二十話 裸の王様。
さぁ、主役の登場で舞台整った。
マイダスの気配は前より一段と凄さを増していて、今までよりグッと強くなっているのが分かる。
やっぱり時間を取らせたら世界との同調率がもっと上がっていたな。たった一週間で、コレぐらいになるとは……。偽物の精霊王からすぐにでも《偽》の文字が取れそうだ。
背中に冷や汗が流れるのを感じる。
ここで負けたら、姉貴も沙凪ちゃんもミヤも俺無しで異世界で生きることになるな。精霊王が面倒を見てくれるだろうけど……。
いけない。少し怖気づいたせいかネガティブな考え方に流れ始めた。今はしっかりしなきゃダメだ。
それにちゃんと準備もして来た。コレならきっと負けない!
「随分と感じが変わってるじゃねぇか。今は王様と読んでもそこまで違和感無い気がするぞ。な~、精霊王様?」
「強がるための皮肉かい?少し震えてるみたいだけど。」
へぇ、やっぱりコイツの眼力半端ないな。全部お見通しってか?
「ああ、怖いね。でもほっといた後にどうなるか考えるのが、もっと怖いから今は闘うさ。」
「闘う……ね?君に出来るのかい?僕に勝つこと、僕と対等に闘う事、僕に負けないこと、僕に殺されないことが?」
「回りくどい言い方するなよ。俺が考えてるのは1番、テメエに勝つことだけだ。」
「そうか。じゃ僕を邪魔してくれた分、少し遊んであげるよ。あまり簡単に死んでしまってがっかりさせないでくれよ。」
その言葉と共に海から垂直方向に氷の矢が雨の様に吹き上がる。隈なく俺に向かって数万本の矢が飛んでくるが、俺はそれを避けないまま回りにマイダスが使っていた魔力障壁を展開させ、それを全て塞いで見せた。
「ほお。ソレが真似できる様になったのかい?」
「前は騙されたよ。ただの魔力でこんなこと出来るはずが無いからな。だからちょっと研究したさ。」
「ソレでわかったと?」
「ただの魔力じゃなく、単純な魔法の発動待機状態だとな。」
そう。彼奴が使っていたのは魔法の発動を用意して状況に応じてベクトルを変える魔法を発動させただけ。今回、俺はソレを真似して氷の攻撃を弾きだしたのだ。
「じゃ、今回は俺から行くぞ!!」
俺は前回作った【無重力】の魔法を使い超高速で移動し《黒鳥》で奴の首元をなぎ払う。だが、当たり前の様に魔力障壁にソレは塞がれた。
「近接戦では僕は倒せないよ?」
「知ってるさ!」
俺は計画通り《黒鳥》に魔力を注ぎ、棒全体を激しく振動させる。そして魔力障壁は棒の振動と共に共鳴した。所謂共振現象を起こしたのだ。ソレによって奴の魔力障壁が安定性を失う。
俺はその時を逃さないために障壁の中に手を突っ込み、《地球》で手に入れたある物をマイダスの額に押し付けた。
そして瞬間移動で即座に距離を取る。
「あ~。タイミング間違えたか。左手がボロボロだ。でも第一関門突破だな。」
魔力障壁に無理やり突っ込んで血だらけになった手を治療しながらマイダスの方を見ると、額に押し付けたソレが正常に定着しているのが見えた。
「今、なに、をした……?」
マイダスは自分の額を触りながら俺を睨みつける。
「テメエが作った物をテメエに返しただけ~。」
そう、俺が奴の額に埋め込ませたのは奴が作った精霊と融合した寄生虫だ。それもただの寄生虫じゃない。地球で放射能によって変異を起こした寄生虫だ。
普通なら彼奴が作った物だから制御権は奴にあるものだが、コレには少し種がある。
他のマイダスを探しまわってた時に出会った3人目のマイダス。
彼はシステムを壊すと決心する時を分岐に分かれたシステム壊しを諦めたマイダスだった。
そしてそいつに地球で持って行った寄生虫を見せると、コレなら精霊王と世界の繋がりを抑制するぐらいのことは出来ると、そう言ったのだ。精霊王と世界の繋がりの要は安定性、寄生虫によってソレが失われるからそんな結果を齎すそうだ。
それとソレはいくら精霊王だろうとコントロール出来るシロモノでは無いということも教えて貰った。
お陰で向こうではミヤのことは全ての精霊から徹底隔離する必要ができたけど、3人目のマイダスにミヤの細胞サンプルを送り感染力をなくすための研究を頼んでいる。性格はともかく研究能力だけはずば抜けてるやつだから遠くない内になにか結論を出してくれるだろう……。
ま、だから俺は目の前にいるマイダスの力を抑える第一段階として寄生虫を使おうとしたわけだ。そして計画は見事に成功して、
「キサマ……。」
マイダスに口調を変えさせた。皮の一枚が剥がれたって感じかな?
