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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第一章 伝わるはずないこの恋を
4/45

死んでしまっても、悲しむのは一人ぐらいで。

11/12 修正しました。

 実の親、だとか。


 そんなもの、関係がなかった。

 たしかに、生みの親を殺すなんて、間違えても、噛んでも言っちゃいけないことだし、親不孝この上ない発言である。


 しかし、あいつ──俺の母親は、別なんだと思う。

 ここからは、人それぞれで考えが別れるとは思うけれど、甘えるな、と言う意見もあると思うけれど、俺は耐えられなかった。この、地獄のような毎日に。耐えられなくて、思わず言ってしまった。


「母親を──殺してくれ」


 間違ってなんかいない。噛んでなんかいない。

 親不孝だとかなんだとか、関係ない。

 俺は許せない。

 だから、殺してもらうのだ──聖剣に。


 ◇◆◇


「殺してほしい──ね」


 当然の反応だ。

 母親を殺して欲しいなんて、彼女に言ったやつは、いるのだろうか。

 それくらい、なんだと思う。

 それくらい、俺は普通じゃないし、そして、母親も普通じゃない。

 普通じゃないから、これを願う。

 最低で最悪で、笑ってしまうような願いを、俺は望む。


 真正面から立ち向かうこともできず、こうやって、卑怯に、やることしかできない。

 それが俺であり、千鶴火憐という人間なのだ。

 そうやって、いつまでも、卑怯に生きていくのだ。

 これまでも──これからも。



 さて、では、何故。俺はこうなってしまったのか。簡単な話──で済ませていいのかわからないけれど、でも、結局は、よくありそうな、悲しい物語なのだ。


 ◇◆◇


 ──勉強をしなければ死ぬ環境。

 それが、どれほどの苦痛なのか、分かるだろうか。

 分かるはずがないだろう。だって、誰も体験したことがないから。

 もしかしたらいるかもしれない。されど、この御時世、そんなのがあるのなら、本当に驚く。


 勉強をしなければ死ぬ環境──それは、俺が生まれたときからはじまっていた。


 …………いや、さすがにそれは言い過ぎか。


 だとしても、だ。小さい頃から、俺は勉強をしていた。していたというか、やらされていた。


 勉強をしなければ死ぬ環境、なのだ。

 やらなければ、殺される──のは言い過ぎだろう。それに、どちらかと言うと、殺されかける、のほうが正しいのだろう。

 やらなければ、暴言暴力当たり前。しかも、友達も、ましてや彼女さえも作ることも許されず。学校に行く時と、本当に大事な用事がある場合しか外に出てはいけず。

 殴る時は、顔は目立つから腹にしな的な考えで、周りの人間にバレることもなく。しかし、人にも言えず。


 だから、殺したい。殺してやりたい。


「あれ、なにしてんの?」


 ほーら、また来た。


「え、宿題だけど……」


 ──バチンッ!

 痛々しいそ音が、静かな俺の部屋に響きわたる。

 親父にもぶたれたことないのに!?

 いや、今はそんなことじゃないな。


「あなた、今日何日だと思ってるの!?」


 俺は、壁にあるカレンダーをちらと見た。


「えっと──八月二日……?」

「…………そうね。じゃあ、今あなたがやっているのは、何?」

「え? だから、夏休みの宿題って言っ」


 ──バチンッ!

