結局、初戦は聖剣の大活躍で幕を閉じる。
11/15 修正しました。
「エルフ狩りに行くぞ」
日曜日。
先週彼女ができて、そして、日曜日。
本当はデート、とか。したいけれど、どうやらそれは聖剣が許さないようだ。
いや、そもそも、聖剣は俺に彼女ができたということも知らないのかもしれない。知らんけど。
だから許さないと言うのは、一種の冗談というか、ジョークというか、アメリカンジョークである。
本当のことを言えば、赤城さんは用事があるようで。
朝、電話がかかってきた。
ドタキャン、とか言うやつなのだろうか。
というわけで、絶賛暇な俺である。暇すぎて最早、暇と言う用事がある程、暇である(意味不明)。
「エルフ狩り……?」
そんな俺であったが、聞き慣れない言葉に、首を傾げることしかできなかった。
さっきまで、ダラダラとラノベを読んでいる俺の隣で、ダラダラとマンガを読んでいた聖剣だったが、それはもう読み終わったのか、さながら暇つぶしでもするかのように、『エルフ狩り』という言葉を発したのであった。
「あぁ、エルフ狩りだよ。エルフを狩る、文字通り、エルフ狩りだ。エルフが敵っていうのは、たしか前に話したよな……?」
…………話したっけ?
もう覚えてねぇや。
「まあ、話してたか話してなかったか、覚えてないけれど、それはまた今度話すことにしよう。もう、説明するのも面倒くさいし。よし、着替えてくれ、行くぞ」
聖剣が急かすので、嫌々、渋々、外に出る準備をした。
ジーパンにパーカー。自分でも思うけど、なんてダサいんだ。まるで中学生と変わらぬファッションである。
◇◆◇
連れてこられたのは、近くの公園。
はて、こんなところにエルフなんているのかしら、と辺りをキョロキョロキョロキョロしてたら、聖剣が指を指した。
「ほら、あそこだよ」
向けば、俺がマーズ星で見たような、耳の尖ったエルフがいた。しかし、マーズでのエルフなんて、顎の大きいおっさんしか覚えていなかったので、ここにいるエルフはヒョロヒョロすぎて、エルフと一瞬気づかなかった。キョロキョロキョロキョロしてたときに目には入ってはいたけれど、散歩してるおじいちゃんなのかと思っちゃった。
「…………エルフ狩り──行きますか」
言って、聖剣は俺を見る。
「えっと、なに?」
問うと、聖剣は呆れたように溜息を吐いた。
「なにって、寿命だよ。二年、消費するけどいいかい? って言う、確認だよ」
「ん、寿命を消費するとは聞いていたけれど、二年も持っていかれちゃうのか。まあ、いいけど」
俺がそう応えると、聖剣の周りは光で包まれていった。もちろん俺は目を瞑る。
気づけば俺の手の中には、先日お風呂で見た、というかお風呂に突き刺さった、聖剣があった。
あった、と言うよりも、がっちりと握られていた。
「言っておくけれど」
と、聖剣になった聖剣は、なおも俺に話しかける。
「いくら寿命が長いからと言っても、でも、無闇に使うもんじゃないよ。いつか、死んでしまうからね」
「わかってるってのっ!」
そう言って俺は、エルフに向かってめいいっぱい走った…………つもりだったのだが。
「ん、どした? はやく行かないか?」
「…………いや、ごめん」
なんだろうか。
なんというか、かんというか。
「重すぎて──とてもじゃないが走れないんだ」
俺が持っていたそれは、どう考えても走り回って振り回せるような重さの物ではなかった。
いや、もしかしたら、一般人ならば、ギリギリいけなくないかもしれないけれど、でも、俺だ。勉強ばかりやってきて、運動なんてものは一切やってこなかった俺である。筋肉なんて、あるかないかもわからないほどであったのだ。
考えてもいなかった。
俺は、運動が苦手なのだ。
苦手、と言うか、できないのだ。
十七年間、ひたすら勉強だけをしていた人間が、果たして、四十キロは優に超えているものを、走り回って振り回すことが出来るだろうか。
否。
出来るはずがなかった。
チートな力があれば、何だってできるだろう、と完璧に、勘違いをしていた。
だから、俺は動けずにいた。
動けないというか、足が動かない。
そこに留まることしかできない。
「はぁ………」
と、溜息を吐いた聖剣。
「一年追加で、いいな?」
俺の返答を待つ間もなく、聖剣は、動き出した。
文字通り、動き出したのだ。
「ちょっ…………!」
そして俺は、中に浮く聖剣に引っ張られた形で、エルフに近づいてゆく。
やがて、俺の『痛っ!』とか『痛っ!』とか『痛っ!』とか言う声が聞こえたのだろう。こちらを向いて、驚愕していた。
「な、ななななななっ! 聖剣っ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」
エルフが何度も何度も謝り続けるが、聖剣はお構い無しに、真正面まで来た。
「いくら謝ったって、もう、ここに来た時点で、君はダメなんだよ。そういうルールなんだ、諦めな」
言うと、聖剣をエルフの喉に突きつけた(と言うとまるで俺がやったみたいだが、聖剣が勝手に動いているので、さっきから瞬きと呼吸くらいしかしていない)。
「じゃあ──あの世で自分を恨みな」
そう呟くと、突きつけていた聖剣はそのまま、何の躊躇いもなく、喉を突き刺した。
真っ赤で、どす黒い、液体が飛び出す。
「ふぅ…………」
いつの間にか、俺の手の中にあった聖剣は、血だらけの体で、人間の姿で隣に立っていた。
「ふふん、すごいでしょ?」
ちょっと自慢げに、そう言ってはにかんだ。
残り寿命──162年。