予期せぬサプライズに、彼は涙する。
日曜日
今日も今日とて、赤城さんとデートである。完全にリア充な気がするが、まぁいいだろう。
待ち合わせ場所は最寄りの駅。どうやら、電車で行くようだ。
「お待たせしました〜」
俺が来てから、約4分。待ち合わせ時間まではまだ30分以上あるので、お待たせしましたはおかしい気もするが、まぁ、いい。
「いやいや、全然待ってないよ?」
リア充になったら言ってみたかったセリフベストエイトを言ってみた。
「どうやら少し待ったみたいですね…すみません」
どうやら、嘘がバレてしまったようだ。赤城さん、マジでエスパーかよ。
「別に謝らなくてもいいよ。待つのが俺の特技だし」
「うわーいやな特技ですねー」
◆◇◆
電車に乗って、約10分。最初の駅から4駅行ったところで、俺たちは降りた。
「そろそろどこに行くかを教えてくれてもいいんじゃないんですかね?」
「あ、それもそうですね。あそこです」
彼女が指さしたのは、海だった。たしかに海があるなーとは思っていたが、本当に海に行くとは…
「え?海で何すんの?」
「え?泳ぐに決まってんじゃないですか」
「え?でも水着持ってきてないよ?」
「あ、それは大丈夫です。悠莉ちゃんに用意してもらったんで」
と、彼女はパンパンになった近所のスーパーのビニール袋を見せる。多分、そこに俺の水着諸々が入っているのだろう。
まあ、
「ありだな、海」
「ありでしょ?海」
「よっしゃ!泳ぐぞー!!」
「おーー!!」
俺たちは海に向かって元気よく走り出した。
◆◇◆
「はぁ、はぁ」
元気がよすぎた。いくら悠莉との地獄のような特訓を受けているからといって、この距離はきつい。たぶん、1キロはあった。いわば、全力で軽いマラソンである。そりゃ、きつい。
「もう疲れたんですか〜?」
彼女は、「まだまだ余裕です」と言いたげな顔で俺を見る。しょうがないだろ、ひきこもりなんだから。
「ちょい休憩」
「はやく泳ぎましょうよ〜」
「ひとりで泳いでろ〜」
「じゃあ、待ちます」
と、彼女は俺の隣にちょこんと座った。だから、いちいち仕草がかわいい。
「いいな、波の音」
「いいですね、波の音」
一生このまんまでいたい…そう思った。それほど心地よかった。あぁ、この人と出会えて本当に良かったと、そう心から思えた。
「そろそろ泳ぐか」
「ですね」
近くにあった海の家で着替える。
赤城さんは水着を服の下に着ていたので、俺よりかはやかった。
彼女の水着はビキニである。彼女によく似合うピンク色の水着は、たわわに実った2つの大きな胸を強調していて、とてもセクシーだ。上にも下にもレースがついているので、超プリティである。
元がかわいいだけに、こんな格好になるともっとかわいい。天使…いや、女神…いや、赤城さんである。
「どう…ですか?似合い…ますか…?」
彼女は恐る恐る聞いてくる。
「あったり前じゃないかっ!!」
と、俺は超スマイルで答えた。
◆◇◆
一度はしてみたかった、彼女と海デート。こんなに楽しいとは思わなかった。こんなにかわいい彼女と一緒にいれて、俺は幸せ者だ。
「今日は楽しかったよ」
帰りの電車である。遊びすぎて、完全に疲れた。気を抜けば、寝てしまうほどに。
「眠ってていいですよ?」
そんな俺を見てか、彼女はそう言う。
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
俺はすぐに夢の世界へと旅立っていった。
「こちら、赤城。眠りました。もう準備はできていますか?……了解」
◆◇◆
「……て……さい!…鶴く…!」
ん?なにか声が聞こえた。
「起きてください!千鶴くん!」
あ、そういえば、電車だった。
「あ〜やっと、起きましたか〜もうすぐつきますよ?」
「おう、ありがとう」
「次は〜……駅〜……駅〜」
次か。
「ふわぁぁ」
眠い。帰ってすぐ寝るか。
「あの、」
「ん?どした?」
「今日家に行っていいですか?」
「え?なんで?」
「えっと…そう!今日家誰もいないんで!」
彼女はまるで、今思いついたようなことを言う。
「まぁ、いいけど」
と、俺は携帯を取り出し、悠莉に連絡しようとする。
「あ、もう悠莉ちゃんには連絡しといたんで」
最初から行く気満々じゃねぇか……
◆◇◆
家に着いた。
扉を開ける。
「たで〜ま〜」
……へんじがない。ただのしかばねのようだ。おお、悠莉、死んでしまうとは情けない……
いや、割とマジでどうした?電気すらついてないぞ?
