七話 怪力乱神。
朝の食事を済ませ俺達はトーテムの方に足を運んた。
この一帯は感染者の脅威はなくなったため徒歩での移動だった。
「晴稀さん。やっぱりこれ、わざとああしてるんだよね?」
沙凪ちゃんが廃ビルの上にあるヘリ刺しを見上げながら怪訝そうな顔で俺に聞いてくる。
先まで燃えていた火はすでに収まっていて、黒く変色した鉄の串刺しは歪な姿を周りに見え散らしている。廃ビルの縦に刺去っているヘリ刺しを見るとなんでか異世界で食った。ワイヴァンの丸焼きが食いたくなる。俺ってなんか最近、食い意地張ってる気がする。コレじゃ太るかもな。気をつけよう。
「あ、わざとだね。それも昨日の夜の間にやっただろう。アレはビルが壊れた後に立てられたもののようだし。」
「でもどれだけ力がアレばこんなことが出来るんだろう?何か機械とか使ってたのかな?」
「それはないと思うな。そんなの作っていたら流石に俺たちがいた拠点で何か気付いてた筈だし。」
「じゃ、やっぱり化け物の仕業か……。」
オーガたちでもコレは厳しいんじゃないかな。異世界のジャイアント種なら出来るかも知れないけど……まさかジャイアント種にまで変異した奴らがいるのか?
でもこれ、どう見てもトーテムみたいだ。蛮族が自分のテリトリに侵入した敵を蹴散らし、その躯を警告用に高い所で展示するそれ。あ、蛮族じゃなくともこんなことはよくあったんだよな?敵将の頭切って城門の上に晒すとか。でも警告もしくは恐怖を与える意味としては同じなんだけど。
『フェーヤ。何か気配感じるか?』
『いや。この辺に生き物はいないみたいだよ。』
じゃ、コレを作った後、離れたのか。
でもこんなトーテムがここにあるってことは、離れてない所にコレを作り出した張本人がいるもんなんだけどな。
可能性としては、そいつらのテリトリが俺らの感知能力を超える範囲にいるか。何らかの隠蔽能力を持っているとか。ただ警告だけしておいて捨てて行った。このぐらいなんだけど……。
「な……に?」
はい。正解は『一番』でした♪
え?なにがどうなってるのかって?簡単だよ。今忽然とトーテムの上に張本人が登場したからな。
黒い肌とグルっと曲がった二本の角、そして銀色の髪を持つ身長140ぐらいのとても可愛らしい女の子だ。確かに目の前にいるのに俺の感知が全く反応していない。
『フェーヤ。感知出来る?魂とか分かるんだろう?』
『アレは無理。』
そうだな。あれは上位魔族だ。正確には角魔族の上位種。異世界での彼らは自らのことを【カファデラ族】と呼んでいたっけ。とても知能が高く生れつきの隠蔽能力ともう一つのどんでもない特殊能力を持っていた。
「なんか用か、人間ども。」
あれ?角の迫力と存在感と言うか、威圧感と言うか、そんな雰囲気とは結構あってるセリフだけど、何処か違和感が……。
「いえ、わ、私達は……。」
沙凪ちゃんが威圧にやられてすこしテンパっている。でも、
「君。もしかして、厨二?」
丸っきり初対面でやっては行けない質問を投げて見る。無理やりキャラ作りしてるやつならコレでボロがでる筈だ。そうすると話の主導権は持ってこれる。
「な、なな、なに言ってんの?!ミヤの何処がちゅ、ちゅ、厨二なのよ!」
よし。やっぱり図星だったみたいだ。言葉使いも普通になってる。名前はミヤと言うのか。角じゃなく猫耳だったらぴったりな名前だな。
「いや全部?さっきのセリフと鉄ビームの上に立っている立ち姿、それにその黒と朱の魔王コート?自作だろう?」
どう見ても某有名ファンタジRPGに出てくる魔王のマントをジャケットにアレンジしたものだ。5年前に俺も結構ハマってプレイしたからちゃんと記憶している。俺が知らない何かのグッズかも知れないが、それにしてはあの小柄な体格にピッタリすぎる。どう考えても既成品であのぴったり感はだせないだろう。
「そ、そ、それはこっちのセリフよ!あんたこそ何?マントまで着込んでさ?中にある服も!冒険者にでもなったつもり?!素材の方はなかなか工夫してるみたいだけど、残念だったね!ミヤの方がデザインもスキルも上よ!」
「俺をお前と一緒にするな!俺のは自作じゃない!既成品だ!それに着たくて着てるんじゃない!」
「なに?!人を厨二呼ばわりしておいて自分だけ逃げられると思ってるの?」
「俺は厨二じゃねぇ!ホンモンだ!」
「何が本物よ?まさか本気で冒険者気取ってったのぉ?」
あれ?なんか主導権奪われてないか、俺?
