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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第一章 伝わるはずないこの恋を
3/45

性癖を晒す前に、叶えてほしい願いがあった。

10/27 修正しました。

 シャワーを浴びていたのは、親父ではなく──金髪美少女だった。

 身長は俺より高く、もしかしたら190センチを超えているのではないかというほどの長身だけれど、美少女というのには変わりなかった。


「おお、やっときたのか」


 なんて言って、彼女はこちらを向く。腰まであった金髪が、優雅に舞った。


 そうすることによって、まず目に入ってきたのは、男なら誰しもが釘付けになってしまうであろうその大きな双丘。いやいや、はっきり言ってしまえば、胸! 胸! 胸!

 水に入れたら浮いてしまいそうな程大きく、まるで、甘い果実がたくさん入った大きな袋のようで、見入ってしまう。


 しかし、先端にあるはずの突起は、垂れた金髪の所為で見えなかった。突起を囲む、ピンク色の乳輪の一部が僅かに見えている程度。見えそうで見えない、この絶妙な感じが、むしろ興奮してしまう。


 そして、何と言っても足、である。

 むっちりとした、肉付きの良い柔らかそうな太もも──からの、スラリと伸びた足。これでもかというくらいの合わせ技に、思わず言葉を失った。


「うむ、そうかそうか。そういえばそうだったな」


 なんて、ひとりで勝手に納得して、ハッハッハと笑って。


「君は巨乳好きであり、太もも好きでもあったな。忘れるところだったぞ。なに、もっと見てもいいんだぞ? なんなら触っても──」


 いやいやいやいやいや!

 まあたしかに、触りたい、触りたいけれど!


「誰だお前は!!」


 いくらそんなダイナマイトボディだからと言って、いくら誘惑してくるからと言って、それを忘れちゃあいけない。

 堂々とシャワーを浴びているのだから、そりゃあ、泥棒じゃないとは思うけれど、しかし、じゃあ、こいつは誰なのだ、ということになる。


「? さっき会ったばかりじゃないか」


 なんて。


「は?」


 何言ってんだこいつ。


 さっき会った?

 そんなはずはない。こんな金髪、ましてや、こんな美少女には会ってないはずだ。

 学校に行くときだって、学校から帰るときだって、コンビニに行くときだって、コンビニから帰るときだって。


「いやいや、お前とは会ってないぞ。お前の勘違いじゃないのか?」


 勘違い。

 それで勝手に人の家のシャワーを使われても困るけれど。


「いやいやいや、そんなはずはない」


 しかしそれでも、彼女は俺の言葉を全力で否定した。

 そんなはずがないと言われても、まあしかし、自分が気づいてないだけで、ということもあるかもしれないけれど。


「あ」


 急に。

 何かを思い出したかのように、声を出した。


「そういえばそうだったな」


 そしてまた、ひとりで勝手に納得する。


「そういえば、この姿ではなかったんだな。忘れるところだったぞ、まったく、年を取るといけないねぇ」


 年を取る、と言っても、まだ見た目は二十代、頑張れば十代でも通る(身長以外)けれど、年寄りのようなセリフを言っているのは、不思議に思うというか、不可思議に思うというか、不気味に思うというか、違和感があると言うか、そういうのを通り越して、少し面白くも見えてしまう。


「まあいい。見せてやるよ、魅せてやる。そうすれば、わかるはず。わからなきゃ、私は君を殺すまであるよね」


 殺す、なんて、物騒なことを言う。

 そんな綺麗な顔で、物騒なことを言われると、なんだか少し興奮してしまう。もうしてるけど。


「さあ、とくと見よ!」


 そんな声が聞こえた、刹那──彼女の周りが光に包まれる。あんまり眩しかったので、俺は思わず目を瞑った。


「もう目を開けていいぞ──」


  何分、いや、何時間。もしかしたら、一瞬なのかもしれない。

 わからなかった。どれくらい経ったか、というのが。とにかく目を瞑るのに必死で、あまりにも眩しかったから、失明したくないから、ずっと目を瞑っていた。


「さ、これでわかるだろう?」


 そして目を開け、目の前にあったのは──


「聖剣……?」


 聖剣エクス・カリバー。

 男心をくすぐる、白色をベースとした、金色の装飾が所々にある、そんな聖剣。

 それが、お風呂の床にぶっ刺さってた。


 床には大きな穴が空いていたけれど、そんなことには気付かず、目の前の光景を、ただ口を馬鹿みたいにポッカリ開けて、死んだ魚のような目で見ることしかできなかった。


 目の前の光景が信じられない、と言うか。

 受け入れたくない、と言うか。

 どっちかと言うと、受けいれられない。

 頭が追いついてこない、そんな状況であった。


「はあ、やっと理解してくれて、嬉しいよ。嬉しい嬉しい。じゃ──契約しよっか」


 なんか知らんけど、喜んでくれたみたいだ。


「ん?」


 いやいや、待て待て。


「契約ってなんだよ?」


 すげぇさらっと言われたけれど、しかしまあ、なんだそれ。


「はぁ? 聖剣との契約だよ、契約」


「主従関係を結ぶとか、そんな契約?」


 問う。

 しかし、「ざんねぇ〜ん!」と、明らかに馬鹿にした顔(実際には見えないけれど、なんとなくそんな気がする)と態度で言われる。美少女だからなのか、いやいや、それ以外にはありえないけれど。とにかく、美少女だから、それさえも絵になってて、ムカつく。ムカつくけれど、なんかちょっと興奮する。まあ、もうしてるけど。


