入る。
建物に入ってみると、傭兵らしき人達が紙の張られた木板の前に立っていた。恐らく、掲示板だろう。辺りを見回すと机に座って談笑している傭兵もいる。他にも窓口らしきものが掲示板の奥の方にあった。
掲示板に近づいてみる。よく見ると掲示板の横に『ご意見箱』という物が設置されていた。護衛仕事か魔物掃除と言った物が多く……報酬も銀貨がメインの安い物ばかりだ。と言っても、相場を知らないのに安いというのも変だが……。
お?一ついいのがある。1ヶ月護衛するだけで金貨1000枚……これにするか。俺はその紙を引き?がして窓口らしき所へ持っていく。
「この仕事を受けたいのですが……」
「ん?君は見ない顔だね……組合員かい?」
中年くらいの受付の男性が俺の顔を見るなり、やる気無さそうにそう答える。
「いえ、そうではないのですが……お金が入り用で」
「ふぅ~ん、じゃぁ、名前は?」
「あ、はい……ショータ・ヤマガミです」
「ん?どう書くんだい?」
「あぁ、えぇっと……」
不味いな。自分の名前なんてどう書くか知らないぞ?横に居るリサさんに目を向けて助けを求める。が……
「まぁ、いいや……書いて」
「え?あ、はい」
先に紙と羽ペンを突き付けられてしまった。仕方ない、リサさんに渡して書いてもらおう。
「リサ……すまないが。これを……」
「待て、君はこれを本当に受けるつもりか?」
受付の男が目を見開いて書類を見ながらそう聞いてくる。何だというのだろうか?
「えぇ、はい。そのつもりです」
「馬鹿か?」
「どういう事です?」
「この仕事の内容は解ってるのか?」
怒声に近い様な声で聞いてくる受付の男。こちらに向けられた表情は信じられないといった感じだ。
「え?えぇ、護衛するだけですよね?」
「……はぁ」
溜め息?何か失礼な人だな。何か認識が誤っているのだろうか?
「その護衛に含まれる業務は?」
「魔物退治ではないのですか?」
「ちっ!……やめろやめろ!帰れ!お前じゃ無理だ!」
うんざりした様な表情をして、募集要項の紙を受付の上に落とすなり、右手を何度も振り払って俺達を追い払う動作をしてくる。
「何故ですか?!やってみなければ解らないじゃないですか!」
思わず受付の机を強く叩く。
「解る。お前じゃ無理だ」
「無理だとしても……私はやらなければいけないんです!」
相手は耳を掻いていて、こちらの事を全く聞き入れる様子はない。くそ、何だって言うんだ!?
「お兄ちゃん……出直そうよ?」
「うるさい!やらなければならないんだ!」
そうだ……ここでやれないならば、後は望みが薄い方法しか存在しない。
「いい加減にしときな!」
後ろからしゃがれた声でそんな言葉を浴びせられ、俺は振り返る。声がした方へ向いた視線の先には、入ったときは机で談話していた女性が席を立ってこちらを見ていた。
その女性は赤い長い髪をシャロと同じように後ろで結んでポニーテールにしていた。片方の目が隠れるほどの長さが前髪にあったが、もう一方の目から感じる鋭さは長年戦いに身を置いた人間の目そのものだった。
「何だって言うんです!」
「できもしない依頼を窓口でゴネられても、邪魔なんだよ」
「それはやってみなければ解らないじゃないですか!」
「じゃぁ、あんたはどんなのをやったことがあるんだい?」
女傭兵は俺を睨みつけながらそう質問する。俺の戦績が関係あるのだろうか?どの程度の物か自分でもわからないが言ってみるか。
「……フェルウルフとモルベアなら」
「フェルウルフとモルベア?そんな小物相手しか経験が無いのに大商人の護衛だってよ、お笑い種じゃあないか!」
彼女の言葉と共に店の中で俺を侮蔑する笑いが一斉に沸き起こる。確かに、経験としては少ないのは解るが。これは屈辱だ。
「これで解るだろ?あんたにゃ無理だ」
「それでも、俺はやりたいんです」
「……まだ解らないのかい?表へ出な!」
女傭兵は親指で外をさす。やってやろうじゃないか。
「おい、ノーマ」
「うるさい!オスカー」
連れ合いの鎧を着こんだ傭兵が止めようとするが、それを一蹴してノーマと呼ばれた女性は外へ出ていく。俺もノーマと対峙するために外へ出る。
「私に一太刀でも浴びせれれば、少しは認めてやるよ」
ノーマは連れ合いのオスカーのように鎧を着こんでおらず、胸当てと肩当てと言った軽装だ。武器は……腰の後ろに付けた斧だろう。
俺はムラサメを抜いて、両手で構える。ムラサメを寸止めすれば問題はないだろう。
「一太刀でいいんだな?」
「あぁ、当てられる物ならな」
そう言って彼女は構える。……ん?斧を抜かないだと!?舐めやがって。
「行きますよ!」
全速力で間合いを詰める。一瞬、彼女は驚いたような目をする。これは貰った!
