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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第二章 いつかあなたと見た世界
27/45

少年は、同じことを繰り返す。

どーも。

本気です。本気と書いてマジと読みます。

いや、ほんとに、本気で書きました。

まあ、私にとっては長いです。

では。

「何で、お前が……」


「──あん? 誰だよ、お前」


 聖剣に気づいたのか、エルフたちは食べる手を止め、そして、睨みつける。ガンを飛ばす、と言うやつなのであろう。ひゃあ怖い。


「私か? 私は──」


 そこで一旦間を開けると、勝ち誇ったようにニッと笑い、そして、言い放った。


「聖剣、エクス・カリバーだ!」


 言った途端、エルフたちの顔が青くなっていくのがわかった。真っ青中の真っ青で、むしろこっちが心配しちゃうくらい、真っ青である。真っ青を通り越して、紫にも見える。


「げっ! 聖剣かよ。クソっ、逃げるぞ!」


「「おう!」」


 リーダーのようなエルフが言うと、モブキャラのようなふたりが続き、何処かに行ってしまった。あいつらには殺意が芽生えていたというのに、逃がしてしまうのは、本当に嫌だった。しかし、彼らは慣れているのか、逃げの達人なのか、あっという間に何処かへ行ってしまい、追いかけることさえ、できなかったのである。


「おい……」


 一先ず、今受けた傷がかなり痛いので、聖剣を呼ぶ。とは言わなかったが、俺の体を見て察したのか、「おい」の一言で了解した。


 そして聖剣は、詠唱をする。


「我、聖剣エクス・カリバー。聖剣の勇者、千鶴ちづる火憐かれんと契約を結びし者なり。精霊よ、我に大いなる力を!」


 やがて俺の傷は、無くなってゆく。みるみるうちに、見えなくなっていった。


「…………死にたいのでは、なかったのか?」


 俺の傷もあらかた治り、次第に俺が動けるようになったときに、聖剣は問う。


「あぁ、死にたいよ。でもな、その前に、お前に訊きたいことがあるから、死ねねぇよ」


 言うと、数秒間考えたのか、一度だけ「うーむ」と唸って、気づく。と言うか、思い出したのだろう。


「ん? あぁなんだ、この服のことか」

「…………そうだよ!」


 何ごともなかったようにへらへらと笑いながら、まるで見せびらかすようにしながら、彼女は服を摘む。

 俺はそれにムカついて、怒鳴りながら胸ぐらを掴んだ。


「何でてめぇが南乃花なのはの服を着てんだよ! どこでそれを手に入れた! なんのために着てんだ、俺への嫌がらせかよ!」


 周りのことなど気にせずに、俺はそう叫ぶ。今は周りのことなんてどうでもいいのだ、今大事なのは、こいつのこと、そして、南乃花のことだけである。それ以上に大事なものなど、今の俺には思いつかないだろう。思いつかないと言うより、思いたくもない、それ以上、考えたくもない。


「まあ……そうだね」


 と不気味に、ニヤリと笑うそれは、まさしく悪魔と呼ぶにふさわしいであろう。それ程、意地の悪そうな顔をしている。


「クソっ!」


 俺は走った。もちろん、行先なんてない。ただ無心で、家に帰るしかできない。




 家の前まで来る。泣きたい。もうなにも信じられない俺は、いったいこれから何をすればいいんだろうか。いやいや、死ぬしかないのであろう。


 なんてことを考えながら、玄関を開けた。そこで、いつもと違うにおいがするということに気がつく。異臭だ。痛烈な異臭。思わず、腕で鼻を覆うような、それ程異常なにおいが、家の中に漂っている。

 どうして──家の中でこんなにも酷いにおいがするのだろうか。


 靴を脱ぎ、廊下を歩く。刹那、足の先に何かが触れた。

それは、液体のようで、俺の足の体温を徐々に徐々に、奪ってゆく。これは水ではない。ぬめりがあり、すぐにそう分かった。しかし、それが何かは分からない。暗い廊下。見えるのは、窓から漏れでる月の光のみ。


 足に気持ちの悪い感触を受けながら、リビングへと目指す。耳に入るのは自分の心臓の音。そして、足元のなにかを踏む、ぐしゃり、ぐしゃり、という音のみ。


 頭の中で、黒いなにかが渦巻く。怖い。でも、進まなければならない、と言うか、進むことしかできない。まるで止まることを許されないような空間に、雰囲気に、俺は操られる如く、一歩一歩歩いてゆく。


 ようやく、リビングの前についた。扉を開ける。さっきとは比べ物にならないくらいの異臭が鼻を襲ったが、この状況に混乱しているのか、そんなことお構い無しに、身体半分を壁に隠すようにして、中を覗いた。

 電気さえもついていなかったので、思い切ってつけてみる。


 目の前に広がったのは──赤。そして、黒。


 そこにあったのは、想像もしていなかったモノ。

 悠莉(彼女)は、俺を虚ろな目で見ていた。まばたきひとつせずに。ただ、ただ、じっと、まっすぐに。俺を見ていた。


「あ、あ……あ……」


 言葉が出ない。喉に何かが詰まっているようで、息が苦しい。

 ふと、下を見てみる。なんてことない動作であったが、しかしまた、俺の目を奪うように、まだ動いている『腕』が、そこにはあった。不自然に、あった、と言うよりも、『置かれてあった』、と言うべき状況である。

