少年は、同じことを繰り返す。
どーも。
本気です。本気と書いてマジと読みます。
いや、ほんとに、本気で書きました。
まあ、私にとっては長いです。
では。
「何で、お前が……」
「──あん? 誰だよ、お前」
聖剣に気づいたのか、エルフたちは食べる手を止め、そして、睨みつける。ガンを飛ばす、と言うやつなのであろう。ひゃあ怖い。
「私か? 私は──」
そこで一旦間を開けると、勝ち誇ったようにニッと笑い、そして、言い放った。
「聖剣、エクス・カリバーだ!」
言った途端、エルフたちの顔が青くなっていくのがわかった。真っ青中の真っ青で、むしろこっちが心配しちゃうくらい、真っ青である。真っ青を通り越して、紫にも見える。
「げっ! 聖剣かよ。クソっ、逃げるぞ!」
「「おう!」」
リーダーのようなエルフが言うと、モブキャラのようなふたりが続き、何処かに行ってしまった。あいつらには殺意が芽生えていたというのに、逃がしてしまうのは、本当に嫌だった。しかし、彼らは慣れているのか、逃げの達人なのか、あっという間に何処かへ行ってしまい、追いかけることさえ、できなかったのである。
「おい……」
一先ず、今受けた傷がかなり痛いので、聖剣を呼ぶ。何とは言わなかったが、俺の体を見て察したのか、「おい」の一言で了解した。
そして聖剣は、詠唱をする。
「我、聖剣エクス・カリバー。聖剣の勇者、千鶴火憐と契約を結びし者なり。精霊よ、我に大いなる力を!」
やがて俺の傷は、無くなってゆく。みるみるうちに、見えなくなっていった。
「…………死にたいのでは、なかったのか?」
俺の傷もあらかた治り、次第に俺が動けるようになったときに、聖剣は問う。
「あぁ、死にたいよ。でもな、その前に、お前に訊きたいことがあるから、死ねねぇよ」
言うと、数秒間考えたのか、一度だけ「うーむ」と唸って、気づく。と言うか、思い出したのだろう。
「ん? あぁなんだ、この服のことか」
「…………そうだよ!」
何ごともなかったようにへらへらと笑いながら、まるで見せびらかすようにしながら、彼女は服を摘む。
俺はそれにムカついて、怒鳴りながら胸ぐらを掴んだ。
「何でてめぇが南乃花の服を着てんだよ! どこでそれを手に入れた! なんのために着てんだ、俺への嫌がらせかよ!」
周りのことなど気にせずに、俺はそう叫ぶ。今は周りのことなんてどうでもいいのだ、今大事なのは、こいつのこと、そして、南乃花のことだけである。それ以上に大事なものなど、今の俺には思いつかないだろう。思いつかないと言うより、思いたくもない、それ以上、考えたくもない。
「まあ……そうだね」
と不気味に、ニヤリと笑うそれは、まさしく悪魔と呼ぶにふさわしいであろう。それ程、意地の悪そうな顔をしている。
「クソっ!」
俺は走った。もちろん、行先なんてない。ただ無心で、家に帰るしかできない。
家の前まで来る。泣きたい。もうなにも信じられない俺は、いったいこれから何をすればいいんだろうか。いやいや、死ぬしかないのであろう。
なんてことを考えながら、玄関を開けた。そこで、いつもと違うにおいがするということに気がつく。異臭だ。痛烈な異臭。思わず、腕で鼻を覆うような、それ程異常なにおいが、家の中に漂っている。
どうして──家の中でこんなにも酷いにおいがするのだろうか。
靴を脱ぎ、廊下を歩く。刹那、足の先に何かが触れた。
それは、液体のようで、俺の足の体温を徐々に徐々に、奪ってゆく。これは水ではない。ぬめりがあり、すぐにそう分かった。しかし、それが何かは分からない。暗い廊下。見えるのは、窓から漏れでる月の光のみ。
足に気持ちの悪い感触を受けながら、リビングへと目指す。耳に入るのは自分の心臓の音。そして、足元のなにかを踏む、ぐしゃり、ぐしゃり、という音のみ。
頭の中で、黒いなにかが渦巻く。怖い。でも、進まなければならない、と言うか、進むことしかできない。まるで止まることを許されないような空間に、雰囲気に、俺は操られる如く、一歩一歩歩いてゆく。
ようやく、リビングの前についた。扉を開ける。さっきとは比べ物にならないくらいの異臭が鼻を襲ったが、この状況に混乱しているのか、そんなことお構い無しに、身体半分を壁に隠すようにして、中を覗いた。
電気さえもついていなかったので、思い切ってつけてみる。
目の前に広がったのは──赤。そして、黒。
そこにあったのは、想像もしていなかったモノ。
悠莉は、俺を虚ろな目で見ていた。まばたきひとつせずに。ただ、ただ、じっと、まっすぐに。俺を見ていた。
「あ、あ……あ……」
言葉が出ない。喉に何かが詰まっているようで、息が苦しい。
ふと、下を見てみる。なんてことない動作であったが、しかしまた、俺の目を奪うように、まだ動いている『腕』が、そこにはあった。不自然に、あった、と言うよりも、『置かれてあった』、と言うべき状況である。
そしてもう一度、正面を見る。そこにはさっきと変わらず、悠莉がいた。いや、これも、『置かれてあった』と、言うべきか。
もう既に、俺の嗅覚は失われている。代わりの視覚も、目の前の赤と黒で、全て塗りつぶされていた。
「何……で……」
何で。誰が。
そんな感情が溢れ出してきて、怒りも込み上げてきた。
「何で! 何で何で何で何で何で何で!!!!」
何で俺ばっかり。
俺が何をしたって言うんだよ!
