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選帝侯

小麦を店の中へと全て運び入れて、自分の荷車の方へと戻る。

「はい、エリーちゃん。これが今回の分だよ」

「ありがとうございます~」

パン屋の主人の奥さんであろう女性に礼をするエリーゼさん。神父さんの件といい、ここと言い、どうやら知り合いのようだ。いや、お得意様と言った感じか?

だから、エリーゼさんは数の概念を知らなくても良かったのかもしれない。

「またよろしくお願いします~」

「こっちもまたよろしくね!」

パン屋の奥さんが店に戻る。エリーゼさんが受け取ったのは、小麦のお金とパンらしい。但し、パンの代金は先に引かれてるようだった。

「では~、次は服屋にいきますよ~」

「解りました」

しかし、服なら十分ある気がするのだが……何故行く必要があるのだろうか?そんな疑問を持ちつつ、俺はエリーゼさんについて行く。

「ここですよ~」

女性服らしきものが描かれた看板がある店の前でそう彼女が紹介する。

「やぁ、エリーゼちゃん……元気かい?」

「あ~、アレクさん」

ちょうど店に戻ってきた中年男性にエリーゼさんが挨拶する。服屋の主人だろうか?

「今日はどのくらいいるんだい?」

「そうですね~。1週間分くらいでしょうか?」

「1週間分ね!ちょっと待ってな!」

そう返事をすると男は店へと戻っていく。

「今日、寄ったところは全て知り合いの店なのですか?」

エリーゼさんに近寄り、そんなことを聞く。

「そうですよ~、お父さんの代から知り合いです~」

「なるほど」

父親の代からのお得意先か……。

「お待たせ!その荷車に入れればいいかな?」

「はい~」

服屋の主人が紐で結ばれた大量の紙の束を持って出てきて、それを荷車に乗せる。紙?何故紙が服屋から?

「いくらですか~?」

「え?えぇ~っと、銀貨1枚くらいだな」

「はい~」

「お?おぉ……」

銀貨を受け取った服屋の主人は間の抜けたような返事をする。

「どうかされましたか~?」

「エリーゼちゃんにいくらか?なんて初めて聞かれたもんだから……」

「そういえば、そうでしたね~。私もちゃんと教えてもらったんです~」

ニコニコとするエリーゼさん。

「そうかそうか!それは良かった良かった!ハッハッハ!またよろしくなー!」

「はい~」

快活そうに笑いながら服屋の主人は手を振りながら店の奥へと入っていった。

「服屋が紙を売ってるんですね?」

「はい~、粗紙なら服屋さんですね~」

「そし?粗い紙ですか…?」

「そうですよ~?羊皮紙は高いので買わないんですよ~」

「そうなんですか」

粗い紙……確かに、荷車に積まれた紙はすぐにでも破れそうな普通の紙だ。

「次は油と蝋燭ですね~。行きましょう~」

「はい」

紙……そういえば、紙と言えば本だが、エルマさんの家には本が見当たらなかったな。住むことになって早々、この世界を知るには本が一番最適だから、少し部屋の中を探したのだが……そんなものはなかった。

