エピローグ
「ミヤ!勝手に先に行くなよ!沙凪ちゃんも後ろに離れ過ぎ!!」
「晴稀。コレは再教育が必要だな。久々に○ートマン式やってみるか?」
「やめてくれ!ソレは教育じゃなく洗脳だ!冒険者と軍隊は違うから!」
『ねえねえ。ハルキ。○ートマンってなに?面白いの?』
「面白くないから、いい子のフェーヤちゃんは興味持つなよ。」
今俺たちはデルロッソ国の北に位置する《常陰の森》にギルドの依頼で来ている。みんなもある程度異世界の生活に慣れ、やっと《仮》の文字が取れて下級の冒険者になった。
今回は始めてのパーティで動くことになったけど、どうやらミヤはは暴走寸前、沙凪ちゃんは戸惑い過ぎ、姉貴はよくやってくれてはいるが……殺気がただ漏れ過ぎて肝心な獲物が逃げてしまってる。
今回の獲物はゴブリン10匹なのにこれじゃ日が暮れるまで終わるかどうか……。俺がやれば今でも一瞬でやれるけど、それじゃ皆の訓練になれないので出来るだけ手助けは控えることにしている。
「それにしても三週間で結構慣れるものだよね。あんなに大変だった森歩きもそれなりに問題なく出来る様になったんだし。」
「まぁ、ここは元々雨が多いせいで何時も地面がドロドロだから特に慣れるのに苦労するけど。思ったより早く慣れたようでよかったよ。」
最近は凪ちゃんも俺への対応が気楽になって来て敬語が結構抜けて来ている。偶に緊張するそすぐに敬語に戻ってしまうけど……。
「発見!!」
「だから叫ぶな!!!」
馬鹿なミヤが叫びながら少し離れた処にいる何かの群れを指指した。でも、アレ……。
「聞いたのと違うな。」
「違いますね。澪さん。」
「当然だ。アレはホブゴブリンだからな。」
「え?アレじゃダメなの?」
なぜミヤお前はそんななく寸前のように目を潤ませて俺を見てる?ダメに決まってるだろう?依頼はゴブリンだ。でも、思い切り注目されてしまったからな……。
「ダメでも闘うしかないみたいだぞ。」
俺が指差す方向からホブゴブリン8匹が「キャッ、クェククル!」と変な奇声を出しながら走ってきている。
「きゃ!!どうするどうする?!」
この中で俺を除いたら一番強いはずのミヤが騒いで……、はいないな。はしゃいでいる。
「じゃ、任せてぞ!!ガンバレ!!」
全然心が篭ってない応援をして俺は一歩下がって皆の出方を見る。正直今の皆には物足りなさすぎる相手だからな。
三人目のマイダスの研究成果のお陰でミヤが持つ感染因子を他人に移さないように安定させることに成功して、ミヤも姉貴も沙凪にも精霊王から祝福と魔力炉を埋め込んでもらって、簡単な魔法を教えてやった。
その後、簡単な訓練をして冒険者として生きられるかをちゃんと確認したけど、正直全員予想以上だった。
姉は学校で部活で学んだ薙刀の技を会社の方で本物の戦闘技術まで磨いていたし、沙凪ちゃんはクロスボウだけではなく弓全般にかなりの素質をもっていた。ミヤは……まぁ、身体スペック自体が化け物だし。
そんな感じで皆は冒険者として中の上までは問題なく上がれる様な実力を既に持っていて、ホブゴブリンの群れはは下の上。
つまり、
「ヨッシャー!!!一丁上がり~!!」
『また、フェーヤだけ何にも出来なかった。ぶぅ~。』
ま、こんな感じでミヤ一人で素手で片付いてしまう。でもランクのせいでこんな仕事しか受けられないから暫くはこんな感じだな。
ソレにフェーヤお前だけじゃなく何も出来なかったのはミヤ以外の皆、同じだから。でも、皆はそんなに気にしていないみたいだな。姉貴も……あ、ちょっと怒ってるな。さっさと次にいかないと姉貴が爆発するかもしれない。
そう思って「さっさと剥ぎ取りしてゴブリン探すぞ~。」と言おうとした時、俺の感知網に逃しては行けない物が補足された。
『ハルキ。牙竜だよ。』
「そうだな。今日はご馳走になるぞ。」
「晴稀。牙竜ってドラゴン?ワイヴァン?」
さすが異世界マニアであって真っ先にソレを聞くな、ミヤの奴。
「ワイヴァンだよ。」
「牙竜って美味しいの?」
沙凪ちゃんはソレが気になるか……。
「鶏に丁度いいぐらいに油が乗っている感じだな。料理の仕方によってはかなり上手くなるんだ。でっかいから量も気にせずに食えるし。」
「竜って飛んでるんだよね?私達に捕まえられるの?まだ、飛行の魔法学んでないぞ。」
「今回は俺が、いやフェーヤにやって貰うわ。姉貴と皆はこのままゴブリン探しだよ。今回は出来るだけ静かに気配は出来るだけ抑えて探してよ。じゃないとゴブリンみたいな弱い奴等はすぐ逃げるから。」
「「「りょうか~い!」」」
だから、声大きいってば!