普通に生きてきたじゃねぇか!
何でなんだよ!
俺は、その場で泣き崩れる。
床は、血溜まりだった。でも、今の俺には、関係ないことである。
「お……にぃ……ちゃん……?」
「…………ッ! 悠莉!」
まだ悠莉には、息があって、意識もあった。
「シルバーブレットはどうした!?」
問うが、彼女は涙をぽろぽろ流すだけで、答えることはない。
「待ってろ、悠莉。すぐに聖剣を!」
そんな彼女を見かねて、俺が外に出ようとするが、何かが袖を引っ張るような感覚がして、足を止めた。
「まっ……て、おに……ちゃん……」
向くと、力を振り絞って、泣き崩れ、今にも崩れそうな顔で、彼女は精一杯、俺を止めていた。袖を引っ張る力は弱く、すぐにでも引き剥がすことのできる程なのに、俺は、動けずにいた。彼女の壊れかけた目が、俺に何か訴えかけているようにも見えるからだろうか。
「ん、どうした?」
訊けば、ふっと笑い。
「わた……しを……、ころし……て……」
血も滲んだ涙を顔に沢山浮かべながら、そんなことを、言った。
「な、なんでだよ!」
「い……たい……いた……いの……うで……がうごか……ない、の……!」
まるで生まれたての赤子のように泣き叫ぶ彼女を見れば、両腕は──無かった。動かないのではない。そもそもそこにはないから、動かすことなんて、出来ないのだ。
「あ……しも……うごか……ない……の……」
足も、右足だけしか残っていなかった。
「だか……らね……?ころ、して……ほしい……おに……ちゃん……の……手で……」
虚ろな笑顔を浮かべ、彼女は言う。血の混じった赤い涙は、頬を伝い、そして、床にある、赤き海に落ちてゆく。
──もう彼女を、苦しませたくない。
やるしか……ないのだ。
「…………ごめん、悠莉」
彼女の首に、そっと手をかけた。
「ほん……とは……ね、なかなおり……して……から……さよなら……したかっ……たんだけど……」
別れを惜しむように、声を絞り出す彼女を見て、「もう、喋らないでくれ」と言うことしか、俺にはできない。何もできない俺に、唯一できることは、彼女を楽にしてあげることくらい。だから、やるしかないのだ。
「痛いのは最初だけだからな……。すぐ、楽になれる」
言うと、やはり寂しいのか、俺の頬にそっと手をやり、にかっと笑った。虚ろでも、最高の笑顔だ。
「おに……い……ちゃん……」
そして、最後の力を振り絞り、俺を呼ぶと。
「だい……すき……だ……よ……」
「あぁ──俺もだ」
手に力を入れた。めいいっぱい、力を込めて、今までの感謝を込め、殺した。彼女はすぐに──絶命する。
「はは……ははは……」
乾いた笑いくらいしかでない。どうして、こんなことになってしまったのだろうか。
「おや、ようやく来たのかい?」
俺がひとり悲しんでいるのも気にしないのか、後ろで、声がする。あの、憎い声である。
「あぁぁおぉぉばぁぁらぁぁ……!」
顔を見なくても、その声の主は分かった。
また、こいつが殺ったのだ。俺の、大切な人を。
「どうしてこんなこと!」
「どうして? ハッハッハ! ──簡単だよ」
彼はしゃがみこんで、俺と目線を合わせるようにすると。
「君の本気が見たいから……かな?」
──本気。そのためだけに。
「そのためだけに! 南乃花も悠莉も! 殺したって言うのかよ!!!」
「うーん……。まあ、そうだとも言えるし、違うとも言えるね」
煮え切らない、曖昧な返事をした。
と、思うと、すぐに青薔薇は満面の笑みを浮かべると。
「さあ……、次は、君の番だ」
青薔薇は、刀を抜く。血だらけの妖刀を。
「次は君が死ぬ番だ!」
◇◆◇
「うわああああああああ!!!!」
俺は逃げた。青薔薇から。現実から。逃げて逃げて逃げて──気づいたら、知らない場所にいた。
まったく見たことのない土地。まったく見たことのない人。
完全に、見失った。なにもかもを──見失ったのである。
「む、千鶴火憐ではないか」
ふと、声がした。
向けば、日和桜がそこにいた。ネギが飛び出ている買い物袋を持って。お前はどこの主婦だよ! と、言いたいところだったが、やめた。鼻のあたりまで出かかったけど、やめた。いや、それは通り過ぎてるか。
「何で……」
今の俺は血だらけ。悠莉の血がつき、全身真っ赤っかだ。
