兄を思う彼女は、生きろと叫ぶ。
さぁて、部屋の掃除でもしますかなぁーと、起き上がろうとしたが、しかし、体が動かない。動かない、と言うより、動かせない。…………いや、どっちにしろ同じである。
──そろそろ、来るのか。
彼女がいなくなって今日で五日目。もう少し、例えば一週間くらい持つかなー、と思っていたけれど、もう、体は動かない。人間、死ぬ時ってこうなるんだな、少し学習した。火憐賢くなったよ!
「お兄ちゃん!!!」
今日も今日とて、一階から悠莉の声が聞こえる。もう、体は動かない、それこそ腕すら動かないので、耳を塞ぐことすらできなかった。
「お兄ちゃん!!!」
また、聞こえた。いつもよりうるさいな、と思うけれど、いつも耳塞いでるからわからないんだった! てへぺろ!
「もう返事してよ、お兄ちゃん!!!」
したくてもできないんだなぁ、これが。
「お兄ちゃん!!!」
はいはい、お兄ちゃんですよー、お兄ちゃんはここにいますよー、っと。
「シルバーブレット、お願い!」
あ、ちょっと待て。何をする気だ! やめろ! それはダメだ!
「銀狼弾丸!!」
ドアは開いた──というか、壊れた。いや、壊された。無慈悲に、無条件に、ぼろぼろと木片を撒き散らして。いや何してくれとんじゃい。
「お兄ちゃん!!!」
悠莉は、寝ている俺に抱きついてくる。ふわっと、フローラルな香りが鼻腔をくすぐった。いや、ごめん、フローラルな香りってなんだよ……、知らねぇよ。
「あ……あ…あ………」
体が動かないどころか、声すらも出ていなかった。
「何やってるの、お兄ちゃん!?」
──死のうとしてましたがなにか?
なんて言おうとしても、「あ、あ、あ」の連呼くらいしか出来ないので、痺れを切らしたか、後ろで見ていたムカつくイケメン変態野郎こと、シルバーブレットを呼ぶと。
「お兄ちゃんを元気にして」
「はあ……、わかった」
深い溜息を吐くと、シルバーブレットは俺に呪文をかける如く、詠唱を始めた。聖剣と似ているようで、ちょっと違う、詠唱を。
「我、シルバーブレット。小銃の勇者、千鶴悠莉の下僕なり。大精霊よ、我に大いなる力を!」
やがて俺の周りに、魔法陣ができてくる。
──やめろ!
必死に叫ぼうとするが、しかし、声は出ない。
──やめろ!
俺の願いも須らく届くことなく、みるみる空腹感は無くなっていき、みるみる元気になっていった。
「どうして……」
そして、喋れるようにもなった。
「どうして俺を死なせてくれないんだ!!」
「…………そんなの、当たり前でしょ!!」
叫べば、泣きながら目を真っ赤にさせ、俺の頬を叩いてきた。痛い痛い、痛いから。
「なんでそんなに死にたがるの!? 命は大事にしなきゃいけないでしょ!!」
最もすぎる正論を言われ、少し怯む俺であったが、しかし。
「もう生きてる意味がないじゃないか!」
目の前で、大切な人がいなくなった。唯一、生きる理由でもあった彼女が、目の前で、無残に、残酷に、殺させたのだ。
「もう誰も俺を必要としないじゃないか!」
目の前で目を腫らせた彼女を見れば、俺も自然と、涙が出てきた。
「そんなこと、あるわけないじゃん!」
と、また頬を叩かれた。感情的になるのはいいが、流石に叩かないで欲しいとは思う。しかし、今回は痛くなかった。彼女は泣いていたから、力が弱くなっていたのだろう。
「少なくとも、私がお兄ちゃんを必要としてる! お兄ちゃんがいないと、私は生きていけないの!」
彼女は泣き叫ぶ。俺が必要だと、わんわんと泣き叫ぶ。
「だからお兄ちゃん……死ぬなんて言わないで! 生きて! お兄ちゃんを必要としてる人はたくさんいる! だから──」
目を腫らせながらも、そんな言葉を並べ、そして袖で涙を拭うと。
「生きて!」
なんて、大袈裟に叫んだ。
また明日、投稿します。




