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五話 決意、そして東京へ。

 ショッピングモールの屋上に戻った俺はフェーヤと沙凪ちゃんの色んな質問を一旦無視して、魔法でお湯を沸かしカップ焼きそばを作った。


 沙凪ちゃんも俺が戻るまで何も口にしてなかったそうで、俺が大量に何種類も持ってきたカップ麺から選ばせ食べさせた。沙凪ちゃんは自分の食料は自分で、と渋ったが今は一緒に行動するチームだからと黙らせた。

 そして、今は食後のデザートにポテチを食べ終わった所。

 

 やっと胃袋と脳みそが落ち着いた俺は満足気に一言を口にする。

 「美味いものは真理である。」

 「なんですか、それ?」

 「一度言ってみたかったセリフ。」

 『フェーヤはハルキに同感~。美味しいのは真理だぁ~。』

 俺の味覚に同調したフェーヤは幸せそうに両頬に手を当てながら忙しなく飛び回っている。腹が満たされるわけじゃないのにそこまで感動できるって、どう考えても精霊の感性は理解に苦しむな。


 「冗談言ってないでちゃんと説明してください。」

緊張した顔で俺に話を急かす沙凪ちゃん。でも口元にポテチの欠片が幾つか付いているせいかどうも緊張感に欠けるよね。可愛いとは思うけど今はお互い真面目になる時間だ。そんなことは一旦気にせずに行こう。

 言っておくが可愛いからずっと眺めたいとか後で誂いたいみたいなことはないぞ。ないからな!

 

 とにかく。

 「その前に沙凪ちゃんに質問だ。そのショットガンの元の持ち主、どうやって死んだの?」

 「な、んで……?」

 「死んだ時の状況だけ簡潔に教えてくれればいい。それの返答次第で俺のこれからの行動が変わるから。」

 「……化け物に殺されました。捕まって……投げられて……壁にぶつかって……そのまま……。」

 沙凪ちゃんは俺に急かされ途切れ途切れ辛い記憶を言葉に紡いで行く。その内容は状況を推論するには不十分なものだったけど、オーガ20君の言葉と合わせてみると一応繋がってはいる。だけど俺は確証が必要だ。


 「先に攻撃したのはその人の方?それとも化け物の方?」

 はっ、と視線を上げ沙凪ちゃんが俺を見る。俺が何を言いたいのか訳が分からないと言う顔だ。

 「……だってアレ化け物。」

 何か訴える様に呟く沙凪ちゃん。でもその反応ではっきりわかった。有無を言わずに攻撃したのはショットガンの持ち主だ。

 「じゃ、多少やり過ぎ感はあるけど、一応正当防衛だったわけだ。化け物、オーガ君の場合は。」

 「正当防衛って?」

 「だって、あいつら元は人間だし、自意識もちゃんと持ってる。現に俺あいつらと会話してきたし。」

 「……。」

 驚きのあまり言葉も出ないって感じだな?でもここでやめたらだめだね。ちゃんと知ってもらわないと。

 「感染者たちの中でそんな風に変に変わってしまった人たちがいるみたいだね。角持ってる奴とか。」

 『角?』

 『あ、外見は角魔族そっくりみたいだ。中身は違うかも知れないけど。オーガもそんな感じ。気配と外見はオーガそのものでも社会形成出来るぐらいの頭は持っていた。』


 「じゃあ……ゾンビ、は?」

 顔を青くした沙凪ちゃんが不安そうに俺に聞いた。

 「そいつらも正確にはゾンビじゃない。ただ病気にかかってるだけ。自意識持ってないし、人間を攻撃してるからたちが悪いんだけど。一応人間なんだ。まぁ、攻撃をやり返すのは俺がなんも言うことはないけど、ちゃんと会話出来る奴らを先に攻撃するのはただの殺人だと思う。勿論今回のことはなんにも知らなかったせいもあったし、不幸な行き違いみたいなもんじゃないかな。」

 「不幸な行き違い……。」

 再び俯く沙凪ちゃん。後一言で最後にしよう。残りは沙凪ちゃんが決めることだ。

 「俺はあちらの世界でいっぱい生物を殺したよ。言いたくないけど人間も、な。言い訳くさいけど、その時はそんな選択する他、方法がなかったからね。でも自分なりに決めたことがあるんだ。無意味に殺しをしないこと。意味があっても最大限、相手を理解する努力をすること。配慮がない殺しをするの人は獣以下の存在だと俺は思う。沙凪ちゃんが納得できなくって俺から離れてくれて構わない。俺はこれからもそれを貫いていくつもりだから。でも、折角会えた知り合いだし、出来るだけ保護してあげたいと思ってるよ。それに俺はそれだけの力も持ってる。決めるのは沙凪ちゃんだ。」


 これは自分に対する枷だった。あちらの世界で最強とも言える力を得た後、自分がやれる全てが怖くなった。その気になれば世界すら壊せる。丸で無限に使える核爆弾を持っている様な状態だ。それをやらかしてしまったら、俺はどうなるのか。それが死ぬほど怖かった。

