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きみと出会わぬ異世界  作者: めあり
第一章 伝わるはずないこの恋を
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テンプレートな夢は、すぐに忘れてしまうものなのかもしれない。

10/18  修正しました。

千鶴火憐ちづる かれんさん──あなたは勇者に選ばれました』



『あなたのことが好きなんです! 私じゃ……ダメですか?』



『ハハッ、よく言うぜ、カレンよぉ。俺たちは固い絆で結ばれた仲じゃないか』



『だから言っただろう。キミにはそれほどの力が眠っていると──』



『ここは俺に任せて先にいけぇっ! カレン──あとはたのんだぞ……!』



『あなたしか、世界は救えないのっ!』






『おめでとうございます。あなたは勇者として、魔王を倒すことに成功いたしました──』



 ◇◆◇


「知ってる天井……!」


 長い眠りから覚めた俺は──


 いや、嘘、めっちゃ嘘、限りなく嘘。本当は三時間程度しか寝てないから、そんなラスボスみたいに、「おっと、百年寝ちまってたかー」とか、言わないから。

 まあとにかく、兎にも角にも、浅い眠りから覚めた俺であったが、毎日の日課なのか、昨日も無意識的に言ってしまった、ギャグ……ですらない言葉を放ったのであった。


 ギャグ、ですらないのだ。

 こんなの、そこらの若手お笑い芸人のほうがよっぽど面白いだろう、たぶん、知らんけど。しかしまあ、そこまで芸人さんを馬鹿にするわけではないけれど、やっぱり若手芸人は面白くないよね。場が冷める、と言えばいいのだろうか、俗に言うしけると言うやつだな。静まり返っちゃう空気、的な?


「…………」


 どうでもよかった。すごくどうでもよかった、こんな話。誰が若手お笑い芸人をディスる話なんて聞きたいだろうか、少なくとも、物語始まってすぐに若手芸人をディスる話なんて、俺は聞きたくないし読みたくもないなうん。


「はあ…………」


 と。

 ひとつ息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

 なんてことはない、いつものことだ。

 いつも、話が脱線しかけそう(今回はもうしているが)になったときは、だいたい深呼吸が一番である。それ以外にないまであるわけだが、とにかく、気持ちを落ち着かせて、本題に入ることにした。


「異世界……」


 異世界もの、というのをご存知だろうか。

『異世界転生』や『異世界転移』なんてものが、最近の小説……と言うかラノベによくあるが、まあそう言う類いのものと捉えてもらって構わない。いやむしろ、そうしてくれ。




 そんな異世界に──俺は行った。




「…………?」


 いや、行ってない。何だか本当に異世界に行ったような言い方をしたもんで、自分自身、不思議に思ってしまったが、実際には、行っていない。


 しかし、異世界を体験・・した。


 もうここまで言えば、勘のいい読者諸君には、わかっちゃうだろう。わかっちゃうところだろうが、もう少し待ってほしい。まだちょっとだけ待ってほしい。…………そうだな、二時間くらい待ってほしい。


 少し話を変えて悪いのだが、しかしこれも関係のある話だったりするようなしないようなやっぱりするような感じの感じで感じなので、聞いてほしい。「聞きたかねーよお前の話なんて」とか言っちゃうツンデレ読者さんたちも、是非、耳の穴かっぽじって、ゆっくりじっとりしっとりしっかり、聞いてほしい。



 ──俺は、テンプレが嫌いだ。



 何のテンプレだか、わかるだろう。俗に言うのか言わないのか定かではない気もするような心境の面持ちである俺だったりするわけだが、そんなことはどうでもいい。つまり、何が言いたいかと言うと、俗に言う、テンプレラノベ、と言うやつだ。


 俺はそれが、大っ嫌いだ。本当に本当に本当の本当に、大っ嫌いなのだ。

 ほんの最近では、『アンチテンプレ』とか言っちゃったりして、テンプレとは遠く掛け離れたものも見かけたりするのが増えているが、しかしまだ、テンプレと言うものには需要がある。テンプレラノベが、まだ求められている。


 出版業界からしたら、それは良いのかもしれない。

 テンプレジャンルが得意なラノベ作家からしたら、それは良いのかもしれない。


 けれど、読者は良くない。

 読者はそんなに甘くはない。


 何度も何度も、何度も何度も何度も何度も、同じような枠に嵌められた量産型アニメやラノベばかりを観せられて読まされて、飽きることないわけないじゃないか。

 出版業界アニメ会社ラノベ作家がそれで良くったって、俺を含め読者は、そんなものを求めていない。



 ………………なんて思っていた時期が俺にもありました。ええ、つい昨日までそう思っていました。本当です、本当ですとも。

 しかしまあどうでしょう。あれだけテンプレを否定していた俺が、こうもあっさりテンプレを求めてしまっていいのだろうか。

 いや、もしかしたら求めていないのかもしれない。そう、求めていない。よし、そう決めた! もう俺が決めてやった!


