あまり捻らない、無難な初めて。
番外編!
ということで、赤城さんとの初デートです。
久しぶりに赤城さん書いた!
これは、まだ悠莉がデレる前のお話です。
「うぅ……」
目が覚める。
時計を見ると、すでに10時を回っていた。
約束の時間は11時。
「やべ……」
まだ完全に起きていない脳を働かせ、今からのタイムスケジュールを組む。
「間に合うかな……」
なんとか、間に合いそうなんだけど──
「急げ俺!」
ドタドタと、騒がしく階段を降りてゆく。
「おはよ、悠莉」
朝の挨拶を適当に済ませ、顔を洗う。そうすることによって、潰れそうだった俺の目は完全に開き、そして、覚醒する。
「今日も一日頑張るぞい!」
どこかで聞いたことのあるセリフを言い、気合を入れる。
「朝ごはんは──」
ブレックファーストを食べてる時間はないな。
「よし!」
歯ブラシを取り、歯を磨く。と同時に、寝癖を直していく。俺の寝癖はひどいもので、直すのに手間と時間がかかるから、急いでいるときには面倒だ。
あらかた寝癖を直したら、自室に戻り、服を着る。服はあらかじめ決めていたので、すぐに着ることができた。
「じゃ、行ってくる!」
「ん、どこにいくの?」
むしゃむしゃと、のんびりとブレックファーストを食べていた悠莉が訊いてくる。
珍しいな。いつもなら「ん、いってら」と、冷たい反応で終わるはずなんだが。
「ちょっと出掛けるだけだ。夕方には帰ってくる!」
俺はそう言って、家を出る。
現在時刻は10時45分。待ち合わせ場所は最寄りの駅。
「ギリだな……」
なんとか間に合いそうなので、一旦走るのをやめた。疲れた。たった十秒しか走ってないが、かなり疲れた。聖剣との修行なんてまだ始まったばっかりだし、そんなすぐに体力なんてつかないか。
「あ、やっぱりこれ間に合わねぇ……」
そう思った瞬間、俺の足はもう、とっくに、動いていた。
これが、火事場の馬鹿力というものなのだろうか。駅に着くまで、疲れなど感じなかった。疲れなど感じず、ただ、「遅れたら、彼女を待てせてしまう」ということだけを考えて。
気づいたら、駅にいた。無我夢中で走っていたら、いつの間にか着いていた。
時計に目をやる。10時58分。
「ギ、ギリセーフ……」
今にも倒れそうだったが、歩いた。
「あ、いた」
そこには、できたばかりの彼女がいた。
赤城南乃花。
告白されるまでは眼中にない相手だったが、こう改めて見ると、可愛い。いや、改めて見なくても可愛い。
どこか儚げな雰囲気を残しながら、彼女は立っていた。さっきからずっと、時間を気にしているようだが──
「あ──」
俺を待っていたのか。やべぇ、忘れるとこだった。あまりにも可愛くて、忘れるところだった。
「ごめん、お待たせ」
まるで今、急いで来たようなふりをして、息を切らして、俺は彼女に言う。
「あ、いえ、別にいいですよ……私も今来たばかりですし」
嘘、と分かっているのだが、それを言うのもアレだろう。
「じゃ、じゃあ──どこに行こうか?」
もちろん、俺はどこに行こうか、というのは考えている。とっくの昔に。あれは、中二のころだっただろうか──
『彼女ができたらしたいことノート』の一番はじめのページ。『初デートで行きたいところベストテン』に載っていた部分を、無難にチョイスしてきた。あくまでも無難に、なので、彼女が行きたいところがあればそちらにする、という感じだ。
「う〜ん……」
と、顎に手をやりうんうん唸っていたが、数秒後。
「任せます!」
そう、満面な笑みで言われる。可愛いなおい。
「えっと……じゃあ、無難なところでいいのなら、任されます!」
二人揃って、敬礼をする。
あぁ、これがカップルなのかと。相手がこの人で良かったと。幸せを噛み締めて、そして、彼女の手を引いた。
「行こうか」
俺はそう言う。彼女は少し戸惑った様子だったが、すぐに、
「はい!」
と。またもや満面の笑みで、そう返事をした。
◇◆◇
結局、来たのは大きなショッピングモールだった。「うっわ、普通!」とか言われそうだが、これでも『初デートで行きたいところベストテン』の第三位に入っているのだから。そう、だからこれはしょうがないのだ。昔の俺は、それを望んでいたのだから。
さて、ここで何をするのか──いやまあ、そりゃショッピングモールなのだから、ショッピングをするわけだが。何をショッピングするのかというのが大事なことである。
もちろん、俺もショッピングをしたい。滅多に来ることないしな、こんなところ。それでも、彼女の行きたいところを優先して、タイミングを見計らい、「ちょっと俺、あそこ行きたいな〜」と言うのがグッド……らしい。たぶん。『彼女ができたらしたいことノート』に書いてあったのだから間違いない。まあ、それ書いたの俺なんですけどねぇ……ハッハッハ!
