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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第一章 伝わるはずないこの恋を
5/45

愛の言葉は、単純なほうがいい。

11/14 修正しました。

 さて。

 母親が死んだのを、なかったことにした俺たちであったが。

 しかし、本当に本当に、実感が湧かない。

 悠莉はいつも通りツンデレのデレをなくしたような態度だし、やっぱり俺は学校ではぼっちだし。


 だから、いまいち、実感が湧かないのだ。

 いつも通りの日常を過ごしているから。


 本当に死んだんだと、思う。たぶん、知らんけど。

 だって、遺体は聖剣が消してしまったから、もしかしたら、生きているのかもしれないけれど。

 でも、俺はそれについて、深く考えないようにした。

 深く考えたら、罪悪感と後悔に押しつぶされそうになるから。


 だから、心機一転。心を入れ替えて、生活することにする。

 それが、一番の方法だと思ったから──


 ◇◆◇


『千鶴火憐くんへ


私、赤城南乃花というものです。

いきなりで申し訳ないのですが、お伝えしたいことがあるので、放課後、屋上に来ていただけると幸いです。』


 そう書かれた手紙を見つけたのは、ついさっき。帰ろかなぁ、とか思いながらテキストやらなんやらをカバンに詰めてると、ポトリと落ちた。

 本当は朝から、もしかしたら昨日からあったのかもしれないけれど、普通、テキストの中に入れないよね? 気づかなかったらどうすんのさ!


 しかし、『放課後』『屋上』『伝えたいこと』なんていうワードを聞くと、過去のトラウマを思い出してしまう。


 嘘告白。

 今となっては笑い話にできるようなことではあったが、当時、中学生だった俺には、ちとくるものがあったのだ。

 告白をオーケーすれば、傍に隠れていた女子に散々罵倒され馬鹿にされ、次の日にはクラス中どころか学校中の噂にまでなり、俺を追い詰めた。

 行かたくなかった。学校に行けば、嫌でも噂について話す声が聞こえてしまうから。

 『馬鹿だよね〜』『身の程知らずにも程があるよ』なんていう声が、俺の心を抉ってゆくから。


 しかし、不登校になってしまえば、最悪死んでしまうかもしれない。死ぬと言うか、殺されてしまうかもしれない。

 だから俺は、三年間休むことなく学校に通い続けた。


 ──と、話が少しズレてしまったが、まあ、もう勘違いはしない。勘違いをしたところで、無駄なことだってわかっているから。


 そう思いながら、俺は、屋上へと続く階段の前に立っていた。


 ──ここを上がれば、屋上。


 一歩一歩、一段一段階段を上りながら、俺は何度も深呼吸をした。

 勘違いだとわかっていて、それでも、その勘違いをやめることができない。

 実際、そういうものなんだろう。男という、生き物なんて。


 そして。


「…………」


 階段を上り終わった。

 目の前の扉を開ければ、屋上である。彼女──赤城南乃花が、そこにいるはずだ。


「よし──」


 もう一度、大きく深呼吸をして──俺は扉を開けた。


 ◇◆◇


 ──扉を開ければ、美少女がいた。


 肩まで伸びた黒髪は、風に靡いている。

 なんだか、すごく清楚な雰囲気である。



 …………ごめん、やっぱ嘘。清楚なんかじゃねぇよ、マジで。

 その原因は、胸にあった。

 白いブラウスを盛り上げて、ボタンが弾け飛びそうなほどの巨乳である。

 それ以外は、至って普通。地味でもないし、しかし、派手でもない。


 でも、やっぱり胸が気になってしょうがない。目がついついそこにいってしまう。というか、そこにしかいかない。これが万乳引力ばんにゅういんりょくの力か。乳トン先生はやっぱすごいねっ!


「あ、あのっ……!」


 胸に気を取られていた所為で、彼女のことを完全に忘れていた。

 改めて、真正面から顔を見るけれど、やっぱり美少女だ。メイクは薄めだけど、それでも、可愛い。


「そのぉ……」


 俺と目が合うと、今にも消えそうな声を出して、下を向いてしまう。


 しかし、意を決したように、彼女は俺の顔を見て、大きく息を吸った。そして吐いたっ! 深呼吸! ただの深呼吸! なんか言うのかと思っちゃったっ!