◇
そんなこんなでなんとか俺達はゴブリンを討伐して、牙竜を狩って屋敷に戻って来た。
牙竜料理は何時も通り料理担当の俺がやって、皆は「期待したより美味しくない。」と言う文句を言いながらも作った分は全部完食してくれた。
正直料理ぐらい当番制にしてほしい。何時も何時も俺ばっかり……くっす。
ま、そして深夜になり皆が寝処に付いた後、俺はこっそり地球は移動した。
「よ。マイダス。」
「来たのか?」
「ああ、時々来るって約束しだからな。」
今俺がいるのは俺が最後に戦った太平洋の中にあるマイダスの工房だ。そして俺の前には気ダルそうな顔のマイダスがいる。
「皆を戻す研究は進んでるか?それとも方向変更が必要そうか?」
「今のままじゃ方向変更するしかないね。」
「そっか……。」
何を隠そう。今目の前にいるのは他の世界で三番目に会った、システム壊しを決心する時を分岐として分かれたマイダスだ。今コイツには地球の感染者たちを何とか安定させるための研究を頼んでいる。勿論、精霊王だった奴はとっくに成仏させてある。強制的に。
「やっぱり、放射能のせいで起こった変種が多すぎるのか?」
「あ、そうだね。ミヤちゃんの場合はそれほど苦労しなかったからなんとかなるのでは……と思っていたけどちょっと甘く見ていたようだね。」
「じゃ、仕方ないな。出来るだけでもやってみてくれ。正直自分の故郷をこんな感じに残して置くのはどうも気になるからな。」
「あんまり期待はしないでくれよ。」
「するよ。そして後でたらふく文句言ってやるさ。」
「性格悪いな、君は。」
「その面見るとさ。自分も知らない黒いのがこみ上げて来るんだよ。」
「それ僕じゃないし。八つ当たりも甚だしいよね。」
「八つ当たりぐらいさせろ!彼奴俺に負けて成仏する時、なんて言ったか分かるか?『魂が尽きる瞬間まで、神の掌の上で踊り続けるがいい!』って言ったんだぞ!往生際が悪いにも程がある!」
「まぁ、僕も昔ならそんなセリフ言ってたかも知れないね。」
そこで俺はずっと気になっていたことを聞いて見た。
「で、一体何の切っ掛けであんな考え方するようになったんだ?言いたくないなら言わなくってもいいけど。」
「……暗いよ?」
「そんぐらいは知ってるよ。」
マイダスは手に持っていたプラスコを机の上に置き、本棚から一冊のアルバムを取り出した。
「これはね。僕の罪の記録だよ。」
「罪の記録?」
「見るかい?」
俺はそのアルバムを手に取りゆっくりとページを捲って行った。でも、そこに載ってるのは幾つかの植物の標本と英語と、見慣れない漢字の様な文字と、全く分からない謎の文字がズラリと書いてあっただけだった。
「これ嫌がらせか?全然分からないぞ。」
「簡単に説明すると魔法生物を作るための実験記録だよ。遥か昔からのね。」
「ソレの何処が罪と関係してるんだ?」
「魔法生物ってさ。最初は、ある特定の魂のパターンがないと作れなかったんだ。だけど必ず世界ごとに何人かはそんな魂を持っている存在がいた。そして僕はその人達を使って実験をしたのさ。」
「人間を実験動物に使ったのか?!!」
「勿論、その時は本人の同意は取ったよ。無理やりやると魂への負担が大きくなって失敗してしまうから必ず本人の同意が必要なんだ。」
「そんな問題じゃねぇよ!」
あ…気持ち悪くなってきた。
「ここで聞くのやめる?」
「やめねぇよ!さっさ話進めろ!」
「了解。聞くの辛そうだし、手短に言うね。」
「ああ。」
ちっ、変な気使いしやがって……。
「その特定の魂のパターンて言うのを持ってる魂なんだけど、それが全部自分自身だと分かってしまったんだ。それが最初の切っ掛けになったね。それを知った後は神のシステムについて狂った様に研究したよ。そしてシステムに付け入る隙を見つけた時、僕はそれ以上やるのを辞めた。」
ソレに対し精霊王にまでなった奴はやめなかった。ってか?