「質問よろしいでしょうか?」

「はい~?」

「本とかはないのでしょうか?」

「本ですか~?聖書なら部屋の引き出しにありますよ~?」

確かに、聖書の方は絵画下の棚の引き出しにあったが……。俺が知りたいことはそんなことではない。もっと政治的・世相的な物なんだが。

「いえ、色々な情報が載ってる本ですね」

「情報ですか~」

エリーゼさんが人差し指を唇に当てて考えている。

「あるんですが~、見てみたいんですか~?」

「え?えぇ、はい」

「う~ん」

エリーゼさんがさらに悩み始めた。彼女の綺麗な眉の間に皺が表れる。

「どうかされましたか?」

「いえ~、本は高いんですよ~」

「そうなのですか?」

「一冊だけで銀貨5枚くらいします~」

それは高い……というより、高すぎる。

「なぜそんなに高いのですか?」

「羊皮紙で作られているので~、高いんですよ~」

「羊皮紙そのものが高いのですか?」

「そうですよ~、その紙の3枚分くらいします~」

先ほど買って、荷車に積んだ紙の束を指して説明をしてくれるエリーゼさん。

「それは……贅沢品ですね」

「そうなんです~。だから、それを買うのをお母さまが許して下さるかどうか~」

いつになく……先ほど俺が色々と説明した時よりも更に難しい顔をして悩んでいる。

「いえ、そういう訳でしたら買わなくても大丈夫です」

「すみません~。自由に使える私のお金があれば買えるのですけど~」

「いえいえ、そこまでしてもらう訳にはいきませんので」

「そうですか~?」

「はい」

他人のお金を使ってまで自分の欲しいものを買おうという気にはなれないな。それに、いざとなれば、旅立つ前にシャロから貰った路銀を使えば済むことだ。

「あ、ここです~」

蝋燭が描かれた看板を立てた建物の前に来たので、エリーゼさんが立ち止まる。

「お?エリーゼかい?」

店に入ろうとした中年の女性がエリーゼさんを見るなり、そう挨拶をする。

「あ~、デボラおばさん。お世話になってます~」

「あぁ、で、その隣の坊やは?」

デボラと呼ばれた女性は俺を訝しみながら見つめる。まぁ、今まで見たことない人間が一緒にいるのだから普通は疑うだろう。

「私はエルマさんの……」

「この人は私の所に来てくれた旅人さんで、ショータって言う方なんです~。とても色んなことを知っている人なんですよ~」

「へぇ~、そうかい……なるほどねぇ~」

「はい、これからよろしくお願いします」

自己紹介をしようとしたらエリーゼさんがしてしまったので、礼だけはしておく。

「エリーゼ、いろいろ大変だろうけど……一緒に頑張りなよ?」

俺とエリーゼさんを見比べてそんなことを口にするデボラさん。どういう意味合いが含まれているのだろうか?

「はい~!ありがとうございます~!」

いつもの雰囲気とは違う事が感じられるほどの喜びを醸し出しながらエリーゼさんはその言葉に答える。……何が嬉しいのだろうか?解らないな。

「ところで今日はどのくらい蝋燭と油が必要なんだい?」

「1週間分位です~」

「じゃぁ、ショータだったかい?」

「はい?」

「あんたが運ぶの手伝ってくれるかい?」

「はい、解りました」

言われるがままに店の中へと入っていく。

「お……おぉ」

店に入るなり、棚に置かれている蝋燭にも色々とあるのに驚愕する。蝋燭の前に書かれた文字を読むに、蜜蝋で作られた蝋燭もあれば動物の油を使った蝋燭も存在するらしい。

一言に蝋燭と言ってもこれほどに種類があるのか……現代では想像つかないものばかりだ、

「ほれ、これを積んでくれるかい?」

「はい」

指示された木箱を両手で持ちあげようとする。そこそこに重い。

「あの子、人当たりが良くて可愛いだろ?」

「え?えぇ、そうですね」

恐らくはエリーゼさんの事だろうが……いきなり何だろうか?

「大事にしてやりなよ?」

「え?えぇ……」

その台詞は俺に言う物じゃないと思うんだが……おかしいなぁ。

 疑問に思ったが、俺は追求せずに荷物を荷台まで運ぶことにした。

「よっこらしょ……と」

荷車に木箱を置くのに無駄な言葉が出てしまった。少し年寄り臭くて恥ずかしいな。

「おばさん、いくらですか~?」

デボラさんが油の入っているであろう壺を荷車に置いたのを見届けるなり、エリーゼさんが料金を聞く。

「ん?えっと、そうだね……銀貨1枚くらいだね」

「はい~」

ふと、買った紙が目に入る。……そういえば、シャロに手紙でも書くべきだろうか?いや、数日しか経ってないから、別段必要もないか?

