妹というのは、何故こんなにも強いものなのだ。
10/23 修正しました。
デジャヴ。
いくらオカルトとか、そんなのに興味がない人でも、聞いたこと、そして実際に体験したことは、一度や二度あるだろう。
しかしまあ、それはだいたい気の所為とかなんだけれど、俺は、人間の可能性だと考える。
未来を予知できる能力、とか。
馬鹿馬鹿しい、と思うかもしれない。
でも、まだ人間でさえ、解明されてないことはたくさんあるし、そういうのを、ほとんどの人が体験しているのだから、俺は信じる。
人間の可能性。予知能力。
「…………」
少し話がずれた気がするが、結局、何が言いたいのかと言うと。
「見たことある──」
そう。
この目の前に広がる景色。
何処かで、見た気がする。
デジャヴ──である。
夢で、もしかしたら自分の妄想の中で、見たことある。
しかも、一度ではない。
何度も何度も、俺はこの景色を見ている。
一面の田んぼ。そして、藁葺き屋根の木でできた平屋が何件も。家の隣では水路が流れていて、水車ももちろんあった。
「田舎……」
そう、田舎だ。
どう考えても、やっぱりすごく田舎だ。
超田舎してる。
別に、田舎を否定するわけではないけれど、俺は田舎が嫌いだった。だって虫多いし。
「はあ……」
自然と、溜息が出た。
なんでコンビニに行ったら、こんなド田舎に来てしまうのか。
異世界転移、とか。そんな類いのものなのだろうか。そうだとしたら許せん。誰だ、こんな田舎に転移させたやつは!
と、思いながらも、俺は進む。正直道に迷ったりしないだろうかと心配していたが、どうやら、体が覚えているのか(どうかは知らないけれど)、俺は迷うことなく歩くことができた。
そして着いたのは、街、だった。
街と言っても、小さな街だ。
『中世ヨーロッパ』でG〇ogle画像検索したら、出てきそうな、そんな街並み。
「異世界──だろうな……」
もしかしたら、タイムスリップとか、そういうものなのかもしれない。タイムスリップして、中世ヨーロッパに来ちゃいました〜、とか、そんな展開かもしれない。
けれど、最近の流行り(なのかは知らないけれど)なのは異世界転移とか異世界転生とか、チーレムとか俺TUEEEEとかそういうものだから、たぶん、異世界転移なのだろう。
いや、転生の線もありえなくはない。
もしかしたら、いつの間にかトラックに轢かれて死んでしまったのかもしれない。
そして女神が転生させてくれて──。
どちらにせよ、今の俺にはどうだって良かった。
大事なのは、どうやって元の世界に戻るか、である。
はてさて──どうしたものか。
「あ?」
よく見てみると、街を歩いている人は皆、耳が尖っていた。エルフとか、そんなのをイメージしてくれればいい。
服装はボロっちい布でできた、穴だらけの服で貧乏くさいなぁ〜と思っていたけれど、耳には注目してなかった。するはずがなかった。だって、普通はしないだろう。耳を真っ先に見るとか、どこの変態だよ。残念ながら俺は耳フェチではなく、太ももフェチだ! 太ももっていいよね。
まあしかし、これに気づいたことによって、確信することができた。
──ここは、異世界なのだと。
なんて考えていたら、人だかりがあった。ざっと百人とか二百人程度の、人だかり。
「うわ……」
吐き気がする。ぼっちはあまり人がいるところが好きではないし、あんましそういう所には行きたくない。
だがしかし、行列だとか、人だかりだとか。そんなのがあると、何があるのか、というのが気になっしまうのは、人間であるから。
俺は悩んだ。
うんうん悩んでいると。
「おう、にいちゃん! 見慣れない服装だな。異国の者か?」
耳の尖った、顎がすごい特徴的なおっさん(四十代くらい)が、俺に話しかけてきた。すごくフレンドリーに。アメリカ人的なノリで。
「………………」
………………。
…………。
……。
どうしましょう……?
ここで言わせてもらうと(言う必要もないけれど)、俺はコミュ障なのだ! 家族としか会話しないから(家族ともそんなに会話してない)、人とのコミュニケーションが苦手なのだ!
だからもちろん、このおっさんとも満足に会話できないだろう!
「あの……その……」
「…………なんだにいちゃん、もしかして言葉わかんないのか?」
あんまり俺がもじもじしてるから、なおもおっさんは問う。
違うんだ。違うんだよおっさん。異世界だから言葉がわからないとか、そんなことじゃあないんだ。親切にこの世界、ちゃんと日本語でしゃべってくれるみたいだから(さっき確認した)、話すことはできるんだ。
ただ、人とのコミュニケーションができないだけなんだ!
「いえ……自分が何故ここにいるのか、わからないんです……」
間違ってない、というか、そうだ。
何故ここにいるのか、わからないのだ。
転移させられたと思うのだけれど、しかし、誰が、何故転移させたのか、というのはわからないのだ。
「そうか……そういうことなら俺様にはどうにもできないな。悪いな、にいちゃん」
まさかの俺様キャラ……だと!?
