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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第二章 いつかあなたと見た世界
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どうしても彼は、彼女を必要とする。

「だからお兄ちゃん……死ぬなんて言わないで! 生きて! お兄ちゃんを必要としてる人はたくさんいる! だから──生きて!」


 彼女は泣き叫ぶ。もう既に、彼女の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。いつもの可愛い悠莉じゃない、が、いつもとは違う、特別な美しさのようなものがあった気がした。


「必要としてる、か……」


 果たしてそれが、何人いるのかはわからない。何人、俺のことを必要としているのか、と言うのは、考えるだけ無駄なことであった。俺の交友関係は狭い。狭いどころか、無いに等しいと言ってもいいだろう。それで、いったい何人が、俺を必要とするのだろうか。自分で言ってて悲しくなってくるな、こればかりは。

 だから、そんなことを言ったって、今の俺はこのまま生きていたいとは思わないのだ。むしろ、早く死にたい。このまま、殺してほしい。妹の手で。シルバーブレットで。


「悪いな悠莉、俺は死ぬ。もう死ぬと決めたんだよ、俺は」


「何でまだそういうこと言うの!? 私はお兄ちゃんに、生きていてほしいのに!」


 …………。


「お前の意思は関係ない。こればっかりは、自分で決めることなんだよ。自分がいつ死ぬか、それは、自分の勝手だろう?」


 ただただ無心で、そんな言葉を並べて、悠莉に言い返した。


「確かに赤城さんがいなくなって私も悲しいよ。でも──」



 ──何だよ。



「同情か?」


「違う! そんなんじゃないよ! でもさ、お兄ちゃん……」


「…て…よ」


「え?」


「出てけよ!!」


 もう限界だった。


「さっさと出てけよ! 南乃花がいねぇと、俺は生きている意味なんてねぇんだ!」


 溜まっていた何かを、彼女にぶちまける。八つ当たり、なのだろう。こうすることでしか、溜まっていた何かを吐き出すことなんてできない。最低だ、本当に。


「お兄ちゃんの……バカ……!」


 バタンッ、と扉が閉まる音がして。やけに強引で、それは、彼女がどれだけ怒っているのかわかってしまうほどの威力であった。扉を壊しかねないほどの音に、俺はひとりでびっくりする。


 結局、俺には南乃花が必要なのだ。聖剣の言う通り、俺はたるんでいた。いつまでもこの幸せな時間が続くだろう、と。しかし、現実はそう甘くはなかった。いくはずがないのだ。


「なんで──俺ばっか」





 ──不幸になるんだよ。





 ◇◆◇


 赤城さんが殺された。それを知ったのはお兄ちゃんが部屋に引きこもって二日目のことだった。


「しかしまさか、千鶴火憐の恋人が殺されるとはな」


 シルバーブレッドは、静かに息を吐く。いつもは格好つけてるのか何なのか知らないが、たばこを吸っているシルでも、今日ばっかりは、状況が状況なのだろう。吸わずに、深刻な顔で、自分の鼻の頭でも見ているようであった。


「でもなんで、赤城さんなんだろう」


 問いながら目を合わせようとするが、シルは目を背け、合わせてくれなかった。


「たまたま……なんだろうな」


 そして、静かに答える。


「だよね……」


 悲しかった。せっかく仲良くなれたのに。でも、それと同時に、お兄ちゃんが心配でもあった。このまま部屋から出ないのではないか。このまま死のうとしているのではないか。お兄ちゃんは、赤城さんを誰よりも大事にしていたから。




「──ただいま、悠莉ちゃん」




 不意に、私の後ろで声がした。向けば、沢山のお土産を持ったアロハ服姿のお父さんが、「アロハー」なんて言いながら、立っていた。


「なんだ、お父さん。もう帰ってきたの?」


 私の言葉に、けらけらと笑うと。


「おいおい、悠莉ちゃん。ちょっとそれは酷くないかい? これでもお父さん、超お疲れなんだよ?」


「そんなことはどうでもいいの。それより……」


 私が話を変えようとすると、呆れ混じりの溜息を吐いた、と思ったら。


「…………火憐のことだろ?」


 ズバッと言い当てる父親に、私は心底びっくりする。この人もしかして、私のストーカーだったりするのかな、なんてちょっと自意識過剰になってみたりもする。


「え、なんで……?」


「いやいや、さっき二階のあいつの部屋から入ろうとしたら、追い出されてしまってね」


 何してんだよ、この人。


「んで、なんで引きこもってんの?」




 私は、お父さんに全てを話した。と言っても、お兄ちゃんの最愛の人が殺された、と言うことくらいしか、言えなかったけれど。


「ほへー……、最愛の人、ねぇ……」

「どうしたの?お父さん」


 何だか意味深そうな言葉を呟いたので、仕方なく反応してあげた。私ってほんと親思いのいい子よね!


「僕だって、最愛の人をあいつに殺されたのにねぇ……」


 『あいつ』とは、いったい誰のことなのだろうか。確かに死んでほしいとは思っていたが、まさか私が殺すわけもなく、じゃあ、この場合。


「あいつって──お兄ちゃん?」

「あぁ、そうさ。聖剣エクス・カリバーでね」


 急に出てきたその名前に、私は困惑した。

 聖剣エクス・カリバー。

 実際に会ったことはないが、お兄ちゃん曰く、ナイスバディな人だと聞く。赤城さんもそうだったけど。


「でも、何で聖剣さん?」

「古い本曰く、聖剣の勇者になるとき、願いを一つ叶えてくれるらしいんだ」

「それで、お母さんを……」

「まあ、僕だって彼女の教育方法に納得していたわけじゃないんだけどさ……、こういう仕事上、なかなか会えなくてね」


 仕事、なんて言っているけれど、しかしこの人の場合、本当にあれが仕事なのか疑いたくなってくるわけなのだが、まあ、お金自体は貰っている(らしい)ので気にしないでおこう。


「でも、仮にも僕は彼女を好きになったわけだし。今の僕は、火憐の今の状況と、さして変わらないんだよ」


 そうだ。お父さんは、お母さんが好きになったから結婚した。だから、今のお兄ちゃんと、状況は全く同じ。


「にしても、まさか火憐に彼女ができるとはな……。確かに、顔はイケメンの部類に入ると思うが、性格が中々、と言うか、死ぬほど腐ってるからなぁ……」


 ふむふむ。

 納得してしまう私がいた。


「もう! 今はそんなことを言ってる場合じゃないでしょ!」

「ま、これでいいんじゃいか?」


 ピンと人差し指を立て、諭すように私に言った。


「あいつの好きなようにさせればいい。僕は、美咲みさきと違って放任主義だからね」

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