しかし、手紙用に紙も欲しいと言えば欲しい。

「エリーゼ、手紙を書く為の紙はこの紙で良ろしいんですか?」

「手紙?手紙って何ですか~?」

おぅ!?手紙が解らないって!?どういうことだよ……。

「手紙かい?故郷にでも書くのかい?」

「え?えぇ、まぁ」

デボラさんの突然の突っ込みに動揺してしまう。まぁ、この世界での故郷の様な物だからあながち間違いではない……はず。

「だとしたら、羊皮紙で書かなきゃ、雨や海水に濡れて溶けてしまうよ?」

「羊皮紙ですか……解りました、ありがとうございます」

羊皮紙は高いらしいから、今頼むべきことではないな。

「それじゃ、私は店に戻るよ?」

「はい~。ありがとうございました~」

「ありがとうございます」

エリーゼさんに合わせて俺も頭を下げる。

「羊皮紙……いりますか~?」

デボラさんが店に入ったのを確認したエリーゼさんがそう質問してくる。

「いえ」

「そうですか~。……ごめんなさい~」

エリーゼさんの顔が少し暗くなる。うん、あまり気にしないでくれた方がいいのだが、難しいか。

「……帰りましょうか~」

「そうですね」

俺は両手で荷車を掴みながら歩き始めた。



「先ほど言っていた手紙って何ですか~?」

広場に差し掛かったところでエリーゼさんがそう切り出してくる。手紙……やっぱり、見たことないのか。

「えぇ~っと、紙に本の様な字を書いて他人に自分がどうしているかを伝える方法ですよ」

「そうなんですか~」

納得してもらえて何より……。あれ?そう言えば、俺はこの世界の文字はかけないぞ?どうやってシャロに読んでもらうんだ?日本語では伝わらないから……リサさんに書いてもらえばいいか。

 視線を広場に戻す。もう夕方を回っており、人通りも少ない。なので、こちらに向かって歩いてくる人もはっきりと解る。

「ごほっごほっ!」

「父上、大丈夫ですか?」

俺たちの方へ歩いて来ていた初老に近い、白髪が混じった金髪の男が急に立ち止まり、咳き込む。その男は黒地の上下服に橙色のスカートの様なズボン(膝で膨らんだ裾を留めているためズボンだと解る)、両腕にオレンジ色のショールを着けていた。

その隣に居る金色の髪をした短髪の少年……恐らく息子であろう人物が咳き込んだ男を心配する。

「選帝侯の方ですね~」

「そうなんですか」

選帝侯……世界史に登場する単語だ。さて、どういう意味だったかな?確か、国王を選定する権利を持つとか何とか。先ほどエリーゼさんに教えるときにはこちらからばかりで、一つも聞けてないからなぁ。

「いや、大丈夫だ」

「ご無理をなさらずに……僕は心配です」

「何、大したことではな……おっと、失礼」

後ろから来たローブを被った者が選帝侯に当たってしまったようだ。少し彼がよろめく。

「いえ、こちらこそ」

ぶつかった者は一言謝るとつかつかとこちらに向かって歩いてくる。

「ところで選帝侯って何ですか?」

「選帝侯ですか~?それはですね~」

何気なく見ていただけなので向かいの男たちから目をそらす。それよりも、選帝侯について詳しく聞きたい。何か色々手掛かりになるかもしれないしな。

こちらに歩いてくる男を避けるのは、先ほどの男の向きから予測して動いた……が。

「うわっ!」

「あっ!すみません」

ぶつかってしまった。

「いえ、こちらこ……」

フードを被った男の懐から金貨が落ちる。

「あぁ、すみません」

落ちた金貨を俺は拾う。これはよそ見していた俺が悪い。

「はい、どうぞ」

「あぁ、ありがとう」

礼を言って金貨を袋にしまう男。その袋には大量の金貨が入っていた。

男は見た感じの年齢は中年ほどで、顔はやせ細っており、それほど血色がいいとは思えない。それに加えて、衣服はボロボロだ……とても金持ちには見えない。

そんな印象を受けていたが、男は金貨を袋に入れた瞬間にさっさと俺を避けていく。

「あれ?父上、財布は?」

先ほどよろめいた父親を心配して、寄り添っていたのであろう短髪の少年がそんな事を言い出す。

「むっ?ないな……さっきまでは有ったというのに……」

「財布の紐が切られております!父上!」

財布の紐が切られている……考えられるのは窃盗……もし、目の前で起こったのなら……そう思って、俺とぶつかったローブ男を疑いの目を送る。

「ちっ!」

こちらの視線に気づいたのか、いきなり走り出すローブ男。

「待て!」

少年がローブ男を追いかける為に俺の横を通り過ぎた。ふむ、さすがに目の前で窃盗が起こったとなれば……放って置く訳にもいかないな。

「あら~、どうしましょう~」

「すみません、エリーゼ。この荷車の面倒をお願いしますね?」

「え~?はい~」

横でほんわかと困っているエリーゼさんに自分の荷車の事を頼んでから、俺は先ほどの男を追いかける。多少、得心して無い様な感じではあったが……大丈夫だろう。

 大通り沿いに俺は窃盗犯を追いかける。

「お前!何しているんだ!」

同じように走っている金髪の少年がこちらにそんな怒声を浴びせてくる。

「え?いや、お手伝いしようかと思ったのですが」

「農民風情の助けなど!」

農民風情って、あぁ、そうか……俺の恰好は今、この国の農民だよな。うん。しかし、随分と高飛車だ。見た感じ、俺よりも背が低く、15~6の少年であるから仕方ないのかもしれない。