しかし、日和桜は俺に話しかけてきた。
まるでそれが普通と言うように、普通に、平然と、話しかけてきたのだ。
「何でって……友達だから、とか?」
友達だから。その一言が、俺の胸に響く。響くと言うより、刺さると言った方が正しいのだろうか。
友達……。
昔俺が、望んでいたもの──作りたくても、作れなかったもの。
それが今、目の前にいる。
ダメだ。この人と親しい関係になっては。
南乃花も、悠莉も、そうだった。
親しくなったから殺された。
全部、あいつのせいで。
「お、おい。大丈夫か……?」
彼女が心配そんな顔で俺の顔を覗き込んできていたので、なんだろうと思えば。
「…………え?」
気づくと、ぽろぽろと涙が出ていた。止まらない。自分の意思では止まることなく、歯向かうように、出続けている。
「とりあえず、私の家に来い」
言って彼女は、ぐいぐいと腕を引っ張ってゆく。気づけば、無理やり日和桜の家に連れていかされた。
…………何気に、人生初の女子の家だ、なんて、陽気な考えが浮かんできた。
◇◆◇
「まあ……お茶でも飲んでくれ」
出されたのは、明らかに高級なお茶だった。こういうのに詳しくない俺でも分かるほど、プロの目で見なくとも、このお茶は高級な雰囲気と言うか、オーラを出している。いや待て、雰囲気とオーラってどう違うんだ?
「い、いただきます……」
ここまで高級なオーラを出されたら、むしろ逆に怪しく見えてしまう。だから、「もしかしたら毒が入っているんじゃ……?」なんて思い、恐る恐る、口をつけた。まあ、日和桜はそういう人間ではないと信じているので……、大丈夫、だよね?
「お、おいしい……」
そりゃあ高級なのだから、おいしいに決まっているだろう。ちなみに、毒が入ってなくてほっと胸を撫で下ろしたのは、ここだけの秘密。
「そうか。それはよかった…わざわざ正宗に買いに行かせた甲斐があったよ」
「え、正宗?」
ずずずとお茶を啜っていると、思わぬ名前を口にするので、思わず聞き返してしまった。
名刀正宗。日和桜が所持する刀で、青薔薇が持っている「妖刀村正」とは正反対の存在──と俺は思っている。
「ん、あぁ、そうか。そういえば、まだ紹介していなかったな。正宗、入ってこい」
「はいでござる!」
聞こえたのは、やけに明るく、高い声。
入ってきたのは、日和桜と色違いの着物を着た、イケメン。シルバーブレットを洋風なイケメンとするなら、こいつは和風なイケメン、と言ったところだろうか。
「拙者、桜様に仕えさせてもらっておる、名刀正宗と申すでござる。よろしくでござるー!」
顔はイケメンだが、絶対こいつ馬鹿だな、と直感した俺である。
「こら、正宗。まーたござる使ってる」
日和桜は、まるで小さな子供をしつけるような口調で、言う。
「だって……ござるって侍っぽいじゃないですか……」
「だからござるは、どちらかと言うと、忍者でしょ」
そんなやり取りを聞いて、思わず笑いが出た。
こんな状況で──こんな状況だからこそ。
笑いが出た。
「ちょっと、何笑ってんの?」
「……え? あ、ごめん」
ものっそい目で見られたので、思いっきり謝る。それこそ、土下座をする勢いで。
「ところで火憐氏」
名刀正宗が、陽気な声で、話しかけてくる。
「ん、どうした?」
「何故、そんなに血だらけなのですか?」
俺の体をじろじろと、不思議そうに見ながら、そんなことを訊いた。
「え」
そのことについては、思い出したくなかった。忘れていた訳では無いし、むしろ、話さなければと思っていた。と、というかぁ? 今から話すつもりだったしぃ? ホ、ホントだしぃ?
…………。
こんなときに、よくもまあこんなテンションでいられるなぁ、なんて思っちゃうかもしれないけれど、今の俺は、正直どん底まで落ちている。どん底と言うか、むしろ地下まで落ちて、地獄のほうまで行っているのかもしれないが、とにかく、ただただそれを誤魔化すために、心の中でこんなにしゃべっているだけ。やはりまだダメだ。まだこんなんじゃ──
「まあ、それは私も気になるけど──とりあえずシャワー浴びてきたら? お風呂、貸すよ?」
「あ、あぁ。じゃあ、よろしく頼む」
そして俺は簡単に家の中の案内をされ、お風呂でシャワーを浴びることにした。
日和さんのキャラが定まらない……