「……晴稀さん。冒険者ですか?」
あれ?沙凪ちゃんもなぜか生暖かい視線になってるぞ。俺のこと全肯定してるんじゃなかったの?
「あら、そっちの人は正常のようね。」
「お、俺こそ正常だ!」
なんか自分で言っておいて虚しい。だめだ。ドツボに嵌ってる。なにか、なにかこの状況を打破する魔法の言葉はないのか、ってそうだ。魔法見せれば簡単じゃん。
どうせ異世界に戻る訳だし、遠慮なんかいれないな。うん。自重なんて俺はし~らない。
『フェーヤ。少し暴れる。沙凪ちゃんのこと頼むな。』
『え~?いつもそれじゃん。あたしも暴れたい。』
今は我慢してくれ。俺が厨二だと言う汚名を挽回出来るかどうかの瀬戸際なのだ。
「なに?ミヤのことジーと見て……?!!」
俺はミヤが何か変なことをコレ以上口に出来ないように最大速度で【魔力の刃】を飛ばし鉄ビームの根本を切断した。根本が切られヘリの重さを耐え切れず地に向かってゆっくり傾いていく。
「え?え?な、なに?どうなってるの?」
慌てながらも鉄ビームを蹴りジャンプして地面に着地しようとする瞬間を見計らって土魔法【土縛】を最上強度で使って動きを封じる。
「まだ気を緩めるなよ!お仕置きタイムはこれからだぞ!」
俺はそう叫びながら空かさず【火弾】を10個作り出し、縛られたミヤに向けて高速で飛ばした。
だが、俺の【火弾】が当たったのはミヤじゃなくその後の廃墟だった。ミヤはすでに俺の縛りから抜け出し回避している。
俺がミヤの回避した場所に静かに目をやると、ミヤが飛び出しそうに目を見開いていた。
やっぱり使えるんだな。俺の【土縛】破る馬鹿げた力と【火弾】を回避する超高速の動き。
久しぶりに見る【カファデラ族】の特技、いや種族特性、【怪力乱神】。
ま、こっちは俺が付けた名称だけど。兎に角。
【カファデラ】は向こうの言葉で【カファ】と【デラ】の合わせた言葉で、【カファ】は【怪力】を、【デラ】は【風の神】を意味する。それを合わせて自分達の種族名にしたのが上位魔族【カファデラ族】だ。まさしく傲慢を絵に書いた様な種族だったが種族特性を一番良く表現出来た言葉であることは否定出来ない。
初めて戦った時には4回ぐらいは死ぬ思いをしたっけ。
はぁ、これでますます異世界との関連性を疑うしかなくなってしまったな。
「…あんた。何者?」
「さっき自分で言ったろう。冒険者だ。」
「やっぱり厨二……。」
「オーケー。お仕置き続行としようか。」
さっと笑いながら再び空中に【火輪】をホバリングさせる。
「ちょ、ちょっと待って!!」
「なんだ、もう終わりにしたいか?態々魔力使ってまで証明してやってるんだ。とことんやり合おうぜ。隠蔽とバカ力と高速移動。全部出して攻撃していいんだぞ。」
「な、んであたしの能力全部知ってんのよ?!」
「だって、異世界では結構いるぞ。お前さんみたいな奴。」
「異世界って……。」
あ、これは出す必要なかった話題かな?あまりにも突拍子ない話しだしむしろ俺の言葉の信憑性を落としかねな……。
その時、ミヤが神速を使い俺の方に攻め入った、と思ったら俺の目の前に止まり丸で恋する乙女の様な目をして手を合わせていた。
「本当にあるんだね?!異世界!あんたはどうやってあちらに行ったの転生?召喚?転移?エルフとか、ドワーフは?それと、それと……!」
ああ、そう言えばあっち系の人だったね、君。コレは魔法見せて、異世界の話すれば噛み付くわな。なんか気が抜ける。帰ろうか。
◇