「そんな事より、追いかけましょう」

俺はローブ男に追いつくためにスピードを上げる。

「あ、こら!待て!」

ぐんぐんと距離が詰められる。……この調子ならすぐ追いつくな。

「な!?もうこんな距離に……くそっ!」

こちらのスピードに驚いた男がそんなことを言いながら、裏路地へと逃げ込んだ。道を変えて俺達を撒こうって事だろうが……

「させるか!」

壁に衝突しない程度に速度を落として、曲がる。視線の先にローブ男を捉える。男はまたもや違う道へ曲がろうとしていた。

見失うと不味い……。足を速く動かし、一気にカーブまでの距離を詰める。彼が曲がるまでには間に合わなかったが、曲がった先でまだ捉えられる状態にはなれた。

「ぐっ!」

二度曲がったにもかかわらず、俺がちゃんと付いて来ている事に驚いたのだろう。中年の男はこちらを見て悔しがる。進行方向がまたも曲がり道……。

距離的に言えば、もう少しという所だ……だが、今の道は追いつけるスピードを出せるほど長くない。次で勝負だ。

 中年のローブ男が曲がったすぐ後を俺も曲がる。

「あっ!しまった!」

先に見えるのは壁……どうやら道を間違えたらしい。男は狼狽している。

「く!来るな!」

ナイフをこちらに向けて牽制してくる。

「居直り強盗か」

いや?この場合は俺は客体として対象になるのか?俺は警察権を持っている訳でも、物を取られた本人でもない……まぁ、それはいいか。

「ちょっと……お前ら……速すぎる……ぞ!」

息を切らしながら金髪の少年が追い付いてきた。

「……さぁ!これで逃げられないぞ!大人しくそれを返せ!」

息を整え、腰に付けた剣……細みの剣を抜いて脅迫する少年。その顔は少年と言えば少年だが……どちらかと言えば中性的な顔立ちに近い。

「どうせ、このまま引き渡せば死罪は免れない!なら、先にお金を返せ!」

窃盗で死罪……つまり、死刑とは……。いや、この場合は強盗罪が適応されるにしても結構、刑として重いな。単なる俺の感覚だが。

「うう……うわぁあああ!」

「あ!おい、よせ!」

強盗犯がナイフを自分の胸に突き立てようとしたので、止めようとしたが……遅かった。

 強盗犯は倒れ、地面に血が広がる。

「君が死罪だなんて言うから!」

追い詰められた上で自殺……よくあるパターンだ。だが、気分が悪い。

「何を言っている……当たり前の話だろう」

少年が財布の土埃を払いながらそう返してくる。確かに、事実なのかもしれないが……

「もう少し言いようが……うぉ!?」

言い終わる前に剣を首元に突き付けられる。何故だ?!

「何が目的だ!言え!」

目的?何だっていうんだ?

「目的って何だよ!?」

「農民が何の利益も目論見もなく手助けなどするか!」

言われて少し頭が冷静に戻る。あぁ、そういう理論か……しかし、そういう物なのだろうか?

「……そうなのか?」

「は?」

一瞬の間ができる。いや、そもそも俺の感覚だと助けるのが普通だから……。

「ふざけているのか!!」

「いやいやいや、ちょっと待って!俺はこの国の人間じゃないから!」

「嘘を吐くな!」

「いや、本当だって!いえ、本当ですって!顔形がその辺の人と違いますよね!」

そういえば、この子は俺より位が上だ……敬語にしないと!