ムラサメを右逆袈裟の体勢で寸止めしようとする。が、寸止めをするまでもなく彼女は後ろに下がって避けていた。
もう一度、間合いを詰めて今度は右から左にムラサメを払う形で寸止めする。しかし、またも先に避けられていた。
間合いを詰めて、左から右へムラサメを払う形で寸止めする。その必要もなく避けられる。
「なんだい?手加減のつもりかい?あんた、さっきから全力で振ってないだろ?」
「ぐぐぐ」
くそ!こうなったら全力で!……間合いを詰めて、右袈裟切りをするが避けられる。しかも、今度は後ろに下がることなく体をずらしただけで避けられる。
幾度か全力でムラサメを振るが、全て余裕で避けられる。
「この野郎!」
もっと深く詰めれば避けられまい!俺はそう思い、リサさんに教えられた間合いよりも深く詰めて右袈裟切りをする。だが、
「がっ!」
腹部に衝撃が走る。相手の右膝が俺を捉えていた。
「ふん!」
「ごっ!」
首が!?ちくしょう!このぉ!
俺の突きを難なく交わして距離を取ってくるノーラ。どうやら右膝で腹を蹴られた他、首に肘打ち食らったらしい。腹と首が痛む。
魔呪の衣に耐衝撃性はない。それは解っていたが……これがその結果とは。
頭もフラフラして、足も腰も力が入らない……顔や腹の殴られた場所が焼けるように熱い。ムラサメなど、とうに離してしまっている。
ノーラの元へゆっくりと近づいて、彼女の顔に右拳を力一杯ぶつける。
ペチッ……。
そんな音しか出ない。ノーラは俺の手を払いのけて襟を掴んできた。顔が近い。意識が遠のきそうだ。
「あんたはもう負けてんだよ!解っただろ!」
負けているのは解っている。自分が弱いのも解っている。だが、負けるわけにはいかない。いかないんだ。
「そ……それでも、俺は……や……やら……なけ……れば」
口の中が切れたり、腫れたりしていて喋りにくい。血の味がする。
俺がやらなければエルマさんやエリーゼさんは将来飢え死にしてしまう。それだけは何としても避けなければ!
何故、俺はここまで必死になっているんだ?エリーゼさんが好きだからか?いや、違う。ほわほわとしているが、一生懸命に生き、動物や自然を好む彼女を魅力的だとは思ったが……好きと言った感覚ではない。
エルマさん……そう、エルマさんが俺にとって祖父と重なって見えてしまうのだ。時折見せる、物悲しげな表情や必死に生きようとしている様。それを文句ひとつ言わず、必死に助けようとするエリーゼさん。
それらを見ていると心が痛くなった。俺でも何かできないかと考えてしまっていた。元々、あの家の人たちを救うのが今回の目的ではあるが……そんな事は関係ない。
祖父を見捨てたも同然に成ってしまった事を繰り返さない為にも、俺は彼女達の手伝いをしたいと思ってしまっていたのだろう。
だから、俺がしなければならない。いや、俺がしたい!