だが、俺がそいつから教えて貰ったのはそれだけじゃない。
これからももっともっと素っ裸になって貰わないとな!
「いい面構えになってるぞ。丸でインドの神様みたいだ。お。王から神に昇格したじゃん~。良かったな。」
「……。」
俺の誂いにマイダスの顔から表情が消えた。
そして俺の視界が真っ暗に……。
ってクッソ!!!目がヤラれた!!なにされたのかさっぱり分からないが目が潰れている。
俺は瞬間移動しながら距離を取り自分の目を直して再びマイダスを確認する。
「マジ……?」
化け物がそこにいた。
瞬間マイダスが何かに変身したのかと思ってたが違っていた。マイダスが放出する力があまりに大きすぎて俺の脳が勝手に化け物と認識したのだ。
彼奴の力が及ぶ広範囲の中で、わけの分からない異常現象が起きては消え、起きては消えるのを繰り返している。
空気が淀み、嵐が吹き、電撃が走り、炎が宙を舞い、吹雪がその炎と一緒に舞い、海水が凍り、その凍った氷が激しく燃え上がっている……夜中だからはっきりとは分からないが海の中も大変な状況のようだった。
まさかコレ程とはな……。
正直関心した。人間が幾ら魔法を使えるとは言え、ここまで出来る様になるのか、俺でも多分出来ないことは無いけど、コレよりずっと小規模で、一度に1つか2つの現象ぐらいしかは作り出せない。
多分だけど北半球の太平洋の半分がコイツの力の影響範囲では無いだろうか……。
「この領域は全て僕の支配下だ。これで、キサマは瞬間移動で逃げることも、僕の攻撃を避けることも出来ない。キサマはキサマだけは、ここで殺す!どうしても殺す!だから忌々しい輪廻へ帰ってシステムの中で苦しみ続けろ!」
マイダスは静かだが強い口調で俺への呪いの言葉を呟く。すると全ての異常現象が丸で生物の様に一斉に俺に向かって高速で移動し始めた。だが、
「へぇ、テメエの領域、ね……。ソレは好都合だ。」
俺はそういったあと収納の腕輪から例のワンドを取り出しマイダスに向けて……二度は絶対言いたく無い……発動の合言葉を口にした。
「生を喰らい、永生を齎せ!《絶魂のワンド》よ!!!」
そして、世界は静寂に包まれた。
急に静かになると、恥ずかしさ一千倍なんだけど……。
一応状況を確認してみると、回りから全ての異常現象が最初から何もなかったかの様になくなっている。そしてマイダスはただ俺を睨んでいるだけだった。
し、っぱいした?とちょっと疑ったがワンドはちゃんと発動したみたいだし、異常現象もマイダスの力の領域もコレ以上感じられない。
なのにマイダスだけは普通に空中で俺を睨んでいる。どう見てもアンデットになったようには見えない。
魂が抜けてアンデットになるんじゃなかったのか?アンデットのマイダスさんよ。
「なぜソレをキサマが持っている?」
あ、分岐する前に作られたものだったのか……。
「テメエに貰った。」
「僕はそんな事した覚えは……!!まさか!違う世界の僕に会ったのか?!」
「ご名答~。ソレも3人もな。」
「そうぅ……。」
なんか反応が薄いな。
と思ったらマイダスの背中にある翅が一枚ずつ落ちて、光の粒子に変わって消えて行った。そして干ばつの時、地面が割れるように皮膚の処処に罅が入り少しずず精霊の皮が剥がれていく。