そういえば、このノートの最後にはこう書いてあった。
『まあこんなこと書いても、俺には彼女なんてできるわけないけどな! 一生独身でいいわい!』
と。
中二のころからこんなことを思っていたなんて、俺ってば、現実見すぎ!
と。
思わず、涙を流しそうになる。
しかし、それをこらえて、隣を見る。
隣にはなんと美少女が!
ハハッ! これ俺の彼女なんだぜ、笑っちゃうだろ!
そう思うと、嬉しすぎて本当に笑ってしまいそうだったので、すぐさま前を向く。
「ん? どうしたのですか?」
「あ、いや、なんでもない」
なんでもないわけではないのだが、ここで言うことでもないだろう。
「ね、ねぇ……赤城さんは何色が好きなの?」
自分で言って、気づく。俺は小学生なのか、と。
いやだって、会話が途切れるのも嫌だし、でも、話題が思いつかなかったからしょうがないだろ!
と、見えない誰かに言い訳をする如く、俺は慌てる。
「えっと……私は赤が好きですかねぇ」
なんと。名前とピッタリではないか。
赤城さんは赤が好きって、これはもう運命だろ。
と、勝手に一人で感激していると、彼女もまた、俺と同じような質問をしてきた。
「じゃあ、千鶴くんは四季でどれが好きですか?」
まるで、私も緊張してますと言いたげな態度で。モジモジと、顔を真っ赤にして、訊いてきた。
「えっと……」
正直、そんなことは考えたことがなかった。
まあ、敢えて言うのなら──
「春……かな……」
「へぇ──なんでです?」
なんで……か。
ここで「なんとなく」と答えると殴られそうなので、
「まあ……ぼ〜とできるから……」
と、なんともどうでもいい理由だが。
「へぇ〜」
彼女は、目を輝かせながら俺を見ていた。これでよかったのな。
◇◆◇
「重い……」
いやまあ、たしかに。荷物は俺が全部持つよ! と言ったのだが、ここまで買うとは思わなかった。
「ちょっと使いすぎちゃったかな〜」
まるで、「テヘペロッ!」とでも言いたげな顔で、こちらを見る。
「はあ………」
思わず、ため息が出てしまう。デート中にため息が出るのは行けない気がするが、これはしょうがないのではないかと思う。
「何個か持ちますよ」
と言われるが、男に二言はない。俺が全部持つと言ったのだから、重くても彼女には持たせない。意地でも持たせないぜ!
だがしかし──
「もう! 貸してください!」
そう言いながら、彼女は俺が持っていた荷物を、半分ほど取る。
「こうしないと、手が繋げないじゃないですか……」
顔を赤く染め、彼女は言う。
──あぁ、可愛いな。
本心からそう思った。
そんなときだった。
「あれ、あの子。迷子じゃないですかね?」
彼女の指さすほうを見ると、小さな男の子が、キョロキョロしながらうろうろしていた。
「僕、どうしたの? お父さんやお母さんは?」
気づいた時にはもう、赤城さんは子供のところへ言っていた。凄まじい行動力。
笑顔で話しかける赤城さんに安心したのか、子供は泣き出してしまった。
「ママぁがぁぁいなくなったぁぁぁ」
そして、僕と彼女は、この子は迷子なのだと確信する。
「どうします? 千鶴くん」
「とりあえず、迷子センターに連れていこう。お母さん、いるかもだし」
「だね」
そう決まったら、すぐに俺達は歩き出す。
「待っててね〜もうちょっとしたら、ママに会えるから」
行く途中、赤城さんは何度も何度も子供に話しかけていた。
さすが女子、なのか。さすが赤城さん、なのかわからないが、女子ってすごいって思いました(小並感)
「あの、迷子みたいなんですけど……」
迷子センターに着き、お姉さんに俺は言う。
するとどこからか、この子の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「たけしぃぃ! あんたどこ行ってたのよ!」
母親も半分泣きながら、子供に抱きつく。
よかった、と。素直に喜ぶことができた。こんなのを見ていると、俺まで泣きそうになってくる。
「ほんっとうに! ありがとうございました!」
母親に深々と頭を下げられる。
「い、いえ……私たちは、この子をここまで連れてきただけですから……」
彼女はそう言うが、もうちょっと誇ってもいいだろう。この人は、それ相応のことをしたのだから。
「ありがとうございました〜」
帰り、お礼ということで、アイスを奢ってもらった。それも、かなり高級のを。
「おいしいね〜」
「ほんとにおいしいですね〜」
ニコニコと、笑いながら言う。
「私たちも、子供ほしいですね〜」
「…………ブホッ!」
あまりに衝撃過ぎた発言に、俺はむせてしまう。何言っとんだ、こら。
「フフフ、冗談ですよ〜」
これまたニコニコと、笑いながら、俺を見る彼女であった。
まあ、可愛いからいいか。
やっぱり、こっちのほうが書いてて楽しいw
そんなわけで、次回から第三章です。
果たして、火憐はどうなるのか!?
お楽しみに! というと、プレッシャーがすごいので、あまり期待をせず、待っていただけたらなと思います。