「…………」


 今まで何年も、いやそこまでないのかもしれないけれど、まあ数ヶ月か数年、テンプレを否定してきた俺であるが、今日、テンプレラノベと何ら変わらない夢を、見てしまったのであった──




 …………んまあ、夢だしな。仕方ないか。


 なんて思って、勝手に納得した俺である。


「さて──」


 さて、起きるか。

 思いつけば行動が早い俺だから、すぐに部屋を出る。


 部屋のドアを閉める音がやけにうるさくて、肩をビクッ! そして後ずさり。


「気の所為……かな?」


 特に意味の無い、ちょっと意味深そうな独り言を呟いてみて、一階へと降りた。




 リビングに行くと、妹の悠莉ゆうりが朝ごはんをハムハムと食べている。何かちょっと小動物みたいで可愛いじゃねぇか。

 いやまあ、彼女が食べているのはフレンチトーストであるから、朝ごはんというのはおかしな話、なんて思うかもしれないけれど、ラーメンが朝ごはんの人もいるわけなんだし、そのへんは良いのではないかとも、思っちゃったりする。


「おはよ、悠莉っ!」


 そんな可愛い可愛い我が妹に、朝の挨拶をする。爽やかに、それはもう爽やかに。俺以上に爽やかなやつはこの世にいないぜっ! というくらい爽やかな挨拶であった。


「は? 話しかけんな、死ねば?」


 …………いやいやまあまあ。そう言われることはわかってたんだけれど。


「ちょっとばかし、酷すぎやしませんかね……」


 三次元の妹というのは、案外冷たいものなんだと、妹を欲しがる性欲の余った人たちは理解すべきなんだと思います。それでも、罵倒されるのが好きな人もいるのだから、それはそれでいいのだけれど。


 しかし、『俺も妹欲しいなぁ〜』なんて言う、クラスカーストがかなり上の金髪チャラ男に言ってやりたい。『現実見やがれ、このクソ金髪野郎が!』と。


「さて、俺も食べるか」


 そう、思った。思ったのだけれど、何処にも俺のフレンチトーストがなかった。いやフレンチトーストだけではない、フレンチトーストどころか、俺の朝食らしきものは、何処にもなかった。

 ワッツ? おいボブっ、こいつはいったいどういうことなんだい?


「ねぇ、ボブ? 俺のブレックファースト知らない?」

「は? あんたのなんか作るわけないでしょう? あと、私ボブじゃないから。最近髪をショートボブにしようかなと思っていたところなのだけれど、ボブじゃないから。名前も覚えていないの? 死ねば?」


 …………え。


 …………え?


 ええええええええ!!!!


「先に言えよっ! あと、お前は今のポニーテールが一番似合ってると思うぞ!」

「知ってる。だからボブにはしないよ」


 いやいや、そんな会話している場合じゃねぇよ! 間に合わねぇよ! どうしてくれんねん!


 なんて慌てながら、冷蔵庫を開けると。


「あれ、あるじゃん…………」


 冷蔵庫の中には、紛れもない、『火憐の朝食』と書かれた紙と一緒に、フレンチトーストが置かれてあった。


「──あ、そういえば。作りすぎちゃったからあんたにあげるよ」


 なんて。

 いやいや。

 フレンチトーストを作りすぎるなんてことがあるのだろうか。

 ツンデレか? ツンデレなのか?

 ツンデレなら、もうちょっとデレてくれても構わないんだぜ? 今のままじゃどっちかと言うと、ツンツンちょいデレだぜ?


 まあまあ、何はともあれ。


「良かった〜」


 膝から崩れ落ちた。

 冷蔵庫に頭をぶつける。


「いってぇ」


 ぶつけた頭を擦りながら、俺は朝食を食べる準備をした。

 と、言っても、冷蔵庫からフレンチトーストを出して、オレンジジュースをグラスに注げば終わるのだけれど。


「いただきます」


 言うと、目の前の美少女、もとい、マイシスターがごちそうさまをする。

 もうちょっと会話があってもいいと思うのだけれど、まあ、思春期なんだし多めに見てやらなくもない。

 なんて、ちょっと上から目線で考え事をしていたら本気で遅刻しそうな時間に。何してんねんっ!


「じゃ、行ってくるから」


 遅れないようにね、と。一言付け足してくれるところは、本当にかわいいなと思う。


「さて、俺も行くか」


 そう独り言を呟いて、学校へ行く準備をする。

 顔洗って、歯磨いて、制服着て。


「いってきます」


 この誰もいない静まり返った家に何となく挨拶をして、家を出た。やだ寂しいっ!


 ◇◆◇


 いつもと変わらぬ通学路。隣に幼なじみがいれば完璧なのだけれど、残念ながら小さい頃結婚を誓い合った幼なじみなど俺にはいない。ならば、結婚を誓い合っていない幼なじみがいるのかとなるけれど、まあそれもない。


 だからと言って、悲観することでもない。まあたしかに、幼なじみと言えば響きが良いだろうけれど、しかし、それは必ずしも女子とは限らないわけで。もし男の幼なじみが朝部屋まで起こしに来たら嫌だろう? だから俺は幼なじみなんていらないっ!!