 だから俺は自分の心を守るため自分に枷を付けた。別に正義とかそんな理由じゃない。そんな身勝手な枷を沙凪ちゃんが受け入れるのかどうかわからないけど、受け入れないようなら、離れるだけだ。少し気分は落ち込むかも知らないけど、どうせ恋人でも家族でもないただの他人だ。そこまでの精神的ダメージにはならない。


 「私……。」

 あ、やっぱりすぐには決められないか。色んな考えが頭の中で渦巻いている様な顔だ。多分これからの身の振り方の問題なのだろう。食料とかもそうだし、ゾンビじゃないただの感染された人間を殺すのに抵抗か罪悪感などが生まれるかも知れない。そんなんじゃ遠くない内に命を落とすことになる。

 少し助け舟を出しておこうかな。

 「離れると決めても偶に食料とか渡すぐらいの手助けは出来る。俺にとっては大した負担ではない。今まで通り生きても誰も咎めないだろうし、俺も咎めたりしない。俺は俺のやりたいようにやるだけだし、沙凪ちゃんも沙凪ちゃんのやりたいようにすればいいと思うよ。生きるための足掻きは誰にも否定できるものじゃないしね。」

 「やりたいように……。」

 ぼんやり俺の言葉を繰り返してはいるけど、さっきより混乱してるようには見えない。ま、自分なりの結論は出せるだろう。暫く置いておこう。

 ここからが俺が最も気になっていた問題だ。


 『それより、フェーヤ。質問だけど。』

 『なに?なに?』

 『世界を渡る時、俺と一緒に何か渡ったりする可能性ある?』

 つまり、俺が世界を渡る時に開けられた通路を介してあの世界の何かがこの世界に紛れ込まれ、3年以上経ってから変異を起こした可能性。

 精霊王の方がもっとちゃんとした答えを持っているかも知れないけど、精霊王は俺が思っている異常に腹黒い。ノラリクラリと答えを躱されてしまったら堪ったもんじゃない。

 だけどフェーヤは少しずれてる所はあるが意外に素直だ。素直じゃない時には物理的な制裁を食らわす事もできる。


 『可能性?ないよ。』

 俺の悩みなど全く意味のないことだ、とも言うようにフェーヤは断定した。

 『なんで?』

 なんでそんなにあっさり断定出来るんだ?

 『正確には《渡る》じゃなく《再構築》に近いからだよ。』

 あれ?再構築?つまり解体して作り直してるってこと?

 『だから作る側、つまり精霊王様と私が分からない物は作らない、いや作れないね。』

 『おい。それって変だぞ。精霊王が俺のことを最初からわからないと出来ないことじゃねぇか。』

 『ハルキ。お主は馬鹿じゃな。』

 『精霊王?』

 『妾自らそっちに行って連れて参っただけじゃ。その時、お主は精霊を見ることも認識することも出来なかったから知らなかったのであろう。でも再構築する時魔力炉と妾の加護を与えたからそれ以降は精霊を見ることが出来るようになったし、召喚だと勘違いしたかも知れんが。妾はその時ちゃんと話しておったぞ。『妾が連れて参った。』とな。じゃからお主の心配は取り越し苦労なのだよ。本当に一々手が掛かるのぉ、お主は。』

 むっ。勝手に乱入してくるなよ。

 でも、一応俺のせい、いや精霊王と俺のせいでこんな世の中になったんじゃないことは分かった。言葉にはしないけど、感謝だけはしておこう。


 「晴稀お兄さん。」

 「ん?」

 いつの間にか硬い表情をした沙凪ちゃんが俺を覗いていた。

 「私、一緒に行きたいです。一人でいると今まで通り、生きるためだけの生活になっちゃいますから。でも晴稀お兄さんといると知らなきゃならないことを知ることが出来ると思います。」

 表情は晴れてないけど、ちゃんと決心出来たみたいだ。


 今まで俺はただ知り合いをここから向こうの世界に脱出させることだけを考えていたけど、新しい知的生命体がいる、いや出来たと分かった今は、少し人間とその存在の行方を見ておくのも悪く無いかもしれない。

 大げさなことをするつもりはない。ただもう少し世の中を見て僅かに干渉してみるだけだ。新しい種族か、人間側、どちらかに肩入れしたりもしない。ただ両方の情報を集め、出来るだけ共存、もしくは不干渉で生きられるように説得できればいいと思ってる。

 滅びてゆく世界を捨て逃亡するようにあちらに行っても目覚めが悪いから。

 全部自分の為にやることだ。

 

 「じゃ、さっさと東京に行って姉貴探すか。沙凪ちゃん姉貴がいるグループの場所しってる?」

 「たしか港区あたりだとだけ……。ごめんなさい。その時もっとちゃんと聞いておけば……。」

 「いや。それでも十分ありがたいよ。手がかりがないと東京全域飛び回って探さないと行けなかったし。」

 幾ら気配で種族がわかると言っても何の手がかりもなく広い東京で人探しって自分でも自分の無鉄砲さが呆れるな。不可能ってわけじゃないけどもっとスマートにならなきゃな……。コレじゃ能力ある分、段々思考が段落的になって行くような気がする。


 『ハルキ。トウキョウってどの方向?』

 どの方向……。確かこの街から東北方向に……日が登ったのがあっちで……って、馬鹿か俺は!!! なにアナログ的に方向探してんだ!!!