 そしてもう一度、正面を見る。そこにはさっきと変わらず、悠莉ゆうりがいた。いや、これも、『置かれてあった』と、言うべきか。


 もう既に、俺の嗅覚は失われている。代わりの視覚も、目の前の赤と黒で、全て塗りつぶされていた。


「何……で……」


 何で。誰が。

 そんな感情が溢れ出してきて、怒りも込み上げてきた。


「何で! 何で何で何で何で何で何で!!!!」


 何で俺ばっかり。

 俺が何をしたって言うんだよ!

 普通に生きてきたじゃねぇか!

 何でなんだよ!


 俺は、その場で泣き崩れる。

 床は、血溜まりだった。でも、今の俺には、関係ないことである。


「お……にぃ……ちゃん……?」


「…………ッ! 悠莉!」


 まだ悠莉には、息があって、意識もあった。


「シルバーブレットはどうした!?」


 問うが、彼女は涙をぽろぽろ流すだけで、答えることはない。


「待ってろ、悠莉。すぐに聖剣を!」


 そんな彼女を見かねて、俺が外に出ようとするが、何かが袖を引っ張るような感覚がして、足を止めた。


「まっ……て、おに……ちゃん……」


 向くと、力を振り絞って、泣き崩れ、今にも崩れそうな顔で、彼女は精一杯、俺を止めていた。袖を引っ張る力は弱く、すぐにでも引き剥がすことのできる程なのに、俺は、動けずにいた。彼女の壊れかけた目が、俺に何か訴えかけているようにも見えるからだろうか。


「ん、どうした?」


 訊けば、ふっと笑い。





「わた……しを……、ころし……て……」





 血も滲んだ涙を顔に沢山浮かべながら、そんなことを、言った。


「な、なんでだよ!」


「い……たい……いた……いの……うで……がうごか……ない、の……!」


 まるで生まれたての赤子のように泣き叫ぶ彼女を見れば、両腕は──無かった。動かないのではない。そもそもそこにはないから、動かすことなんて、出来ないのだ。


「あ……しも……うごか……ない……の……」


 足も、右足だけしか残っていなかった。


「だか……らね……?ころ、して……ほしい……おに……ちゃん……の……手で……」


 虚ろな笑顔を浮かべ、彼女は言う。血の混じった赤い涙は、頬を伝い、そして、床にある、赤き海に落ちてゆく。


 ──もう彼女を、苦しませたくない。


 やるしか……ないのだ。


「…………ごめん、悠莉」


 彼女の首に、そっと手をかけた。


「ほん……とは……ね、なかなおり……して……から……さよなら……したかっ……たんだけど……」


 別れを惜しむように、声を絞り出す彼女を見て、「もう、喋らないでくれ」と言うことしか、俺にはできない。何もできない俺に、唯一できることは、彼女を楽にしてあげることくらい。だから、やるしかないのだ。


「痛いのは最初だけだからな……。すぐ、楽になれる」


 言うと、やはり寂しいのか、俺の頬にそっと手をやり、にかっと笑った。虚ろでも、最高の笑顔だ。


「おに……い……ちゃん……」


 そして、最後の力を振り絞り、俺を呼ぶと。


「だい……すき……だ……よ……」


「あぁ──俺もだ」


 手に力を入れた。めいいっぱい、力を込めて、今までの感謝を込め、殺した。彼女はすぐに──絶命する。


「はは……ははは……」


 乾いた笑いくらいしかでない。どうして、こんなことになってしまったのだろうか。




「おや、ようやく来たのかい?」




 俺がひとり悲しんでいるのも気にしないのか、後ろで、声がする。あの、憎い声である。


「あぁぁおぉぉばぁぁらぁぁ……!」


 顔を見なくても、その声の主は分かった。

 また、こいつが殺ったのだ。俺の、大切な人を。


「どうしてこんなこと!」


「どうして? ハッハッハ! ──簡単だよ」


 彼はしゃがみこんで、俺と目線を合わせるようにすると。


「君の本気が見たいから……かな?」


 ──本気。そのためだけに。


「そのためだけに! 南乃花も悠莉も! 殺したって言うのかよ!!!」


「うーん……。まあ、そうだとも言えるし、違うとも言えるね」


 煮え切らない、曖昧な返事をした。

 と、思うと、すぐに青薔薇は満面の笑みを浮かべると。


「さあ……、次は、君の番だ」


 青薔薇は、刀を抜く。血だらけの妖刀を。


「次は君が死ぬ番だ!」


 ◇◆◇


「うわああああああああ!!!!」


 俺は逃げた。青薔薇から。現実から。逃げて逃げて逃げて──気づいたら、知らない場所にいた。

 まったく見たことのない土地。まったく見たことのない人。

 完全に、見失った。なにもかもを──見失ったのである。



「む、千鶴火憐ではないか」



 ふと、声がした。


 向けば、日和ひよりさくらがそこにいた。ネギが飛び出ている買い物袋を持って。お前はどこの主婦だよ! と、言いたいところだったが、やめた。鼻のあたりまで出かかったけど、やめた。いや、それは通り過ぎてるか。