はい、只今拠点に戻った俺は六つの眼に睨まれています。
沙凪、ミヤ、フェーヤです。怖いですね。女って。それが3人、それも種族別ですよ。怖いですね。
「晴稀さん。なんでさっき私は風で縛られていたでしょうか?」
「うん。それはフェーヤがやったことだよ。俺は沙凪ちゃんの護衛を頼んだだけだ。」
『フェーヤは悪くないもん。全部ハルキが一人で暴れたいって言ったからだもん。』
『そんなに暴れたいならアチラに帰ってもいいぞ。ただし、フェーヤとは契約切って精霊王に新しい精霊頼むけどな。』
『ハルキ。嫌い!』
『はいはい。わかってますよ。』
「でも、どうしても
ま、こんな感じでなんとか二人ははぐらかしているけど、問題はミヤだ。
「……。」
さっき質問を全部無視してミヤのことをいない人間使いしながら皆と一緒に変えて来たけど、なぜかある時から無言で俺のことをずっとこうして睨んでいる。
沙凪はまだ怖がって話しかけようとも思わないみたいだし、フェーヤは気にしてる素振りすら見せない。つまり何にも邪魔されることなくずっと黙ったまま俺をかれこれ30分以上睨んでいるのだ。
黄金色の瞳に睨まれるのはなかなか精神的に良くない気がする。色合いはとても魅力的だが、迫力もすごい。それにこいつ体格は小さいし、顔付きもかわいい系なのに目と唇だけは酷く色っぽい。だから怖い。
はぁ、早いとこ片付けてしまう。コレは不毛な時間だ。
「……。分かった。今から質問を10問だけ受け付ける。その代わりに俺も10問するから必ず返事してくれ。返答の誠実さを維持するため質問は3問ずつ交代にする。それで手打ちだ。」
「じゃまず、あたし、異世界に行ける?」
「自力じゃ無理だ。でも方法はある。」
「その方法は?」
「俺が連れて行くこと。」
「連れて行ってくれるの?」
だから目をキラキラさせながら顔を近づけるな!
「向こう側の許可が要る。」
ミヤの額を指でそっと押し返しながら返事してやると、ミヤが俺の指を掴んで次の質問をした。
「誰の許可?」
「それは4問目だ。俺の質問が終われば答えてやる。」
「……チッ。わかったわ。」
ミヤは唇の動きだけで「ケチ」って言うった後、渋々と俺の指を離してくれた。地味に痛い。その怪力、ちょっと自重しやがれ。俺じゃなかったら指潰れてたぞ。
「あのトーテムの目的は?」
「警告よ。」
「昨日のミサイル打って来た奴らに対する?」
「そう。」
「そいつらのことで知っていることは?」
「人間、【大日本戦線】と言う奴ら。ネーミングセンス最悪よね。そいつらが人集めて雛たちと進化種の排除しようとしている、今回ので二回目。半年前は戦車で練馬で暴れてたらしいよ。勿論失敗したけどね。それで今回はミサイルだった。悔しいけど、いっぱい雛たちが死んでしまったわ。それで、ミサイルの余波が去った後ヘリで上陸しに来る奴らをあたしが返り討ちにしたわけ。」
雛?感染者をそう呼んでいるのか?
雛か…俺は雛よりは蛹の方があってる気がするけど、ま、それは置いていて問題はその大日本戦線とか言うふざけた奴らだな。ミヤの話によると丸で戦争状態じゃないか。
コレじゃ俺の立ち位置が段々俺が目標にしたネゴシエータから遠さがって行く気がする。
『面倒くさがりの晴稀はその時思ってしまった。面倒事は決して自分を離してくれないかも知らないと。だが、晴稀はそれを知らない。それが晴稀自信の運命であることを。』
やめてくれ!!妄想のナレーターさん!!そんな運命なんってまっぴらごめんだあああ!!!