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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第二章 いつかあなたと見た世界
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甘えていた、そんなことさえも。

戦闘描写が苦手すぎて、今回やる予定だった戦闘はしなくなりました。展開変わりました。

 シャワーを浴びる。傷なんかは全て聖剣が治してくれているので、染みるということもなく、気持ちよく浴びることができた。と言うか、最近風呂に入ってなかったな。


 部屋に戻れば、日和桜ひより さくらと、正宗がお茶してた。呑気だなぁおい。


「む、帰ってきたか」


 ふたりは湯呑みを置き、ほっと息を吐く。

 陽気な政宗であったが、今は、少し真面目な顔をしていた。笑いを堪えているようにも見えるけど、たぶん気の所為。そう、木の精。




「それじゃあ──聞かせてもらおうじゃないか」




 ◇◆◇


 俺は話した。南乃花が殺された。悠莉が殺された。そんなことを、ところどころ記憶が曖昧なところもあったが、しかし、なるべく、正確に。どもったりしているのはいつものことなので、敢えてそういうのは言わない。いや、もう言っちゃってるな、うん。


「ほう──」


 日和桜は、顎に手を当て考える素振りをしていた。隣にいる政宗も同じポーズをとっているみたいだが、こいつがやると、何だか、やはりバカっぽく見えてしまうんだよなぁ……。


「政宗」


 不意に突然、日和桜は正宗を呼ぶと。


「出て行ってくれるか……?」

「…………はい」


 へらへらと陽気な彼であったが、彼女のその一言で何かを察したのか、今度こそ真剣な表情になり(さっきは笑いを堪えているようにも見えたが、今は真面目そのものである)、部屋を出ていく。


「おい」


 呼ばれる。向けば。


 ──バチンッ。そんな音が、この静寂に包まれていた小さな部屋に、響き渡った。


 頬を、思いっきり叩かれたのである。


「何すんだよっ!」


 俺は反射的に、怒鳴った。いきなり頬を叩くもんだから、つい無意識的に、そうなってしまう。でも、そんなことに後悔なんてしていない。するはずもない。叩いてきたのは、彼女なのだから。

 しかし彼女は、そんな俺を軽蔑するかのような目で見、そして、たっぷりと息を吸うと。


「甘えるなっ!」


 叫んだ。

 雑音ひとつない部屋に、キーン、と響く。


「全部お前の所為だろうがっ! 赤城南乃花あかぎなのはも、千鶴悠莉ちづる ゆうりも! その青薔薇あおばらってやつの所為じゃない! お前の所為だ! お前の所為で、彼女達は死んだ! お前の所為で、何にも関係の無かった彼女達が死んだんだ! お前はただ、自分の所為にしたくない、臆病者だ! 他人に責任を押し付けて、甘えているだけの、卑怯者だっ!」


 甘えていた。そんな言葉が、俺の胸にぐさりと突き刺さった。

 …………そうなのだろうか。甘えている、と言う自覚はないけれど、しかし、客観的に見れば、相対的に見れば、果たして俺は甘えているのだろうか。


 これは──俺の所為なのだろうか。


「いいや、違う! 俺の所為じゃない! 俺の所為なんかじゃない! 俺の所為じゃ、いけないんだ……」


 ──違う。


「いや……、そもそも、あいつらの所為だろ! 彼女等あいつらが弱かったから、殺されたんだ! 俺は何も悪くない! 悪いのは、弱い彼女等あいつらなんだよ!」


 ──違うんだよ。


「だから彼女等あいつらの、自業自得でしかないだ!」


 自業自得。

 これは、彼女に向けた言葉だったはずなのに、何故だか、自分に言っているような気になった。ブーメラン、と言うべきなのだろうか。

 いやいや、そんなはずはない。

 俺は、確実に正しいことを言った、つもりだ。


 そうやって──何度も何度も何度も、自分に言い聞かせていた。


「そんなんだから……」


 すると彼女は、肩をわなわな震わせ、眦に涙を浮かばせながらも、しかし、強気な眼差しで俺を一瞥すると。


「お前がそんなんだったから、彼女等は殺されたんじゃないのか!?」


 まだ、俺の所為にするつもりなのか?

 俺の所為なんかじゃない。

 俺の所為なわけがない。

 俺は何にも、悪くないはずなのだ。


「まだ……分からないのか……?」


 分かりたくもなかった。

 分かったところで、俺は何もできない。

 彼女は言う。ただの、臆病な、卑怯者、だと。

 その通りなのだ。胸に突き刺さったのは、的を射ているからなのだ。

 臆病で。卑怯で。

 いつも逃げてばかり。


 そんな俺には、贅沢すぎた。

 彼女なんていらないし、妹だっていらなかった。

 俺には何もいらないんだ。

 最初から、俺なんていなければよかった。

 俺がいたから。

 彼女たちが巻き込まれ。


 そして──死んだ。


「うわああああああああっ!!」


 叫ぶ。

 何故、こんなにも叫ぶのか。

 分からない。

 何も分からない。

 でも、叫んだ。

 叫び続ければ──何かが分かって、何かが解決すると、思ったから。思い込んでいたから。


「はっ、はあ……はあ……」


 しかし叫んでも、残るのは虚しさと、急に静かになったことで生まれた、妙な空気だけで。


「南乃花……悠莉……」


 結局、彼女等を貶めるどころか、忘れることさえも出来なくて。


 だから、俺は──


「今、千鶴火憐(お前)に出来ることは、いったい何だ?」


 さっきまで黙って俺を、軽蔑する如く見ていた彼女は、今度は少し柔らかい視線を俺に向け、訊いてくる。

 出来ること。



 ──何もなかった。



 何もできない。本当に、何も出来ない。

 青薔薇を倒すことだって。

 そりゃあ、俺は仇を討ちたい。

 でも。

 そんなことは無理だ。

 一度負けた相手。

 そんなものに勝てるはずがない。最初から、そんなことは決まっているし、自分自身、分かりきっていることだ。


「そうやって……、諦めるのか……?」


 彼女は問う。

『諦めたらそこで試合終了だよ』なんて言葉があるように、当然、諦めたらそこで終わりなのだ。んなことは、俺でさえ分かる。

 しかしながら。


「どうしようもないってときも、あるだろう……」


 どうしようもない。

 どうにもできない。


 ──今の俺では。


「なら……」


 彼女は重い腰を上げ、そして。


「私が手伝おう……」


 静かに、呟やくように、しかしはっきりと、言った。


 ◇◆◇


 いつもの公園へ行く。

 マーズと地球を繋ぐ、唯一の場所。

 そこに。

 聖剣はいた。

 不気味な笑みを浮かべ。


「やぁ、まだ死んでなかったのかい?」


 笑いながらそう言った。


「あぁ、 "まだ"  な」


「それ、何だか此処に死にに来た、って聞こえるんだけど、気の所為?」


 それに、と聖剣は続ける。


「桜まで来ちゃって……」


 俺の隣にいる日和桜に目線が行くのが分かった。

 彼女は名刀正宗の柄を握りしめ、真剣な表情で立っている。


「桜、君も死にに来たのかい?」


 聖剣の問いに、日和桜は首をふると。


「死にに来たんじゃない。大切な友達を、仲間を──助けるために、来た」


 そうきっぱりと、彼女は言い放ったのであった。

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