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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第一章 伝わるはずないこの恋を
7/45

いつまでたっても、チートな力は手に入らず。

11/20 修正しました。

「さあ、さっさと着替えろっ!」


 月曜日。

 憂鬱ながらも、赤城さんという天使のような女神のような、と言うか、もうむしろ、全知全能の神であるのかもしれないけれど。とにかく、天使で女神で神ってる赤城さんが居ることで、月曜日の憂鬱が八割くらい消えたと言っても過言ではない、と言うのに──帰ってきたらこれだ。

 玄関に、腕を組んで仁王立ちをしている聖剣が、俺を待っていた。


「ちなみに、何で着替えなきゃいけないんだ?」


 靴を脱ぎながら、俺は問う。


「何で、ってそりゃあ、トレーニングするからに決まっているだろう?」

「『決まっているだろう?』って、決まってねぇから。全然そんな話してねぇから。ふざけんな、マジで」

「まあまあ、穏やかに行こう。よし、さあさ、着替えた着替えた」


 急かして急かして急かして、服まで持ってきちゃってまあ。


「ま、いいか」


 ──何気に、初めて学校の体育以外で運動するのかもしれない。


 ◇◆◇


 しかしまあ、こういうトレーニング回って、必要あるのか? って思っちゃう人もいると思うんだけれど。

 ただの字数稼ぎとか、話数稼ぎとか、と思っちゃう人もいると思うんだけれど。


 でも、俺は、嫌いだ。


 何の努力も無しに、強くなるなんて、俺は嫌いだ。


 なんて、力に魅せられて勇者になった俺が言うのもなんだけれど。


 でも、努力をするからこそ、強くなった時の達成感は半端ないし、努力をしたからこそ、得るものもあるだろうし。

 ま、努力なんてしたことねぇけどな──いや、勉強は努力しているのか。




 そんなわけで、俺は聖剣に連れられ、近所の公園に向かった。前回、エルフと戦った(のは聖剣だけど)場所である。


「んで、トレーニングって何すんだ?」


 全身赤ジャージと言う、何だか暑苦しい格好で、俺は訊いた。

 何故家に赤ジャージがあるのか、と言うのもそうだけれど、何故聖剣は赤ジャージを勧めてきたのかが如何せん納得いかん。


 しかし聖剣は、そんなことどこ吹く風か、自分さえもジャージ(何故か青)で、そのへんを走っていた。ただでさえ金髪の美少女で目立つと言うのに、そんな目に悪そうな服装では、さらに目立ってしまう。おかげで、なんだか人が集まってきたような気がする。


「ううむ、まあそうだな。まずは準備体操から始めようか」


 言って、走る足を止め、俺に笑顔を向ける。


「妥当なのはラジオ体操だな。よし、ラジオ体操第三だぁっ!」


「第三は幻のやつだろうがっ!」


 説明しよう! ラジオ体操第三とは、終戦直後に一年半だけN〇Kが放送したことから、「幻のラジオ体操」と言われているもので、現在、滋賀県の東近江市では、市民の健康づくりのため、ラジオ体操第三の普及活動が行われているのである(ウィキより)。


 しかし、こう考えるとウィキってすごいよな。調べたら何でも出てくるんだから、本当に辞書の需要ってもんがなくなってきている、と言うか、もう殆どないと言っていいだろう。まあ、辞書は辞書で、良いところはいっぱいあるし、辞書を引くのが楽しいと言う人もいるんだから、需要がないと言うわけでもないのかもしれないけれど。


「ふむ、じゃあ第一だけでいいよ」


 拗ねたように、不貞腐れたように、怒られた子供のように、ぼしょぼしょと、小声で言った。なんで拗ねてんのよ……。


 そういうわけで、ラジオ体操第一をしたわけなんだが。


「いっちに、さぁんし、ごぉろく、しっちはっち」


 元気よくやっていたら、どうやら体に限界が来たらしい……。


「はぁ、はぁ、もうダメ……」


 ラジオ体操第一で力尽きる、男子高校生の姿がそこにはあった。


「はぁ、まあいいだろう。また、明日やろうか」


 と言うことになり、惨めに、聖剣におぶさって帰るのであった。


 ◇◆◇


 火曜日。午前二時頃。


「大変だ」


 夜中もいいところに、聖剣が俺を揺らして、起こしてきた。


「どうした。こんな夜中に起こすなんて、お前の頭のほうがよっぽど大変なんじゃないのか」

「そんな冗談を言ってる場合ではない、大変なんだ、これはもう、本当に」


 いったいどうしたどうしたと、眠い目を擦りながら起き上がる。窓を見れば、いくらそろそろ夏だからと言って、明るいはずもなく、真っ暗な闇であった。


「あちらから、とんでもないエルフがやってきやがった」


 なんて言う聖剣は、昨日の青ジャージとは打って変わって、鎧を着ていた。

 鎧、と言えど、そんな大それた物ではなく、RPGのチュートリアルクリアで貰えそうな、そんな鎧である。

 ボロっちくはないものの、しかし、何だかちゃっちい。安っぽくて、それ着ている意味あんのか、と言うくらいだ。


「とんでもないエルフ、ねぇ…………」


 言いながら、パーカーとジーパンを着る。残念ながら昨日の赤ジャージは洗濯に出しているため、この服しかない。いや、正確に言えば服はかなりあるけれど、でも、戦いになるだろうから、汚れても良い服がいいだろう。汚れても良いつっても、引っ張られて汚れるだけなんだろうけど。


