願えば叶う、と言う世界でもないわけで。
第38話
「どうするか……」
悠莉を意図的に、故意に置いていった俺たち幼女ふたりとロリコンひとりであるが、これから、いったいどうしたものか、なんて、結構深刻なことを考えていたりする。
悠莉は聖剣の言うことを信じて待つとして、しかしじゃあ、エルフの件はどうするというのか。こればっかりはどうしようもない、なんて思っちゃうわけだが、どうしようもない、では済まされない問題であるのも確かなのだ。
『エルフを全滅させてこい』
今の俺に、そんなことが果たして、出来るのだろうか。この聖剣の力がどれくらいのものなのか、そして、代償とかあったりしちゃうのだろうか、なんて思っているが、可能性としては、高かったりする、要するに、可能なのだ。可能性的には、可能なのだ。
可能なのだが、しかし、そんな人権(エルフだからエルフ権?)を無視するようなことが、あっていいのだろうか。もしそれを女神アルザナティが許したとしても、俺は許さないだろう。いくら南乃花ともう一度会いたいからと言って、そんな、これだけのエルフを殺してしまう、ということはしない。するわけがない。するはずがない。
「そもそも」
今まで、すっかり黙り込んで、何か考え事をしていたような様子の聖剣エクス・カリバーちゃんだったが、何か思い出したのか思いついたのか、声を放った。
「エルフを殺すってゆうのが、間違えてるんじゃないんですか?」
殺す、と言うのが、間違えている?
「どういうことだ?」
訊けば、うーむと渋い顔をして、やっぱり考え込んでいた聖剣であったが、意を決したのか、決意が固まったのか、口を開いた。
「エルフを全滅させればいいだけの話で、誰も、エルフを殺すなんて言ってないんですよ。要するに、エルフを無くせばいい、かなり無理やりな考え方ですけど、なかなか、悪くはないでしょう? それが通じるかは、聖剣である私にも、わかったことではありませんが」
エルフを殺さずに、エルフをなくす?
それは、存在をなくすという意味なんだろうが、果たして、それこそ、そんなことが可能なのだろうか。
殺すと言うのが、精神的な問題だとしたら、こちらは、エルフをなくすというのは、そもそも、物理的に考えて、生物の法則的に考えて、この世の理を考えてみて、まず無理なのではないかと思う。そもそも、なくすと言うのは、結局殺すと言うのとたいして意味合いは変わらない。どころか、殺すと言うのも、結果論から言えば、エルフ自体をなくしているのだから、たいしてどころか、まったくと言っていいほど、変わりはない。
その概ねを、旨を、聖剣にわかりやすく、なおかつ優しく伝えると、やはり渋る。うーむうーむうーむと三十回くらい唸ると、泣きそうになっていた。いやいやおい、何でだよ。
「その……、何というか、やはり……、殺すしか方法はないのでしょうか……?」
俺がエルフを殺したくないのと同様、彼女だって、聖剣だって、そりゃあエルフを殺したくないだろう。何よりも、彼女自身が嫌であるから、そんなことを考えていたのだろう。そんな、頭の悪いことを、考えていたのだろう。
「いや、なくす……。その方法、ありなのかもしれない」
話の内容がわからなかったのか、そもそもそんなキャラだからなのか、まったく話に入ってこなかったアヴァロンだったが、急に口を開いたかと思うと、今俺が否定したことを、肯定でもするかのような言葉を、放った。
「ありかもしれない、って、どういうことだ?」
「なくす、というのは、日本語的にはおかしいのかもしれないけれど、そうなんだよ、根絶やしにするんだよ。エルフと言う概念を、根本的になくす。殺すではなく、なくす」
だから、殺すとなくす、いったい、何処がどう違うのか。そもそもそんなところが、俺はわからなかった。
「つまり、あれだよ」
人差し指をピンと立て、俺のほうを向きニヤリと不敵な笑みを浮かべると。
「エルフをみな、人間にするのさ──」
なんて、突拍子もない、意味のわからないことを、呟いたのであった……。