「何で……」


 今の俺は血だらけ。悠莉の血がつき、全身真っ赤っかだ。

 しかし、日和桜は俺に話しかけてきた。

 まるでそれが普通と言うように、普通に、平然と、話しかけてきたのだ。


「何でって……友達だから、とか?」


 友達だから。その一言が、俺の胸に響く。響くと言うより、刺さると言った方が正しいのだろうか。

 友達……。

 昔俺が、望んでいたもの──作りたくても、作れなかったもの。

 それが今、目の前にいる。


 ダメだ。この人と親しい関係になっては。

 南乃花も、悠莉も、そうだった。

 親しくなったから殺された。


 全部、あいつのせいで。


「お、おい。大丈夫か……?」


 彼女が心配そんな顔で俺の顔を覗き込んできていたので、なんだろうと思えば。


「…………え?」


 気づくと、ぽろぽろと涙が出ていた。止まらない。自分の意思では止まることなく、歯向かうように、出続けている。


「とりあえず、私の家に来い」


 言って彼女は、ぐいぐいと腕を引っ張ってゆく。気づけば、無理やり日和桜の家に連れていかされた。


 …………何気に、人生初の女子の家だ、なんて、陽気な考えが浮かんできた。


 ◇◆◇


「まあ……お茶でも飲んでくれ」


 出されたのは、明らかに高級なお茶だった。こういうのに詳しくない俺でも分かるほど、プロの目で見なくとも、このお茶は高級な雰囲気と言うか、オーラを出している。いや待て、雰囲気とオーラってどう違うんだ?


「い、いただきます……」


 ここまで高級なオーラを出されたら、むしろ逆に怪しく見えてしまう。だから、「もしかしたら毒が入っているんじゃ……?」なんて思い、恐る恐る、口をつけた。まあ、日和桜はそういう人間ではないと信じているので……、大丈夫、だよね?


「お、おいしい……」


 そりゃあ高級なのだから、おいしいに決まっているだろう。ちなみに、毒が入ってなくてほっと胸を撫で下ろしたのは、ここだけの秘密。


「そうか。それはよかった…わざわざ正宗に買いに行かせた甲斐があったよ」


「え、正宗?」


 ずずずとお茶を啜っていると、思わぬ名前を口にするので、思わず聞き返してしまった。

 名刀正宗めいとうまさむね。日和桜が所持する刀で、青薔薇が持っている「妖刀村正」とは正反対の存在──と俺は思っている。


「ん、あぁ、そうか。そういえば、まだ紹介していなかったな。正宗、入ってこい」


「はいでござる!」


 聞こえたのは、やけに明るく、高い声。

 入ってきたのは、日和桜と色違いの着物を着た、イケメン。シルバーブレットを洋風なイケメンとするなら、こいつは和風なイケメン、と言ったところだろうか。


「拙者、桜様に仕えさせてもらっておる、名刀正宗と申すでござる。よろしくでござるー!」


 顔はイケメンだが、絶対こいつ馬鹿だな、と直感した俺である。


「こら、正宗。まーたござる使ってる」


 日和桜は、まるで小さな子供をしつけるような口調で、言う。


「だって……ござるって侍っぽいじゃないですか……」


「だからござるは、どちらかと言うと、忍者でしょ」


 そんなやり取りを聞いて、思わず笑いが出た。

 こんな状況で──こんな状況だからこそ。

 笑いが出た。


「ちょっと、何笑ってんの?」


「……え? あ、ごめん」


 ものっそい目で見られたので、思いっきり謝る。それこそ、土下座をする勢いで。


「ところで火憐氏」


 名刀正宗が、陽気な声で、話しかけてくる。


「ん、どうした?」


「何故、そんなに血だらけなのですか?」


 俺の体をじろじろと、不思議そうに見ながら、そんなことを訊いた。


「え」


 そのことについては、思い出したくなかった。忘れていた訳では無いし、むしろ、話さなければと思っていた。と、というかぁ? 今から話すつもりだったしぃ? ホ、ホントだしぃ?


 …………。


 こんなときに、よくもまあこんなテンションでいられるなぁ、なんて思っちゃうかもしれないけれど、今の俺は、正直どん底まで落ちている。どん底と言うか、むしろ地下まで落ちて、地獄のほうまで行っているのかもしれないが、とにかく、ただただそれを誤魔化すために、心の中でこんなにしゃべっているだけ。やはりまだダメだ。まだこんなんじゃ──


「まあ、それは私も気になるけど──とりあえずシャワー浴びてきたら? お風呂、貸すよ?」

「あ、あぁ。じゃあ、よろしく頼む」


 そして俺は簡単に家の中の案内をされ、お風呂でシャワーを浴びることにした。


日和さんのキャラが定まらない……

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