「ちょっと待ってて」
俺は玄関に赤城さんを待たせて、リビングへと行く。
「お〜い、悠莉〜」
リビングへの扉を開けると、突然電気がつき、発砲音がした。
───パァーン!
「ハッピーバースデー!!」
と、悠莉はクラッカーを鳴らしながら言った。
え?ハッピーバースデー?誰の?
今日は7月20日。誰のだっけ…
あ、
「そういえば今日、俺の誕生日だな…」
「えぇ、覚えてなかったんですか?」
と、後ろから赤城さんの声がする。
まぁ、覚えてないのは仕方ないだろう。何せ、生まれてから一度も誕生日を祝ってくれたことがないからな。寂しすぎだろ、俺。
「さぁさぁ、席にお着きください」
と、悠莉は俺に席を用意する。そこには『本日の主役』と書かれたタスキが置かれてあった。100均とかで売ってるあれだ。
タスキを肩にかけると、料理がやってきた。
「え?これお前が作ったの?」
悠莉に問う。
「うん、そうだよ」
マジかよ〜と、俺は小6の時の出来事を思い出す。たしかあのとき、「家庭科でお料理習ったから、お兄ちゃんにも作ってあげるね!」と、自信満々に作っていたのだが、クソまずかったような……まぁ、完食したけど。せっかく作ってくれたのに残されると嫌だしな。
「大丈夫だよな、これ?」
「大丈夫!安心して食べていいですよ!」
と、後ろから赤城さんは言う。
「じゃ、じゃあ、いただきます」
一口食べる。
「……おいしい…」
箸が止まらない。どんどんどんどん食べてゆく。すると、
「……お兄ちゃん?」
「ん、なんだ?」
「なんで…泣いてるの…?」
「……え?」
自然と涙が出ていた。
「わかんねぇ…なんか、うれしくて、うれしくて…」
「ま、私の料理がそんだけ美味しかったってことだねっ!」
「あぁ」
「いや、そんな真正面から肯定されても、困るんだけど…」
そんな悠莉の言葉は聞こえず、あっという間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」
「おいしかった」
「ん、ありがと」
「あ、片付けは俺がやるよ」
「いや、いいよ。本日の主役さんはまだやることあるから」
じゃあ、私は2階に行ってきます〜、と出ていった。一体全体、どうしたんだ。
「ねぇ、千鶴くん」
おっと、天使…いや、女神…いや、赤城さんである。
「ん、どうした?」
「お誕生日おめでとうございます」
と、彼女は小さな箱を、差し出した。
「えっと…開けてもいいか?」
「はい」
小さな箱を開けてみた。中には、
「指輪?」
「はい。私とお揃いのです」
と、指を見せてきた。本当だ。彼女も指輪をしている。彼女のは、シルバーの指輪にピンクのラインが一本入っていて、俺のはピンクではなく、ブルーのラインが入っていた。
思わず俺は感極まり、泣きそうになりながら、
「ありがとう」
と言った。泣きそうというか、もう泣いている。
今日どんだけ泣くんだよ…
「ねぇ、ねぇ、千鶴くん!」
と、彼女はニヤニヤしながら俺を呼ぶ。
「ん…なんだ?」
涙を拭きながら、答える。
「私の誕生日、忘れないでくださいね?」
「たしか、10月6日だっけ?」
「はいっ!」
「しっかり覚えておくよ!」
そんなこんなで、最高の誕生日になった。
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