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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第二章 いつかあなたと見た世界
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兄を思う彼女は、生きろと叫ぶ。

 さぁて、部屋の掃除でもしますかなぁーと、起き上がろうとしたが、しかし、体が動かない。動かない、と言うより、動かせない。…………いや、どっちにしろ同じである。


 ──そろそろ、来るのか。


 彼女がいなくなって今日で五日目。もう少し、例えば一週間くらい持つかなー、と思っていたけれど、もう、体は動かない。人間、死ぬ時ってこうなるんだな、少し学習した。火憐賢くなったよ!


「お兄ちゃん!!!」


 今日も今日とて、一階から悠莉の声が聞こえる。もう、体は動かない、それこそ腕すら動かないので、耳を塞ぐことすらできなかった。


「お兄ちゃん!!!」


 また、聞こえた。いつもよりうるさいな、と思うけれど、いつも耳塞いでるからわからないんだった! てへぺろ!


「もう返事してよ、お兄ちゃん!!!」


 したくてもできないんだなぁ、これが。


「お兄ちゃん!!!」


 はいはい、お兄ちゃんですよー、お兄ちゃんはここにいますよー、っと。


「シルバーブレット、お願い!」


 あ、ちょっと待て。何をする気だ! やめろ! それはダメだ!


銀狼弾丸シルバー・ストライク!!」


 ドアは開いた──というか、壊れた。いや、壊された。無慈悲に、無条件に、ぼろぼろと木片を撒き散らして。いや何してくれとんじゃい。


「お兄ちゃん!!!」


 悠莉は、寝ている俺に抱きついてくる。ふわっと、フローラルな香りが鼻腔をくすぐった。いや、ごめん、フローラルな香りってなんだよ……、知らねぇよ。


「あ……あ…あ………」


 体が動かないどころか、声すらも出ていなかった。


「何やってるの、お兄ちゃん!?」


 ──死のうとしてましたがなにか?

 なんて言おうとしても、「あ、あ、あ」の連呼くらいしか出来ないので、痺れを切らしたか、後ろで見ていたムカつくイケメン変態野郎こと、シルバーブレットを呼ぶと。


「お兄ちゃんを元気にして」


「はあ……、わかった」


 深い溜息を吐くと、シルバーブレットは俺に呪文をかける如く、詠唱を始めた。聖剣と似ているようで、ちょっと違う、詠唱を。


「我、シルバーブレット。小銃の勇者、千鶴悠莉の下僕なり。大精霊よ、我に大いなる力を!」


 やがて俺の周りに、魔法陣ができてくる。



 ──やめろ!



 必死に叫ぼうとするが、しかし、声は出ない。



 ──やめろ!



 俺の願いも須らく届くことなく、みるみる空腹感は無くなっていき、みるみる元気になっていった。


「どうして……」


 そして、喋れるようにもなった。


「どうして俺を死なせてくれないんだ!!」


「…………そんなの、当たり前でしょ!!」


 叫べば、泣きながら目を真っ赤にさせ、俺の頬を叩いてきた。痛い痛い、痛いから。


「なんでそんなに死にたがるの!? 命は大事にしなきゃいけないでしょ!!」


 最もすぎる正論を言われ、少し怯む俺であったが、しかし。


「もう生きてる意味がないじゃないか!」


 目の前で、大切な人がいなくなった。唯一、生きる理由でもあった彼女が、目の前で、無残に、残酷に、殺させたのだ。


「もう誰も俺を必要としないじゃないか!」


 目の前で目を腫らせた彼女を見れば、俺も自然と、涙が出てきた。


「そんなこと、あるわけないじゃん!」


 と、また頬を叩かれた。感情的になるのはいいが、流石に叩かないで欲しいとは思う。しかし、今回は痛くなかった。彼女は泣いていたから、力が弱くなっていたのだろう。


「少なくとも、私がお兄ちゃんを必要としてる! お兄ちゃんがいないと、私は生きていけないの!」


 彼女は泣き叫ぶ。俺が必要だと、わんわんと泣き叫ぶ。


「だからお兄ちゃん……死ぬなんて言わないで! 生きて! お兄ちゃんを必要としてる人はたくさんいる! だから──」


 目を腫らせながらも、そんな言葉を並べ、そして袖で涙を拭うと。


「生きて!」


 なんて、大袈裟に叫んだ。


また明日、投稿します。

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