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八話 襲撃者。

 「これでまたミヤのターンね。返事は?」


 あ、はいはい。まだ話し中だったな。

 質問は……そうそう、誰の許可が要るのかってことだったよな。

 「許可するのは異世界の精霊王だよ。」

 「精霊王、やっぱり最高だ。ファンタジー。じゃ、その許可取ってくれる?」

 『無理じゃ。その娘を変異させた物の正体がわからない以上、分解も再構築も出来んからのぉ。』

 質問が入った途端精霊王からの返事が帰ってきた。やっぱりフェーヤが近くにいるとすぐに状況が分かるみたいだ。でも、返事早過ぎるだろう!

 

「……お前さんは、変異したから、無理だそうだ。」

 「早やっ!本当に聞いたの?どうやって?」

 「それが6問目か?」

 「いや、違う。違うから。」

 「じゃ、6問目をどうぞ。」

 「ううん……無理、か。でもさっきあんた言ったよね。ミヤみたいな人たちがいるって。なのに本当に行けないの?」

 「ま、特徴はほぼ同じでもお前さんは変異種、向こうにいるのは元々住んでいる住民だからな。変異させた原因の正体が分かれば……。」

 「行けるのね?!」

 ありゃ、最後は余計だったか?でも別に隠したり誤魔化したりしても意味ないし。

 「ま、そう言うことになるか。でも正体がわかってそれが向こうで問題になる様なものだったら行けない可能性もあるけど。」


 あまりに期待しすぎて後になって辛い結果になったら虚しいから先に釘を指しておく。

 でも、そんなに異世界に行きたいのかな、別にそこまでいいとは思わないけど。確か不思議あふれているファンタジ世界を冒険するのってワクワクするよな。俺も最初はそうだった。でも時間が経つに連れそれらが当然な物になり、汚く醜い現実が目に入ったりするとそのワクワク感も薄れ、結局知的生命体に対する嫌悪が増して行ったりもしたんだよね、俺の場合は。まぁ、元々俺が人間嫌いな所を持っていたから尚更そうだったかも知れないけど。別にそこまで言う必要はないな。知らぬが幸って言葉もあるんだ。


 「じゃ、俺のターンだな。一気に行くぞ。四番目、さっき雛と呼んだけどそれは感染者たちのことだよな?五番目、雛から変異、つまり自意識が戻るの直接見たことはある?六番目、それとお前さんと違う変異種を見たことはある?」

 「感染者で合ってるよ。それとまだ自分で見たことはないけど、見た人から聞かされた。雛から進化して新しい種に変わるんだって。それを教えてくれた人たちが、ミヤが見た他の変異種だね。ミヤと違って角は一本だけで、蝙蝠みたいな羽持っていた。飛べないみたいだったけど。」

 「人たち?」

 「二人だった。」


 一本角に蝙蝠の羽。角魔族と翼魔族の合成体か?向こうにはない種族みたいだな。俺が知らないだけで何処かにいたかも知らないけど少なくとも俺は見たことがない。

 「分かった。じゃお前さんのターンだな。七問目行きたい所だけど……。お客が来る。」

 「お客?」

 俺の言葉に驚いて聞いたのはミヤではなく、大人しくミヤとの話を傾聴していた沙凪ちゃんだった。フェーヤはなにが楽しいのかミヤの角回りを飛び回っている。

 頼むから外の気配にも気にしろよ。


 「あ、人間だな。二人だ。20分ぐらい後にこの辺を通過するだろう。」

 「なにそれ?探知魔法とか使ってるの?なんで分かるの?」

 「答えはイェス。コレで7問目だな。」

 「はいはい。じゃ8問目聞くけど、人間って大日本戦線?いやそんな事までは分からないっか……。」

 「多分違うな。移動方向が反対だ。陸側から爆心地に向かって移動している。大日本戦線の奴らは海から来る筈だし。」

 「わざと遠回りしてくるってことはないの?」

 ま、当然そう思うよな。


 「まず、移動速度が遅い。徒歩なんだろう。それと昨日のミサイルで感染者の数は減っているが陸側にはまだかなりの数がいるし。だから、何らかの手段で迂回して徒歩で来るのは相当な危険を伴っている筈だ。なのに二人だけで来る?可能性は相当低いな。むしろ元々内陸側にいた人が爆発後に感染者の数が減ったのを期に調査に出たと見るのが妥当だと思うね、俺は。」