本当に胸糞悪い話だった。人間を実験材料に使ったのもそうだが、ソレが自分自身……。並行世界の中で前世の記憶をずっと持ってるってことはこんなにも重いことだとは思ってなかった。
ん?あれ?ちょっと待った。
「お前自身ってことは実験された人たちも前世の記憶を持っていたんじゃないのか?」
「いや。違うよ。|前世の記憶を持たない方に分岐した《・・・・・・・・・・・・・・・・》自分だったんだよ。」
ああ、そうか……。
可能性ってやっぱ怖い言葉だな……。
正直、何処かにいる俺自身が昔からの記憶を持っていてマイダスと同じ事を俺にやったとしたら……いや、考えるのは止そう。コレ以上やったら俺の気が狂ってしまいそうだ。
「悪い。自分でも掘り返されたくない記憶だったろうに。途中では責めるような言い方までして。」
「いいよ。別に。今はそこまで痛くないんだ。人間の体って極端な感情をある程度抑制してくれる様になってるからね。僕の脳内ホルモンに感謝だね。ははは。」
ははは……ってまさか冗談のつもりか?面白いのかそれ?
いや、突っ込むのはやめよう。コレ以上刺激するのは良くない気がする。
それ以上の話題もも、話す気も無くなった俺はそこで「また来る。」と言い残してマイダスの工房を後にした。
でも、俺が帰る直前マイダスが言った言葉は妙に耳に残った。
「まぁ、地球の宗教の格言の中で『汝自身を愛するように、汝の隣人を愛せよ。』と言う言葉は本当にいい言葉だと思うね。隣人が自分自身である可能性もあるんだから。」
全くもってその通りだと思うけど、正直、無茶苦茶怖い言葉の様に感じる。
俺はそこまで信心深くもないし、気に入らない隣人を愛することは出来ない。
でも、ソレが自分自身かも知れないと思うと……。
あ、そっか!それでか……!
そこで思いついた一つの結論。
神が魂を輪廻させる度に記憶を消すシステムを作った理由は、そんな恐怖からくる混乱をなくすためだと言う事。
むしろ分岐を全て遡ると1つの魂しかいなかったかも知れない。
そうなると……。
……
…
どうなるんだ?
結局何も変わらないんじゃないか?
今俺と話をしたマイダスも他の世界の数多にいるマイダスとは別人だ。
分岐に分かれた自分さえも結局は他人だ。どうせ自分は自分。他人は他人なわけだ。
全ての人が自分になるわけじゃない。そこまで気にする必要はないってことだ。
それに俺は神でも、聖職者でもない。多々普通……とは少し違うかも知れない、人間だ。
人間の本分は生きることと死ぬこと。そして自分の行動に責任を持つこと。自分に対しても他人に対しても、それが出来れば人間足りえる。
俺はそう思う。
故に……。
今は寝る!そして明日起きる!
明日もちゃんと生きる!
それでいいと思う!
だから、
今はお休み。明日はいい日でありますように……。
<マイダス編 完。>
これまで見てくださった方々、本当にありがとうございました。
これで、一応完結です。
「マイダス編」はこれで終わりましたが、晴稀たちの話はいつかまた続きを書いて行きたいと思います。
本当にありがとうございました。
ではまた。




