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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第一章 伝わるはずないこの恋を
2/45

妹というのは、何故こんなにも強いものなのだ。

10/23 修正しました。

 デジャヴ。

 いくらオカルトとか、そんなのに興味がない人でも、聞いたこと、そして実際に体験したことは、一度や二度あるだろう。


 しかしまあ、それはだいたい気の所為とかなんだけれど、俺は、人間の可能性だと考える。


 未来を予知できる能力、とか。


 馬鹿馬鹿しい、と思うかもしれない。

 でも、まだ人間でさえ、解明されてないことはたくさんあるし、そういうのを、ほとんどの人が体験しているのだから、俺は信じる。

 人間の可能性。予知能力。


「…………」


 少し話がずれた気がするが、結局、何が言いたいのかと言うと。


「見たことある──」


 そう。

 この目の前に広がる景色。

 何処かで、見た気がする。


 デジャヴ──である。


 夢で、もしかしたら自分の妄想の中で、見たことある。

 しかも、一度ではない。

 何度も何度も、俺はこの景色を見ている。


 一面の田んぼ。そして、藁葺き屋根の木でできた平屋が何件も。家の隣では水路が流れていて、水車ももちろんあった。


「田舎……」


 そう、田舎だ。

 どう考えても、やっぱりすごく田舎だ。

 超田舎してる。


 別に、田舎を否定するわけではないけれど、俺は田舎が嫌いだった。だって虫多いし。


「はあ……」


 自然と、溜息が出た。

 なんでコンビニに行ったら、こんなド田舎に来てしまうのか。


 異世界転移、とか。そんな類いのものなのだろうか。そうだとしたら許せん。誰だ、こんな田舎に転移させたやつは!


 と、思いながらも、俺は進む。正直道に迷ったりしないだろうかと心配していたが、どうやら、体が覚えているのか(どうかは知らないけれど)、俺は迷うことなく歩くことができた。


 そして着いたのは、街、だった。

 街と言っても、小さな街だ。

 『中世ヨーロッパ』でG〇ogle画像検索したら、出てきそうな、そんな街並み。


「異世界──だろうな……」


 もしかしたら、タイムスリップとか、そういうものなのかもしれない。タイムスリップして、中世ヨーロッパに来ちゃいました〜、とか、そんな展開かもしれない。


 けれど、最近の流行り(なのかは知らないけれど)なのは異世界転移とか異世界転生とか、チーレムとか俺TUEEEEとかそういうものだから、たぶん、異世界転移なのだろう。


 いや、転生の線もありえなくはない。

 もしかしたら、いつの間にかトラックに轢かれて死んでしまったのかもしれない。

 そして女神が転生させてくれて──。


 どちらにせよ、今の俺にはどうだって良かった。

 大事なのは、どうやって元の世界に戻るか、である。


 はてさて──どうしたものか。


「あ?」


 よく見てみると、街を歩いている人は皆、耳が尖っていた。エルフとか、そんなのをイメージしてくれればいい。


 服装はボロっちい布でできた、穴だらけの服で貧乏くさいなぁ〜と思っていたけれど、耳には注目してなかった。するはずがなかった。だって、普通はしないだろう。耳を真っ先に見るとか、どこの変態だよ。残念ながら俺は耳フェチではなく、太ももフェチだ! 太ももっていいよね。


 まあしかし、これに気づいたことによって、確信することができた。


 ──ここは、異世界なのだと。


 なんて考えていたら、人だかりがあった。ざっと百人とか二百人程度の、人だかり。


「うわ……」


 吐き気がする。ぼっちはあまり人がいるところが好きではないし、あんましそういう所には行きたくない。

 だがしかし、行列だとか、人だかりだとか。そんなのがあると、何があるのか、というのが気になっしまうのは、人間であるから。


 俺は悩んだ。

 うんうん悩んでいると。


「おう、にいちゃん! 見慣れない服装だな。異国の者か?」


 耳の尖った、顎がすごい特徴的なおっさん(四十代くらい)が、俺に話しかけてきた。すごくフレンドリーに。アメリカ人的なノリで。


「………………」


 ………………。


 …………。


 ……。


 どうしましょう……?


 ここで言わせてもらうと(言う必要もないけれど)、俺はコミュ障なのだ! 家族としか会話しないから(家族ともそんなに会話してない)、人とのコミュニケーションが苦手なのだ!


 だからもちろん、このおっさんとも満足に会話できないだろう!


「あの……その……」

「…………なんだにいちゃん、もしかして言葉わかんないのか?」


 あんまり俺がもじもじしてるから、なおもおっさんは問う。

 違うんだ。違うんだよおっさん。異世界だから言葉がわからないとか、そんなことじゃあないんだ。親切にこの世界、ちゃんと日本語でしゃべってくれるみたいだから(さっき確認した)、話すことはできるんだ。

 ただ、人とのコミュニケーションができないだけなんだ!


「いえ……自分が何故ここにいるのか、わからないんです……」


 間違ってない、というか、そうだ。

 何故ここにいるのか、わからないのだ。


 転移させられたと思うのだけれど、しかし、誰が、何故転移させたのか、というのはわからないのだ。


「そうか……そういうことなら俺様にはどうにもできないな。悪いな、にいちゃん」


 まさかの俺様キャラ……だと!?