 「晴稀さん……頭良いですね。」

 沙凪がなんか変なことを言っているな。

 頭がいい?誰が?俺が?そんなわけあるか。俺の成績は良くて中間。悪いのは全校で最下だったぞ。


 「沙凪ちゃん。コレは頭じゃなく直感。理屈は後で埋めてるだけ。頭は関係ない。」

 「え?じゃあんた今の言葉が全部感の後付だったわけ?」

 呆れた顔のミヤが俺に聞き返す。

 「でも間違いないと思うぞ。いや、経験則から言うと間違った予想をしたのは……、日本へ帰ってくる時何にも異常がないと安心していた時だけだったな。」

 「晴稀さん。それ概ね当たってない、ってことに聞こえるけど……。」

 え?そうなん?


 ま、会ってみれば分かることだし。取り敢えず話はそれからだ。俺の予想通り接近中の人たちはこの辺に拠点を持っているとしたら、姉貴、もしくは姉貴のいた大きいグループのことを知っている可能性が高い。

 姉貴を探すのは後でもいいけど、情報は必要だ。

 別に考えたくはないけど、大日本戦線の奴らとはどうも相容れない様な気がする。戦闘になるかも知れない。その前に保護出来る人は保護して置かないと余計な被害が広がるかる可能性がある。彼奴等のやり方を見るとどうもド派手なことが大好きみたいだし。

 俺はそんな考えの元、ミヤとの会話を一旦中止し移動することにした。

 残念なことにミヤは異世界に行く為に俺に付いて来るそうだ。


 ああ、なんで俺はいつも面倒事を進んで抱え込んでしまうのだろう。

 優柔不断ここに極まり!だ。

 本当、嫌だな。


 ◇


 自分が嫌いだ。

 予想はほぼ当たっていたのに俺はそう思ってしまった。

 俺達は少し離れた場所で接近してくる人たちの姿を物陰に隠れて覗いている。だけど、最初の計画通り近づくことはしない。理由は風の魔法、【転音】で拾った彼らの会話のせいだった。


 「きゃはは。こりゃ最高っすね。兄貴!ゾンビども皆くたばったお陰で街全体が俺たちのもんの様っすよ。」

 「あ、ミサイル様々だ。大日本戦線の奴らいいことしてくれたぜ。ま、でも彼奴らウザイし、入る気はねぇけどな。」

 「でも、兄貴。あそこに行けば食いもんには困らないんじゃないっすか?」

 「馬鹿。あそこは入った順番に階級付けてんだ。他の奴の下っ端のままがいいならてめぇが行けや。俺はまっぴらだ。」

 「それにしても最近は女がねぇからつまんねぇっす。」

 「てめぇは下半身に依存し過ぎなんだよ。女なんて道具。いれば使うしいなければ使わない。壊れれば捨てる。それだけだ。」

 「そう言えばその間の上物。やりすぎて死んじまったっすよね。」

 

 そう、こんな奴等と話し合いなどしたくない。むしろ殺してやりたいぐらいだ。不幸にも【転音】を皆に聞かせてしまったせいで、皆も同じ感情になってしまっている。

 やっぱり色んな意味で自分の浅はかさが嫌いになる。皆の耳を汚してしまったこともそうだけど、人間が厳しい環境の中で生きるとどんなに醜くなるのか異世界で十分に経験して来たはずなのにそれを失念していたこともそうだ。

 何処かで自分が知っている故郷が残っているのだと淡い期待をしていたんだ。沙凪ちゃんと言う昔の知り合いに、厨二らしさを残しているミヤ、そして漫画を読んでいたオーガも。それなりに世間との接点が少なかった分普通の感性に近い物を持っていた。

 俺はそれをこんなに変わってしまった世界の普通だと思い込んだ。でも、実は違う。パンデミックに因り壊れかけた世界ってのは既存の価値観も崩壊して人間のモラルも生存と言う名の巨人の前で跪く、そんな世界なのだと、色んなメディアで分かっていた筈なのに、甘い未来だけ見て自分が何か出来ると自惚れていただけだった。

 異世界でも種族間、階級間に纏わる選民思想を変えることを諦めてた俺だ。そんな俺がなにかが出来るのか?出来るわけがない。あそこではやらなきゃならないことをやっただけで英雄だ、勇者だと持て囃されたけど、結局俺は普通の人間だ。