「何にもわかっちゃいないんだね、君は。普通、聖剣と言ったら勇者であろう?」


「ん? つまり、俺を、勇者にさせてくれるということか?」


 勇者、とか。

 『契約』と言うワードが出てきたときに、そりゃあ考えなかったわけではないけれど、それはないな、的な感じで除外したのだ。フェードアウトで墓地に送ったのだ。


「まあ、端的に言えば、そうなんだろうけれど、しかし、そう言うわけでもないと言えば、嘘になる、と言うわけでもないけれど……」


 曖昧、と言うか、何だかよくわからない。


「うーん、簡単に言えばそうなのだろう。うん、そうだ」


 と。

 またひとりで納得して、ひとりで頷いて(頷くというのは、剣自体が曲がるということだ)。


「よし、契約しよう、そうしよう!」


「いやいや、契約って、何すんだ?」


 何にも聞いていない。まあ、俺も何にも訊いていないけれど。



 「簡単な話だよ」から始まったのはいいんだけれど、結局、数十分ほど無駄な話を聞かされたので、割愛。


 ◇◆◇


「そこでさ、私は言ってやったのさ──」


 もう既に、話はまったく持って、意味のわからない方向に進んでいた。

 お風呂にぶっ刺さった聖剣と話す、少年。ただでさえ意味のわからないこの状況で、こんな話を永遠とやるのだから、もう本当に、意味がわからなさすぎる。


「──んで、結局聖剣。俺はどうすればいいんだ?」


 聖剣が三代目の持ち主に罵倒をしてやったという話の途中で、俺は訊く。


 『俺はどうすればいいんだ?』

 これについては、終始触れていない。

 いやいや、これについてじゃなくても、全て無駄な話だ、雑談だ。


「おお、そうだったね、忘れるところだったぞ。まったく、年を取るといけんねぇ……」


 それ、さっきも聞いたぞ、と言いたいところだったけれど、まあいいだろう。本当に年寄りなんだろう。


「なんせ、二千年とちょっと生きてるからねぇ……」


 それ、キリストが生まれた頃に、こいつも生まれたってことかよ?

 怖ぇよ、聖剣怖ぇよ。


「よし、教えてやろう。教えてやるぞ」


 なんて言って、今度は光なしに人間の姿に戻った──いやいや、今度は服を着ているのかよ。


 白いワンピース。

 それは、金髪美少女の美しさを一層際立たせている。


 ちゅうか、さっきの眩しい光は、多分演出だったのだろう。アニメとかの必殺技で、最初だけ派手な演出だけど、後から雑になっていくとか、そういうパターン。

 


「さあて、何から話すかなぁ…………そうだな。よし、じゃあ、まず君について話そう──君はね、寿命が長いんだ。どれくらい長いかと言うと、平均寿命の三倍くらい。いやいや、三倍以上だね、うん、そうだ」


 うんうん頷いて。

 いやいやいや、なんか、すげぇさらっと大事なこと言われた気がする。え? 寿命が長い? 平均の三倍以上? 舐めとんか。


「んで、寿命が長いから勇者になってもらう、というわけだね」


「いや、『わけだね』なんて言われても、どういうことか、いまいち、さっぱりわからないんだけれど」


 わからない、と言うか、もう追いついてない。

 衝撃の展開の連続で、頭が混乱していると言うか、ううん、やっぱり追いついていない、ということだわ。


「うーん、勇者は寿命使って戦うもんだろ?」


「いやいや、『もんだろ』とか言われても、聞いたことないから、そんなこと。聞いたことないのに、そんな『常識だよ?』みたいな顔をしないでくれ」


「勇者ってのは、チートな力を使うだろう? そんなのを使うのに、なんも代償と言うか、デメリットがなきゃおかしいじゃないか、と言うことで、アーサー王が勝手に考えた」


 お、おう……?

 なんとなくわかったような、でもやっぱりわからないような。


「ま、そういうことだから──」


 くるりと一回転して、ニヤリと笑い。


「契約するから──願いを言いな?」


 ◇◆◇


 願い──か。


「一応訊くけれど、何故、願いを訊く必要があるんだ?」


「うむ、簡単な話だよ。いくらチートな力が使えるからと言って、しかし、寿命を取るのはつまり、命を奪っていってると言うことだから、なんだかそれは、理不尽のように思えるから、と言うことで、アーサー王が決めた。勇者になるときに、ひとつ願いを叶えてやる、って」


「なるほどな……」


 たしかにまあ、いくらチートな力を使えるからと言って、寿命を取るのだから、それなら、もうひとつ何かを追加してもいいだろう。


 それで──願い。


「願い、ねぇ……」


「ああ、願いだ。お金持ちになりたいでもいいし、可愛い彼女が欲しいとか、有名人になりたいとか、何でも叶えてあげよう──何でも、だ」


「…………」


 正直、叶えて欲しい願いなんて、いくらでもあった。何個でも、何十個でも、もしかしたら、何百個あったかもしれない。

 しかし──『願い』と言われて、まず思いついたのが、思いついてしまったのは、最低で最悪の、ふざけた願いだった。


 俺は思いっきり息を吸って、吐いて。

 そしてもう一度吸って、ちゃんと彼女の目を見て。








「俺の母親を──殺してほしい……」

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