どうやら、魔法が効くのに時間が必要だったみたいだ。それに人間からのアンデット化する時のように死体から魂が抜けるではなく、脱皮の様に皮が剥がれて魂が中から出てくる感じだ。
でも、良かった。ちゃんと成功したみたいで。
俺は心の中だけで胸を撫で下ろし、静かになっているマイダスをみながら最後の仕上げの準備を初める。
三人目の知識で、マイダスの世界との繋がりを断つことが出来た。一番目に貰ったワンドで精霊からアンデットに変えた。
そして最後は二番目に出会ったマイダスから教えて貰った物で彼奴との因縁を断つ。
「よ……くもやってくれたな。自分自身が作ったもので、ここまでヤラれるとはね……。コレは自分の慢心なのだよ。でも君がここで死んでくれないと僕は前に進めないんだよ。だから、何が何でも君だけは死んでもらう。」
全ての脱皮が終わり完全なリッチとして生まれ変わったマイダスは、口調が少し元に戻ってた。でも、目に宿った殺気は益々濃くなっていた。普通の人が見たら見ただけで心臓発作を起こしかねないレベルの眼力だ。
コレはかなり精神的に追い詰められたな。でも、ここからが本物の精神的攻撃になるんだ。最後まで付き合って貰うぞ!
「テメエに勝算はもうねぇよ。」
「そんなもの関係ないさ。なんとしても君を殺す。」
「ちげぇよ。テメエが神のシステムを壊す可能性の話だ!」
「何?」
食いついた。
「アンデットはシステムへの干渉が出来ないんだよ。」
「誰がそんな事決めた!!」
「聞きたいか?」
「早く言え!!」
俺は一呼吸入れてマイダスを目を見てソレを口にした。俺は嘘なんって言ってないぞと言うアピールだ。こいつならソレぐらい分かるだろう。
「テメエ自身だよ。正確には二番目に出会った奴だ。」
「巫山戯るな!!!」
「冗談でも戯言でもねぇよ。事実だ。テメエは可能性のシステムと数多な宇宙って言葉を甘く見ていたんだ。」
「なん、だと?」
「向こうのテメエはずーっと先の時点で、今テメエのやろうとしたことをやり遂げていたぞ。そして知ってしまった。自分がやった事が結局はその可能性のシステムの中で一歩も出てないことにな。だからソイツはそのまま地上で永遠に暮らすことを決めて不老不死になった。彼奴は自分の事を《仙人》だと言っていたよ。」
「仙人……?」
「そう。テメエの最初の記憶のあれだ。そいつとテメエの分岐はそこだったんだ。そいつは仙人になって他の世界を渡りながら只々生きていたよ。世界のシステムにも自分の様な馬鹿が出ないように色々手を加えながらな。でも精霊王までは何故か手を出せなかった様でテメェが精霊王じゃなくなる必要があったわけさ。」
「そんな……じゃ……僕は……。」
霊体だけの存在だからか、感情の揺れが色と形の乱れではっきりと見える。
こんなに混乱している姿を見ると正直気の毒な気もするが、俺はそんなことでコイツを同情してやることは出来ない。したくない。
だから、俺はマイダスに最後の選択をせがんだ。
「コレでテメエに取れる選択肢は2つだけになった。全てを諦めて成仏して輪廻に戻るか、リッチのまま地球に残るかじゃ無い。俺と戦って強制成仏するか、自分で成仏するかの2つだ。拒否権は無い。」
テメエが今までずっとやって来たことだ。強者が選択し弱者が従う。だが、今回は俺が強者でテメエが弱者なだけ。
さあ、マイダス。テメエはどんな選択をするんだ?