 こんなクズ共を見て怒ってしまう。普通すぎる人間なんだ。


 「……晴稀さん?」

 『ハルキ?』

 「晴稀?」

 いつの間にか皆の視線が俺に集まっている。

 あ、どうやらまた(・・)鬱になりかけてたみたいだ。

 異世界で力を得て、世界を救った英雄だと言われても、あそこで知り合った人たちを本当の意味で救ったわけじゃない俺は自分の無力さを良く知っている。これはそれのせいで出来てしまった鬱病だ。

 幸い今回はなんとか、完全に落ちる(・・・)前に戻る事ができた。もし完全に落ちたら……。いや、考えるのは止そう、今は目の前にいる奴等のことだ。


 「悪い。ちょっと考え込んでた。それより彼奴等どうする?無視してやり過ごす?それとも捕まえて話し聞く?」

 「あんなの世界の敵よ。ミヤが殺るわ!」

  物騒だな。でもまぁ、そう言うと思ったよ。

 『フェーヤも暴れた~い!』

 フェーヤは自分の欲望に忠実、と。

 「晴稀さんはどうしたい?」

 沙凪ちゃんは多分俺が前日言った言葉をしっかり考えてくれてるみたいだ。でも、そこは自分で考えないと。

 「俺は軽く締めてから、情報聞き出したいな。殺すのは簡単だけど、別に俺らに実害があるわけじゃないしな。」

 「でもぉ!」

 「ミヤ。俺もあんな奴等は活かして置きたくはない。でもそれは俺の欲だ。自分の欲と殺す理由は別物だ。俺は殺したいから殺す、欲望だけに生きる人間になりたくはない。」

 少し声に力を入れて話しておく。


 「……納得行かない。」

 「じゃ、好きにすればいい。その時はお前さんと係る理由もなくなるだけだ。欲求だけの人間を仲間にすることは出来ない。」

 「…ずるい。」

 ずるくって結構だ。俺がそんな人間になったら、短くって2週間、長くて一ヶ月もアレば世界中の人間7割以上、殺せる自信ある。自分で言うのもなんだが、とんだ災害だ。勿論、コレはパンデミックが起きる前のことを考えた計算だ。でも、自然中のマナの問題でもう少し掛かるかも知れないけど……。


 ま、兎に角だ。

 「俺の我儘だ。恨むなら俺を恨め。でも彼奴等締めるのはちょっとグロいと思うぞ。覚悟だけはしていてくれ。」

 俺はそう言って隠れていた場所から身を起こしたその時。

 それが起きた。


 最初に認識できたのは《クチャッ》と言うなれない音だった。そして徐々にその音の正体を脳が認識していく。俺はそれを認識した瞬間、二人の頭を両手で囲みながら再び身を隠した。

 「え?なに?」

 「なに、いきなり?どうしたの?」

 「多分スナイパーだ。相当、凄腕。二人がほぼ一瞬で殺られた。俺の感知範囲の外から打ったものだろう。」

 俺の言葉に二人はクズ共の方に視線を向けようとするが俺が頭を掴んで視線を戻す。

 「見ない方がいい。相当グロいから。今から俺はそのスナイパーを捕まえてくる。沙凪ちゃんとミヤはここで待っていてくれ。フェーヤ行くぞ!」

 『り、了解。』

 「は、晴稀さん!」

 俺は早口で状況を説明してすぐに上空に飛び上がった。


 幾ら感知範囲の外でも空からだとすぐに見つかるはずだ。脳みその弾けた方向から大体の発射方向も掴んでいる。

 せっかくの情報源を潰してくれたんだ代わりの情報源になってもらう!

 俺とフェーヤは一定距離を開けて高速で飛びながら探知魔法を使う。感染者がほぼないお陰でスナイパーの位置はすぐに掴むことが出来た。

 場所は爆撃の余波を殆ど受けてない7階建てのマンションの屋上。

 スナイパーも俺のことに気付いている筈だ。だが、獲物が見つかれば、そこがゲームオーバ。コレは決定事項だ。

 さっさと捕まえるぞ!!

 ………

 ……

 …


 と言っておきながら。 

 俺は捕まえるところか、捕まってしまってる。正確には全身が縛られている。もっと正確には、

 「晴稀ぃ~。うわあああああ~。」

 「あ、姉貴……。」

 号泣しながら力いっぱい抱きついている姉貴に為す術もなく両腕ごと拘束されている。

 そう、スナイパーの正体は黒伽揶(くろがや)(みお)。 

 俺の姉貴だった。

 

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