 早速スマートには成れなかった俺でした。くすぅ。



 現代文明はすごい。デジタルはすごい。

 5年もの間アナログだけの生活をした俺は5年前までは当然の様に思っていたデジタル機器の凄さに体を打ち震えている。

 最初は携帯でも何処かにある非常用自家発電機で充電するかと思って、発電機に使うガソリンを拝借しようと車を物色していたら、もっといいものを見つけた。


 その名は【カーナビゲーション】


 バッテリも残っていたし、何よりGPSも正常に作動して、携帯の地図アプリとは違いネット方式じゃないからどこでも構わず使えるそれを見つけた時。俺は声を上げて叫んだのだ。 「ユーレカ!!」だと。

 気分は当にアルキメデスお爺ちゃんだ。裸で街中を走り回ったりはしないけど。

 兎に角、今俺は沙凪ちゃんを片手でおぶった状態でカーナビを手に東京方面に向かって移動中。でも道路無視して飛んでいるせいかちょくちょく道を再検索するって言いながら止まるんだよね。ま、大体の方向だけ分かればいいから構わないけどさ。因みに音声案内はカットしてます。うるさいし。


 「それにしてももう日が落ち始めてるな。ビルのガラスに反射された夕日が眩しい。カーナビが見づらい。」

 「……出発が4時半でしたからね。そりゃ落ちますよ。」

 俺の背中にもたれかかり疲労困憊になっている沙凪ちゃんが不満そうに呟く。背負ってるのは俺だけど、2時間近く飛んでいるし、幾ら揺れないようにゆっくり飛んでいるとは言え、しがみつくだけも結構体力使うよね。でも俺もそろそろ休む必要あるな。そろそろ魔力切れるかも知れないし。今川崎市と港区の境界線当たり、目的地まではあと少しって所だから少し休んで飛んでいけば何分も掛からないだろう。


 「何処か屋上にでも降りて少し休もう。」

 「……はい。お願いします。」

 力のない声、どうやら沙凪ちゃんも限界だったみたいだ。 適当に楽に休めそうなところを探そう。

 

 3時間後。

 日は完全に落ちて気温もかなり下がっている。

 沙凪ちゃんはよほど疲れたのか、高層ビルの屋上に降りてすぐ寝落ちしてしまい、俺は仕方なく回りに風の結界を張って家から持ってきた漫画を読んでいた。

 正直少し消沈している。俺の感性がすり減ってしまったのかそれとももう一回以上読んだ作品だからなのか、一番好きだった漫画が面白くない。

 多分両方だな、と自分で納得付けながら漫画を収納し、ショッピングモールから持ってきた缶コーラを魔法で少し冷やしてから蓋を開けた。

 「ああ、やっぱコーラはうまいな。」

 異世界には甘いものが少なかったせいだろうか大好きだった漫画よりも、そこそこ好きだったコーラを飲むのがこんなにも感動的な気分にさせてくれるのは。


 糖分は人間の基本的エネルギ源であるため自然と人間に幸せを感じさせるのだと何処かで見たことがある。はっきり覚えてないけどセロトニンとか言う心を安定させるホルモンを分泌させるとか何とか。

 余談だがそのセロトニンだが恋愛してる時感じられる幸福感もそれのせいだと言われているらしい、だから女を口説く時には出来るだけ甘いモノを食べさせないこと、そして恋愛が始まったら甘いモノを食べさせることが円満な恋愛の秘訣だと知り合いが言っていた。

 ま、俺は生まれて今まで女っ気はゼロだから全然関係ないけど。


 『ハルキ~。それもっと飲んで~。』

 散歩がてら、偵察がてら回りを見まわったフェーヤが戻ってきていきなり、コーラのおかわりをねだる。

 フェーヤもコーラの味が気に入ってしまったみたいだ。

 『でもそろそろ飯食わなきゃ駄目だし。コーラはお預けだ。』

 『じゃ、なんか新しいの食べて。さっきのと違うもの。』

 『はいはい。』


 俺は俺が持ってきた異世界産寝袋を下に敷きその上で寝かせている沙凪ちゃんを起こすために腰を上げた。だがその時俺の耳が変な音を拾う。

 何処かで聞いたことがある音だ。でもはっきりと思い出せない。方向は上空。でも飛行機じゃない。飛行機が出す重みのある音じゃなくもっと鋭い……。


 そして俺は音が鳴る方向を特定してその音の正体を思い出した。

 何処かで、いや映画かロボットアニメとかでよく聞いた、飛行機より小さく鋭い音を出す飛行物体。黒い空の中を丸で流れ星の様にこちらに近づいて来ているそれは……

 「ミ、ミサイル?!!」


 慌てて視力強化魔法を最大限に使って確認しても、それは紛れもないミサイル、そのものだった。


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