 最後まで言い終えることなく、また、叩かれる。今度は、逆の頬を。


「なん……で……?」

「あたりまえじゃない!!」


「…………え?」


 母親は、ギラリと光る、何かを持っていた。

 紛れもなく、それは、ナイフ。

 刃渡り十数センチの、ナイフ。


「…………ちょっと待って、なんで!?」


 こいつは殺す気か、と。そう思った。そう思わざるを得なかった。


「あと三十分以内に終わらせないと……!」


「わ、分かった! 分かったから!!」




 …………三十分後。


「これで……どう?」


 俺は、最後まで埋めた宿題を見せる。

 そして、ペラッペラッと捲り。


「間違えてる──失格」


 言うと、宿題を投げ捨て───ナイフを構える。



 まさか。




 そんなわけ───




「うそ……でしょ……?」


 腹部に、激痛が走った。


 刺されたのだ。腹部を。ナイフで。


「うわああああああああ!!!」


 ◇◆◇


「うわああああああああ!!!」


 飛び起きる。


「なんだ……夢か……」


 夢──と言っても、実際、同じようなことをされたけれど。

 思いながら、手の甲にある傷あとをなでる。

 これは、五年前。母に切られたあと。さっきの夢と同じような状況で──切られた。


「正夢にならなきゃいいけど………」


 時間を確認するため、スマホの電源をいれる。うわ、まだ五時半じゃねぇか。寝よ。


 そう思い目を瞑ろうとした。しかし気配を感じ、不思議に思って隣を見てみると、金髪美少女がいた。しかも裸で。これ何てエロゲ? いや、これなんて聖剣? これは聖剣エクス・カリバーでっす!


「おいこら、起きろ」


 言いながら、彼女の体を揺さぶる。やわらかっ! 女子の体やわらかっ!


「なんだい、少年?」


 薄く目を開きながら、返事をしてきた。


「『なんだい?』じゃねぇよ! なんで人のベッドで勝手に寝てんの!?」

「いや寝る場所がなかったし、君の隣が空いていたし」

「床で寝ろよ」

「いやいや、そこは、『しょうがねぇな〜俺が床で寝るよ(キリッ』じゃないのかい?」

「るせぇ、人んちに勝手に住みやがって」


 そう言いながら、彼女をベッドから落とす。


「キャッ!」


 ドンッという鈍い音と、短い悲鳴が聞こえた。


「君は酷いなぁ」


 なんか聞こえた気がするが、まあ寝よう。眠い。


 ◇◆◇


 水曜日。どうやら今日、母親を殺してくれるらしい。殺し方は聞いてないが、「朝はリビングにいろ」ということなので、ただいまリビングなう。

 今日も今日とて朝の悠莉との喧嘩も終わり、朝食を食べていた。するとリビングのドアが開き、のそのそと歩いてくる奴がいた。あ、俺の母親か。


「おはよーう、火憐」

「おはよ」


 そんなやる気のない挨拶を終えると、聖剣がリビングに来る。

 どうやらこいつ、俺以外の人には見えないみたいだ。なんだよそれ。

 そうして母親は、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す。すかさず聖剣は母親に近づき、蓋が開くと同時に白い粉を入れた。


「なるほど……」


 思わず、声が漏れる。


「ん、どうした?」


 不思議に思った母親が、俺に訊いた。


「あぁ、いやなんでもない! こっちの話!」


 焦った……マジ焦った。


 聖剣は、母親の隣で仁王立ちになり、腕を組みながら、ニヤニヤと見ている。

 もちろん母親には見えていないので、なんの躊躇いもなくコーヒーを飲む──刹那、母親は喉を抑えて苦しみだした。おい、毒効くのはやくね? 即死なの?


「大丈夫!? お母さん!」


 悠莉が苦しんでいる母親の元に駆け寄る。俺も一応行くか。


「おい、大丈夫かよ!?」


 言うが、苦しんで、呻き声しかあげない。


「悠莉! 救急車だ!」


「…………」


 母親を抱いたまま、瞬きひとつせず、彼女は無言でいた。

 その間に母親は、なおも苦しみ、そしてやがて、動かなくなる。


「ゆう……り……?」


 不思議に思い、彼女に近づくと──


「はは……よかった、じゃん……」


 乾いた笑いをして、彼女は言う。


「これでよかったんだよ、兄貴。だからさ、秘密にしよ? ふたりだけの秘密に、さ?」

「…………どういうことだ?」


 問うと、引き攣っていた笑顔を真顔に戻して、答えた。


「母親なんて、死んでいない。いや、そもそも、母親はいなかったんだ──ということに、しようよ?」

「…………」


 良いのだろうか。


 …………良いのだろう。

 だって、彼女も受けていたから。

 俺ほどではなくとも、それでも、暴力を振るわれていたんだから。


 ◇◆◇


 …………こうして俺たちは、このことについては触れないことにした。

 蓋をして、これ以上、触れないようにしたのだ。

更新がクソ遅いのである。

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