やがて全てを知る勇者は、雑談をしている場合ではない。
35話。
前回のあらすじ。
幼女が仲間になった!
◇◆◇
さて。
幼女ふたりを仲間にした俺は何を思ったか。
…………。
簡単な話だ。
「名前──どうしようか……」
この目の前の銀髪美幼女。こいつの名前を考えないといけない。なんせ、名前も、住所も、何故ここにいるのかさえ、わからないのだから。
いつまでも、「おい」とか、「お前」とか、熟年夫婦のような呼びかただと嫌だしな。
しかしまあ、正直言うと、俺のネーミングセンスは皆無なので(どれくらいかと言うと、猫の名前をタマとか食べ物の名前にしちゃうレベル)あとは──
「聖剣、全部任せた」
ポンッ、と。金髪幼女の肩に手を乗せ、最高の笑顔で言う。
「えぇ、私ですかっ!?」
なんて言って。
ムムムと唸って。
「──ポチ……とか…………?」
いやいや、ペットかよ。
…………たしかに、幼女がペットとか最っ高に燃えて萌えるシチュエーションかもしれないけれど、しかしまあ、それはアウトだな。
ちゅうか、こいつのネーミングセンスって、俺以下じゃねぇのか?
「銀髪でポチはないね。せめてタマにして」
みたいな。
銀髪美幼女は言った。
いやいや、タマでいいのかよ。
「なんつーか、もうちょっとマシで、なおかつ呼びやすくて、おまけに可愛い名前はないのだろうか」
まあ、最後のはなくてもいいとして。
さすがに異世界だからと言って、『ポチ』や『タマ』なんていう名前では呼びたくないし、だからと言って、呼びにくいのは嫌だしな。
「かかっ、よく言うわい、お前様。自分は考えずに、人に任せる気なのかのぉ」
まるで、どこかの金髪吸血鬼奴隷幼女の如く、そんな口調で、聖剣は言った。
「ど、どした? 聖剣」
急に口調が変わった聖剣に、俺は尋ねる。
そういえば、すごく関係ないことなんだけれど、『尋』ってエロいよね。どこがって、そりゃあ字的に。真ん中がエロだから。
「いやいや、大したことじゃあないんですけれど、なんというか、似てません、あいつと私」
おい、あいつ呼ばわりなのかよ。
「似てるって、どこが?」
「ほら、幼女のところとか、金髪のところとか」
「それ見た目の話じゃねぇか。中身は正反対だろ、お前とあの娘は。ちゅうか、似てるところそれだけかよ」
いやいやいや!!
なんて、幼女は全力で、手をブンブンさせながら、否定する。
「見た目超重要ですよ!! だって、金髪の幼女なんて、私の唯一の個性なんですよ!! それをにっくきハートアンダーブレードだとかなんだかに取られてしまって。これはもう警察に訴えてもいいレベル!!」
いやいやいや!!
今度は俺が全力で否定する番である。
「見た目云々より、お前には敬語とかいういい個性が残ってんじゃねぇか。つか、超人気小説の登場人物の名前をそのまま持ってくんな! 挙句の果てに、にっくきとか言うな! どっちかと言うと、いやいや、どっちかと言わないでも、悪いのはお前だ!」
お前と言うか、作者だ!
「むむむ、そうは言いますけれど、敬語キャラってもういるじゃないですか、赤城南乃花とか」
金髪美幼女は、俺の彼女の名前を出した。
「あれ、俺、南乃花の名前お前に言ってたっけ?」
「あ」
しまった、とでも言いたげな顔で、手で口を塞ぐ。
「ああ、いやごめんなさい。今のはなんというか──そう、言葉の綾です! いやぁ、おにぃちゃんの彼女さんは、南乃花さんて言うんですかぁ……知らなかったなぁ、初耳だなぁ……あはは」
──苦笑。
無理がある。
「しかしまあ、南乃花の名前を何処で知ったにせよ、俺には関係ないし、別にお前が知ってても何の問題もないんだがな」
むしろ、知っていた方が良いのかもしれない。
言う手間も省けたし。
「ところで──おにぃちゃん」
コホン、と可愛く咳払いをし、幼女は呼ぶ。
「ん?」
俺はそれになんとなく反応する。
「結局、一話丸々使って、銀髪美幼女の名前、決まってませんよ?」
「あ」
忘れてたぁぁぁ!!
「ちゅうかそれ、どれもこれもそれも、お前の所為じゃねぇか!!」
お前と言うか、作者の所為。
「いやいやそれは、不意に、唐突に、ふとした瞬間に、思いついたことなんです!! 不可抗力だ!!」
言ってる意味がいまいちよくわからないけれど、そういうことなんだろう(どういうこと)。
「あ、それはもう心配いらないよ、キスショットと変態勇者」
それこそ、不意に、唐突に、銀髪美幼女は言う。
さっきまで空気同然だったけれど、それは気にしてはいないのか、いつものジト目で、すまし顔で、俺たちを見る。
ちゅうか酷くね、俺。なんで変態勇者なんだよ、否定はしないけどさ。あと、超人気小説の名前は出すなと言っただろ!
「もう──名前、思い出しちゃったから」
それでもやはりすまし顔。
いつ思い出したのかは知らないけれど、俺と聖剣との雑談してるときにでも思い出したのだろう。
まあしかし、ここで名前を思い出せたのは良かったなとは思うけれど──
「私の名前は──『アヴァロン』……だ」
すっげぇ言いにくそうな名前だな……。
次回は超本気出すから