 なんて思っていると、準備(と言っても着替えて顔洗うだけなんだが)が終わった。ポケットにスマホを入れて、準備万端である。


「よし、じゃあ行こうか」


 聖剣はそう言うと、まだ薄暗い道をたったと走り出す。おい、追いつけるわけねぇだろあんなの。



 そして着いた先は、またしてもあの公園である。

 もう何度も来ているので、ここで名前を出してしまえば、堯魔槌あきまづち公園という所だ。

 俺の家からは歩いて五分弱というかなりの近所の、寂れた公園である。

 寂れた、とは言うけれど、それは公園の雰囲気と言うか、負のオーラの所為でそう見えるだけであって、実際、休日には多くの親子がここを訪れる(ちなみにこの公園が、地球とマーズ星とを繋ぐ唯一の場所らしい……この公園、マジで怖ぇよ)。


 しかし、今日は休日なんてわけもなく、火曜日。しかも、こんな時間である。誰かいるなんて、おかしな話で、もうそれは、不審者なんじゃないかと言うくらいなんだけれど……。


「なんだよ、あれ……」


 居たのは、不審者なんて言うレベルではない、巨体の男であった。いや、もしかしたら女なのかもしれないけれど、そんなのはどうでもよさそうだ。


 巨体って言われても、どれくらいか分かんない、と言われそうだろうけれど、俺だって分かんない。それはそれはもうデカくてデカくて、約八メートルと言ったところだろうか。進〇の巨人にエキストラとして出ていても、おかしくないレベルである。


「あれ、倒せんの?」

「愚問だな。倒せるわけないだろう」

「即答っ!? しかも何故自慢げっ!?」


 だ、大丈夫なんだろうか……。いや、ほんとに。


「とりあえず、戦ってみるしかなさそうだけどね……」


 言うと、聖剣は俺を見る。

 真っ直ぐなその目は、惹きつけられそうで、今にも、吸い込まれてしまいそうな赤き目であった。

 そんな真剣な目から、思わず目を逸らしてしまう。だいたい、女子と目があっただけで緊張するっつーのに、こんな金髪美少女に見つめられたら、夢にまで出てきてしまうほどである。


「はぁ……寿命、二年だよ」


 何故か呆れたように溜息を吐き、寿命を要求してくる。


「…………分かってる、心配すんな」


 いや、心配なんてしてないよ、と聞こえた気もしなくもないようなやっぱりするようなそれでもしないような、そんな感じで、聖剣は、聖剣エクス・カリバーとなった。

 激しい光に、いい加減慣れたらどうなんだとなりそうだけど、こればっかりはどうにもなりそうにない。


「さて、引き摺ってでもいいから、とにかくエルフに近づいて」


 仕方なく、一歩、二歩、三歩……と近づいてゆく。距離が迫るごとに、心臓の動きが速くなるのが分かる。額に冷や汗が流れる。ついでに半泣き状態。だって怖いんだもんっ!


 そしてやがて、聖剣を振れば当たるような距離まで来て。



「──お前が、勇者か……」



 巨大なエルフは、こちらを向いた。デカイ! 厳つい! 怖い! 帰りたい!


 しかし、そんな心の声は聞こえる筈もなく、そして、俺の足は震え出す。ふぇぇ...…止まんないよぉ……。


「ハッ! 震えてんじゃねぇか、この雑魚がっ!」


 エルフがそう言った刹那──俺は、吹っ飛ばされていた。

 持っていた棍棒のようなもの(俺の身長くらいデカいやつ)を乱暴に振り回し、俺の腹にクリーンヒット!

 こうやって冷静に描写してるけれど、内心超怖くて焦ってる。怖い怖い怖い怖い怖い帰りたい怖い痛い怖い怖い怖い!!


「はぁ……弱い弱い! おいおい、そんなもんなのかよ、勇者様よぉ。弱すぎて、話にもならんぞ!」


 言いながら、エルフは俺に近づいてゆく。三十メートルほど飛ばされたため、体が痛み、逃げることさえもできない。

 ドシン、ドシン、と言う足音が、俺の恐怖を倍増させていった。


「さぁ、これでトドメだ」


 エルフはもう目と鼻の先(って言うのは嘘にしても、もう、すぐ傍だ)。

 あぁ、終わったな。俺の人生お疲れちゃーん。もっと面白いラノベに出会いたかったなぁ……。


 と。


 半ば、と言うか、ほとんど諦めていた。


 やがて、棍棒は俺の目の前まで迫ってきていて。


 しかし。


 その棍棒は、俺に当たることはなかった。




 ──魔法陣によって、塞がれていたのだである。




「大丈夫かっ!?」


 ついでに、そんな声が(しかもかなりのイケボである)聞こえた気がした(気がしただけ)。










残り寿命──160年。

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