 …………めっちゃどうでもいいか。


「そうだにいちゃん、折角ここにいるんだし、この列に並んでいけよ」


 言って、目の前にある行列を親指で指す。


「これは、『聖剣エクス・カリバー』を抜きに来た、力自慢の行列なんだけれど、どうやら力が強いだけじゃあ抜けないらしいんだ。どうだ、やるか?」


 聖剣エクス・カリバー──か。

 なんだか中学二年生の頃を思い出すようだけれど、まあそんなことはとっくに忘却の彼方へやっているはずなので、気にしない。


 とりあえずここでやることもないし、元の世界に帰る手段もわからないので、俺は首を縦に振った。


 ◇◆◇


 さてさて、待つことおよそ十時間。


「………」


 いやいや、ごめんごめん。さすがに盛りすぎた。

 正しくは、一時間だ。


 と言っても、時計を持っているわけではないし、何故かスマホの電源はつかんしで、正確な時間はわからないけれど、なんとなく、腹時計とか、体内時計とかが、一時間って言ってる気がする。


 そして俺は今、聖剣の目の前にいた。キラキラと光るそれは、男心をくすぐるそれは、白をベースとしていて、ところどころ、金色の装飾がしてある。まさに、王の武器に相応しい剣だ。


 ここで、読者諸君は思うだろう。


 『ここまで待たせといて、抜けなかったらどうするつもりだ……?』とね。


 そのへんは心配ご無用。なんたって、物語なのだから。主人公なのだから。むしろ、抜けなかったら物語終了だ。


 なんて、気楽に考えていた俺。

 そして、聖剣に触れようとした瞬間──


「…………!」


 ぐにゃり、と、視界が歪んだ。それは一瞬のことで、なにが起こったのか分からなかった、けれど。


「ありがとうございました〜」


 店員さんのその声で、状況を理解する。全てを理解して、俺は溜息を吐く。





 戻ってきたのだ──元の世界に。





「夢…………?」


 夢にしては長かったし、夢ではよくある、あんまり内容を覚えていない、というのもない。鮮明に覚えていたのだ。


「ま、いっか」


 あれが夢にしろ現実にしろ、俺には関係ない。この世界に帰って来れたのだから、別に、後のことはどうでもいい。


 そして、今度こそ意気揚々と帰ろうとしたとき──俺は気づいてしまった。




 ──アイスがないことに。




「終わったな……」


 俺はそう呟くと、またアイスを買うわけでもなく、ましてや、アイスを探すわけでもなく、ただ無心で家に帰ったのだった。


「たでーまー」


 嫌なことが待っているとわかってると、どうしてこんなに時間が経つのがはやく感じてしまうのか。


「おかえり、アイスは?」


 もちろん、悠莉だ。

 俺に買ってくるのを依頼したのだから、そう訊くのが当然であろう。


「…………」


 どうする、言うか?


 いやいや、言うしかないのだから、そりゃあ言うけれど、なんて言おうか。


 ここは、キッパリと「無い」と言ったほうがいいのだろうか。


 それとも、言い訳をダラダラと並べて、やり過ごすべきなのだろうか。


「ねぇ、アイスは?」


 鬼の形相で、こちらを見てくる。

 あ、ダメだわ……これ言い訳できないパターンだわ。


 観念した俺は、正直に言うことにした。


「悪い……アイス、買ったんだけどな? 買ったんだけれど、どこかに行ってしまったんだ。落としたとか、なくしたとか。ほんっとうにごめんなっ!」


 沈黙。

 そして。


「………………ぐはっ!」


 ──衝撃!


 俺の腹を貫くかのような突きに、膝から崩れ落ちる。

 彼女もやり過ぎたと思ったのか、ちょっと動揺したが。


「は? ない? 意味わかんない! ちゃんと見たよね? 既読ついてたよね? なんで? まじ意味わかんないんだけど!」


 とか。

 なんか、最近のJKって感じだな。


 ちゅうか、痛てぇよ。骨が折れるほどではないにしろ、ヒビが入ったほどでもないにしろ、これまで味わったことのない痛みだ。しかしまあ、その痛みはすぐに消えた。すぐとは言っても、30分程度経った後なんだけれど。


「はあ……」


 悠莉は溜息を吐くと。


「アイス買ってくる──」


 言って、家を出て行った。


 申し訳ない気持ちでいっぱいなんだが、でも、何故か俺はあのときアイスをまた買おうとは思わなかった。なんでかは知らんけど。


 そんなわけで、とりあえずシャワーを浴びようと思い、お風呂場へと向かった。


 洗面所のドアを開けると、誰かがシャワーを浴びている音がするじゃないか。

 悠莉は出て行ったし、母さんは今日遅くなるって言ってたし、親父だろ。親父帰ってきたのか。


「親父ー早くしろー」


 お風呂のドアの前で呼びかける──しかし、返事なし。もうちょっと大きい声で言ってみるか。


「おーやーじー! 早くしろー!」


 それでも返事なし。いや流石に聞こえたでしょ。


 しょうがない──そう思い、俺はお風呂のドアを開けた。


 すると、シャワーを浴びていたのは親父ではなく──金髪の美少女だった。

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