「じゃぁ、何故、この国の農民の服を着ている!」

「農民の家に居候してまして!それで、着ているんです!」

「どこから来た!」

「えぇっと……日本という国から来ました!」

「聞いたことないぞ!」

剣先が喉元に近づく。やばいな、これ。

「聞いた事ないかも知れませんが、私の国では困っている人を助けるのが普通なんです!」

道徳や倫理観の上ではね。生きていく上ではそんなものは必要か?と問われると違う気もするが。

「その剣をこちらによこせ!」

「は、はい~」

万一のために、という事で持って来ていたムラサメを腰から外し、少年に渡す。

「武器は他にはないな!」

「はい!」

俺の返事を聞くと、ようやく剣を下してくれた。解ってくれたのだろう。助かった。

「後ろを向け!」

「え?」

理解ができずに固まる。

「早くしろ!」

「あ、はい」

ゆっくりと後ろを向く。すると、俺の背中に何か棒の様な物が突き付けられる感触がした。恐らくは剣を突き付けられているのだろう。

「父上の元に戻るまで、先を歩け!」

つまりは、全く信用してないってことで合っているだろうね。うん。



「あ~、おかえりなさい~」

「ただいま戻りました」

「どうされたんですか~?」

ぎこちなく歩く俺に疑問を投げ掛けるエリーゼさん。

「いえ、それが……」

「お前がこいつの同居人か?」

俺の後ろから出てきた少年がエリーゼさんに質問する。

「えぇ~、そうですよ~」

「他国の人間であるというのは本当か?」

「本当ですよ~」

「嘘ではないのだな?」

そこまで疑うか……。まぁ、当然と言えば当然だが……気分がいいものではないな。

「エーミール、本当のようだ」

「父上……」

「この人は旅人でこのリーベルトさんの家にお世話になっているらしい」

「そうでしたか……」

背中に突き付けられた剣の気配が無くなり、剣を収める音がする。ふぅ、これで少しは気が抜けると言う物だ。

「すまないね、私はデニス・プリルヴィッツだ」

「私はショータ・ヤマガミです」

毎度、面倒なので欧米式の呼び方で答える。

「こいつは私の3番目の息子のエーミールだ」

「ふん!」

デニスさんの横に戻って財布を渡したエーミールはすこぶる機嫌が悪そうだ。

「こら、なぜ挨拶をしないのだ?エーミール」

「僕はこいつが嫌いだ……変だから」

そう言うとそっぽを向いてしまった。これは酷いな。しかし、理由が変だからとは……曖昧な。

「すまないね……。ところで、財布を取り返すのを協力してくれて、ありがとう」

「いえ、とんでもない」

「何かお礼をしたいのだが……」

「お礼だなんて……自分の国で普通なことをやっただけですので」

「そうだ、本人がいいと言っているならいらないはず!そもそも、僕一人であんな強盗犯捕まえられた!」

「こら、エーミール!」

「あう!」

デニスさんがエーミールを小突く。その光景も親子故の微笑ましい光景と言える。しかし、あう!とは……これはまた男の子にしては珍妙な叫びで。

それに、自分は後から追い付いたというのに……エーミールはそれほど俺が嫌いなのかねぇ?

「そうですね、今はまだ何も浮かばないので、またいつかという事でよろしいでしょうか?」

「あぁ、いいよ。では、何かあれば私宛で手紙を寄越してくれればいい」

「そうさせて頂きます」

「では、失礼させて頂くよ」

「はい、では」

「エリーゼさん、お母さまによろしくね」

「はい~」

頭を下げたまま見送る。彼らが歩いて去ったのを確認してから俺は頭を上げる。

「……今のよろしくというのはどういう意味でしょうか?」

「そのまま伝えるんではないんですか~?」

のほほんとそんな回答をこちらにするエリーゼさん。おぉう、まぁ、いいか。

「そうですね。まぁ、それで大丈夫だと思います」

「そういえば~、デニスさんってこの共和国の王様でしたね~」

一瞬絶句してしまう。そんな重要なことを今更言われるとは。

「……そうなんですか?」

「はい~、私も初めて見ました~」

「あぁ、そういう事ですか」

初めて見るのなら仕方ないな。多分。しかし、俺が気づかないうちに失礼なことをしてなければいいが。とばっちりは確実にエリーゼさんに来るのだろうから、その場合は情けないなんてものじゃないぞ。

「選帝侯ですが~。王様を決める役割の人たちですよ~」

先ほど言い損ねたからだろうか……今から選帝侯の説明を始めるエリーゼさん。

「そうですか」

「選帝侯の中から王様が選ばれて~」

「はい」

「選帝侯は地主さんがなることが多い~ と母が言ってました~」

なるほど、大方の説明は知識とあっているが……地主がなることが多いとはな。

「そうですか、解りました。では、行きましょうか?」

「はい~」

そうして、俺たちは帰路にまた戻る。

 リーベルト家に戻って、今日の事をエルマさんにエリーゼさんが報告したところ、エルマさんは『そうかい』と呟いただけだった。

申し訳ない、土曜日更新しようと思ったら、うまく書けなくて間に合いませんでした。

誤字・脱字がありましたら、ご報告お願いいたします。

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