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第2話 お嬢様と執事

「急がないとな……」


 良人、いやPN(プレイヤーネーム)《スイチャオ》がQOにログインした。これからスイチャオはレギネスクイーンの挙動を調査しに行くだろう。

 今スイチャオがいるのは、QO世界にある4つの大都市の内、ストーリー上では3番目に訪れる《ユレミー》という街だ。巨大な樹木どうしを橋で繋ぐことで造られたところで、自然に溢れ妖精も多く住んでいる。

余談だが、スイチャオというPNは、彼の大好物である水餃子を水+餃子(チャオズ)としてズを取ったものだ。

 

 見た目は重そうだが実際は軽くて動きやすい、剣闘士(グラディエートル)専用の装備をカチャカチャと鳴らして、転移用のポータルに向かう。転移先は、レギネスクイーンの生息地に最も近い町、《ルピーズ》だ。


 役職名が出たので、QO世界の役職についてここらで軽く説明しよう。

 役職は剣闘士(グラディエートル)格闘家(ファイター)護衛(ガーディアン)舞踊家(テンツァー)(シノビ)魔術師(ウォーロック)神官(プリースト)弓使い(スナイパー)、そして癒し手(キュアー)の合計9つだ。

 それぞれの役職ごとに、ステータスの上昇傾向や装備可能な武器と防具、レベルアップで習得できるスキルや魔法などが異なっている。

 ゲーム開始時に役職を選ぶのだが(格闘家のみ更にパワーorスピードの2つからタイプを選ぶ必要がある)、そのときに選んだ役職は、二度と変更が効かない。その代わり、無課金でも1つは別のキャラクターが作れるのでおあいこと言えるだろう。


 役職ごとの説明は追々することにしよう。説明があまり長くなってもいけない。

 ……あ、いつの間にかスイチャオがルピーズに着いている。



 見渡す限りの草の海。……いつもなら。

 ここは、平和な田舎町ルピーズに隣接する《マテルン草原》だ。最前線がLv.155なのに対し、ここは敵Lv.140程度と最前線からは一歩引いた場所のため、普段はそこまでプレイヤーの多い狩り場ではないのだが。ただスイチャオはレベルの関係上、ここを狩り場にすることもある。

 今日は、普段のこの地を知るものは誰でもしばらく口を開けたままになるだろうと思うほどに、見渡す限りの人の海となっていた。

 原因など考える必要もない。良人たちの招いたバグだ。

  ここにいる者のほとんどが、バグの噂を聞きつけてペネ稼ぎにやってきたに違いない。その証拠に、プレイヤーの装備にレアモンスターの出現率がアップする効果や、モンスターを倒した際に獲得できるペネの額が上がる効果のあるものが多く見受けられる。スイチャオもしっかり装備している。


 スイチャオは、自分が運営チームの一員であることが漏れないようにするため、ギルドに入らずにソロプレイをしている。運営チームの他の者も同様だ。

 運営チームのメンバー同士で組まないのは、人員が極力欠けないようにするためだ。

 ゆえに、ソロで倒せない敵は事前にパーティを募るかその場で突発的に組むかしなければならない。この場合は後者だ。

  スイチャオは自分と相性の良い役職の装備をしている2人組を見付けたので、声を掛ける。

 レギネスクイーンはLv.140程度のプレイヤーが3人集まればなんとか倒せるだろうというくらいの強さだ。あの二人組も装備を見る限りLv.140くらいだろう。

 ちなみにスイチャオはLv.143だ。


「そこのお二人さ~ん! もし良かったら俺とパーティ組んでくれないか? 3人くらいいれば少し頑張ったら倒せるだろうからさ」


 長身の、いかにも紳士然とした佇まいの男性が振り向いてそれに答える。

 そう言えばまだ説明していなかったが、キャラクターの体格と顔は現実のものをトレースしている。


「これはこれは、お申し出ありがとうございます。実は、ここにおられる私が所属するギルドのマスターが、人数が足りてなくてもいいから早く狩りに行きたいと言って耳を貸してくださらないものでして……困っていたところなのですよ」

「ちょっと! 何なのその言い草は! いつもはあんなにわたしに甘いくせに!」

「私はライム様の身の安全が心配なだけなのです。無謀なことはしてはなりませぬぞ」


 スイチャオを置き去りにして口論を始め出したので、慌てて止めに入る。


「まぁまぁ二人とも。何事も早さが肝心ですから、話し合いはことが終わってからにして頂けるとこちらとしてもありがたいです」

「その通りですね。いやはや、人様の前でみっともなく口論してしまいお恥ずかしい限りです。誠に申し訳ございません。」

「わたしも、ついカッとなっちゃって周りを見てなかったよ……ごめんなさいっ!」

「いえいえ、気になさらないでください。どちらの言い分も分かりますから!」


 スイチャオは何やら得意げだが、どこか勘にさわる。持ち前の熱さゆえか。

 それと、相手の風貌や体格などをちゃんと見ていなかったから、話してから年上と見て敬語に変えるなどという無様なことになるのだ。この調子で大丈夫なのか。というか急げ。


「あ、そう言えばお名前を聞いてませんでしたね。俺はスイチャオって言います。見ての通り剣闘士(グラディエートル)です」

「私は《るーべると》と申すものです。カタカナではなくてひらがな表記です。護衛(ガーディアン)をやっています」

「わたしは《ライム》だよ! 魔術師(ウォーロック)やってるよー!」


 自己紹介を終えて、パーティを組む。この場合、るーべるととライムのパーティにスイチャオが加わる形となる。

 また、パーティを組むと組んだ相手のPNとレベル、そしてHP&MPバーが視界の隅に表示される。これは表示させないということも可能だ。


「俺はビッグウェーブに乗りたくて来たけどあまり時間ないから、一体倒したら抜けさせてもらいたいのですがいいでしょうか?」

「りょーかいだよー!」

「いいですよー」



 おっ、本来の目的を忘れて狩りに没頭しようとしてないか心配だったが杞憂でよかった。ちゃんと理由も当たり障りのないものにしているし。


 この3人にはちょうどよい狩り場なのだが、他の敵と戦闘中にレギネスクイーンが表れたりしたら乱戦になるためあえて狩りはしない。どこかでレアモンスターの証である虹色の光が沸き上がるのを、他のプレイヤーの邪魔にならない壁際でじっと待つ。

その途中、こんな会話が聞こえてきた。


「いやあ、いつもは役職ごとのパワーバランスとかで文句垂れてるけど、今回ばかりは感謝しないとな!」

「まったくだ! ガッポガッポ儲かるぜ~!」


『こんな発言をしている人でも、プレイヤーは大切なお客様様だ。怒ってはいけない。……ダメだ。悔しくてしょうがねぇな……』

スイチャオはそう思った。俯いて拳を握っている。


「……どうかしましたか?」

「いえ……何でもないですよ」


何とかこらえて、るーべるとに微笑みかける。

喧騒とスキルの効果音が耳をつんざく中を待ち続けて5分ほど経ったとき、3人のすぐ側に虹色が浮かび上がった。


「あっ!」


 ――始まる。

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