…………めっちゃどうでもいいか。
「そうだにいちゃん、折角ここにいるんだし、この列に並んでいけよ」
言って、目の前にある行列を親指で指す。
「これは、『聖剣エクス・カリバー』を抜きに来た、力自慢の行列なんだけれど、どうやら力が強いだけじゃあ抜けないらしいんだ。どうだ、やるか?」
聖剣エクス・カリバー──か。
なんだか中学二年生の頃を思い出すようだけれど、まあそんなことはとっくに忘却の彼方へやっているはずなので、気にしない。
とりあえずここでやることもないし、元の世界に帰る手段もわからないので、俺は首を縦に振った。
◇◆◇
さてさて、待つことおよそ十時間。
「………」
いやいや、ごめんごめん。さすがに盛りすぎた。
正しくは、一時間だ。
と言っても、時計を持っているわけではないし、何故かスマホの電源はつかんしで、正確な時間はわからないけれど、なんとなく、腹時計とか、体内時計とかが、一時間って言ってる気がする。
そして俺は今、聖剣の目の前にいた。キラキラと光るそれは、男心をくすぐるそれは、白をベースとしていて、ところどころ、金色の装飾がしてある。まさに、王の武器に相応しい剣だ。
ここで、読者諸君は思うだろう。
『ここまで待たせといて、抜けなかったらどうするつもりだ……?』とね。
そのへんは心配ご無用。なんたって、物語なのだから。主人公なのだから。むしろ、抜けなかったら物語終了だ。
なんて、気楽に考えていた俺。
そして、聖剣に触れようとした瞬間──
「…………!」
ぐにゃり、と、視界が歪んだ。それは一瞬のことで、なにが起こったのか分からなかった、けれど。
「ありがとうございました〜」
店員さんのその声で、状況を理解する。全てを理解して、俺は溜息を吐く。
戻ってきたのだ──元の世界に。
「夢…………?」
夢にしては長かったし、夢ではよくある、あんまり内容を覚えていない、というのもない。鮮明に覚えていたのだ。
「ま、いっか」
あれが夢にしろ現実にしろ、俺には関係ない。この世界に帰って来れたのだから、別に、後のことはどうでもいい。
そして、今度こそ意気揚々と帰ろうとしたとき──俺は気づいてしまった。
──アイスがないことに。
「終わったな……」
俺はそう呟くと、またアイスを買うわけでもなく、ましてや、アイスを探すわけでもなく、ただ無心で家に帰ったのだった。
「たでーまー」
嫌なことが待っているとわかってると、どうしてこんなに時間が経つのがはやく感じてしまうのか。
「おかえり、アイスは?」
もちろん、悠莉だ。
俺に買ってくるのを依頼したのだから、そう訊くのが当然であろう。
「…………」
どうする、言うか?
いやいや、言うしかないのだから、そりゃあ言うけれど、なんて言おうか。
ここは、キッパリと「無い」と言ったほうがいいのだろうか。
それとも、言い訳をダラダラと並べて、やり過ごすべきなのだろうか。
「ねぇ、アイスは?」
鬼の形相で、こちらを見てくる。
あ、ダメだわ……これ言い訳できないパターンだわ。
観念した俺は、正直に言うことにした。
「悪い……アイス、買ったんだけどな? 買ったんだけれど、どこかに行ってしまったんだ。落としたとか、なくしたとか。ほんっとうにごめんなっ!」
沈黙。
そして。
「………………ぐはっ!」
──衝撃!
俺の腹を貫くかのような突きに、膝から崩れ落ちる。
彼女もやり過ぎたと思ったのか、ちょっと動揺したが。
「は? ない? 意味わかんない! ちゃんと見たよね? 既読ついてたよね? なんで? まじ意味わかんないんだけど!」
とか。
なんか、最近のJKって感じだな。
ちゅうか、痛てぇよ。骨が折れるほどではないにしろ、ヒビが入ったほどでもないにしろ、これまで味わったことのない痛みだ。しかしまあ、その痛みはすぐに消えた。すぐとは言っても、30分程度経った後なんだけれど。
「はあ……」
悠莉は溜息を吐くと。
「アイス買ってくる──」
言って、家を出て行った。
申し訳ない気持ちでいっぱいなんだが、でも、何故か俺はあのときアイスをまた買おうとは思わなかった。なんでかは知らんけど。
そんなわけで、とりあえずシャワーを浴びようと思い、お風呂場へと向かった。
洗面所のドアを開けると、誰かがシャワーを浴びている音がするじゃないか。
悠莉は出て行ったし、母さんは今日遅くなるって言ってたし、親父だろ。親父帰ってきたのか。
「親父ー早くしろー」
お風呂のドアの前で呼びかける──しかし、返事なし。もうちょっと大きい声で言ってみるか。
「おーやーじー! 早くしろー!」
それでも返事なし。いや流石に聞こえたでしょ。
しょうがない──そう思い、俺はお風呂のドアを開けた。
すると、シャワーを浴びていたのは親父ではなく──金髪の美少女だった。