「あなたのことが好きですっ! 私と、付き合ってください!」





「…………ふぇあ?」


 彼女は深呼吸をしたあと、唐突に、本っ当に唐突に、そんなことを言ったため、思わず変な声が出てしまった。やべ、超恥ずかしい……。


「付き、合う……?」


 その言葉には、聞き覚えがあった。

 中学のときの、トラウマ。

 だから、本当にこの人は俺を好きなのか、わからなかった。


 …………そうか! これは夢か! 期待させておいて夢オチなパターンか!


 ──そう思い、頬をつねってみる。


「あの、夢じゃないですよ……」


 さっきまでオドオドしていた彼女は、いつの間にか、呆れたような顔で俺を見ていた。


 そうか……。夢じゃないということは、やはり、ドッキリやら罰ゲームやらの嘘告白なんじゃ……。


「あの、嘘告白でもないですよ……」


 なに! 嘘告白じゃないのか……? いやいや、まだ信じるな。ここで完全に信じてしまったら、明日は学校中が敵に回るぞ! まあ、もう既に敵になってるようなもんだけどね……。


 …………ん? 待てよ。


「俺、声に出てた?」


 そうだとしたなら、本当に独り言が増えたんだなぁ、って思ってしまうんだけど……。


「あ、いえ。そんな顔をしていたので」


 おいおい、なんでわかるんだよ。エスパーかよ。


「いえ、エスパーじゃないですよ?」





「──エスパーじゃねぇか!!!」


 ◇◆◇


「んで、まあ、本当の告白だ、ってことは認めるよ、認めるけどさ。でも、なんで、俺なんだよ、俺のどこがいいのさ?」


 結局、本当の告白と認めた。いや、認めさせられた。


「いやいや、むしろ、今まで誰も告白しなかったのが嘘みたいですよ。だって、かなり人気なんですよ、千鶴くん。自覚ないんですか?」

「は? そんなことねぇだろ。むしろ、ぼっちで根暗だからキモがられてると自分では思ってたんだが。ちゅうか、実際そうだろ」


 俺がそう言うと、一瞬驚いたが、しかし、すぐに肩を竦めて、呆れ混じりの溜息を吐いた。


「そんなことないですよ。クラスに十人はいますよ? 千鶴くんが好きな人」


「…………」


 …………。


「……いや、でも、こんな俺のどこがいいんだ……?」


 …………。


「いや、だってまず、イケメンじゃないですかー?」

「『じゃないですかー?』って言われても、知らないから。今の今まで自分のことをブサイクだと思ってたから」


 と、言うか。

 なんて言って、俺は続けた。


「敬語じゃなくていいと思うんだけど。えっと、同級生……だよね?」

「ですね、なんなら、同じクラスなまであるんですけど……?」


 …………。


 気づかなかったなぁ……。


「でも、じゃあ、なぜ。俺は中学のときに嘘告白にされてたんだ?」

「嘘告白……?」

「そうそう、告白オーケーしたら、散々女子に罵倒され馬鹿にされ、次の日には噂が広がってて……みたいな」

「…………」


 …………?


「それって本当に、千鶴くんに言ってたんですかね?」

「…………どういうことだ?」

「つまり、告白した女の子を罵倒していた……とか?」


 …………。

 有り得なくもない、のだろうか。


 もし。もしのもし。もしのもしのもしのもし。


 …………そういや明日模試だな。


 いやいや、そういうことじゃくて。

 もし、本当に、俺がモテるのだとしたら。

 それも、ありえなくないのだろうか。


 なんて、妄想じみた、夢のようなことを、少し考えてみた。


「とゆうか、さっきから話ばっかしてて、結局、お返事まだなんですけど?」

「ん、あぁ、そうだったな」


 と、俺はそこで一旦間を置いて、大きく息を吸うと。


「もちろん、オッケーだよ。むしろ、断るわけがない」


 爽やかな笑顔で(キモイとか言うな)、俺はそう言った。

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