「ちっ!」
背中に衝撃が走って、空が見える。どうやら地面に叩きつけられたらしい。足や手に力が入らない……こりゃ、もう立てねぇな。
「お兄ちゃん!」
リサさんが近づいて来て、蒼ざめた表情を覗かせる。下手をすれば今からでも泣き出しそうだ。演技だとしてもうれしい。
突然、リサさんが立ち上がってナイフを取り出し、俺の体を跨ぐ形で立つ。
「ほう、私とやろうってのかい?」
鉄と鉄がぶつかり合う音がする。リサさんが斧をナイフで受け止めてるようだ。って、止めさされるのか。やばいな、こりゃ。
「ふん!」
「きゃっ!」
ノーラの足が見える。どうやらリサさんは蹴られたようだ。
「ぐっ……うぅぅ……」
また襟を掴まれ、持ち上げられる。右手には斧を持ち、顔の前に突き付けられた。俺の人生は……ここで終わりかも知れないな。あぁ、でも、もっと足掻かないと……でなければ、助けたいと思ったことは嘘になってしまうな。
「くっ……うぅぅぅ!」
どれほど力を込めても手も足も動かない。このまま死ぬしかないのか?そう思っていると……。
「お兄ちゃんをこれ以上傷つけないでぇぇぇぇ!」
リサさんがナイフを突き立てようと横から突進してくるが、ノーラはそれを斧を持った手で止めて蹴り飛ばす。
「きゃぁ!」
地面に擦られるリサさん。服に汚れが付くだろうに。
「ま、まだ……まだ!」
負けずに立ち上がる。
「うぅ!」
今度は真正面に地面が……ノーラが左手を離して俺を落としたらしい。左に顔を向ける。ノーラがリサさんの方へ向かって行った。
「ノーラ……いくら何でも」
「やかましい!」
オスカーが横から止めに入るが、ノーラはオスカーを突き飛ばしてリサさんの元へ向かう。リサさんだから死にはしないだろうが……。
それに対して、リサさんがナイフを持って戦いを挑むが蹴り飛ばされる。
一度、二度、三度……と。何故、リサさんがそうするのかよく解らない。が、衣服はボロボロ、膝と手は擦り傷だらけ。それでも彼女はノーラさんに向かおうとする。
演技だろうとは思っていても、心に来るものがある。
何度目かの蹴りが入ったとき……リサさんは立ち上がれなくなった。
それを見届けた、ノーラはこちらに戻ってくる。
「どうだ、自分の実力がよくわかったか!そして、自分が無理をすればどうなるか解ったか!」
「うぅ……」
顔を喋りかけるノーラに向ける。その顔は険しい。
そうか……俺が弱いから……弱いのに無理をしようとするから、こんなことになったのか。
「私レベルの奴などそこら中に居る。護衛中の山賊や盗賊の中にもだ!」
このレベルが普通に居るのか……。ははは、それなら、俺じゃ、どうにもならないな。じゃぁ、あの最初に出会った盗賊は大したことなかったって事か。
「解ったら、さっさと帰ることだね!」
そう吐き捨てると傭兵組合の方へと歩みを進めていく。
「あそこまでしなくても良かったんじゃないか?」
「私はああいうのを見ると腹が立って仕方ないのさ!」
そんな事を会話しながらノーラとオスカーは店に入っていった。
誰も助ける人は居なかった。というより、この辺は傭兵が多くて一般人はあまり近づかないようだった。
「大丈夫?」
少し経って、リサさんがそう声をかけてくる。顔をそちらに向ける。擦れて汚れ、穴が開いてしまっている衣服を纏った体で、足を引き摺りながらリサさんが歩いて来ている。
俺も立たなければ……。左肘をついて上半身を起こそうとする。腹に響くな……。
「ふ……ぅぅ!」
後ろに倒れ込みそうになるのを何とか支えて正座をする。
「治すにしてもここではできないわ……立てる?」
力を込めて右腕で地面を突くが立ち上がれそうにない。
「手を貸してもらえますか?」
「はい」
リサさんの右腕を借りて立ち上がる。まだ足がふらつきそうだ。
「すみません……」
「悪いことしたわね」
「俺にですか?」
「いいえ、彼女によ」
リサさんの視線の先には傭兵組合があった。つまり、さっきのノーラという女傭兵の事だろう。何が悪い事なのだろうか?
「結局、あなたの為とはいえ、あの子の心を弄んだのと同じだから」
なるほど、リサさんはこうなるのが解っててここに来たのか……。
「口で言ってくれれば俺はしなかった……」
「そうかしら?あなたは他人の言葉を聞く余裕があった?」
……なかった。としか言いようがない。周りが見えてなかったのだろうな。腹が立つが……今回の件で思い出した。俺は弱い事を。
「さぁ、帰りましょう?」
「えぇ……」
俺たちは街の外に出るまで怪我をした体で歩いて行き。そして、人目の付かない所についてからリサさんに魔法で治療をしてもらった。リサさんの衣服も魔法で治したようである。
外に出るまでに俺よりも軽快に動けていたから、リサさんは見た目よりも傷は大したことなかったのかも知れない。
リーベルト家へ帰る際、道を逸れたところに見慣れない岩が固まって置かれているのを見た。今まではあんなところに岩などなかったと思うのだが……どういう事だろうか?
気になったものの、俺達はそのままリーベルト家へ帰宅した。