 なんて謎理論をだらだら考えながら、しくしく泣いているといつの間にかの学校。無駄なことしか考えてなくて、毎日がつらたんである。


「おはよ〜」


 もちろん今のは、俺に向けた挨拶ではなく、何処かの女子が何処かの男子挨拶をしていただけで。俺に挨拶をしてくれる人など、この学校どころか、この世にはいない。寂しすぎてつらたん。あとリア充はくたばっとけ。冥府の底に叩き落とされてろ。


 リア充を呪いながら靴を脱ぎ、上靴に履き替えると、俺は教室を目指す。二のFのクラス、なんてことない、俺のクラスへと。


 ガラガラガラ、と。年季の入った教室のドアを開けると、クラスメートや、そのお友達(笑)は一瞬こちらを見て、『なんだ、ぼっちか……。えっと、名前なんだっけ……? まあいいか』とでも言いたげな顔をしたと思ったら、すぐさまお友達(笑)とのおしゃべりに戻る。さっきも言った通り、俺に挨拶をしてくれる人などいやしない。


 もちろん、クラスの委員長さえも、俺を見捨てているのか、話しかけられたことはない。クラスのイケメンも、リア充も。思えば、このクラス、いやこの学校に入ってから、一言も話してないのではないか、というほとだ。


「はあ…………」


 まあ、そんなことは最初からわかりきっていることなんだから、わざわざ確認しなくてもいいし、むしろ、確認することによって俺のハートが超傷ついた。どうしてくれよう。


 心が傷ついた俺は、ぼっちにとっては音楽聴くことか、ニュースを見ることか、目覚まし時計とかしか使い道のないスマートフォンと、相棒であるイヤフォンを取り出す。

 スマホにイヤフォンが刺さっていることを確認し、適当にプレイリストに入っている音楽を流した。


 これで──





『戦闘準備完了』





 後は机に突っ伏すだけ。これがぼっちの基本形態であり、多くのぼっちがこれにより他人との接触を避けることができた行動。通称、『寝たフリ』である。本当は眠るのはあんまし良くないのだけれど、まあ、昨日は夜更かししてしまった所為か、眠くて眠くてしょうがない。よし、寝ようそうしよう。



 ──気づけば朝のHRが始まっていた。おい担任起こせよっ!!




 なぁんて言っている間に授業も全て終わり、放課後である。放課後と言えば、某ティータイムを思い出すけれど、まあ俺は部活に入っていないので、家でティータイムをしよう! とか勝手に考えてた。いや、帰ったら寝るか。三時間しか寝てないし。


 そんなことを意味もなく考えながらの帰り道。もちろん友達なんていないのでひとりでぇ〜す! ひとりでぇ〜す!(大事なことなので二回言いました)


 ふと、カバンの中の携帯、またの名をスマートフォンが鳴った。そう、鳴ったのだ。それはもう、鳥のように、いや鳥そのまんまが。それもそのはず。着信音を鳥の鳴き声にしていたからだぁ! センスなさすぎぃ!


 んで、なんで鳴ったんだろう……。メールか。悠莉からだな。



『コンビニでなんでもいいからアイスを買ってきて。買ってきてくれたら、この前お父さんのえろ本を燃やしてたのを黙っててあげる。』



 え?

 マジで?

 バレてたの?


 細心の注意なんてなかったんや……。どんだけあいつ影薄いんだよ。


「まあ」


 しょうがないか。親父に怒られたくないし。


 そう思い、俺は踵を返す。目指すは、学校近くのコンビニエンスストア。遠いよ、来た道戻るのかよ。

 なんて思いながらも、ちゃんとコンビニに行くのだから、本当に俺は妹思いなんだなと、つくづく思う。


「いらっしゃいませ〜」


 気づけばコンビニ。ぼーっと、無心で歩いていたら、いつの間にかコンビニについていた。やべぇ、自分が怖ぇ。


 ま、とりあえず適当に二個取るか。しかし、これを取ったのがいけなかったのか。


「五百二十円になりまーす」


「…………え?」


 思わず訊き返しちゃったよっ! え、高くねっ!? ハーゲ〇ダッツだったのかよっ!?


 貧乏学生には厳しい値段なのだけれど、これも妹のため、そして俺が怒られずにすむため──と思えば安いものか。


 観念した俺は、潔く五百二十円を払った。


「ありがとうごさいましたー」


 さあて、アイスが溶けないうちに帰ろっかなぁ〜、なんて、意気揚々と帰ろうとした俺。しかし、突然辺りが眩しくなり、思わず目を閉じてしまう。




 次に目を開けるとそこは、一面の田んぼ世界だった──


ブクマ、評価、レビューなどしていただけたら、もう、神として崇めるまである。オナシャス!

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